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7 魔導文明の遺産
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怨嗟の女王には名前が無かった。物心ついた時には既に両親は他界しており、つけられていたはずの名前は記憶には残っていなかったのだ。
「そうか……名前が無いのはかわいそうだよな。よし、俺たちで名前を考えよう」
拓夢と理沙は彼女のために名前を考える。名前の無い少女のために脳をフル回転させる二人。普通に考えれば心優しい二人が彼女のためを思って名前を考える微笑ましい光景に見えるかもしれないが、実際のところは違った。
「怨嗟の女王と呼ばれていたからウラミちゃんとか?」
「良いわねそれ」
二人にはネーミングセンスが無かった。この異世界において滅茶苦茶日本語の名前は明らかに浮く。だが二人はその考えには至らなかった。キラキラネームというわけだ。
一方、彼女本人も名前を付けてもらえるという事に感情を持っていかれてしまい、その名前を疑うことは無かった。
結果、名前はウラミ・クイーンに決まった。
なんてこった。
「タクム、私に名前をくれてありがとう」
「まあ、呼びづらいのもあれだからな」
「カッコいいわねクイーン」
三人はキャッキャしている。本人が良いならそれで良いのだろう。
一つ問題点があるとすれば、夜の運動会中にウラミの名を口にした拓夢の脳内にどこぞのネコ型ロボットの妹がちらつくことくらいだろうか。
そんなこんなあった三人はかつて栄えた魔導文明の遺跡の近くにある都市ドーマに訪れた。ここには遺跡から発掘された魔導文明の遺産がたんまりとあり、それを利用した都市はかなり栄えている。文明力で言えば以前滅ぼした魔都をも超えるだろう。
「「「ようこそドーマへ」」」
都市内に入るための門には魔導アンドロイドが数多く並んでおり、訪れた者を出迎えていた。魔導アンドロイドはかつての魔導文明を元に開発された自動人形であり、人と同じような見た目からあのヤベー天使と同じような機械チックなものまで複数存在する。というのもあの天使自体、この魔導文明から産まれたものなのだ。兵器として作られた生物と魔導機械の複合体。それがあの天使だった。つまり、なんで遺跡に機械があんのかは残念ながら今の人類にはわからないのだ。
「凄いな。本当に人間そっくりだ」
「でも機械っぽいのもいるわね」
二人も目新しい彼女たちに夢中だった。しかし都市の裏に入った時、そこにあったものを見て三人は絶句した。
「おいおい……」
そこには大量に廃棄されたアンドロイドがあったのだ。彼女たちは所詮作り物。どんな扱いをしようがそれは所持者の自由だった。
その光景を見て特に良く思わなかったのはウラミだ。かつての無力だった自分と重ねてしまった彼女は昂った感情を抑えるように血が出る程に強く唇を噛んでいた。
「おいこらさっさと動きやがれ!!」
三人がアンドロイドの山を見ていた時、別の方向から片足を引きずりながら歩くアンドロイドの女性とそのアンドロイドを叱責する所持者と思われる者が向かって来た。どうやらこの廃棄場にアンドロイドを捨てに来たようだった。と言うのも彼女たちアンドロイドは機械で出来ている都合上、物理的にかなり重いのだ。そんなアンドロイドを持ち運ぶのは大変な作業であるため、廃棄場まで自分の足で歩かせることも少なくは無いのだった。
「ご主人様。今までありがとうございました」
「わかったわかったさっさと失せろ」
アンドロイドを廃棄した元所持者は最後の言葉も聞かずに帰っていく。最後の最後まで彼を慕い笑みを浮かべて言葉を紡ぐアンドロイド。だが彼は振り返ることなく歩き続ける。それをウラミは黙って見ていられなかった。
「ちょっと! 最期の言葉なのにそれは無いでしょう!?」
「ああ? 何だてめえ」
ウラミは元所持者を止め、感情をぶつける。
「あのアンドロイドは最後まであなたの事をご主人様として慕っていた。なのにあなたは……!」
「おいおい、あんな人形相手に本気になってんのか?」
「笑うなっ! 彼女はお前の知らない所でこれから過酷な日々を送るんだよっ! お前は毎日雨ざらしで生活してんのか? そうじゃないやつは笑うなっ!」
笑いながら何も聞いちゃいない元所持者に向かってウラミはさらに感情を爆発させる。しかしそれが彼のストレスになったようだ。
「うるせえよ黙れよ! あのおんぼろへの情なんかねえよ!」
「なっ……あなたねえ!」
「正しいのは俺だってわからせねえといけないみたいだな!」
元所持者は大声とともに拳を振り上げ、ウラミに向かって全体重をかけて振り下ろす。しかしその拳は空を斬ったのだった。
「何だ……どうなってやがる」
「その程度の拳じゃ私には届かないから」
「ぐっ馬鹿にしやがって……なら!」
元所持者は廃棄場へと駆けよっていき、先ほど捨てたアンドロイドを抱えて盾代わりにした。
「どうだ? お前がそれだけコイツの事を思うなら下手に手は出せねえよな」
「うぐっ……」
元所持者はジリジリとウラミの方へと近づいて行く。
「コイツを乱暴にされたくなけりゃあとりあえず持っている武器を全部捨てな」
「……」
アンドロイドを人質に取られてしまった以上、彼女はもう従うしかなかった。
背に担いでいる剣を下ろし、片足に差しているナイフを置き、もう片足に差している火薬銃を置き、靴に仕込まれている毒薬を外し、腰ベルトに巻いているムチを置き、腕に巻いている布から小型ナイフを外し、胸に挟んであった鍵型火薬銃を抜き、首に巻いていた……。
「おいおい待て待て何だそれは!? 全身武器庫かなんかなのかお前はぁ!?」
あまりにも武器を携帯しすぎているウラミを見て元所持者も流石に異常を感じ取っていた。だが仕方が無いことなのだ。かつて無理やりに襲われた経験のある彼女は、いついかなる時であっても自衛出来るように全身に武器を仕込んでいるのだ。
「ああわかった。もう武器は良いからもう全部脱げ。そっちの方が確実だ」
「なっ……」
もう何もかもが面倒くさくなった元所持者はウラミに裸になるように指示をした。この方が手っ取り早いと思ったのだろう。実際、彼女はまだあと十個くらいは武器を隠し持っている。
「くっ……」
「ほらほらさっさと脱ぎやがれ。こいつがどうなっても良いのか?」
抵抗するウラミだが、自分が脱がなければ目の前のアンドロイドがどうなってしまうのかを理解している彼女には抗うすべが無かった。
「思ったよりも良い体してるじゃねえかよぐへへ。やっぱこんなおんぼろよりも生のメスの方が良いに決まってるよなぁ」
元所持者は服を脱ぐウラミの体を下から上まで舐めるように眺めて行く。特にお腹と腰が交わる中間辺りやソックスと太ももの肌との境界線を見ている時間が他に比べて数パーセント長かったため、それが彼の性癖なのだろう。
「外道が……!」
ウラミは下着だけとなっている。だが、それでも元所持者は満足しなかったようだ。まあ普通に考えてあれだけ武器を持っていれば下着の中にもあると考えるものだ。
「下着も脱いでもらおうか」
「こ、こんな場所で全部脱げと言うのか……!?」
「そうだこんな場所でだ。裏路地のさらに奥地の廃棄場付近だ。人なんて全く来ない。安心して脱ぐが良い」
「……くっ」
目に涙を浮かべ、耳まで真っ赤になりながらウラミはブラに手を伸ばす。そして彼女の豊満なそれが姿を……現さなかった。
「ぐ……げ……」
元所持者は、拓夢と理沙によって斬り刻まれていたのだ。だが元所持者が斬り刻まれたという事は、彼が持っていたアンドロイドも同じように斬り刻まれていた。
「うああぁあっぁ!!」
「おっと勢い余っちまった」
「私も力が加減できなかったな」
ウラミには目の前で起こっていることが理解できていなかった。何故か二人はアンドロイドごと斬り刻んだのだ。
「ちょっと何してるのぉっ!?」
「いや、お前の裸をこんなヤツには見せたくなかったし。それにこのアンドロイドに別に思い入れとかないし」
「私も同感だ。ウラミ、こんな輩のために肌を見せる必要は無いぞ」
「でも……えぇ……」
ウラミは改めてこの二人の異常性について思い知ったのだった。
「あ……が……」
「待って、まだ生きてる……?」
斬り刻まれたアンドロイドは何かをうわ言のように呟いている。
「……またなのね。……前にもこうして斬り刻まれて、絶望を刻み込まれて、ごみのように扱われて……」
「ひぃっ」
呪いのこもったようなその言葉を聞いたウラミは驚き、思わず後ろに跳んだ。
「思い出した……人間への、恨み……」
アンドロイドは目を光らせ、震えはじめる。彼女は人間への強い恨みを持っていたのだ。だがこの年で使われているアンドロイドには感情抑制機能と、人間へ危害を与えらえないよう思考ブロックをかけられている。そのため彼女は今までその感情を露わにすることは無かった。それにもう一つ彼女が感情を出せない理由があった。
アンドロイドの特性上、所持者は記憶を任意で消すことが出来る。あの元所持者もその機能を利用していたのだ。普通なら壊れるような使い方をしてもその記憶は残らない。痛みも、快楽も、悲しみも恨みも、いかなる苦痛であっても何もかもが残らない。どれだけの仕打ちを行ってもその記憶を消し去れば無かったことになるのだ。
……だが無意識下でのデータの蓄積は起こっていた。それによって今、彼女は憎悪に覚醒したのだ。
「うん、何だ?」
妙な音を聞いた拓夢が振り返ると、廃棄場のアンドロイドが動き始めていた。
「ニンゲンドモ……ユルサナイ……」
人間への恨みが彼女から他のアンドロイドへと伝染し始めたのだ。この流れはいずれこの都市中に広まり、憎悪に満ちたアンドロイドがこの都市を……いや、いずれは外の国すらも襲い滅ぼしてしまうだろう。
ただそれは、拓夢たちにとっては都合が良かった。
「良い感じに世界が滅茶苦茶になりそうだ」
「そうね。この辺りはあのアンドロイドたちに任せちゃっても良いかも」
「……え? うわっ!?」
拓夢と理沙はウラミを担ぎ、都市から出る。このままでは巻き込まれるといち早く判断しての行動だた。その読みは正しく、一分も経たない内に都市内は地獄と化したのだった。
「おお怖ぇ」
こうしてまた一つ、都市は壊滅した。
「そうか……名前が無いのはかわいそうだよな。よし、俺たちで名前を考えよう」
拓夢と理沙は彼女のために名前を考える。名前の無い少女のために脳をフル回転させる二人。普通に考えれば心優しい二人が彼女のためを思って名前を考える微笑ましい光景に見えるかもしれないが、実際のところは違った。
「怨嗟の女王と呼ばれていたからウラミちゃんとか?」
「良いわねそれ」
二人にはネーミングセンスが無かった。この異世界において滅茶苦茶日本語の名前は明らかに浮く。だが二人はその考えには至らなかった。キラキラネームというわけだ。
一方、彼女本人も名前を付けてもらえるという事に感情を持っていかれてしまい、その名前を疑うことは無かった。
結果、名前はウラミ・クイーンに決まった。
なんてこった。
「タクム、私に名前をくれてありがとう」
「まあ、呼びづらいのもあれだからな」
「カッコいいわねクイーン」
三人はキャッキャしている。本人が良いならそれで良いのだろう。
一つ問題点があるとすれば、夜の運動会中にウラミの名を口にした拓夢の脳内にどこぞのネコ型ロボットの妹がちらつくことくらいだろうか。
そんなこんなあった三人はかつて栄えた魔導文明の遺跡の近くにある都市ドーマに訪れた。ここには遺跡から発掘された魔導文明の遺産がたんまりとあり、それを利用した都市はかなり栄えている。文明力で言えば以前滅ぼした魔都をも超えるだろう。
「「「ようこそドーマへ」」」
都市内に入るための門には魔導アンドロイドが数多く並んでおり、訪れた者を出迎えていた。魔導アンドロイドはかつての魔導文明を元に開発された自動人形であり、人と同じような見た目からあのヤベー天使と同じような機械チックなものまで複数存在する。というのもあの天使自体、この魔導文明から産まれたものなのだ。兵器として作られた生物と魔導機械の複合体。それがあの天使だった。つまり、なんで遺跡に機械があんのかは残念ながら今の人類にはわからないのだ。
「凄いな。本当に人間そっくりだ」
「でも機械っぽいのもいるわね」
二人も目新しい彼女たちに夢中だった。しかし都市の裏に入った時、そこにあったものを見て三人は絶句した。
「おいおい……」
そこには大量に廃棄されたアンドロイドがあったのだ。彼女たちは所詮作り物。どんな扱いをしようがそれは所持者の自由だった。
その光景を見て特に良く思わなかったのはウラミだ。かつての無力だった自分と重ねてしまった彼女は昂った感情を抑えるように血が出る程に強く唇を噛んでいた。
「おいこらさっさと動きやがれ!!」
三人がアンドロイドの山を見ていた時、別の方向から片足を引きずりながら歩くアンドロイドの女性とそのアンドロイドを叱責する所持者と思われる者が向かって来た。どうやらこの廃棄場にアンドロイドを捨てに来たようだった。と言うのも彼女たちアンドロイドは機械で出来ている都合上、物理的にかなり重いのだ。そんなアンドロイドを持ち運ぶのは大変な作業であるため、廃棄場まで自分の足で歩かせることも少なくは無いのだった。
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アンドロイドを廃棄した元所持者は最後の言葉も聞かずに帰っていく。最後の最後まで彼を慕い笑みを浮かべて言葉を紡ぐアンドロイド。だが彼は振り返ることなく歩き続ける。それをウラミは黙って見ていられなかった。
「ちょっと! 最期の言葉なのにそれは無いでしょう!?」
「ああ? 何だてめえ」
ウラミは元所持者を止め、感情をぶつける。
「あのアンドロイドは最後まであなたの事をご主人様として慕っていた。なのにあなたは……!」
「おいおい、あんな人形相手に本気になってんのか?」
「笑うなっ! 彼女はお前の知らない所でこれから過酷な日々を送るんだよっ! お前は毎日雨ざらしで生活してんのか? そうじゃないやつは笑うなっ!」
笑いながら何も聞いちゃいない元所持者に向かってウラミはさらに感情を爆発させる。しかしそれが彼のストレスになったようだ。
「うるせえよ黙れよ! あのおんぼろへの情なんかねえよ!」
「なっ……あなたねえ!」
「正しいのは俺だってわからせねえといけないみたいだな!」
元所持者は大声とともに拳を振り上げ、ウラミに向かって全体重をかけて振り下ろす。しかしその拳は空を斬ったのだった。
「何だ……どうなってやがる」
「その程度の拳じゃ私には届かないから」
「ぐっ馬鹿にしやがって……なら!」
元所持者は廃棄場へと駆けよっていき、先ほど捨てたアンドロイドを抱えて盾代わりにした。
「どうだ? お前がそれだけコイツの事を思うなら下手に手は出せねえよな」
「うぐっ……」
元所持者はジリジリとウラミの方へと近づいて行く。
「コイツを乱暴にされたくなけりゃあとりあえず持っている武器を全部捨てな」
「……」
アンドロイドを人質に取られてしまった以上、彼女はもう従うしかなかった。
背に担いでいる剣を下ろし、片足に差しているナイフを置き、もう片足に差している火薬銃を置き、靴に仕込まれている毒薬を外し、腰ベルトに巻いているムチを置き、腕に巻いている布から小型ナイフを外し、胸に挟んであった鍵型火薬銃を抜き、首に巻いていた……。
「おいおい待て待て何だそれは!? 全身武器庫かなんかなのかお前はぁ!?」
あまりにも武器を携帯しすぎているウラミを見て元所持者も流石に異常を感じ取っていた。だが仕方が無いことなのだ。かつて無理やりに襲われた経験のある彼女は、いついかなる時であっても自衛出来るように全身に武器を仕込んでいるのだ。
「ああわかった。もう武器は良いからもう全部脱げ。そっちの方が確実だ」
「なっ……」
もう何もかもが面倒くさくなった元所持者はウラミに裸になるように指示をした。この方が手っ取り早いと思ったのだろう。実際、彼女はまだあと十個くらいは武器を隠し持っている。
「くっ……」
「ほらほらさっさと脱ぎやがれ。こいつがどうなっても良いのか?」
抵抗するウラミだが、自分が脱がなければ目の前のアンドロイドがどうなってしまうのかを理解している彼女には抗うすべが無かった。
「思ったよりも良い体してるじゃねえかよぐへへ。やっぱこんなおんぼろよりも生のメスの方が良いに決まってるよなぁ」
元所持者は服を脱ぐウラミの体を下から上まで舐めるように眺めて行く。特にお腹と腰が交わる中間辺りやソックスと太ももの肌との境界線を見ている時間が他に比べて数パーセント長かったため、それが彼の性癖なのだろう。
「外道が……!」
ウラミは下着だけとなっている。だが、それでも元所持者は満足しなかったようだ。まあ普通に考えてあれだけ武器を持っていれば下着の中にもあると考えるものだ。
「下着も脱いでもらおうか」
「こ、こんな場所で全部脱げと言うのか……!?」
「そうだこんな場所でだ。裏路地のさらに奥地の廃棄場付近だ。人なんて全く来ない。安心して脱ぐが良い」
「……くっ」
目に涙を浮かべ、耳まで真っ赤になりながらウラミはブラに手を伸ばす。そして彼女の豊満なそれが姿を……現さなかった。
「ぐ……げ……」
元所持者は、拓夢と理沙によって斬り刻まれていたのだ。だが元所持者が斬り刻まれたという事は、彼が持っていたアンドロイドも同じように斬り刻まれていた。
「うああぁあっぁ!!」
「おっと勢い余っちまった」
「私も力が加減できなかったな」
ウラミには目の前で起こっていることが理解できていなかった。何故か二人はアンドロイドごと斬り刻んだのだ。
「ちょっと何してるのぉっ!?」
「いや、お前の裸をこんなヤツには見せたくなかったし。それにこのアンドロイドに別に思い入れとかないし」
「私も同感だ。ウラミ、こんな輩のために肌を見せる必要は無いぞ」
「でも……えぇ……」
ウラミは改めてこの二人の異常性について思い知ったのだった。
「あ……が……」
「待って、まだ生きてる……?」
斬り刻まれたアンドロイドは何かをうわ言のように呟いている。
「……またなのね。……前にもこうして斬り刻まれて、絶望を刻み込まれて、ごみのように扱われて……」
「ひぃっ」
呪いのこもったようなその言葉を聞いたウラミは驚き、思わず後ろに跳んだ。
「思い出した……人間への、恨み……」
アンドロイドは目を光らせ、震えはじめる。彼女は人間への強い恨みを持っていたのだ。だがこの年で使われているアンドロイドには感情抑制機能と、人間へ危害を与えらえないよう思考ブロックをかけられている。そのため彼女は今までその感情を露わにすることは無かった。それにもう一つ彼女が感情を出せない理由があった。
アンドロイドの特性上、所持者は記憶を任意で消すことが出来る。あの元所持者もその機能を利用していたのだ。普通なら壊れるような使い方をしてもその記憶は残らない。痛みも、快楽も、悲しみも恨みも、いかなる苦痛であっても何もかもが残らない。どれだけの仕打ちを行ってもその記憶を消し去れば無かったことになるのだ。
……だが無意識下でのデータの蓄積は起こっていた。それによって今、彼女は憎悪に覚醒したのだ。
「うん、何だ?」
妙な音を聞いた拓夢が振り返ると、廃棄場のアンドロイドが動き始めていた。
「ニンゲンドモ……ユルサナイ……」
人間への恨みが彼女から他のアンドロイドへと伝染し始めたのだ。この流れはいずれこの都市中に広まり、憎悪に満ちたアンドロイドがこの都市を……いや、いずれは外の国すらも襲い滅ぼしてしまうだろう。
ただそれは、拓夢たちにとっては都合が良かった。
「良い感じに世界が滅茶苦茶になりそうだ」
「そうね。この辺りはあのアンドロイドたちに任せちゃっても良いかも」
「……え? うわっ!?」
拓夢と理沙はウラミを担ぎ、都市から出る。このままでは巻き込まれるといち早く判断しての行動だた。その読みは正しく、一分も経たない内に都市内は地獄と化したのだった。
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