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第二章

 第五話 ハンターの俺は歌姫のマネージャーになる

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「いいわ。それじゃ今日一日、あんたをあたしのマネージャー&プロデューサー&ボディーガードとしてこきつかてあげるわ。泣いて喜びなさい」

 俺はギルドマスターのエレーヌさんの命令で、今日一日テレーゼのサポートをすることになった。

「それじゃ早速行くわよ」

「行くってどこに?」

「そんなの現場に決まっているでしょう! あたしは歌姫なのよ! 今日この町に戻ってきたのは、コンサートを開くために決まっているじゃない」

 いや、お前がこの町に来た理由なんて知らないって。

 とにかく、不本意ではあるけど俺が彼女のスカートの中に頭を突っ込んだのは事実だ。今日一日だけは我慢するとしよう。

 テレーゼについて行き、俺は会場に向かう。

 そう言えば、この町の中央広場で何か建設をしていたな。あれは彼女のために作られたステージだったのか。

「へぇ、この町にしてはまぁまぁなステージじゃない。一応及第点はあげるわ」

 だから、お前はどうしていちいち偉そうなんだよ。

「ほら、ブタ! さっさと行くわよ……何ボーとしているのよ!」

 ステージを眺めていると、テレーゼが急に顔を近づける。

「び、びっくりした! 急にどうした?」

「どうして何度も呼んでいるのに返事をしないのよ」

「あ、俺のことを呼んでいたのか? 俺はてっきり食用の方のことを言っているのかと思った」

「あたしはあんたのことを呼んでいたのよ! だけど確かにあたしには多くファンブタがいるわ。だから自分のことを呼ばれている自覚が薄いのかもしれないわね」

 だったら普通に名前を言えば良くないか? さっきからややっこしい。

「でもジャーマネも微妙よね。だからと言って、こんなやつの名前すら呼びたくはないし」

 テレーゼが急に胸の前で腕を組むと、顔を俯かせて何かぶつぶつと言い出した。

「よし、なら今からあなたのことはピッグと呼ぶわ」

 ブタのままじゃねぇか! まぁ、直球で呼ばれるよりかはマシだけど。

「さっさと付いて来なさい! 今から控え室に行って、そこであなたがする仕事を教えるから」

 はいはい、わかりました。

 俺は彼女の後を歩いて付いて行く。するとステージの裏側に小屋が建ててあり、彼女はその中に入る。

 続いて俺も入ると小屋の中はシンプルだった。長い机にイスが一脚置いてあり、壁沿いにはクローゼットが置かれてある。

 テレーゼはクローゼットを開けると中から一着の服を取り出した。

「どう? 今日あたしが着る衣装は?」

 どうと言われても、俺としては何とも思わないのだけどなぁ。だけどここで変なことを言うと、逆に彼女を怒らせるかもしれない。ここはとにかく褒めよう。

「とてもいいと思うよ。スカートはヒラヒラで可愛いし、色もテレーゼの魅力を引き出している。胸元にあるリボンも可愛らしさを表現してあると思うよ」

「そ、そう? あ、ありがとう」

 あれ? 普通に答えたら何だか返事がぎこちなくなったな。もしかして俺が真面目に答えるとは思わなかったのか?

 期待を裏切ってしまったみたいだが、彼女の思い通りにならなくって俺は満足だ。

「それで? 俺はこれからどうするんだ?」

「そ、そうね。まずはステージ前にイスの設置をお願いするわ。おそらくこの村の住人だけではなく、近隣の村や町からも大勢の豚どもたちが押し寄せてくるだろうから。イスはステージの上に置いてあるわ。さっさと行きなさい!」

 扉を指差し、テレーゼは俺に命令してくる。

「分かった。それじゃ行って来るよ」

「あら? 意外と素直ね。もっと嫌がると思ったのに」

「形は違っても、これも依頼であることには変わらない。なら、仕事を遂行するのがハンターだ」

 彼女にそう言い残し、俺は小屋を出るとステージに向かう。

「ここにあるやつを全部並べるのか。これは少し面倒だな」

 だけど先程言ったように、依頼である以上は最後までやらなければならない。

 俺はイスを一脚掴むと、ステージ前に並べていく。





 テレーゼに扱かれること数時間、ついに彼女のコンサートが始まる時間になった。

 俺はいざと言うときに飛び出せるように、特別席で彼女の歌声を聴くことになっている。

「ブタども! 今日はあたしのコンサートに来てくれてありがとう!」

「ワー!」

 テレーゼがステージに上がり、観客たちに声をかけた瞬間、彼らは一斉に沸く。

 この風景を見ると、本当にテレーゼは人気があるんだなと思う。まぁ、性格はともかく、見た目はとても可愛いからな。あの見た目に惑わされてファンになった人たちもいるだろう。

「それじゃ最初はあたしのデビュー曲から行くわよ!」

「ワー!」

 テレーゼの後にいる音楽隊が曲を奏で、それに合わせて彼女は歌い出す。

 聴いていて初めて気づいたけど、確かに彼女の実力は本物だ。歌姫の美声を聴いていると心躍るものがある。

 彼女の歌声を聴いているといつの間にか最後の曲に差し掛かろうとしていた。

「次が最後の曲になります」

「えー!」

 歌姫が最後の曲だと言うと、ファンたちは残念そうな声を一斉に出した。まるで事前に打ち合わせていたのかと思うほど、タイミングが一致していた。

 これがファンたちによる心の一体感と言うやつか。

「あたしもブタどもに聴かせる曲が最後になって残念ね。でも、だからこそ本気で歌うわよ! 最後まで付いて来なさい!」

「ワー!」

「それじゃ最後はこの曲! ハンター界のヒット曲! ブラティーバルキリー!」

 テレーゼが曲名を言った瞬間、音楽が流れて彼女は歌い出す。

 最後と言うことで歌姫とファンの一体感が増し、まるでみんなが一つになったかのように錯覚した。

 そして楽しいひとときはあっという間に過ぎ去った。

「それじゃ今日はここまで! 応援してくれてありがとう!」

 コンサートが終わり、テレーゼはステージから降りて控え室に向かう。

 俺も控え室に向かうとするか。

 反対側から回り込み、俺もステージの裏側に行くと、小屋の前で彼女と鉢合わせした。

「ピッグ、あたしの歌声どうだった?」

「ああ、最高だったよ。初めて音楽と言うものを聞いたけど、こんなに心躍るものだったんだな。聴いていて得した気分だよ」

「そ、そう! そうでしょう、そうでしょう。ようやくあんたにもあたしの素晴らしさが理解できたようね。まぁ、あのときは強引に腕を引っ張ったあたしにも責任があるし、あの件に関しては忘れるようにするわ。感謝しなさい!」

 彼女のことを褒めるとテレーゼは胸の前で腕を組み、何度も頷く。

 褒めて上げるとすぐこうだよ。まぁ、こんな関係ももう終わりだ。

「あ、あのう!」

 二人で話していると男の声が聞こえ、そちらに顔を向ける。

 眼鏡をかけて額に鉢巻をしている小太りの男だ。

 彼は確か最前列でテレーゼを応援していたファンだったな。

「今日のコンサートも素晴らしかったです。これ、ファンレターです。受け取ってください!」

 男は一つの封筒を取り出すと、頭を下げてこちらに差し出す。

 するとテレーゼが男に近づき、ファンレターを受け取った。

「あ、ありがとうございます。今後も応援しています」

 ファンの男性は礼を言うと、嬉しそうにこの場から去って行く。

「よかったな。ファンから手紙をもらえて」

 テレーゼに声をかける。その瞬間、彼女はもらったばかりのファンレターを、中身を見ないでビリビリに引き裂いた。

「おい! なにをやっているんだ! せっかくのファンレターなんだぞ」

「別にいいじゃない。どうせろくでもないことを書いてあるに決まっているわ。あの男、コンサート中もあたしにいやらしい視線を送っていたのよ。きっと頭の中であたしを使って色々と妄想しているに決まっているわ。本当に穢らわしい。後で手を洗わないと」

 俺の横を通りすぎて小屋の中に入ろうとしたテレーゼの腕を、俺は直ぐに掴んだ。

「どうしたの?」

「どうしたの? じゃない! あの人はせっかく頑張って応援メッセージを書いてくれたのかもしれないんだぞ! それを中身もろくに確認しないで破るやつがあるか!」

「何? 説教するの? でも、受け取った時点で所有権はあたしにあるわ。あたしのものをどう扱ったて別にいいじゃないのよ」

「俺が言いたいことはそんなことじゃない! もっとファンの心を大事にしろと言いたいんだ! お前の歌声は確かに美しい。だけどあんな態度をずっと続けてファンを蔑ろにしたら、絶対にいつか身を滅ぼすことになるぞ!」

「うっざ! 何? アドバイスのつもりなの? 悪いけどこれがあたしなのよ。この性格を治そうだなんて思わないわ。それに実際にファンをブタと呼んでも、あたしに付いて来てくれている。結果が出ている以上、過程なんてどうでもいいわよ」

 俺を睨むと、テレーゼは大きく口を開ける。

「アー!」

「痛い!」

 彼女が声を上げた瞬間、俺の腕に痛みが走る。

 思わず手を離した瞬間、テレーゼは小屋の中に入って行った。

「テレーゼ!」

 俺は小屋のドアノブを握って回す。だけど内側から鍵が掛かっているようで、扉は開かなかった。

「くそう、勝手にしろ! どうなっても知らないからな!」










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