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第二章

第十九話 ウイーク、追い詰められる

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~ラルス視点~





 僕が記憶を取り戻したことを教えると、ウイークさんが突然怒り出して兵士さんたちに命令をした。

 すると、兵士さんたちは剣を構えたまま僕たちのところに走ってくる。

 正確には全てを思い出した訳ではない。ローザのお願いで寂れた屋敷に行ったときに、魔族さんと戦ったときに思い出した記憶の一部を口にしただけ。それでも、ウイークさんには相当なダメージを与えたみたいだ。

「ソフィーはラルスを守ってくれ。奴らの構えを見る限り、ワタシ1人でも抑えることができる」

 シルヴィアお姉さんが次々と迫って来る兵士さんたちを、エッジのない部分の刀身で殴って吹き飛ばす。

 きっと、命令に従うしかない兵士さんの命を救うために、あんな戦い方をしているのかも。

 でも、刃で斬っていないから、兵士さんたちはすぐに立ち上がった。

 いくらシルヴィアお姉さんが強くとも、あんな戦いではいずれ捕まってしまう。

 僕もシルヴィアお姉さんを助けないと。

 この場に適した遊びを考える。

 そうだ! あの遊びをすれば、兵士の人たちはウイークさんのところに引き返す。

「色鬼を始めるよ。ソフィーお姉さん、いろ~いろ~何の色って聞いて」

「え? いろ~いろ~何の色?」

「金!」

 ソフィーお姉さんの問いかけに、僕は答える。すると、兵士さんたちは一斉に引き返して、ウイークさんの金髪に掴みかかる。

「痛い、痛い。痛い! お前たち、何をしやがる! 私の好奇なる髪に触れるな!」

「ウイークさん、兵士さんたちに言っても無駄だよ。彼らは僕の遊びに付き合ってもらっているんだもん。色鬼は、鬼が言った色を見つけて触れなければ、鬼に追いかけられ続けられる遊び。僕がウイークさんの色を指定し続ければ、兵士さんはウイークさんから離れることはできない」

「くそう! 一般人の分際で、この私の好奇なる髪に触れ続けるな!」

 ウイークさんが声を荒げると、帯刀していた剣を抜き、兵士さんたちを斬りつける。

「ぎゃあ!」

 兵士さんたちは短い悲鳴を上げて地面に倒れる。

 ソフィーお姉さんは僕に見せたくなかったようで、両手で目を隠す。でも、僅かに指の隙間から、傷口から血を流して地面を赤色に染める兵士さんたちの姿が見えた。

「なんてことを」

「自分の身を守る兵士を、道具のように平然と切り捨ているとは」

「くそう、使えない兵士たちだ。まさか、こんなことになるなんて予想外だ。こうなったら、私自らお前たちを倒して、シルヴィアを捉える」

 ウイークさんが剣を構えた。お兄さんが近づく前に、次の手を打たないと。

「ソフィーお姉さん、さっきのもう1回お願い!」

「え? わかったわ。いろ~いろ~何の色?」

「赤!」

「何だと! 体が勝手に引き寄せられる!」

 赤を指定した瞬間、ウイークさんは剣を手放し、兵士さんの血溜まりである地面に手を突く。

「この私の手が汚い兵士の血で汚れる!」

 自分で斬った兵士さんたちの血に触れ、気持ち悪くなったのかもしれない。ウイークさんは汚物を見るような眼差しで、自分の手を見ながら声を上げる。

 これで切られた兵士さんたちも、少しは気分がスッキリしてくれたかもしれない。

「おのれ! このクソガキ!」

 叫ぶと、ウイークさんはポケットに腕を突っ込み、玉を取り出す。彼の動きに驚きを隠せなかった。

 あれ? どうして色鬼が発動している最中に、体を動かすことができるの?

 不思議に思っていると、その原因に気付く。

 ウイークさんの握っている玉は、血のように真っ赤な色をしている。色さえ合っていれば、気合で他の色に触れようとすることもできるみたい。

「まさか、こいつを使う日が来るとはな。あの男に突き返さないで正解だったぜ」

 玉を握り閉めたまま、ウイークさんは口角を上げて僕たちを見る。

「さぁ、私は今ピンチだ。今こそ私を助けろ!」

 ウイークさんが声を上げると、赤い玉から黒い霧のようなものが噴き出す。そしてお兄さんの体が黒い霧のようなものに包まれ始めた。

「いったい何が起きているの?」

「ソフィー、ラルス、何が起きるか分からない。油断しないように、最悪の場合は、ワタシが時間を稼ぐ。いつでも逃げ出せられるようにしておいてくれ」

 シルヴィアお姉さんが剣を構え直し、僕たちに逃げ出す準備もしておくように言ってくる。

 包み込んだ黒い霧は次第に大きくなり、建物と同じ大きさになる。すると、霧は消え、中から巨大な怪物が現れた。そして変わりにウイークさんの姿が消える。

「もしかして、ウイークが巨大なモンスターになってしまったのか」

 シルヴィアお姉さんの言葉に、心臓の音が早く大きく聞こえ出す。

 ウイークさんがモンスターに! そんなことって本当にあるの?

『ギャオオオオオオオオオオォォォォォォォン!』
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