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12 獣人の村

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※欠損表現あり

 小愛は依頼のため獣人の村を訪れていた。体毛やマズルといった獣度の強い者から耳や尻尾だけといった人に近い者もいる。つまりはモフモフ天国。

「モフモフ……モフモフがいっぱい……」

 血走った目で獣人を目で追う小愛。彼女はモフモフに弱かった。

 そんな不審者すぎる彼女だが、何故か獣人たちからは歓迎されたのだった。

「今夜我々の村に伝わるお祭りがありまして、ぜひとも参加していただきたいのです」

「よろこんで!」

 小愛の目にはモフモフしか映っていなかった。



「祭りが始まるまで、こちらの部屋でおくつろぎください」

 小愛は獣人の少女に案内され、客人用と思われる部屋にやってきた。

「その前に外を見て回っても……」

「駄目です」

「え?」

 強く断られ、小愛は困惑する。

「あ、いえその……」

「訳あり……なんですか?」

「あっ……駄目ですっ耳と尻尾は……あぁっ♥」

 小愛は何か訳アリとあった様子の獣人に近づき、しれっと耳や尻尾を触る。敏感な部分を触られた獣人は色気のある声を漏らした。

 獣人の茶髪の中でぴくぴくと動く耳が、小愛の柔らかい手によって蹂躙される。獣人の頬は徐々に赤くなり、息も荒くなっていく。

 人に比べて遥かに大きな耳は、人に比べて感度も高いのだった。

「おぉモフモフ……」

 小愛はそんな獣人の様子など気にせずに欲望のままに触り続ける。

「あのっそれ以上はっぁぁっ♥」

「……はっ! す、すみません!」

 我に返った小愛は目の前の蕩けきった獣人の様子を見て、自分の行ったことを反省し謝罪した。

「いえ、その……わかっていただければ……」

 獣人は名残惜しそうに部屋を後にする。どうやら満更でもないようだった。

 その後しばらくして夜になり、部屋のドアを叩く音が聞こえてくる。小愛がドアを開けるとそこには先ほどとは別の獣人の少女が立っており、小愛を外へと案内する。

 小愛が建物の外へと出た瞬間、少女は小愛の背後に周り睡眠薬を打ち込んだ。

「ふぇ……?」

 落ちていく意識の中小愛が最後に見たのは、振り返った村長の憎悪に満ちた表情だった。



(……あ……あれ……? 体が……動かな……い……?)

 小愛は輪になった獣人たちの中心で寝かされていた。

(……だめだ。力が入らない……というかまるで手足がないみたいな……え?)

 起き上がろうとするが、どれだけ力を入れようとしても体が動くことは無かった。

 その直後、小愛は目の前の光景に驚愕することになる。なんと、そこには己の手足が捧げられていたのだ。

「あっぁあっ……?」

「おや、目覚めましたか。それでは祭りを始めましょう」

「どうして……私の手足……なんで……」

「今夜行われる獣人の祭り。それはかつて人族によって行われた凄惨なる悲劇を忘れないようにするための儀式。外から来た人族を生贄にして、我々は過去の悲劇を後世へと語り継ぐのです」

 動揺する小愛に、獣人の村長は祭りについて語った。

「やだ……やだやだ! なんで私が!!」

「……かつて襲われた同胞もそう叫んでいました。そして人族はこう言ったのです。『運が悪かったな』……と」

「そんな……」

「ですから小愛様も運が悪かった……それだけの話しなのです」

「嫌……酷い……」

「酷いですよね」

 村長は遠い目をしながらそう呟く。

「小愛様、我々はかつての人族ほど酷くはありませんので心配しないでください。痛覚を快楽に変える魔法を施してありますので、麻痺薬が切れればすぐに幸せな気分になりますよ」

「そんな……イ゛っ♥」

「早速来ましたね」

「な、なにこれっだめっ♥ おかしくなっちゃうっ♥」

 全身を激しく痙攣させながらイキ狂う小愛。あまりの快楽に口を閉じることもままならず涎を垂れ流す。

「四肢切断の痛覚による快楽は、交尾にして数十回といったところでしょうか」

「そ……んなっ♥ お゛ぉっ♥ 壊れちゃっう゛♥」

「最期にこれだけの快楽を得て死んでゆく。これほど幸せなことなどありはしませんよ」

 人の脳は死を察知すると性行為の数百倍の量の快楽物質を分泌すると言う。小愛の体は四肢を切断され、その際に流れ出た出血量も多かった。

 そのため魔法による効果以外にも快楽にブーストがかかっていたのかもしれない。

「あぐっ……やだ……死んじゃう……う゛♥」

「恐怖と快楽に襲われてもなお正気を保ち続けるとは……。なんとも人族らしい醜い執念ですね」

「ひぐっ……死にたくないのは……お゛♥ 当然のこと……ひぐっ♥」

「ええそうでしょうとも。きっと我々の同胞も同じ気持ちだったでしょう……」

 小愛は村長と話すうちに違和感に気づいていた。獣人の村長は壊れていた。かつての悲劇に囚われ、ただ人族を憎むだけの存在となっていたのだ。

 そんな村長とその行動に耐えられなくなった誰かが、せめてもの慈悲としてこの痛覚変換の魔法を施すことにしたのだろう。小愛は快楽に溺れながらも、残った意識でそう考えていた。

 その時、小愛は遠くからいくつもの明かりが近づいてくるのを視認した。近づいてくるに連れて、小愛はその明かりの正体が松明だということに気付く。

「クソッこいつらまたやってんのかっ!!」

「君、大丈夫か!?」

 松明を持って近づいて来ていたのは獣人だった。その獣人たちは小愛を囲んでいた獣人たちを拘束して行く。

「き、貴様ら……何故ここがわかったのです……!」

「行方不明者の捜索依頼の増加とこの村の位置関係が一致したんで確かめに来てみれば……このザマだ」

「我々獣人は過去と決別した。今更人族を襲ったところで何も解決はしない!」

「うるさい! 人族が我々にした仕打ちを許しはしない……! 貴様らにだってわかるはずだ!!」

 村長は取り押さえられながらもそう叫び続ける。だが、新たに現れた獣人の中にその声に耳を貸す者はいなかった。

 その後村長と村人たちは連れて行かれ、この場には獣人の少女と小愛の二人が残った。

 時間が経ち変換魔法の効力が薄れてきたため、小愛は落ち着いて状況を確認することができるようになった。すると残った獣人の少女に見覚えがあることに気付く。

「あなたは……さっきの?」

「ああ、先程までこの村での潜入調査の最中だった。あのとき助けることが出来ず……すまなかった」

 その少女は小愛を部屋へ案内した獣人だったのだ。

「……我々のはぐれ者がした行為、決して許せとは言わない。だが獣人も全員がああではないのだ……。どうか偏見を持たないで欲しい。……いや、無理か。これだけのことをされて許せる者などいるはずが……」

「良いですよ。獣人が皆ああではないのはあなたを見ているとわかります」

「……我々を、獣人を許してくれるのか……? 与えられた恐怖は凄まじいだろう……? それにその手足はもう二度と戻らないというのに……」

「いえ、これは……『自己再生』」

 スキルの発動とともに、小愛の手足が見る見るうちに再生していく。完全に切断されていた骨や神経、筋肉までもが数秒後には完璧に再生していた。

「……驚いたな」

「私も驚きましたよ。まさか獣人たちが私の手足を切断できるだけの武器を持ってるなんて思ってませんでした」

「それは……恐らくハートブレードだな。獣人の心……魂を消費し絶対なる一撃を与えるものだ。代償として使用者は死ぬことになるが……あいつらはそんなことは気にしないだろう」

「……狂っているんですね」

「……ああ。君が良ければで構わないのだが、この村でのことを話してほしい。他の反人間派の生き残りについて情報を得られるかもしれない。思い出したく無ければそれでいい」

「いえ、お話します。私だから五体大満足で生き残れたけれど、他の人が襲われたらひとたまりもありませんから!」

 小愛は他の人の心配をするというていで獣人たちに付いていくことにした。しかしその奥底にあるのは、モフモフへの探究心。

 獣人たちが小愛にモフモフされまくるのは時間の問題だった。

【痛覚変換を習得しました】
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