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第二章

 第六話 これはファンを蔑ろにした報いなのね

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~テレーゼ視点~



「くそう、勝手にしろ! どうなっても知らないからな!」

 あたしことテレーゼは、扉越しに聞こえるピッグの怒声を聞きながらイスに座っていた。

 何よ偉そうに。あたしは世界のトップ歌姫なのよ。あたしに説教しようだなんて百年早いわ。歌姫がどれだけ過酷なのかも知らないくせに。

「ちょっとだけ見直したあたしがバカだったわ。あんなことを言うようなやつだとは思わなかった!」

 あたしはテーブルを強く叩く。あまりにもイライラしすぎて、あたしの声でこの小屋を破壊したい気持ちになった。

「ああもう、どうしてこうなってしまうのよ! 今日は楽しいステージにして、いい気分で帰るつもりだったのに。最悪の気分だわ!」

 早くハンター寮に帰って、お風呂に入ってから紅茶を楽しみましょう。紅茶を飲めば、気分もスッキリするはず。

「そろそろあの男もいなくなっている頃よね。寮の前で待ち伏せしているなんてことは、さすがにないでしょう。あたしが同じ寮に住んでいるなんて知らないはずよ」

 あたしはコンサートの際に外していたポーチを腰に付け、鍵を開けて扉を開けると周辺を見る。

 どうやらピッグはいないみたいね。本当に帰ったみたいでよかったわ。

「さてと、あたしも帰るとしましょう」

 小屋から離れ、数歩歩いたところであたしは振り返る。

 気のせいかしら? なんか今後方から足音のようなものが聞こえたような気がするのだけど?

 しばらく後を見ていると、建物の陰から野良猫が顔を出した。

「なんだ。ネコちゃんの足音だったのね」

 足音の犯人がわかり、あたしはホッと胸を撫で下ろす。

 そして前を向き直したその時。

「キャ……」

 目の前には仮面を被った人物がいた。その人はいきなり布であたしの口を塞ぎ、声を出すことができない。

 何か反撃に出るものは……そうだマーキング玉!

 あたしはポーチの中からマーキング玉を取り出した。だけどそのあと、あたしは急激に睡魔に襲われ、そのまま意識を失ってしまう。





 うーん。ここはどこかしら?

 目が覚めると、あたしは見知らぬ場所にいた。どうやら手足を縛られているようで、まともに動くことができない。口の中に布を押し込まれ、口周りも縛られている。そのせいで声を出すこともできない。

「どうやら目を覚ましたみたいだね。ごめんね。本当はこんなことはしたくなかったんだよ。でも、テレーゼちゃんが悪いんだ。ボクの気持ちを無視し続けるテレーゼちゃんが」

 この声って、もしかしてあたしにファンレターを渡してきたあのブタ!

「ねえ、どうしてボクのラブレターを破いたの? 隠れて見ていたけど、あれはショックが大きかったよ。毎回ボクは手紙を書いてテレーゼちゃんに愛を語っていたと言うのに」

 男の言葉にあたしは鳥肌が立った。

 やっぱりこの男、あたしを変な目で見ていたとおりの変態!

「ボクの頭の中では、二人は既に結婚しているんだ。子供は二人で、男の子と女の子がいて、男の子はボクにそっくりのイケメンで、女の子はテレーゼちゃんみたいに可愛い。ハァ、ハァ、ハァ、そ、想像しただけで興奮してきちゃった」

 この男、やっぱり頭の中であたしのことを穢している。

「ねぇ、どうしてボクのラブレターを破ったりしたの? ボクの頭の中にいるテレーゼちゃんは、ちゃんとボクのことを愛してくれているのに。ねぇ、どうして? どうして答えてくれないんだ!」

 男が大声で叫ぶも、あたしは答えることができない。

 口を塞がれているんだから答えられる訳がないでしょうが! あんたみたいなキモオタのことなんか大っ嫌いだからよ!

「まぁ、もうそんなことはどうでもいいのだけどね。ボクはもう決めたんだ。妄想を現実にするって」

 男は自分が着ている服を脱ぎ出すと、パンツ一枚になった。

「さぁ、今から子作りを始めよう。大丈夫、優しくするから。ボクのテクですぐに気持ちよくなるよ」

 キモオタが近づくと、再びあたしの片方の足に縄を結び、反対側を柱の高い位置に結ぶ。

 そして最初に両足を縛っていた縄を外すと、あたしは両足を開いた状態となり、M字開脚を男に見せることになる。

「さぁ、始めようか。大丈夫だよ。テレーゼちゃんが大人しくしてくれれば、痛いことは何もしないから。だってボクは紳士だからね」

 男が鼻息を荒くしながらパンツの縁に手を置く。

 これはきっと、ピッグが言ったように天罰が下されたのね。ファンを蔑ろにした罰が。

 でも、初めてがこんなキモデブ男なんか絶対に嫌! ピッグ助けて!

「ここには誰も来ないよ。テレーゼちゃん、一緒にいたあの男とケンカ別れをしたよね? せっかく側に居てくれた人に、あんな態度を取ってはダメだよ。まぁ、そのお陰でボクはこうしてテレーゼちゃんを、ここまで連れて来ることができたのだけどね」

 そうだった。あたしはピッグとケンカして、彼を突き放してしまった。ピッグはここには来ない。あたしを助けに来るはずがないもの。

 キモオタがあたしのスカートに触れた瞬間、あたしは両の瞼を閉じる。

 誰か助けて! ピッグ!

「その子から離れろ! ゲス野郎!」

 心から助けを求めた瞬間、頭の中で思い描いた人物の声が耳に入ってくる。

 これってもしかしてあたしの幻聴なの? あまりにも求めすぎて頭がおかしくなった?

 あたしは勇気を振り絞って閉じていた両の瞼を開ける。

 そこには黒い短髪に黒目の青年が居た。

 ピッグ!










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