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第二章「幽霊のいる日常」
「告白」
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そんな他愛もない話をしながら歩いていると、別棟の方から歩いてくる人影が見える。
普段使われない場所だから、俺たちと同じく人気のない部活の部員なんだろう。
そんな風に思いながら、段々と近づいてくるその生徒を見る。
と、遠くの方にいた彼女が小走りで近づいてきた。
「月城、いまから部活ー?」
「あっ、成瀬!」
声と話し方、内容から理解するが、近づいてきていたのは成瀬だったようだ。
彼女は俺より目がいいらしく、先に俺のことが分かったらしい。
ぴょこぴょことポニーテールを揺らしながらこっちに来た彼女は、その子供っぽいしぐさを自覚したのか、少しだけ恥ずかしそうにする。
しかしそれもすぐに収まったのか、数秒後には姿勢を整えて俺の言葉を待っていた。
「そうだけど……ああ、成瀬は塾に行くんだっけ?」
「うん! 今部室に顔だけ出してきたの!」
受験戦争ってのは今や高校時代のすべてをかけて挑むものらしい。
成瀬も二年生でありながら、今月から塾に通い始めた。
なんでも、今の時期には入っておかないと、受験ギリギリになってからでは塾も生徒の受け入れ手がなくなってしまうそうだ。世知辛い世の中である。
でも、なんだか今日の成瀬は、そんな社会の当たりの強さなんて感じさせないくらいくらいにうきうきしている。何かいいことでもあったんだろうか。
「なあ、成瀬。今日のお前、なんか楽しそうだけど……なにかあった?」
疑問に思ったら聞いてみる。それが俺のスタンスである。
女の子は会話してるとき、自分への質問が多い男に惹かれるっていうしな!
と、そんな感じで軽く聞いてみたんだが。
「ふぇっ……! べ、別に深い意味なんてないんだからね! 月城と話せてうれしいとか、そういうんじゃないんだから……!」
「いや、そんなに否定したら逆に怪しいんだけど」
好意を隠すのが絶望的に下手な成瀬だった。
そんな成瀬のポンコツぶりが影響して、二人を包む雰囲気は次第に甘酸っぱいものへと変化していく。
――沈黙が、くすぐったい。
そんな中、重苦しい口を開いたのは成瀬だった。
「……あのね、月城」
「……ん、どうした?」
「えと、ね……。ちょっと、大事な話」
なんて、顔を赤らめて俯きがちに言ってくる。
思わせぶりな態度だけど、実際、成瀬はきっと俺のことが好きなわけで……。
この状況でこんな導入をされるなら、本当に告白かもしれない。
そうなったら俺は断るはずなんてないんだけど……。
「もう、我慢できないからいわせてくださいっ」
本当に真剣な顔で、まっすぐ見つめてくる成瀬。
そのいつもとは違った雰囲気に、緊張している俺がいた。
確かに、彼女のことを家でや学校で考えているときには必ず胸が苦しくなって、いつもの自分じゃなくなったみたいな錯覚を覚えるほどになる。
でも、本人を前にしてのこの空気。
告白の前の、甘くてほんのりピリッとした、そんな空気。
……正直、嬉しさも緊張も、想像とは比べものにならない。
今から、好きな人が自分のことを好きだって伝えてくれる。
こんな幸せな思いをする人は世界に何%いるんだろう。
「あのね、私……月城のことが……」
ついに、来た。
胸の鼓動がバクバクと五月蠅い。
あとは、ただ俺が頷くだけで関係が構築される。
成瀬と――付き合える。
周囲の静けさと相対するように、心拍数が上がっていく。
心の中で固く結んだこぶしを突き上げ、喜びを噛み締めていたときだった。
「……月城のことが、好きなのっ……!」
『あ、ああ…………。…………。……えっ?』
……。…………。
いや、確かに告白は聞こえたんだ。
薄暗い廊下にいてもはっきり分かるくらいに顔を真っ赤にして、成瀬が思いを告げてくれたのは事実。
それに俺もその告白を聞いていて、その言葉にもなんら間違いや失敗はなかったはずだ。
なのに、俺はこの瞬間にふと違和感を覚えた。
なんというか、感覚や精神力、生命力といった説明しにくい部分が普段と違っている――。
と、そんな風に決して結論に達することのない考察を俺が始めたときだった。
「怜太さん、よっす!」
「……よっす…………って、ええっ!」
いつもはふわふわと俺の斜め上を飛んでいるはずの幽子の声が、真横で聞こえた。
普段使われない場所だから、俺たちと同じく人気のない部活の部員なんだろう。
そんな風に思いながら、段々と近づいてくるその生徒を見る。
と、遠くの方にいた彼女が小走りで近づいてきた。
「月城、いまから部活ー?」
「あっ、成瀬!」
声と話し方、内容から理解するが、近づいてきていたのは成瀬だったようだ。
彼女は俺より目がいいらしく、先に俺のことが分かったらしい。
ぴょこぴょことポニーテールを揺らしながらこっちに来た彼女は、その子供っぽいしぐさを自覚したのか、少しだけ恥ずかしそうにする。
しかしそれもすぐに収まったのか、数秒後には姿勢を整えて俺の言葉を待っていた。
「そうだけど……ああ、成瀬は塾に行くんだっけ?」
「うん! 今部室に顔だけ出してきたの!」
受験戦争ってのは今や高校時代のすべてをかけて挑むものらしい。
成瀬も二年生でありながら、今月から塾に通い始めた。
なんでも、今の時期には入っておかないと、受験ギリギリになってからでは塾も生徒の受け入れ手がなくなってしまうそうだ。世知辛い世の中である。
でも、なんだか今日の成瀬は、そんな社会の当たりの強さなんて感じさせないくらいくらいにうきうきしている。何かいいことでもあったんだろうか。
「なあ、成瀬。今日のお前、なんか楽しそうだけど……なにかあった?」
疑問に思ったら聞いてみる。それが俺のスタンスである。
女の子は会話してるとき、自分への質問が多い男に惹かれるっていうしな!
と、そんな感じで軽く聞いてみたんだが。
「ふぇっ……! べ、別に深い意味なんてないんだからね! 月城と話せてうれしいとか、そういうんじゃないんだから……!」
「いや、そんなに否定したら逆に怪しいんだけど」
好意を隠すのが絶望的に下手な成瀬だった。
そんな成瀬のポンコツぶりが影響して、二人を包む雰囲気は次第に甘酸っぱいものへと変化していく。
――沈黙が、くすぐったい。
そんな中、重苦しい口を開いたのは成瀬だった。
「……あのね、月城」
「……ん、どうした?」
「えと、ね……。ちょっと、大事な話」
なんて、顔を赤らめて俯きがちに言ってくる。
思わせぶりな態度だけど、実際、成瀬はきっと俺のことが好きなわけで……。
この状況でこんな導入をされるなら、本当に告白かもしれない。
そうなったら俺は断るはずなんてないんだけど……。
「もう、我慢できないからいわせてくださいっ」
本当に真剣な顔で、まっすぐ見つめてくる成瀬。
そのいつもとは違った雰囲気に、緊張している俺がいた。
確かに、彼女のことを家でや学校で考えているときには必ず胸が苦しくなって、いつもの自分じゃなくなったみたいな錯覚を覚えるほどになる。
でも、本人を前にしてのこの空気。
告白の前の、甘くてほんのりピリッとした、そんな空気。
……正直、嬉しさも緊張も、想像とは比べものにならない。
今から、好きな人が自分のことを好きだって伝えてくれる。
こんな幸せな思いをする人は世界に何%いるんだろう。
「あのね、私……月城のことが……」
ついに、来た。
胸の鼓動がバクバクと五月蠅い。
あとは、ただ俺が頷くだけで関係が構築される。
成瀬と――付き合える。
周囲の静けさと相対するように、心拍数が上がっていく。
心の中で固く結んだこぶしを突き上げ、喜びを噛み締めていたときだった。
「……月城のことが、好きなのっ……!」
『あ、ああ…………。…………。……えっ?』
……。…………。
いや、確かに告白は聞こえたんだ。
薄暗い廊下にいてもはっきり分かるくらいに顔を真っ赤にして、成瀬が思いを告げてくれたのは事実。
それに俺もその告白を聞いていて、その言葉にもなんら間違いや失敗はなかったはずだ。
なのに、俺はこの瞬間にふと違和感を覚えた。
なんというか、感覚や精神力、生命力といった説明しにくい部分が普段と違っている――。
と、そんな風に決して結論に達することのない考察を俺が始めたときだった。
「怜太さん、よっす!」
「……よっす…………って、ええっ!」
いつもはふわふわと俺の斜め上を飛んでいるはずの幽子の声が、真横で聞こえた。
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