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第一章
第一話 奴隷商からの追放
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「カレンを売っただと!」
俺の大切な人を売ったと父親から聞かされ、思わず声を上げる。
「ああ、そうだ」
息子が大声を上げたのにも関わらず、親父は落ち着いた様子で小さく低い声で返事をした。
「どうしてカレンを売った! 彼女は俺が買う予定だったじゃないか! そのためにもコツコツと金を貯めて、あともう少しでお前の要求する金額になるところだったんだぞ!」
「一足遅かったな。ワシがお前に提示した金額の倍の金を、ジェーン男爵が持って来たのだ。どちらかに売るとすれば、金を多く出してくれる方に売るのが普通だろう」
父親が口に出したジェーン男爵と言うワードを耳にして、鳥肌が立った。
ジェーン男爵は隣国との国境付近に住んでいる男だ。表は貴族としての仕事を真っ当にしている男だが、俺たちのように裏の仕事をしている立場の人間は、彼の裏の顔を知っている。
若い女を呼び寄せては毎晩女体を楽しみ、多くの女性を汚していると言う変態だ。
「お前も奴隷商であるのなら分かるだろう? 生活のためには商品に素晴らしい価値を見出した者に売るのが定石だ。あの女のお陰で、またワシらは贅沢に生活を送ることができる」
下卑た笑みを浮かべながら、親父は最前の選択だったと言うが、俺は怒りで拳が震えていた。
「だからと言って、あんな男に引き渡すのはおかしいだろう! 親父もジェーン男爵の裏を知っているじゃないか! カレンの身に何か起きたらどうするんだよ!」
思わず声を上げると、父親は小さく息を吐く。
「まったく、お前はいつになったらカレン離れをしてくれる。確かにお前のお願いでカレンを家族同然に扱ってやったが、あの女の本当の正体は奴隷、つまりは商品だ。商品に対して感情移入をしてたまるか」
長年一緒に生活をしていたのにも関わらず、淡々と言葉を連ねる父親に我慢ができずに、この場から飛び出そうと踵を返す。
すると、扉が開かれて中から1組の男女が入ってきた。
1人は金髪の優男、そしてもう1人はボロボロの衣服を身に付けた女性だ。
男の方は俺の兄である、ガロン・クレマース。そして女性の方は見覚えがないが、恐らく奴隷だろう。
「親父、カレンの引き渡しを無事に終わらせてきたぜ」
「ご苦労だったな? その女は?」
「新しい商品だ。カレンが居なくなった穴を埋める必要があると思ってな、新しい商品を入荷してきた」
「ハハハ! 流石ガロンだ。奴隷商として板に付いてきたじゃないか」
「兄さんもどうしてカレンを売ることに反対しなかったんだ! あんなに妹のように接してくれていたじゃないか!」
奴隷商の仕事を熟してきたと言う兄に向け、どうしてカレンを売ることに反対をしなかったのかと糾弾をする。
すると、兄は目を細めて睨み付けてきた。
「お前、何か勘違いをしていないか? 俺があの女に良くしてやったのは、商品としての価値を高めるためだ。あの女は容姿が整っていて美形だったからな。普通の奴隷のように扱っては、商品としての価値を落とすことになる。だから念入りに磨き上げていただけだ」
本音を漏らす兄の姿に鳥肌が立った。
まるで別人ではないかと錯覚してしまうほど、冷たいものを感じる。
「まぁ、そう怒るなって、カレンの代わりにこいつを可愛がれば良いさ。まぁ、あの女よりは見劣りはするがな」
ニヤニヤと笑みを浮かべながら、兄は女性の胸を鷲掴みにしながら、彼女の頬を嘗める。
「いや……やめて……ください」
「やめろだ? お前、自分の立場を分かっているのか? お前は奴隷になったんだ。お前は俺たちの所有物、つまりは道具だ。道具は道具らしく、されるがままにされれば良いんだよ」
嫌がる女性の反応を楽しんでいるかのように、下卑た笑みを浮かべる兄の姿に、吐き気すら感じてきた。
「あ、そうそう。お前がカレンのために貯めていた金だけどよ。あれ、俺が全部使ったからな」
突然カミングアウトをする兄の言葉が耳に入り、頭の中が真っ白になる。
「使っただと! 俺がこれまで貯めてきた90万ギルを全て使ったと言うのか!」
「ああ、だってあの金はカレンのために貯めてきたのだろう? その目的を失った金が残ったままでは、金が可哀想じゃないか? だから俺が遊女たちに注ぎ込んでやったぜ。金は使うことで経済が回るからな」
「さすがガロンだ。商人として正しい金の使い方をしている。流石ワシの息子、この奴隷商の跡継ぎに相応しい! ワハハハ!」
俺の大切な人を売り、彼女を救うためにコツコツと貯めた金を使うことが正しいと言う肉親に、怒りが湧き上がってくる。
狂っている。こいつらは人としてクズだ。
「よくも俺の努力を踏み躙りやがって!」
怒りの感情に理性が吹き飛んだ俺は、気が付くと飛び出して、兄の顔面を殴ろうと拳を突き出す。
「おい、おい、冷静になれよ。感情に流されては、商人として上手く立ち回れないぞ。その選択が間違いだと証明してやる。スレーブコントラクト! 我が契約に基づき、主を守れ」
「え? どうして体が勝手に動くの? きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁ!」
兄が奴隷契約を発動した瞬間、奴隷の女性がやつの前に立つ。
彼女の姿が視界に入って悲鳴を聞いた瞬間、理性が戻ってギリギリで拳を止める。
「あーあ、残念。お前が商品を殴るところを見たかったのにな。それが奴隷商としての欠陥たるお前の所以だ。商品に対して優しすぎる。そのまま商品を殴って追撃をすれば、俺を殴ることもできただろうに。さぁ、フリードを取り押さえろ」
「了解しました」
兄の命令に従い、女性が背後に回ると押さえ付ける。
体が動かない。彼女の脳のリミッターが外れてバカ力を発揮しているのか。
スレーブコントラクトが発動した奴隷は、主導権は自分にない。相手の命令を遂行するための道具になる。だから脳のリミッターが外れていてもおかしくはない。
女性に思考が割かれていた瞬間、顔面に痛みが走る。前の方を見ると、兄が殴っていた。
「これは兄としての教育だ! ありがたいと思え!」
女性に拘束させ、その間に兄は次々と拳を放ち、俺の顔面を殴り続ける。
「サンドバックにされて悔しいか? なら、お前もスレーブコントラクトを使えば良いじゃないか。できるものならな、アハハハハ!」
笑い声を上げながら、兄は殴り続ける。この状況を打破するには、兄の言う通りに俺も同じ能力を使い、奴隷を使って兄の動きを封じるしかない。
だけど、そんなことをしてはこの男と同じになってしまう。俺は、人を道具のように扱うために、この力を使いたくない。
「もうよさないかガロン!」
どうするべきか思考を巡らせている最中、父親が止めるようにガロンに言う。親の言葉を聞いた瞬間、兄は殴り続ける腕を止めた。
良かった。なんやかんや言っても、そこは父親だ。さすがに兄弟喧嘩は目に余ったのだろう。
「親父、でも」
「そんな奴隷商のクズを殴ったところで、お前の手が痛いだけだ。そいつはもう、この家の人間ではないのだからな」
「この家の……人間ではない? 親父……それってどう言うことだよ」
喧嘩を止めた父親の言葉の意味が分からず、聞き返す。
「言った通りだ。奴隷商として使い物にならないお前は、ただ飯喰らいのクズだ! 奴隷商の欠陥品であるお前は、もうワシの息子ではない !勘当だ! この家から出て行け!」
俺の大切な人を売ったと父親から聞かされ、思わず声を上げる。
「ああ、そうだ」
息子が大声を上げたのにも関わらず、親父は落ち着いた様子で小さく低い声で返事をした。
「どうしてカレンを売った! 彼女は俺が買う予定だったじゃないか! そのためにもコツコツと金を貯めて、あともう少しでお前の要求する金額になるところだったんだぞ!」
「一足遅かったな。ワシがお前に提示した金額の倍の金を、ジェーン男爵が持って来たのだ。どちらかに売るとすれば、金を多く出してくれる方に売るのが普通だろう」
父親が口に出したジェーン男爵と言うワードを耳にして、鳥肌が立った。
ジェーン男爵は隣国との国境付近に住んでいる男だ。表は貴族としての仕事を真っ当にしている男だが、俺たちのように裏の仕事をしている立場の人間は、彼の裏の顔を知っている。
若い女を呼び寄せては毎晩女体を楽しみ、多くの女性を汚していると言う変態だ。
「お前も奴隷商であるのなら分かるだろう? 生活のためには商品に素晴らしい価値を見出した者に売るのが定石だ。あの女のお陰で、またワシらは贅沢に生活を送ることができる」
下卑た笑みを浮かべながら、親父は最前の選択だったと言うが、俺は怒りで拳が震えていた。
「だからと言って、あんな男に引き渡すのはおかしいだろう! 親父もジェーン男爵の裏を知っているじゃないか! カレンの身に何か起きたらどうするんだよ!」
思わず声を上げると、父親は小さく息を吐く。
「まったく、お前はいつになったらカレン離れをしてくれる。確かにお前のお願いでカレンを家族同然に扱ってやったが、あの女の本当の正体は奴隷、つまりは商品だ。商品に対して感情移入をしてたまるか」
長年一緒に生活をしていたのにも関わらず、淡々と言葉を連ねる父親に我慢ができずに、この場から飛び出そうと踵を返す。
すると、扉が開かれて中から1組の男女が入ってきた。
1人は金髪の優男、そしてもう1人はボロボロの衣服を身に付けた女性だ。
男の方は俺の兄である、ガロン・クレマース。そして女性の方は見覚えがないが、恐らく奴隷だろう。
「親父、カレンの引き渡しを無事に終わらせてきたぜ」
「ご苦労だったな? その女は?」
「新しい商品だ。カレンが居なくなった穴を埋める必要があると思ってな、新しい商品を入荷してきた」
「ハハハ! 流石ガロンだ。奴隷商として板に付いてきたじゃないか」
「兄さんもどうしてカレンを売ることに反対しなかったんだ! あんなに妹のように接してくれていたじゃないか!」
奴隷商の仕事を熟してきたと言う兄に向け、どうしてカレンを売ることに反対をしなかったのかと糾弾をする。
すると、兄は目を細めて睨み付けてきた。
「お前、何か勘違いをしていないか? 俺があの女に良くしてやったのは、商品としての価値を高めるためだ。あの女は容姿が整っていて美形だったからな。普通の奴隷のように扱っては、商品としての価値を落とすことになる。だから念入りに磨き上げていただけだ」
本音を漏らす兄の姿に鳥肌が立った。
まるで別人ではないかと錯覚してしまうほど、冷たいものを感じる。
「まぁ、そう怒るなって、カレンの代わりにこいつを可愛がれば良いさ。まぁ、あの女よりは見劣りはするがな」
ニヤニヤと笑みを浮かべながら、兄は女性の胸を鷲掴みにしながら、彼女の頬を嘗める。
「いや……やめて……ください」
「やめろだ? お前、自分の立場を分かっているのか? お前は奴隷になったんだ。お前は俺たちの所有物、つまりは道具だ。道具は道具らしく、されるがままにされれば良いんだよ」
嫌がる女性の反応を楽しんでいるかのように、下卑た笑みを浮かべる兄の姿に、吐き気すら感じてきた。
「あ、そうそう。お前がカレンのために貯めていた金だけどよ。あれ、俺が全部使ったからな」
突然カミングアウトをする兄の言葉が耳に入り、頭の中が真っ白になる。
「使っただと! 俺がこれまで貯めてきた90万ギルを全て使ったと言うのか!」
「ああ、だってあの金はカレンのために貯めてきたのだろう? その目的を失った金が残ったままでは、金が可哀想じゃないか? だから俺が遊女たちに注ぎ込んでやったぜ。金は使うことで経済が回るからな」
「さすがガロンだ。商人として正しい金の使い方をしている。流石ワシの息子、この奴隷商の跡継ぎに相応しい! ワハハハ!」
俺の大切な人を売り、彼女を救うためにコツコツと貯めた金を使うことが正しいと言う肉親に、怒りが湧き上がってくる。
狂っている。こいつらは人としてクズだ。
「よくも俺の努力を踏み躙りやがって!」
怒りの感情に理性が吹き飛んだ俺は、気が付くと飛び出して、兄の顔面を殴ろうと拳を突き出す。
「おい、おい、冷静になれよ。感情に流されては、商人として上手く立ち回れないぞ。その選択が間違いだと証明してやる。スレーブコントラクト! 我が契約に基づき、主を守れ」
「え? どうして体が勝手に動くの? きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁ!」
兄が奴隷契約を発動した瞬間、奴隷の女性がやつの前に立つ。
彼女の姿が視界に入って悲鳴を聞いた瞬間、理性が戻ってギリギリで拳を止める。
「あーあ、残念。お前が商品を殴るところを見たかったのにな。それが奴隷商としての欠陥たるお前の所以だ。商品に対して優しすぎる。そのまま商品を殴って追撃をすれば、俺を殴ることもできただろうに。さぁ、フリードを取り押さえろ」
「了解しました」
兄の命令に従い、女性が背後に回ると押さえ付ける。
体が動かない。彼女の脳のリミッターが外れてバカ力を発揮しているのか。
スレーブコントラクトが発動した奴隷は、主導権は自分にない。相手の命令を遂行するための道具になる。だから脳のリミッターが外れていてもおかしくはない。
女性に思考が割かれていた瞬間、顔面に痛みが走る。前の方を見ると、兄が殴っていた。
「これは兄としての教育だ! ありがたいと思え!」
女性に拘束させ、その間に兄は次々と拳を放ち、俺の顔面を殴り続ける。
「サンドバックにされて悔しいか? なら、お前もスレーブコントラクトを使えば良いじゃないか。できるものならな、アハハハハ!」
笑い声を上げながら、兄は殴り続ける。この状況を打破するには、兄の言う通りに俺も同じ能力を使い、奴隷を使って兄の動きを封じるしかない。
だけど、そんなことをしてはこの男と同じになってしまう。俺は、人を道具のように扱うために、この力を使いたくない。
「もうよさないかガロン!」
どうするべきか思考を巡らせている最中、父親が止めるようにガロンに言う。親の言葉を聞いた瞬間、兄は殴り続ける腕を止めた。
良かった。なんやかんや言っても、そこは父親だ。さすがに兄弟喧嘩は目に余ったのだろう。
「親父、でも」
「そんな奴隷商のクズを殴ったところで、お前の手が痛いだけだ。そいつはもう、この家の人間ではないのだからな」
「この家の……人間ではない? 親父……それってどう言うことだよ」
喧嘩を止めた父親の言葉の意味が分からず、聞き返す。
「言った通りだ。奴隷商として使い物にならないお前は、ただ飯喰らいのクズだ! 奴隷商の欠陥品であるお前は、もうワシの息子ではない !勘当だ! この家から出て行け!」
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