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第一章
第六話 依頼達成と報酬の違い
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運悪くクイーンフレイヤーに襲われた俺だったが、逃げ道を塞いだ罰としてやつを討伐した。
「さて、依頼内容ではないけど、一応討伐したのだから、報告はしていたほうがいいよな。証拠になるものを提示しないといけないけど、何がいいかな?」
クイーンフレイヤーの死体を一通り見る。すると、背中の鱗が一枚だけ逆になっているのを偶然見つけてしまう。
あれはまさか。
確認するために背中に近づくと、見間違いではなかった。
「やっぱり逆鱗じゃないか」
逆鱗はモンスターの鱗の中で一枚しか存在していない貴重な素材だ。こいつを剥ぎ取って提示すれば、証拠として申し分ない。
俺は剥ぎ取り用のナイフで慎重に逆鱗を取り除く。
「ふぅ、上手く剥ぎ取れた。失敗したら別の素材を剥ぎ取る必要があるからな」
本当はモンスターの死体をこのままにしないで持ち帰り、武器や防具の素材にするのが一番だ。
その理由としては、モンスターの死肉を求めて違うモンスターが現れ、生態系が変わってしまう可能性があるからだ。
でも、俺一人では運ぶことができないし、一旦ほっておくしかないよな。ハンターギルドに帰ったら、ギルドマスターのエレーヌさんに報告するか。
クイーンフレイヤーの死体をそのまま放置し、七番エリアから八番エリアに向かう。
そして八番エリアに着くと、崖下を見下ろした。
「さて、ここから三番エリアに向かうには、この崖を下る必要があるけど、正直面倒臭いんだよな。何か他の方法がないかな」
周辺を見渡す。するとカップランと呼ばれる翼竜が上空を飛んでいるのが見えた。
こいつは翼竜の中でも小型で、長い嘴に大きな翼が特徴のモンスターだ。主に魚を主食にしており、人間を襲わない。
だけど武器や防具の素材として狩られることもあるから、正直可哀想なモンスターなんだよな。こいつらは人間に危害を加えていないのに、一歩的に攻撃されるのだから。
まぁ、今から利用する俺が言えたことではないかもしれないけど、討伐しないのだからその辺は許してくれ。
カップランが崖に近づいたタイミングで俺は崖から飛び降り、やつの足首を掴む。すると、重みで上手く揚力を得ることができない翼竜は、次第に下降することになった。
地面に近付くと、俺はカップランから手を離して着地する。
「ありがとう。助かった」
一応礼を言った方がいいよな。いくらモンスターでも、安全に俺を崖下まで運んでくれたのだから。
「よし、一番エリアは直ぐそこだ。早く深緑の森から出てギルドに帰ろう」
依頼の品であるカバンを持っていることを確認し、一番エリアから深緑の森を出る。
深緑の森を出てから体感で三十分、ようやく俺は町に戻って来ることができた。
「やっと町に帰ってくることができたな。後はギルドに帰って報告するだけだ」
街中を歩きギルドの前に来ると扉を開けて中に入る。
「ただいま戻りました」
帰還したことを告げると、エレーヌさんは物凄い勢いで俺のところに駆け寄り、そして抱きしめてくる。
「良かった。あなたが無事に帰って来てくれて」
え、ええ、えええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!
こ、これはいったい何がどうなっているんだよ! どうしてエレーヌさんがいきなり俺を抱きしめる展開になっている!
「あ、あのう。これはいったいどう言うことなのですか?」
「リュシアン君、あなた支給品のアイテムを持っていかないで、依頼を受けに行ったのですよ。あなたのしたことはSランクのハンターがするレベルの無茶ぶりなんです。本当に心配したのですから」
ギルドマスターが抱擁する理由を語るが、俺は彼女の言っている意味が全然分からなかった。
支給品? Sランクハンター? 何を言っているんだ? アイテムの現地調達はハンターの基本中の基本じゃないか?
「エレーヌさん、俺をからかわないでくださいよ。支給品なんてものは物語上の空想の設定で、現地調達がハンターの基本なんじゃないですか」
「今、なんて言いました?」
あれ? 俺何か変なことを言ったか? 当たり前のことしか言っていないような?
「リュシアン君、もしかしてあなたが前に所属していたギルドはブラックハンターギルドという名前でしょうか?」
「はい。そうです。よくわかりましたね。もしかしてエレーヌさんってエスパーなんじゃ……」
途中から俺は言葉を失ってしまった。
エレーヌさんが俺への抱擁を止めると、身体から滲み出るほどの殺気を放っていたのだ。
「あの腐れデブめ! こんな右も左も分からない青年を捕まえて利用するだけ利用しやがって! 全世界のギルドマスターの恥じゃないか!」
今までの彼女からは想像がつかないほどの乱暴な口調に変わっていたのだ。
「決めました。わたしはあなたに、本当のハンター生活と言うものを一から教え直します。ついて来てください」
妙な迫力に押され、俺はエレーヌさんに付いて行く。
待合室に連れて来られると、部屋の中には依頼を頼んできたおっさんがいた。
「そ、そのカバンは! 見つけてくれたのかい!」
「はい。これであっていますか?」
見つけたカバンを男性に見せると、彼は中身を確認する。すると、彼は中から一枚の紙を取り出した。
「良かった! 俺の天使は無事だった! ありがとう! 恩に着る!」
男性は紙の反対側を見せる。するとそこには赤い髪を内巻きローレイヤースタイルにしている女の子が描かれていた。
「あら? その子はテレーゼじゃない」
「そうなんです! 俺、彼女の大ファンなんです! この絵もコンサートで買ってきたばかりだったのですが、無事に戻ってきて良かった」
俺にはよく分からなかったが、どうやら有名人みたいだな。まぁ、俺は興味がないけど、依頼主の喜ぶ姿を見られて良かった。
「ありがとう。本当にありがとう。これは報酬の十万ギルです」
依頼主がエレーヌさんに札束を渡す。
依頼達成をすると、依頼主はギルドマスターに報酬を渡す。そしてそこからギルドの運営費などが引かれて依頼達成したハンターに報酬が渡されるのだ。
十万ギルを渡すなんてこの男、結構金を持っているんだな。十万と言うことは、俺に入ってくる金は一万ギルか。まぁ、頑張ったかいがあったな。
「ありがとうございます。では、リュシアンさんに報酬をお渡ししますね」
エレーヌさんがギルドの運営費を差し引いた金額を俺に渡す。
あれ? おかしいなぁ。エレーヌさん計算間違えていない?
俺に渡された紙幣は一枚ではなく六枚だった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
面白かった! この物語は期待できる! 続きが早く読みたい!
など思っていただけましたら、【感想】や【お気に入り登録】をしていただけると、作者のモチベが上がり、更新が早くなります。
【感想】は一言コメントでも大丈夫です。
何卒よろしくお願いします。
「さて、依頼内容ではないけど、一応討伐したのだから、報告はしていたほうがいいよな。証拠になるものを提示しないといけないけど、何がいいかな?」
クイーンフレイヤーの死体を一通り見る。すると、背中の鱗が一枚だけ逆になっているのを偶然見つけてしまう。
あれはまさか。
確認するために背中に近づくと、見間違いではなかった。
「やっぱり逆鱗じゃないか」
逆鱗はモンスターの鱗の中で一枚しか存在していない貴重な素材だ。こいつを剥ぎ取って提示すれば、証拠として申し分ない。
俺は剥ぎ取り用のナイフで慎重に逆鱗を取り除く。
「ふぅ、上手く剥ぎ取れた。失敗したら別の素材を剥ぎ取る必要があるからな」
本当はモンスターの死体をこのままにしないで持ち帰り、武器や防具の素材にするのが一番だ。
その理由としては、モンスターの死肉を求めて違うモンスターが現れ、生態系が変わってしまう可能性があるからだ。
でも、俺一人では運ぶことができないし、一旦ほっておくしかないよな。ハンターギルドに帰ったら、ギルドマスターのエレーヌさんに報告するか。
クイーンフレイヤーの死体をそのまま放置し、七番エリアから八番エリアに向かう。
そして八番エリアに着くと、崖下を見下ろした。
「さて、ここから三番エリアに向かうには、この崖を下る必要があるけど、正直面倒臭いんだよな。何か他の方法がないかな」
周辺を見渡す。するとカップランと呼ばれる翼竜が上空を飛んでいるのが見えた。
こいつは翼竜の中でも小型で、長い嘴に大きな翼が特徴のモンスターだ。主に魚を主食にしており、人間を襲わない。
だけど武器や防具の素材として狩られることもあるから、正直可哀想なモンスターなんだよな。こいつらは人間に危害を加えていないのに、一歩的に攻撃されるのだから。
まぁ、今から利用する俺が言えたことではないかもしれないけど、討伐しないのだからその辺は許してくれ。
カップランが崖に近づいたタイミングで俺は崖から飛び降り、やつの足首を掴む。すると、重みで上手く揚力を得ることができない翼竜は、次第に下降することになった。
地面に近付くと、俺はカップランから手を離して着地する。
「ありがとう。助かった」
一応礼を言った方がいいよな。いくらモンスターでも、安全に俺を崖下まで運んでくれたのだから。
「よし、一番エリアは直ぐそこだ。早く深緑の森から出てギルドに帰ろう」
依頼の品であるカバンを持っていることを確認し、一番エリアから深緑の森を出る。
深緑の森を出てから体感で三十分、ようやく俺は町に戻って来ることができた。
「やっと町に帰ってくることができたな。後はギルドに帰って報告するだけだ」
街中を歩きギルドの前に来ると扉を開けて中に入る。
「ただいま戻りました」
帰還したことを告げると、エレーヌさんは物凄い勢いで俺のところに駆け寄り、そして抱きしめてくる。
「良かった。あなたが無事に帰って来てくれて」
え、ええ、えええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!
こ、これはいったい何がどうなっているんだよ! どうしてエレーヌさんがいきなり俺を抱きしめる展開になっている!
「あ、あのう。これはいったいどう言うことなのですか?」
「リュシアン君、あなた支給品のアイテムを持っていかないで、依頼を受けに行ったのですよ。あなたのしたことはSランクのハンターがするレベルの無茶ぶりなんです。本当に心配したのですから」
ギルドマスターが抱擁する理由を語るが、俺は彼女の言っている意味が全然分からなかった。
支給品? Sランクハンター? 何を言っているんだ? アイテムの現地調達はハンターの基本中の基本じゃないか?
「エレーヌさん、俺をからかわないでくださいよ。支給品なんてものは物語上の空想の設定で、現地調達がハンターの基本なんじゃないですか」
「今、なんて言いました?」
あれ? 俺何か変なことを言ったか? 当たり前のことしか言っていないような?
「リュシアン君、もしかしてあなたが前に所属していたギルドはブラックハンターギルドという名前でしょうか?」
「はい。そうです。よくわかりましたね。もしかしてエレーヌさんってエスパーなんじゃ……」
途中から俺は言葉を失ってしまった。
エレーヌさんが俺への抱擁を止めると、身体から滲み出るほどの殺気を放っていたのだ。
「あの腐れデブめ! こんな右も左も分からない青年を捕まえて利用するだけ利用しやがって! 全世界のギルドマスターの恥じゃないか!」
今までの彼女からは想像がつかないほどの乱暴な口調に変わっていたのだ。
「決めました。わたしはあなたに、本当のハンター生活と言うものを一から教え直します。ついて来てください」
妙な迫力に押され、俺はエレーヌさんに付いて行く。
待合室に連れて来られると、部屋の中には依頼を頼んできたおっさんがいた。
「そ、そのカバンは! 見つけてくれたのかい!」
「はい。これであっていますか?」
見つけたカバンを男性に見せると、彼は中身を確認する。すると、彼は中から一枚の紙を取り出した。
「良かった! 俺の天使は無事だった! ありがとう! 恩に着る!」
男性は紙の反対側を見せる。するとそこには赤い髪を内巻きローレイヤースタイルにしている女の子が描かれていた。
「あら? その子はテレーゼじゃない」
「そうなんです! 俺、彼女の大ファンなんです! この絵もコンサートで買ってきたばかりだったのですが、無事に戻ってきて良かった」
俺にはよく分からなかったが、どうやら有名人みたいだな。まぁ、俺は興味がないけど、依頼主の喜ぶ姿を見られて良かった。
「ありがとう。本当にありがとう。これは報酬の十万ギルです」
依頼主がエレーヌさんに札束を渡す。
依頼達成をすると、依頼主はギルドマスターに報酬を渡す。そしてそこからギルドの運営費などが引かれて依頼達成したハンターに報酬が渡されるのだ。
十万ギルを渡すなんてこの男、結構金を持っているんだな。十万と言うことは、俺に入ってくる金は一万ギルか。まぁ、頑張ったかいがあったな。
「ありがとうございます。では、リュシアンさんに報酬をお渡ししますね」
エレーヌさんがギルドの運営費を差し引いた金額を俺に渡す。
あれ? おかしいなぁ。エレーヌさん計算間違えていない?
俺に渡された紙幣は一枚ではなく六枚だった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
面白かった! この物語は期待できる! 続きが早く読みたい!
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