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第四章

第九話 爆破現場からオオカミが!

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 スカイのアジトから出るなり、どこからか爆発音が聞こえた。

 この音はどう考えても、自然災害で起きたものとは思えない。何者かが意図的に起こした爆発の可能性がある。

 爆弾による爆発か? それともスキルによるもの?

 いや、爆発の原因が何であろうと、一番考えられるのは神の駒絡みに違いない。

「ユウリ」

 スカイが俺を見ると無言で頷き返す。

「みんな、爆発した現場に向かおう」

 カレンたちに爆発現場に向かうことを伝えると、急ぎ現場に向かう。

 目的地との距離が縮む度に、付近の町民たちが騒ぐ。

 中には二次災害を恐れて遠くに逃げようとする者、爆発現場を一目見ようと野次馬になる者などもいる。

 爆発が起きて直ぐに通報があったとしても、憲兵が集まるまでには時間がかかる。

 もし、神の駒が爆発を起こしたのであれば、兵士なんかではどうにもならないだろう。

 爆発現場の建物が間近になると、多くの野次馬達が群がっている。

 兵士と思われるような人物の声が聞こえない。まだ規制されていないと言うことか。

「サエ、君のユニークスキルで兵士を召喚してくれ」

「え? あ、うん。待って」

 スカイよりも先に指示を出したからか、それとも俺が彼女のユニークスキルを知っているからか、もしかしたら両方かもしれない。

 サエは戸惑いながらも俺の指示に従い、スキルを発動してくれた。

 野次馬たちの前に複数人の兵士が現れ、本物の代わりに町民たちを遠ざける。

 よし、これで俺たちは現場に近付くことができる。

 町民たちと入れ替わり、俺たちは爆発が起きた建物の前に立った。

 レンガで作られた建物だからか、建物自体は半壊で済んでいた。しかし建物の中から火災臭が漂い、思わず鼻と口を手で覆う。

「思ったよりも酷い匂いだ。カレンたちは大丈夫か?」

「うん。これくらいなら平気だよ」

「でも、あんまり長い間嗅ぎたくないわね」

 カレンたちの表情は悪くない。これならこの異臭の中でも最悪の場合は戦うことができそうだな。

 そんなことを考えていると、建物の中から獣の唸り声が聞こえてきた。

 煙がもくもくと出ている壊れた入り口から、白銀の毛並みのオオカミが出てきた。

「一、二、三……全部で八体か。スカイ、俺とお前で二体ずつ、女の子たちはそれぞれ一体のノルマでどうだ?」

「ああ、ちょうど俺も同じことを考えていた」

 スカイの了承を得ると、女性陣に顔を向ける。彼女たちも無言で頷いてくれた。

 まぁ、数多くの奴隷兵を相手にしてきた俺なら、一人でこいつらを倒すことも造作ではない。

 だけどみんながいる以上、ここは協力した方が良いだろう。

「三、二、一、ゴー!」

 仲間たちに合図を送り、俺は目の前にいる白銀の狼に向けて駆け寄る。

「【氷の拘束シャクルアイス】!」

 スキルを発動した瞬間、空気中の酸素と水素が磁石のように引き合い、電気的な力によって水素結合を起こす。これにより水分子間がつながり、水分子のクラスターが形成され、水の塊が出現。

 白銀のオオカミの足首に巻きついた。

 すると今度は巻きついた水に限定して気温が下がり、水分子が運動するための熱エネルギーが極端に低くなると、水分子は動きを止めてお互いに結合して氷へと変化した。

「これで二体は動くことができない。喰らえ【火球ファイヤーボール】!」

 続けて火球を放ち、動くことのできない狼の肉体に火球が包み込む。

 火球が消えると、中から丸焼きとなったオオカミが姿を見せる。その瞬間、肉の焼けた香ばしい匂いが鼻腔を刺激した。そのせいでつい空腹を知らせる音色が俺の腹から奏でられる。

 肉が焼かれると、匂いやジュジュッという音などが食欲をそそらせる。人間が視覚から入った情報や嗅覚でとらえた匂い、聴覚で聞き入れた音などが脳に送られると、脳内に快楽物質であるドーパミンやセロトニンが発生し、胃の動きが活発になり、唾液の量が極端に増えてしまうのだ。

 その結果、どうしも美味しそうと感じてしまう。

 あー、腹が減ったな。こいつらを早く倒して飯を食べに行こう。

 そんなことを考えていると、こんがり上手に焼かれた狼の肉体に変化が起きる。

 突然やつらの肉体が灰になると、中から一枚の紙が現れた。

「なんだ? あの紙は?」

 気になり、近付くと灰の中から一枚の紙を取り出す。

 その紙には何かの文字が書かれてあった。どこの国の文字なのか分からないが、紙に描かれてある文字の雰囲気から、召喚系のスキルを用いたもののような気がしてならない。

 まだ確定はできないが、恐らくこの爆発を起こしたのはあの女だ。

 色々な意味で面倒臭い女と出会すことになってしまった。

 この出会いが良かったと捉えるのか、それとも悪かったと捉えるのかは、俺次第だな。

「そうだ。そんなことよりもカレンは無事か」

 爆発を起こした張本人よりも、今は愛しのカレンの無事を確認する方が先だ。

 そう思い、クリーム色の髪を三つ編みとハーフアップの組み合わせにしている女の子に顔を向ける。ちょうど魔弾ガンから発射された弾が、白銀のオオカミの額に直撃して倒したところだった。

 あんなザコなら、さすがにカレンでも倒せるか。

 続いてアリサの方をみると、彼女が足技を放ち、獣が吹き飛ばされてピクピクと痙攣を起こしていた。

 モンスター相手に足だけで撃退できるとか、どれだけ強固な足の筋肉をしているんだよ。

 確か俺って【肉体強化エンハンスドボディー】でサポートしていなかったよな。
「ふぅ、まぁこんなものね」

 彼女の脚力に驚いていると、アリサと目が合った。

「何? そんなにジロジロと見て、まさか、アタシの足を見て興奮していないでしょうね。変態」

「なんでそうなるんだよ。俺はただ単に、やっぱり凄いなと思って感心していただけだ」

「そ、そう。まぁ、あなたから褒められても全然嬉しくはないのだけどね」

 俺から視線を外し、アリサは余計な一言を漏らす。

 正直に嬉しがってくれれば、少しは可愛げがあるのに。

 そんなことを考えながら、今度はスカイたちの方を見る。彼らもそれぞれが担当する白銀のオオカミたちを各個撃破していた。

 これ以上、追加でモンスターが現れる気配がない。

 なら、そろそろあの女を呼び出すとするか。

「お前の仕業だと言うことは分かっている。諦めて姿を見せろ、タマヨ!」

「みこーん! どうしてワタクシの仕業だと分かったのです? 本当にあなたは侮れませんわね。ですが、一つだけ間違っているところがありますわ。ワタクシの名前はタマヨではなく、マリアです。タマヨと言う名は、この世界に来た時に捨てましたもので」

 半壊状態の建物の上から女の子の声が聞こえ、顔を上げる。そこにはピンクの髪をツインテールに纏め、頭にはキツネ耳のカチューシャを嵌めている巫女服を着た女の子が立っていた。
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