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第三章

第十話 ゼウス、下等生物に敗北する

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「【俊足スピードスター】【肉体強化エンハンスドボディー】!」

 肉体強化のスキルを発動した直後、俺はゼウスとの距離を縮めて彼の腹に向けて拳を叩き込む。

 咄嗟に距離を縮められたことで、やつは反応が一瞬遅くなった。放った拳は敵の腹部に当たり、ゼウスは後方に吹き飛ぶ。

 しかしやつは空中で一回転をすると、地面に着地した。

「油断したな。まさか俺様の動体視力を上回ってくるとは、予想外であった」

 腹部を抑えながらゼウスは顔を歪める。

 よし、脳のリミッターを解除して運動制御の抑制を外した今の状態なら、肉弾戦でも神にダメージを与えることができる。

 ゲーム内の設定では、ゼウスは転生者のカムイ・オガミの肉体を乗っ取り、参加者の一人となっている。つまりあいつが今使っている器は、俺と同じで人の肉体だ。

 やつから撤退するには、ゼウスを上空に打ち上げ、【死球デスボール】を消した【光の壁ライトウォール】のところまで吹き飛ばすしかない。

 今の俺は【俊足スピードスター】と【肉体強化エンハンスドボディー】で、足と腕の筋力が跳ね上がっている。効果が切れる前にゼウスを打ち上げることは可能のはず。

 二つの効力が切れる前に、【俊足スピードスター】のスキルで再びゼウスの前に接近する。スキルの影響により、足の筋肉の収縮速度が上がったことで、車並みの速度が出せた俺には、やつに近付くことなど容易だった。

「バカめ! 同じ手が二度通用するとでも思っておったか。今度こそ、きさまの動き見切った!」

「バカはお前だ! やれ! カレン!」

「何!」

「え? ええ? やれっていったい何を?」

 突然の指示にカレンは困惑する。だが、それで良い。本当の狙いは、一瞬でもゼウスの視線を俺から外すことだ。

 カレンに気を取られた今がチャンス!

「一瞬でも俺から気を逸らしたお前の負けだ! 食らえ! スカイアッパー!」

 肉体の限界に近い筋力の収縮を行い、力を溜める。そして拳を放つと同時に溜めていたパワーを解き放って、ゼウスの顎にアッパーを叩き込む。

 攻撃を受けたゼウスは上空へと勢い良く飛ばされ、【死球デスボール】を消した【光の壁ライトウォール】の近くに到達する。

「今だ! 合成スキル【大爆発バックドラフト】!」

 スキルが発動した瞬間、光の壁が消えたと同時に空中で大爆発が発生する。

 密閉された空間の中で、炎が酸素を消費し切れば、炎は消える。だが、光の壁の中では完全には燃焼し切れていなかった。球体の中は、一酸化炭素ガスが溜まっている状態となっている。そんな中、空気に触れてしまうと熱せられた一酸化炭素に急速に酸素が取り込まれて結びつき、二酸化炭素への化学反応が急激に進んで爆発を引き起こす。

 この現象を引き起こす合成スキル、それが【大爆発バックドラフト】だ。

 このスキルは合成スキルのみでしかできない。だけど、ゼウスが【死球デスボール】を使ってくれたお陰で有効利用することができた。

 上空で爆風が発生して髪がなびく中、爆煙の中から金髪の男が落下してくる。やつは気を失っているようで白目を剥いてはいるが、息をしていた。

 しぶといやつだ。俺の拳で止めを差してやろう。

「これで聖神戦争も終わったようなものだ」

 片膝を付いてこの聖神戦争の開催者であるゼウスに止めを差そうと拳を叩き込む。だが、やつの肉体に触れることができなかった。

 目に見えない壁に阻まれているようで、やつを倒すことができない。

 チッ、ユニークスキル【不死身イモータリティー】による妨害か。

 やっぱりこのユニークスキルを消すスキルを手に入れない限りは、こいつをリタイアさせることができない。

 少しだけ悔しいが、ゲームの仕様上仕方がないことだ。

 立ち上がって踵を返し、ゼウスに背を向けるとカレンたちに近付く。

「ユウリ、倒さないの?」

 カレンの言葉に俺は首を横に振る。

「ダメだ。あいつのユニークスキルに阻まれてリタイアさせることができない。ここは撤退しよう」

 カレンとアリサの手を掴み、【瞬間移動テレポーテーション】を発動して屋敷の前に転移する。

「ねぇ、ユウリ。あの人いったいなんなの? ユウリが倒せないなんて異常すぎない?」

 カレンが心配そうに訊ねてくる。

 今までの俺は敵対した神の駒を全て倒してきたのだ。彼女にとって、俺は強い存在になっている。そんな俺が倒すことができないと諦めて撤退したのだ。こんな顔になってしまうのも仕方がないだろう。

「まぁ、今回はタイミングが悪かっただけだ。神に授けられたユニークスキルの性能の差だからしょうがない」

「あら? 案外軽く流してしまうのね。アタシはてっきり、もっと悔しがるかと思っていたわ」

 アリサが意外そうな顔で言ってくる。

 まぁ、負けイベントなのだからしょうがない。そんなものに一々悔しがっていたら、この先の戦いで精神がもたない。変に感情的になるだけ損だ。

「まぁ、俺は大人の心を持っているからな。変に感情的になって暴走して自滅するようなことはしないさ。どこかの誰かさんみたいにね」

「それって、アタシが感情的になって暴走する女だと言いたいの!」

 俺の言葉が癇に障ったのか、アリサは蹴りを放ってくる。しかしいつものように彼女の足を掴み、動きを封じた。

 まったく、こういうことがあるから例えで出されるんだよ。でも、こんなくだらないことで、これ以上体力を消耗したくない。

「悪かった。謝る。だから今日のところは屋敷に入って休もう」

 掴んでいたアリサの足を離すと、彼女は無言で俺の横を通り過ぎ、屋敷の中に入って行く。

 彼女を怒らせてしまっただろうか? まぁ、アリサとは一応手を組んでいるが敵だからな。変に馴れ合うよりかはマシか。

 カレンと一緒に屋敷に入り、自分の部屋に向かおうとしたときだ。

 扉がノックされた音が聞こえてくる。

 来客だろうか? メイドさんが姿を見せる気配がないし、買い物にでも出掛けているのか?

「はいはい、今出まーす」

 玄関に来るとドアノブを握って回し、扉を開ける。

 すると、外にいた存在に俺は驚く。

 どうしてこうも立て続きにイベントが発生する!











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