推しが必ず死ぬゲームのモブに転生した俺は、彼女を救うためにシナリオブレークします〜俺の推し活は彼女を生かすための活動です〜

仁徳

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第三章

第七話 全知全能なのに意外と間抜けなのだな

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 時空の裂け目から現れた男に、俺は驚く。黄金のように輝く金髪に紅蓮のように赤い瞳、そして自分以外の存在を見下すような態度、間違いない。聖神戦争のラスボス、ゼウスだ。

 でも、いくらなんでも早すぎる登場だ。まだ始まりの町から隣町に移動しただけだぞ。

 中盤の負けイベントには早すぎる。このままでは、カレンが自らの命を絶ってしまうかもしれない。

 ゲームで見たカレンの最後のシーンが脳内に映像として思い浮かぶ。

 させない。絶対にカレンは俺が守って見せる。

「な、なに? この人? この場にいるだけで背筋が寒くなるよ」

「なんて威圧感なの。立っているので精一杯だなんて」

 背後にいるカレンとアリサが、驚きと怯えが入り混じったような声音で言う。

 二人とも精一杯だな。それもそうだ。何せ目の前にいるこいつは、この聖神戦争を支配している神なのだから。

「ほう、この俺様を目の前にして臆した様子を見せないとは、中々の豪胆振りだ。いや、それともただ単にバカなのか?」

 ゼウスが見定めるようにして俺を見つめてくる。

「はぁ? この俺がバカだと、寝言は寝てから言えよ。バカだったらサクやコワイを倒すことができないだろう? そんなことも気付かないとは、カムイ・オガミともあろう男の名が泣くぞ」

 俺はこの世界でのゼウスの名を言い、敵を刺激しない程度に強気に出る。

 こちらが強気でいれば、やつは直ぐに攻撃して来ないだろう。少しでも時間を稼ぎ、その間にこの状況を打破する術を考える。

「クハハ、クァハハハハハハ!」

 強気の姿勢を見せると、なぜかゼウスは急に笑い出す。

 どうして急に笑い出す? 神の考えていることは本当に分からない。

「まさかこの俺様を前にして動じないだけではなく、言い返して来るとは面白いやつだ。気に入ったぞ。小僧、俺様の仲間となり、神の駒を統べる者ルーラーオブゴッドピーシーズのメンバーになれ! 丁度欠員が出て、その補充をしたかったところだ」

 赤い瞳でこちらを見つめながら、ゼウスが仲間に加わるように命令してくる。

 そう言えば、そんなイベントもあったな。

 これはアップデートで追加されたイベントだが、選択肢でYESを選ぶと神の駒を統べる者ルーラーオブゴッドピーシーズのメンバーとしてダークサイドでゲームを楽しむこともできる。

 当時はやつの配下となれば、カレンを助けられるかもしれない。そう思ってダークサイドをプレイしたこともあるが、結局のところはそちら側でもカレンの死を回避することができなかった。

 バッドエンドを回避できない以上、やつの配下に加わってカレンと離れ離れになるつもりは毛頭ない。そもそも、彼女と離れてしまっては、これ以上新たなユニークスキルや通常スキルを手に入れることができなくなる。

「「ユウリ」」

 カレンとアリサが俺の名を呼ぶ。声音からして、心配していそうな感じだった。

「安心しろ。俺はこんな男の下に付くつもりはない」

「ほう、敢えてこの俺様の誘いを断り、敵対しようと言うのか。それもそれで面白い。まぁ、この俺様と敵対宣言をしてしまった以上、長くこの聖神戦争に参加することはできなくなる」

 ゼウスが不適な笑みを浮かべなながら赤い瞳で俺を見る。

「貴様を消す前に一つ訊ねたいことがある。答えろ、貴様に拒否権など存在しない」

「何を訊きたい?」

 ゼウスの放つ威圧に耐えながらも、固唾を呑んでやつの言葉を待つ。

「貴様は何者だ? 俺様が知っている神の駒の中には貴様のような男はいなかったはず」

 やつの言葉に、内心驚かされる。

 この聖神戦争の管理者であるはずのゼウスが、俺の存在を知らなかっただと。つまり、俺はやつにとって信じられないイレギュラーな存在だ。

 こいつは使える。やつは全知全能の神であるはずなのに、俺のことを知らないのだ。きっとプライドが傷付けられたはず。

 ここは一言も喋らないで、黙秘しよう。

 拒否権はないとゼウスが言った。なら、拒否権以外の権利は使えると言うことだ。それなら俺は、黙秘権を行使する。

「どうやら、俺様の放つ威圧に当てられたようだな。少し弱めるとするか。もう一度問う。貴様は誰だ? 貴様をこの世界へと送り込んだ神は誰だ? さぁ、答えよ」

 全知全能の神は、俺が威圧に負けたと思い込んだらしく、体にのしかかるような圧力を下げてくれた。

 うん、ラッキーだ。そのまま間抜けを晒してくれ。そうすれば逃げる隙が生まれるはず。

 彼が問うてから十数秒経つが、俺は当然答えるつもりはない。

 だって黙秘権を行使している以上、言いたくないことは言わなくていいもん。

「チッ、どうやら長い間威圧しすぎたようだな。なら、これならどうだ? これで口も軽くなっただろう?」

 ゼウスが指をパチンと鳴らすと、体に降りかかる圧力が完全になくなる。

 よし、これで身動きが取れやすくなった。だけど、今の状態では逃げたところで直ぐに追いつかれてしまう。まだまだゼウスには油断してもらわないといけない。

「なぜだ! なぜ喋らない! 好い加減に話さないか! 拒否権はないと言ったであろう!」

「拒否権はないって言われたが、黙秘権がないとは言われていない。だから言わない」

「はぁ?」

 トンチをきかせた言葉に、ゼウスは一瞬惚ける。

 よし、今だ。やつは下等生物だと思っている人間に一泡吹かされた。トンチに気付かなかったことに、己を恥いているはず。

 逃げるなら今がチャンスだ。

「カレン、アリサ!」

 急いで踵を返して二人の腕を握ると【瞬間移動テレポーテーション】を使い、瞬時に転移先をイメージする。すると俺の視界は大通りから町の出入り口付近へと風景が変わる。

 時間がなかったから、数十メートルしか移動ができなかった。だけどこれで時間は稼げた。もう一度転移すれば逃げ切れるはず。

「おのれ! よくも下等生物の人間風情が俺様をおちょくりやがったな! この行為は万死に値する! 貴様らこの場で全員纏めてリタイアだ!」

 ゼウスの声が背後から聞こえ、ハッとする。振り返ると、やつは額に青筋を浮かべながら俺を睨んでいた。

 なんて速さだ。もう追い付いてくるなんて。

「こいつで骨も残らずに消し炭にしてくれる!」

 ゼウスが右手を上げて人差し指を伸ばす。すると空中に巨大な火球が出現した。

 この熱量【死球デスボール】か。

「この業火に焼かれて俺様のプライドを傷付けたことを後悔しろ!」

 やつの右腕が振り落とされ、俺たちに向かって骨も残さない火球が飛んで来る。











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