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第二章

第十六話 あなたはシルヴィアお姉さんの婚約者!

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~ラルス視点~





 野盗の人に騙され、僕は小部屋に閉じ込められてしまった。

 扉には鍵かかかっており、ドアノブを握って回しても動くことはなかった。

 どうにかしてここから逃げ出すことができないか考えてみるも、中々良いアイディアが思い付かない。

「どうすればこの部屋から脱出することができるのかな?」

 僕の持つユニークスキル【遊び】でどうにかできないかと考えてみたけれど、これと言って使えそうな遊びがない。

 鬼系は僕1人ではできないし、水鉄砲は水がないと使えない。

「こんな時に、魔法が使えたなら脱出できるのに」

 魔法で水を生み出すことができれば、それと水鉄砲を組み合わせてウォーターカッターと言う、水の力で吹き飛ばして穴を開ける魔法を使用することができる。

 それが発動できれば、鍵を壊して逃げ出すこともできるのに。

「はぁー、でも、ない物強請ねだりをしても何も変わらないよね」

 小さく息を吐く。その時、足音が聞こえてきた。だんだん大きく聞こえて来ることから、こっちに来ていることが分かる。

 扉に耳を当て、聞き耳を立てる。

「こちらです。この部屋に礼のガキを閉じ込めております」

 扉越しに、父親だと嘘を着いた男の声が聞こえてきた。

「そうか。では、早速確認をするとするか」

 続いて違う人の声が聞こえてきた。この声はどこかで聞いたような気がする。だけど、この声の人物が思い出せない。

「よぉ、元気にしているか? 数日ぶりだな。サーカスではアク団長を捕らえるのに貢献してくれてありがとう」

 サーカスやアク団長と言うワードが耳に入り、思い出す。

 この声は、シルヴィアお姉さんに振られたあの男の人の声だ。

「どうしてシルヴィアお姉さんに振られたお兄さんが、野盗と一緒に居るの?」

「このガキ! 平然と人の傷口を抉りやがって!」

 思ったことをそのまま口に出すと、なぜかお兄さんは声を荒げる。

「私にはウイークと言う名がある! あの女に振られたとか言うな! おい、なんだその目は! お前たち、私を憐れむような目で見るな!」

 扉越しに対面しているだけだから、扉の向こう側で何が起きているのか分からない。でも、ウイークさんが嫌な思いをしていると言うことだけは何となく分かった。

 ウイークさん傷付いているな。ここは謝らないと。

「ウイークさん、さっきはシルヴィアお姉さんに振られたとか言ってごめんなさい。二度とシルヴィアお姉さんに振られたとは言わないから」

「二度と言わないと言っておきながら、もう1回言っているじゃないか! お前絶対にわざとだろう!」

 傷付けてしまったことを謝ると、ウイークさんは再び声を上げる。

 わざと言っていないのに、どうしてそんな勘違いをしてしまったのだろう?

 何が悪かったのかが思い当たらず、首を傾げる。

「まぁ、良い。確認はできた。お前は間違いなくラルスだ。おそらく助けに来たと勘違いをしているかと思うが、残念だったな。私は貴様を助けに来たのではなく、本人確認のために来たのだ……確認は済んだ。報酬は後ほど送る。煮るなり焼くなり好きにするが良い」

「分かった。あのガキからは金の匂いがする。他にも使い道がないか調べるさ」

 口を挟む間もなく、ウイークさんとお父さんに成り済ました野盗の男が会話をする。

 どうやらウイークさんが野盗と手を組んで僕を攫ったみたい。でも、どうして僕を攫ったのだろう? 僕なんかを攫ったところで、お兄さんに得はないような気がするのだけど?

 そんなことを考えていると、今度は大きな足音が聞こえてきた。

「大変だ! 襲撃者だ!」

 大きな足音を出していると思われる人物が声を上げる。

 この声は、僕をこの村に連れて来たあの冒険者さんだ。

「襲撃者だと!」

「ああ、女2人組だ。茶髪のセミロングで、毛先にはウェーブがかかっている女と、青い髪を長く伸ばしている剣士だ!」

 茶髪のセミロングの女性と長い青髪の剣士……もしかしてソフィーお姉さんとシルヴィアお姉さん!

 特徴だけでは決め付けられないけれど、お姉さんたちの可能性が高い。

「長い青髪の女剣士……もしかしてシルヴィアか。ラルスを取り戻しに来たのか。くそう、発見されるのが早すぎる。この村にいることを彼女に見られる訳にはいかない」

 冒険者の格好をしたおじさんの言葉を聞き、ウイークさんもシルヴィアお姉さんを思い浮かべたみたい。

「私は彼女に見つかる前に逃げさせてもらう。私の仕事はラルスの確認だ。この村で起きた襲撃事件は、村のお前たちだけで解決しろ!」

 ウイークさんが大きい声を上げると、足音が遠ざかっていく。どうやらウイークさんは逃げたみたい。

 もし、この村を襲撃しているのが、ソフィーお姉さんとシルヴィアお姉さんだったのなら、無理にここから脱出しようと考える必要はない。

 お姉さんたちが助けに来てくれた。そう思うと何だか安心してしまい、硬いベッドに腰を下ろす。

 早くソフィーお姉さんとシルヴィアお姉さんが助けに来てくれないかな。
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