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6 スラム街を失くす?それなら俺にいい方法がある

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「クソッまたお前か!!」
「はぁ……はぁ……」

 行商人から金貨の入った革袋を盗んで走り去ったのは幼い少女だった。ここはラムス王国のスラム街。幼くして親を失いスリをして何とか毎日を生きている子供も多い。というのもこの国の国王は愚者だった。民からは異常な税を取り上げ、貴族だけが裕福な暮らしを行っている。当然そんな状態では国も上手く回らない。必然的にスラム街は生まれ、そこで暮らす者が国民の7割から8割を占めている。

「はぁ……はぁ……これだけあればしばらくは……ひぃっ!?」
「おう嬢ちゃん、良いもん持ってるじゃねえか」
「命だけは助けてやるからよ。さっさとそれ置いていきな」

 追いかけてくる行商人から逃げるためにスラム街の中でもさらに奥地に入った少女は、そこで蛮族に出会ってしまった。

「これは……私が……」
「ああ? うるせえよさっさと渡せ!!」
「きゃぁっ!?」
「うっひょぉこいつは結構な量だぜ」

 少女を突き飛ばして革袋を奪い取った蛮族はその中の金貨を見て気分をぶち上げた。行商人の数か月分の売上が入っていたその革袋には実に数十枚の金貨が入っていたのだ。スラム街で暮らす上では一年は生きていけるだろう。もっともこの蛮族はギャンブル狂いであり今までにも他人から奪い取った金を溶かしていったわけで、きっとこの金貨もあっという間に消滅するだろうが……。

「っ……!」
「おぉっと残念」
「お金は……もう持ってない……」
「命は助けるって言ったがよぉ。体の方の安全は約束してないぜ!」
「いや……やめて……」

 回り込んでいた蛮族は少女の服を破き、スラム街暮らしとは思えないような少女の肉付きの良い体を露出させていく。スリのレベルが高い少女は効率よく金を盗むことが出来、それなりの生活をすることは出来ていたのだ。

「ここで生きてきたもんとは思えないような極上の体だぜこりゃ。スラム街にいる女なんて皆骨と皮だけだからよぉ。こういった良い体した女を見ちまうともう我慢できねえぜ全く」
「やだ! 放して!」
「暴れるんじゃねえ!」
「あぐっ」

 蛮族は少女の顔を殴り黙らせた。抵抗しても無駄だと悟ったのか少女は抗うのを止めて蛮族の為すがままになっていた。しかしその瞳の奥には燃え上がるような恨みの炎が宿っていたのだった。



「勇者様ではありませんか!」
「アンタは……」
「忘れてしまったのですか!? ラムス国王でございます!」
「ああ。そう言えばそんなのいたな」

 拓夢にとってもはや国の王とかどうでも良い存在だった。偶然訪れたこの国がラムス王国だということも特に気にしていない用だった。

「その、勇者様にお願いがあるのです」
「国王が俺に?」
「はい。と言うのもこのラムス王国は治安が悪く、スラム街が国土の大半を占めてしまっているのです。そこでこの状況をどうにかしてほしいと思い」
「いや俺に言われても」

 拓夢は国王にそう頼まれたが、自分には関係ないといった様子だ。

「そこを何とか!! もう私にはどうにもできないのです! ある時怨嗟の女王と呼ばれる存在が現れてからというもの、反乱がそこらじゅうで起こり始めまして。ヤツらは徐々に国家騎士を追い詰めて行き今では王城以外で安全なところは無いのです!」
「それで国王一人なのか」
「はい、私が国王だとバレればすぐに襲われてしまいますから。……お願いです勇者様。このままでは私の首がはねられるのも時間の問題です。どうか私を助けてください!!」

 以前国を訪れた時は高慢であり自分こそが全てであると言った様子だった国王。それが今では頭を下げてお願いしてきたのだ。その状況に少し優越感を感じた拓夢は話を聞いてやることにしたのだ。

「それで、具体的に何をすれば良いんだ」
「ありがとうございます勇者様。こうなったのは全て怨嗟の女王が現れてからなのです。ですのでヤツさえいなくなれば」
「なるほどな」

 国王からそれを聞いた拓夢と理沙は早速スラム街へと入っていこうとする。だが国王は理沙を呼び止めたのだった。

「お連れ様はぜひ王城でおもてなしさせていただきたいと思います」
「む、私か?」
「ええ。見たところ貴方は勇者様の大事なお方の様なのでね。スラム街で何かあってはいけません」
「それはありがたいが……」
「せっかくだしどうだ?」
「……拓夢がそう言うのなら」

 拓夢の言葉もあり、理沙は国王とともに王城へと向かうことにしたのだった。

「よし、早速その怨嗟の女王とやらに会ってみるか」

 こうして拓夢はスラム街に入っていった。

 場所は変わってスラム街の奥。そこに怨嗟の女王と呼ばれる少女はいた。

「……やっとこの時が来たか」

 かつて自分の無力さに嘆き、世界を恨んだ少女は力を付けた。彼女は今ではスラム街のほとんどを支配しており、各地で内乱を起こし続けた結果国をひっくり返すほどの戦力をその手中に収めていた。

「これでこの国を変えることが出来る……今こそかつての恨み、晴らしてくれる!!」

 少女の掛け声とともに武装した蛮族はスラム街から王城へと向かって行く。今ここにラムス王国の平民と貴族の全面戦争が始まったのだ。

 そんな怨嗟の女王の前に、拓夢は立つ。

「君が怨嗟の女王ってやつか」
「……何だお前は」
「俺は拓夢。国王に頼まれちゃってね。国の治安が悪いからどうにかしてくれってさ」
「治安が悪いだと? そうさせたのは愚者たる無能な国王だろう。何を今更」

 拓夢の言葉を聞いて彼女は怒りを隠せないようだった。今まで自分たちが置かれていた環境は国王の無能さが招いたことであったため、その反応も無理は無かった。

「やっぱりそう思うよな」
「……? なら何故国王の頼みを聞いてここまでやってきたんだ」
「単純に興味本位ってのもあるが、一番はあの高慢だった国王が死にそうな顔で俺に頭を下げてお願いしてきたってのが理由かな」
「そうか。お前は中々良い性格をしているな」
「それは自分でもよくわかってる」

 怨嗟の女王は少し表情をやわらげる。拓夢に少し自分と同じものを感じたかのようだ。だがそれでも彼女は止まらない。もう止められなかった。幼き頃から積み上げてきた恨みはもはや彼女本人でも制御できない呪いと化していた。

「邪魔をするのなら誰であろうと消す」
「一応国王からお願いされちゃってるわけだから俺も下がるわけには行かないんだ。すまんな」

 怨嗟の女王と拓夢の戦いが始まった。がすぐに終わった。普通に考えてスラム街生まれの少女が元勇者に勝てるわけがなかった。

「ふぅ……ふぅ……まさかこの私がやられるとはな」
「いや俺一撃入れただけなんだけど」
「だが私がやられようと、民の国王への恨みは無くならない。別動隊が今頃王城へと侵攻しているだろう」
「そうか。でもまあたぶんその必要も無い気がするんだよな」
「……何だと?」

 拓夢のその一言が少女を激昂させた。

「お前は私たちの戦いを無駄だというのか!? 私たちの何もわからないくせに……!」
「いや違うんだ。そう言う事じゃなくてな。俺の仲間が王城にいるんだがたぶんあの国王のことだから……」

 拓夢の言葉を遮るように、王城からの爆発音が辺りに反響した。



 拓夢と別れ王城へと向かった国王と理沙。国王は客室へ理沙を案内すると、次の瞬間押し倒していた。

「ぐへへっ馬鹿な女だ! 何の警戒も無く付いてきおったわ!」

 国王はベッドの上で高笑いしながらそう言う。

「この国にはもうまともな女がいないからな。久しぶりにこれほどの美女に出会ったのであれば、国王である私が食わねばいかんよなぁ。それにしてもあの勇者もバカだな。これほどの女を素直に渡すとは……ぁ?」

 国王は理沙の服を脱がそうと理沙の体に触れる……が、次の瞬間にはその腕は手首から奇麗に斬り落とされていた。

「うぁぁああっぁあああっぁ!?」
「どうせこうなると思ってたけど、まさかこんなにすぐ本性表すとは思わなかったわ」

 国王は両腕から大量の血液を流しながら部屋の外へ出た。近くを通る従者に助けを求めようとしたその時、理沙は爆発系マジックアイテムを使い王城を破壊した。

「けほっ……もうちょっと離れてから起爆すればよかった」
「お、やっぱりこうなったか」

 爆発を聞いて王城へとやって来た拓夢と怨嗟の女王と理沙は合流した。

「拓夢の言った通りあの国王は私の体目当てだったわ。ちょうどいいから王城事破壊してきたけど、良かったわよね?」
「ああ。遅かれ早かれ潰されてたっぽいしな」
「え……破壊ってどういうこと……?」
「スラム街の治安を良くするんなら国王とその取り巻き、及びスラム街自体をなかったことにしちまえば良いって寸法よ」
「……は?」

 拓夢がそう言った瞬間、今度はスラム街が火の海と化したのだった。拓夢は既に火炎魔法を国中に発動させていたのだ。

「え……なにこれ……」

 燃え上がるスラム街。建築物も民もみんなまとめて灰となる。

「……はは」

 怨嗟の女王はその場に崩れ落ちた。

「私が今まで頑張って来たのは何だったの……ふふっはははっ」
「わかるわその気持ち。私も故郷を襲った仇が呆気なく散った時に絶望したもの」

 理沙は怨嗟の女王を抱き、優しく囁く。

「でもね。全部どうでも良くなって自暴自棄になるのも良いものよ。貴方も一緒になりましょう?」
「はぁ……はぁ……待って、なんか……変……」

 怨嗟の女王は耳が弱かった。耳元で理沙の囁きボイスを聞き続けた彼女にはもうまともな理性は残っていない。蕩けた表情にしどろもどろな返答。そんな彼女を理沙は巧みに操り、仲間に引き入れたのだった。

 その後、三人は夜のレッツパーリータイム。濃厚な夜を過ごしたのは良いものの、案の定翌日は寝不足だったみたいだぜ。
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