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第二章

第二話 両手に花の状態で宿屋へ

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「【肉体強化エンハンスドボディー】【俊足スピードスター】」

 いきなり攻撃してきたアリサを取り押さえようと、俺は二つのスキルを発動させる。

 一瞬で彼女の背後に回り、両手を掴んで後に持っていく。

「いたたたた! いったい何が起きたって言うの?」

 突然後に腕を回され、拘束されたアリサが顔を引き攣らせる。

「悪いが拘束させてもらった。これで分かっただろう。俺は君よりも強い。大人しくすれば、リタイアだけはさせないでやる」

「痛いじゃないのよ! そんなに強く引っ張らないでよ」

 金髪ツインアップの女の子が訴えるも、聞く耳を持つつもりはない。

 アリサはこう見えても格闘技を心得ている。なので、痛みで動けなくしないと直ぐに反撃するだろう。

 まったく、ギャップ萌えを狙ったのかもしれないけど、この暴力女のユニークスキルを【聖女セイント】にしたのは間違っていないか?

 全然聖女とはかけ離れている存在じゃないか。俺の推しのスカートの中に手を突っ込もうとするようなやつだぞ!

「いい加減に離してよ! 痴漢! 変態! いたたたた」

 ギャア、ギャア叫ぶので、俺はもう一度彼女の腕を強く握る。

 本当はこんなことはしたくない。でも、彼女の性格からして、力で押さえつけないと、大人しくしてはくれない気がするのだ。

「ねぇ、ユウリ。アリサ痛がっているよ。確かにアリサが悪いけど、それはやりすぎだと思う」

 悲しそうにするカレンの表情を見た瞬間、俺の胸が抉られる思いに駆られる。

 確かに力で女の子を押し付けるのは良くないよな。このまま続けたら、確実にカレンに嫌われてしまう。

「分かった。カレンがそう言うのなら」

 カレンのお願いを聞いて力を緩める。その瞬間、アリサは体をひるがえして俺に蹴りを放ってくる。

 やっぱりな。そうくるだろうと思っていた。

 肉体強化はしているが、彼女の蹴りを受けるつもりはない。

 放たれた足を掴み、アリサを片足立の状態にする。

「本当にあなたって厄介ね」

「それはこっちのセリフだ」

「もうやめてよ! 仲直りしないと二人のこと嫌いになるから!」

 俺たちが争っているのを見て、とうとう我慢の限界に達したのかもしれない。カレンが目尻から一雫の涙を零し、声を上げる。

 彼女の言葉を聞いた瞬間、俺たちは瞬時に握手を交わし、ぎこちなく笑みを浮かべる。

「ほ、ほら、俺たちは仲良しだぞ」

「だ、だから嫌いにならないでカレン」

 好きな人に嫌われたくない俺たちは、嘘でも仲良しアピールをする。しかしカレンは本気で怒ったらしく、頬を膨らませながらプイッと首を横に振った。

 平常時であれば、怒っても可愛らしい彼女の容姿に見惚れていたかもしれない。だけど今は、嫌われるかどうかの瀬戸際にいる。

 心臓の鼓動が激しくなり、愛の神であるカーマに祈りを捧げたい気持ちであった。

 頼む! カレンが俺のことを嫌いになりませんように!

「いい! 次にケンカしたら、私はもう一度ソロに戻らせてもらうからね」

 カレンがムッとした表情で、あとはないと言い出す。

 俺の祈りが届いたのかわからないが、とりあえずは首の皮一枚繋がったことに安堵する。

 まぁ、今回の原因はアリサにあるからな。彼女が俺を追い出そうと攻撃を仕掛けてこない限りは、多分大丈夫だろう。

「とりあえずは一時休戦ね。でも、あなたと馴れ合うつもりはないから」

「それは俺のセリフだ」

 隣にいるアリサにだけ聞こえる程度の声音でポツリと呟く。

 万が一にでもカレンに聞かれたらやばいからな。

「ねぇ、ユウリ、アリサが来て話が逸れてしまったけど、これからどうするつもりなの? 変身のユニークスキル持ちを探す?」

「いや、今はよそう。俺たちが探すよりも、相手の方から来てくれた方が面倒臭くない。取り敢えず宿の手配をしよう。あいつを倒さない限り、この町から出るわけにはいかない」

 宿に向かうことを告げ、俺は東に向かって歩く。

 それにしてもカレンやモブの女に姿を変えたあいつ。俺が知っている中で、その効果をもつ人物は一人だけだ。でも、どうして彼がこんなことをする?

 もし、今回の騒動があいつの仕業だとしたら、腑に落ちない点がある。俺は何かを見落としているのだろうか?

 考えごとをしながら歩くと、宿屋の前にたどり着く。

 ゲームと同じ場所にあったな。

 ここの宿屋は温泉付きで、ゲームでは泊まったキャラの一枚絵を見ることができる。

 ほとんど裸であるものの、大事な部分は見られない。まぁ、全年齢対象のゲームだからそうなることは必然だ。

 ゲームの世界に転生した今となっては、二度と見られない。だが、何かしらのムフフなイベントが起きないか期待してしまう自分がいるのも事実。

 ドアノブを握って扉を開けて中に入る。カウンターには宿の女将おかみと思われるふくよかな女性がいた。

「すみません。泊まりたいのですが、部屋は空いていますか?」

「ええ、空いているわよ。三人部屋かしら?」

「いえ、一人部屋を三部屋お願いします」

 一人部屋を三部屋貸してもらいたいと告げると女将さんは困った顔をする。

「ごめんなさい。一人部屋はあと一部屋しか空いていないのよ。二人部屋と一人部屋で良いかしら?」

 要求が通らない説明を聞き、少し考える。

 一部屋の空きが一つしかないのか。俺が監視できない場所で、アリサがカレンに夜這いをするかもしれないが、そこは彼女を信じるしかないだろうな。

「分かりました。それでお願いします」

「ありがとう。一晩銀貨一枚だけどいい?」

「はい、問題ないです」

 ギルドで得た報酬の入った袋を取り出し、その中から銀貨を一枚掴むと女将に手渡す。

「銀貨一枚、確かに受け取ったからね。こっちが二人部屋の鍵で、こっちが一人部屋の鍵よ。温泉は時間内なら好きな時間に入っていいから」

「ありがとうございます」

 部屋の鍵を受け取って女将に礼を言うと、二人部屋の鍵をアリサに渡す。

「え? これどう言うことよ。あたしが一人部屋なんじゃないの?」

「そんな訳ないだろう。俺だってその辺のことは弁えている。お前はカレンと同じ部屋で寝泊まりしろ。それじゃあ、あとは自由時間ってことでまた明日な」

 彼女たちに背を向け、鍵に書かれた番号の部屋に向かう。

 本音を言えば、俺がカレンと同じ部屋に泊まりたかった。しかし彼女の寝巻き姿や温泉上がりの姿を見て、正気でいられる自信がない。

 最悪の場合、美しくも可愛いすぎるカレンを見て気を失うかもしれない。

 番号に書かれた部屋の前に来ると、鍵穴に鍵を刺してロックを外す。そして扉を開けて中に入った。

「内装もゲームと同じだな。クローゼットにベッド、化粧台のような大きい鏡がある机、配置もゲームと同じだ」

 部屋を一通り見てベッドに横なり、軽く目を閉じる。すると急激に眠気を感じた。

 この感じはまさか。

「そのまさかよ。ようこそ! カーマちゃんの経営するスキルショップへ!」

 カーマの声が聞こえ、閉じていた瞼を開ける。すると目の前には、温泉上がりのような感じの浴衣を着ているカーマ神がいた。











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