上 下
20 / 41
第二章

第十話 カレンを救出、そして故郷に帰還

しおりを挟む
 コワイの繰り出す奴隷兵に苦戦をしていると、俺はある方法を思い付く。

 上手く行くかはやってみないとわからない。それにチャンスは一度のみ。これに失敗すれば、この建物から脱出することも困難だ。

 正直、失敗した時のことを考えると背筋が寒くなる。だけど、ここでやらなければどっちにしろ、俺たちは纏めてリタイアだ。

 やれるかどうかじゃない。やるんだ!

「アリサ、俺に考えがある。十秒だけでいい。一人で任せていいか」

「じゅ、十秒! わ、わかった。やってみるわよ。防戦一方になっている以上は、もう天運に身を任せるしかないわ」

「ありがとう【俊足スピードスター】」

 素早く動くことのできるスキルを発動し、瞬時に牢屋の前に移動する。そして牢屋の鉄格子を握ると力一杯に広げた。

 まだ【肉体強化エンハンスドボディー】の効果が残っている。このスキルは、人間の力のリミッターを外すスキルだ。

 人間は本来なら力を振るった際に、反動で肉体が滅ぶほどの威力をもっている。しかしそれは脳によりコントロールされ、普段はそのようなことは起きない。

 だが、人は瞬間的に大きな力を振るう際に声を上げることで、神経による運動制御の抑制を外し、自分の筋肉の限界に近い力を発揮させる。

 このスキルは、常にその状態を維持することを可能にするのだ。

「ふん」

 限界に近い力を発揮したことにより、鉄格子は左右に曲がり、どうにか人が通れる隙間を作ることに成功した。

 ここまでの動作で体感三秒、残り七秒だ。

 カレンの前に来ると素早く彼女をお姫様抱っこする。これで四秒、残り六秒。

 推しをお姫様抱っこしたまま牢を脱出し、視線を壁に向ける。これで五秒、残り五秒。

「【ロック】!」

 地下室の壁を破壊して岩を取り出し、一階に繋がる階段に向けて岩を投げつける。

 投げつけられた岩は奴隷兵たちに当たり、階段へのルートを確保する。これで七秒、あと三秒猶予があるが、もうどうでもいい。脱出するルートは完成した。

 片手でカレンを抱き抱え、空いている方の手でアリサを掴むと、全速力で階段を駆け上がる。

 当然一階にも奴隷兵たちがいるが、そんなものは突進で吹き飛ばした。

 【俊足スピードスター】と【肉体強化エンハンスドボディー】の組み合わせでできた芸当だ。強化されていない状態ではできなかっただろう。

 建物の外に出ると、外にも奴隷兵たちが亡者の群れのように湧き出て来る。

 スキルの連発で体がしんどい。このまま戦って安全な場所まで逃げるのは無理だ。

 あいつらが襲ってくるまで、僅かにしか猶予はない。詳細にイメージする余裕はないが、町の外までは辛うじてできるはずだ。

「【瞬間移動テレポーテーション】」

 移動スキルを発動する。その瞬間、俺の視界に映る光景は奴隷兵の大群ではなく、町の門だった。

 どうにか、ここまで逃げることができたな。ここなら落ち着いてイメージを膨らませることができる。

 もう一度移動スキルを発動して、行きたい場所のイメージを頭の中で詳細に描く。すると、視界に映ったものが変わり、門からとある屋敷の前へと移動した。

「もう安全だ。ここなら奴隷兵たちはやって来ない」

 掴んでいたアリサを離し、カレンの口に咥えさせられている猿轡を外す。

「ユウリありがとう。でも、ここは?」

「俺の実家だ。ここなら下手に宿に泊まるよりも安全のはず」

 屋敷の中に入ろうと、一歩踏み出す。すると扉が開かれて一人のメイドが姿を見せた。

 彼女は、俺がこの世界に転生したときに、起こしてくれたあのメイドだ。

「ぼっちゃま、ご無事だったのですね。お散歩から全然帰って来ないので、心配しておりました」

 そう言えば、散歩に出かけていたことにしていたな。色々なことがありすぎて忘れていた。

「すまない。色々とあって遅くなった。悪いけど、彼女たちを泊めても良いか?」

 メイドに訊ねると、彼女はカレンたちを見る。

「畏まりました。直ちに就寝場所の用意をいたしますね。先にお食事の準備をしてからお部屋のベッドメイキングをいたします」

「ありがとう。助かるよ」

 メイドに礼を言うと、内心安堵する。

 男爵の息子としての立ち位置が、この屋敷でどれだけ力があるのか分からなかったが、女の子二人を泊めることはできるみたいだな。

「さぁ、入ってくれ。とりあえずは夕飯を食べながら今後のことについて話そう」

 二人を屋敷の中に招き入れ、食堂へと案内する。

 席に座ると、メイドが料理を運んでくれた。朝はパンとスープだけだったが、夜は前菜の野菜やスープ、肉料理などもある。

「では、ごゆっくりどうぞ。私はベッドメイキングをしてきます」

「ありがとう」

 メイドに礼をいい、夕食を始めようと両手を合わせる。

「いただきます」

 頂く命に感謝しつつ言葉を述べる。すると、カレンとアリサの視線が突き刺さった。

「どうした? 食べないのか?」

「いや、そうじゃないけど?」

「ねぇ?」

 二人が顔を見合わせている。何だろうか? 何か変なことでもしたのか?

「ユウリ、あなたに幾つか聞きたい事があるのだけどいいかな?」

 カレンが少し遠慮気味に訊ねて来る。

 俺たちの関係に遠慮はいらないのに。

「何? カレンの質問には何でも答えるから、遠慮しないで聞いてくれ」

「それじゃ、聞くね。ユウリはこの屋敷で生まれたの?」

「ああ、そうだけど」

 設定上ではそうなっている。だからそのように答えたのだけど、俺の返答にカレンは訝しげな顔をした。

 あれ? カレンが俺のことを疑っている? 俺は別に変なことは言ってはいないのだけどな?

「ねぇ、ならどうして神の駒として聖神戦争に参加しているの? 神の駒は死んだ転生者がこの世界に飛ばされているのよ。この屋敷で生まれたのなら、転生者な訳がないのに、おかしいよ」

 俺の言葉と神の駒の設定の矛盾をカレンは突きつけてくる。

 やってしまったな。そう言えば、聖神戦争の共通するキャラ設定は、死んだ人間の魂が当時の姿で転移させられるというものだった。

 そのキャラ設定がある以上、俺の説明は矛盾がある。

 俺としたことが軽率な発言だったな。どうして誤魔化そうか。

 思考を巡らせて考えると、ある設定が思い浮かぶ。信じてくれるかどうかは彼女たち次第だが、こうなったら破れかぶれだ。

「あー、やっぱりそこに行き着くよな。信じてくれるかは分からないけど、どうやら俺は特殊な転移……いや、転生したんだ。何故か聖神戦争が行われる前に、赤子としてこの世界に転生してきたんだ。だからカレンたちとはケースが少し異なるんだ」

 即興で作り話を語る。あとは彼女たち次第だ。信じてもらえない時はその時と、開き直るしかない。

「そうだったんだ」

「これで疑問が解決したわ。あー、お腹が空いたことだし、早く食べましょう。スープが冷めてしまうわ」

 どうやら俺の作り話を信じてくれたようで、二人は何事もなかったかのように食事を始めた。

 あれから三十分が経っただろうか? 夕食を食べ終わったタイミングで、カレンが今後について訊ねてくる。

「それで、これからどうするの? 町民を奴隷にしているあの女の人を、野放しにしておくわけにはいかないよ」

「ああ、わかっている。だけど正直に言って、今の俺たちでは無理だ。でも、たった一つだけコワイの奴隷兵を無力化する方法がある」

「それってどんな方法なの?」

「詳しく話しなさいよ」

 カレンとアリサが敵の無力化方法について訊ねてくる。

 これはカレンの協力が必要不可欠だ。俺は意を決してその方法を伝える。

「カレン、俺とデートしてくれ!」











最後まで読んでいただきありがとうございます。

面白かった! この物語は期待できる! 続きが早く読みたい!

など思っていただけましたら、【感想】や【お気に入り登録】をしていただけると、作者のモチベが上がり、更新が早くなります。

【感想】は一言コメントや誤字報告でも大丈夫です。気軽に書いていただけると嬉しいです。

何卒宜しくお願いします。
しおりを挟む

処理中です...