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第三章
第五話 ミイラ取りがミイラになるってどんな気持ち?
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コワイが俺たちに指を向け、睨み付けてくる。
まさか、コワイの方から出迎えてくれるとは思わなかったな。ボス戦かと思ったら、中ボス戦だったみたいな気分だ。
奴隷兵がゆっくりと俺たちとの距離を縮めてくる。あと三メートルほど距離を詰められたら、一斉に襲ってくるかもしれないな。
「カレン、アリサ、敵を見ながら耳を傾けてくれ」
敵に聞かれないように俺は二人に語りかける。
「ここで奴隷兵たちをスキルで解放したら、コワイが警戒して彼女を倒すのが困難になる。だからここにいる奴隷兵たちは解放しないで気を失わせる。いいか」
彼女たちに指示を出し、眼球だけを左右に動かして二人を見る。彼女たちは小さく頷いてくれた。
「さぁ! 奴隷兵たちよ! あの者たちをリタイアさせろ!」
ボンテージに身を包んでいるコワイが鞭を地面に叩きつける。空気を切り裂く音が合図だったようで、奴隷兵たちは一斉に襲いかかってくる。
「それじゃあ、俺たちも作戦開始だ! 【肉体強化】【俊足】」
二つのバフを仲間全体に発動し、俺は近付く奴隷兵たちに突っ込む。
戦闘の最中であるにも関わらず、ユニークスキル【知識の本】が発動して、脳内にスキル効果が頭の中に浮かぶ。
人が全力で走っている場合に足にかかる負荷は、片足で跳ねるような動作をする場合、普段足にかかる負荷の三十パーセント程度しかなく、まだ余裕がある。
スキル【俊足】は、足の筋肉の収縮速度をより速くすることで、人間の走ることのできる限界速度まで向上させる効果だ。
そのスピードは理論上、時速五十六キロから六十四キロメートルまで走ることができる。
つまり俺たちは、車と同等の速度で移動することを可能にしているのだ。
「き、消えただと!」
敵の動きについてこられないコワイの驚く声が耳に入る。
素早く動く俺たちの動きは、彼女の動体視力を上回っているみたいだ。
これなら奴隷兵たちを倒さなくても先にコワイを拘束することも可能だな。
「「きゃあ!」」
二人の声が聞こえ、振り返るとカレンとアリサが奴隷兵にぶつかって尻餅を付いていた。
しまった。俺は何度か使用しているから慣れてしまっているが、彼女たちは車並みの速度で走るのは初めてだ。
体の動きに脳が追い付けずに、制御が困難になっているのだろう。
転倒している隙に、カレンとアリサは奴隷兵に取り囲まれてしまう。
「ハハハ! 一瞬消えたかと思って焦ってしまったが、転ぶとは笑える。何かをしようとしていたようだが、力の制御もできないようであれば、宝の持腐れだな。さぁ、まずはあの女たちを倒せ!」
転倒して身動きが取れない彼女たちに、一斉に奴隷兵が襲い掛かる。
このままでは、彼女たちが袋叩きに遭う。
チッ、こうなっては仕方がない。最終手段だ。うまくアドリブに引っかかってくれ!
「【奴隷契約】」
敵に聞こえないように小声でユニークスキルを発動させ、襲い掛かる奴隷兵たちを解放する。
「あれ? 急に自分の意思で体が動かせるようになった」
「やったぞ! ついにあの女の呪縛から解放された!」
「やったわ! 私たち、自由を取り戻したのね!」
「そんなバカな! 【奴隷契約】は妾しか使えないはず!」
解放された町民たちの姿を目の当たりにして、コワイが驚く。
よし、彼女が驚いている今が彼らを逃すチャンスだ。
「今の内に街の中央へと逃げてください! そこに最初に解放された方々が集まっています」
「ありがとう。恩に着る」
「みんな、街の中央に避難するぞ」
街の中央に逃げるように伝えると、彼らは口々に感謝の言葉を述べながらこの場から離れて行く。
「そんな……バカな。妾の奴隷たちを解放するなど」
コワイが驚愕の表情を浮かべるも、キッと睨み付けてくる。
「おのれ! 貴様なにをした! 奴隷化するのも解放するのも、妾しかいないはずだぞ!」
仇を見るような眼差しを送り、コワイは持っている鞭で地面を叩き、空を切り裂く音を奏でる。
さぁ、ここからがアドリブの時間だ。うまく騙されてくれよ。
「あれ? そうかな? まだ一人いるんじゃない? お前以外にも【奴隷契約】が使える人物が?」
「妾以外にも……同じユニークスキルが使えるやつだと? まさか! あの男がこの町に来ておるのか!」
コワイが警戒するかのように辺りを見渡す。
どうやら賭けは俺が勝ったみたいだ。彼に罪をなすり付けるようで気が引けるけど、こればかりは仕方がない。今度出会ったときにでも、好物のカレーでも奢ってあげよう。
うん? そう言えばこの世界にカレーなんて言う食べ物の概念ってあったけ? まぁいいや、数多くの転生者が集まってバトルロアイヤルをする世界だ。転生者の誰かが広めている可能性もあるし、きっと探せばあるだろう。なかった時は似たような食材を使って作ればいい。
「スカイ! どこにおる! 隠れていないで姿を見せろ! 妾から遺伝子情報とユニークスキルをコピーした罪を償わせてやる」
建物の壁に背を預け、彼女はこの場にいない者の名を叫ぶ。
「ええい、こうなったらこやつらを新しい奴隷にしてお前を葬ってくれる!」
コワイが俺に視線を向け、右手を前に出す。
「「【奴隷契約】!」」
ユニークスキルが発動し、額に奴隷の紋様が浮かび上がる。
「さぁ、今すぐスカイを探しに行け!」
「はぁ? なんで俺がそんなことをしないと行けないのですか?」
「なんだと! そんなバカな! 妾の【奴隷契約】が効いていないだと!」
奴隷化されていない俺が信じられなかったのだろう。彼女の顔が驚愕に満ちていた。
「ハハハ! 引っかかったな。この場にスカイはいない。あの奴隷兵を解放したのは俺だ。俺も同じユニークスキルを使うことができるんだよ。俺の方がタッチ差で早かったな」
彼女が声を上げて叫んだと同時に、俺は小声で素早くスキル名を口に出した。その差が功をなし、主従関係は俺のほうが上になったのだ。
だけどさすが【奴隷契約】の使い手だ。町民たちのように、完全には支配されずに意識は残っている。
「俺の言葉が信じられないって顔をしているな? なら、試してあげようか? はい、右手上げて!」
右手を上げるように指示を出すと、彼女は素早く右手を高く上げる。
「な!」
自分の意思とは裏腹に、勝手に動き出す自分の体に彼女は驚く。
せっかくだし、少し遊んでみるか。
「左手上げて、右手下げないで左手下げる。左手上げないで右手下げる」
俺の言葉に連動するかのように、コワイは俺の言う通りに体を動かす。
さて、これで彼女も戦況が逆転して、どうにもならないと気付くだろう。だけどサクの時とは違って、女の子に暴力を振るうのは気が引けるな。どうやってリタイアさせようか。
彼女をリタイアさせる方法を考えていると、コワイから視線を感じ、彼女の方を見る。
何か言いたそうにしているな。
「何か言いたいことがあるのなら言ってみろよ」
発言を許可して促すと、彼女はなぜか顔を赤くして俺を睨み付ける。
「妾は辱めを受けない! 性奴隷にされるくらいなら死を選ぶ!」
どうしてそんな発想になってしまうんだよ!
予想外の発言に、俺は心の中で叫ぶ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
面白かった! この物語は期待できる! 続きが早く読みたい!
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まさか、コワイの方から出迎えてくれるとは思わなかったな。ボス戦かと思ったら、中ボス戦だったみたいな気分だ。
奴隷兵がゆっくりと俺たちとの距離を縮めてくる。あと三メートルほど距離を詰められたら、一斉に襲ってくるかもしれないな。
「カレン、アリサ、敵を見ながら耳を傾けてくれ」
敵に聞かれないように俺は二人に語りかける。
「ここで奴隷兵たちをスキルで解放したら、コワイが警戒して彼女を倒すのが困難になる。だからここにいる奴隷兵たちは解放しないで気を失わせる。いいか」
彼女たちに指示を出し、眼球だけを左右に動かして二人を見る。彼女たちは小さく頷いてくれた。
「さぁ! 奴隷兵たちよ! あの者たちをリタイアさせろ!」
ボンテージに身を包んでいるコワイが鞭を地面に叩きつける。空気を切り裂く音が合図だったようで、奴隷兵たちは一斉に襲いかかってくる。
「それじゃあ、俺たちも作戦開始だ! 【肉体強化】【俊足】」
二つのバフを仲間全体に発動し、俺は近付く奴隷兵たちに突っ込む。
戦闘の最中であるにも関わらず、ユニークスキル【知識の本】が発動して、脳内にスキル効果が頭の中に浮かぶ。
人が全力で走っている場合に足にかかる負荷は、片足で跳ねるような動作をする場合、普段足にかかる負荷の三十パーセント程度しかなく、まだ余裕がある。
スキル【俊足】は、足の筋肉の収縮速度をより速くすることで、人間の走ることのできる限界速度まで向上させる効果だ。
そのスピードは理論上、時速五十六キロから六十四キロメートルまで走ることができる。
つまり俺たちは、車と同等の速度で移動することを可能にしているのだ。
「き、消えただと!」
敵の動きについてこられないコワイの驚く声が耳に入る。
素早く動く俺たちの動きは、彼女の動体視力を上回っているみたいだ。
これなら奴隷兵たちを倒さなくても先にコワイを拘束することも可能だな。
「「きゃあ!」」
二人の声が聞こえ、振り返るとカレンとアリサが奴隷兵にぶつかって尻餅を付いていた。
しまった。俺は何度か使用しているから慣れてしまっているが、彼女たちは車並みの速度で走るのは初めてだ。
体の動きに脳が追い付けずに、制御が困難になっているのだろう。
転倒している隙に、カレンとアリサは奴隷兵に取り囲まれてしまう。
「ハハハ! 一瞬消えたかと思って焦ってしまったが、転ぶとは笑える。何かをしようとしていたようだが、力の制御もできないようであれば、宝の持腐れだな。さぁ、まずはあの女たちを倒せ!」
転倒して身動きが取れない彼女たちに、一斉に奴隷兵が襲い掛かる。
このままでは、彼女たちが袋叩きに遭う。
チッ、こうなっては仕方がない。最終手段だ。うまくアドリブに引っかかってくれ!
「【奴隷契約】」
敵に聞こえないように小声でユニークスキルを発動させ、襲い掛かる奴隷兵たちを解放する。
「あれ? 急に自分の意思で体が動かせるようになった」
「やったぞ! ついにあの女の呪縛から解放された!」
「やったわ! 私たち、自由を取り戻したのね!」
「そんなバカな! 【奴隷契約】は妾しか使えないはず!」
解放された町民たちの姿を目の当たりにして、コワイが驚く。
よし、彼女が驚いている今が彼らを逃すチャンスだ。
「今の内に街の中央へと逃げてください! そこに最初に解放された方々が集まっています」
「ありがとう。恩に着る」
「みんな、街の中央に避難するぞ」
街の中央に逃げるように伝えると、彼らは口々に感謝の言葉を述べながらこの場から離れて行く。
「そんな……バカな。妾の奴隷たちを解放するなど」
コワイが驚愕の表情を浮かべるも、キッと睨み付けてくる。
「おのれ! 貴様なにをした! 奴隷化するのも解放するのも、妾しかいないはずだぞ!」
仇を見るような眼差しを送り、コワイは持っている鞭で地面を叩き、空を切り裂く音を奏でる。
さぁ、ここからがアドリブの時間だ。うまく騙されてくれよ。
「あれ? そうかな? まだ一人いるんじゃない? お前以外にも【奴隷契約】が使える人物が?」
「妾以外にも……同じユニークスキルが使えるやつだと? まさか! あの男がこの町に来ておるのか!」
コワイが警戒するかのように辺りを見渡す。
どうやら賭けは俺が勝ったみたいだ。彼に罪をなすり付けるようで気が引けるけど、こればかりは仕方がない。今度出会ったときにでも、好物のカレーでも奢ってあげよう。
うん? そう言えばこの世界にカレーなんて言う食べ物の概念ってあったけ? まぁいいや、数多くの転生者が集まってバトルロアイヤルをする世界だ。転生者の誰かが広めている可能性もあるし、きっと探せばあるだろう。なかった時は似たような食材を使って作ればいい。
「スカイ! どこにおる! 隠れていないで姿を見せろ! 妾から遺伝子情報とユニークスキルをコピーした罪を償わせてやる」
建物の壁に背を預け、彼女はこの場にいない者の名を叫ぶ。
「ええい、こうなったらこやつらを新しい奴隷にしてお前を葬ってくれる!」
コワイが俺に視線を向け、右手を前に出す。
「「【奴隷契約】!」」
ユニークスキルが発動し、額に奴隷の紋様が浮かび上がる。
「さぁ、今すぐスカイを探しに行け!」
「はぁ? なんで俺がそんなことをしないと行けないのですか?」
「なんだと! そんなバカな! 妾の【奴隷契約】が効いていないだと!」
奴隷化されていない俺が信じられなかったのだろう。彼女の顔が驚愕に満ちていた。
「ハハハ! 引っかかったな。この場にスカイはいない。あの奴隷兵を解放したのは俺だ。俺も同じユニークスキルを使うことができるんだよ。俺の方がタッチ差で早かったな」
彼女が声を上げて叫んだと同時に、俺は小声で素早くスキル名を口に出した。その差が功をなし、主従関係は俺のほうが上になったのだ。
だけどさすが【奴隷契約】の使い手だ。町民たちのように、完全には支配されずに意識は残っている。
「俺の言葉が信じられないって顔をしているな? なら、試してあげようか? はい、右手上げて!」
右手を上げるように指示を出すと、彼女は素早く右手を高く上げる。
「な!」
自分の意思とは裏腹に、勝手に動き出す自分の体に彼女は驚く。
せっかくだし、少し遊んでみるか。
「左手上げて、右手下げないで左手下げる。左手上げないで右手下げる」
俺の言葉に連動するかのように、コワイは俺の言う通りに体を動かす。
さて、これで彼女も戦況が逆転して、どうにもならないと気付くだろう。だけどサクの時とは違って、女の子に暴力を振るうのは気が引けるな。どうやってリタイアさせようか。
彼女をリタイアさせる方法を考えていると、コワイから視線を感じ、彼女の方を見る。
何か言いたそうにしているな。
「何か言いたいことがあるのなら言ってみろよ」
発言を許可して促すと、彼女はなぜか顔を赤くして俺を睨み付ける。
「妾は辱めを受けない! 性奴隷にされるくらいなら死を選ぶ!」
どうしてそんな発想になってしまうんだよ!
予想外の発言に、俺は心の中で叫ぶ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
面白かった! この物語は期待できる! 続きが早く読みたい!
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