神に裏切られたので蛮族プレイをすることにしました

遠野紫

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1 裏切りと嘘、そして蛮族へ

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 神は人々が思っているような崇高な存在では無い。彼が、異世界に転移させられた柊拓夢ひいらぎたくむがそれに気が付いた時にはもう何もかもが遅かった。

「約束が違います……! 魔王を倒せば元の世界に戻してくれると言っていたじゃないですか!!」
「確かに言ったな。だがあれは嘘だ」
「なっ……俺を裏切ったのか!?」
「裏切る……か。そもそも私は最初から貴様を信用してなどいなかったのだがね。貴様が駄目でもまた別の人間を用意すれば良いだけの事」
「……ッ!」

 神の言葉は拓夢の今までの全てを打ち砕いた。元の世界に戻るために辛く苦しい戦いを乗り越え魔王を討伐するという偉業を成し遂げたのだ。その唯一の心の支えがいとも容易く打ち砕かれた。そうなってしまえばもう彼が神に従う必要も無かった。

「……そっちがその気なら俺はもう勝手にやらせてもらうからな!!」
「ああ、勝手にするがいい。魔王が消滅した以上、もはや貴様に用は無いのだからな」

 怒りがマックスに到達した拓夢。もはや彼を止める者はいない。せっかく魔王を討伐して平和にしたこの世界も、彼には何の思い入れも無くなってしまった。むしろ憎き神の世界など滅茶苦茶にしてやりたかった。

「そうだ、蛮族になろう」

 力こそが全て。彼はパワーisジャスティスな蛮族プレイを行い、自由な生活をすることに決めたのだった。

------

「さて、蛮族ならやっぱこれだ」

 拓夢は鍛冶スキルを使い、THE蛮族と言った風貌のこん棒を生み出す。

「元の世界で見ていたゲームに出てくる蛮族はこんな感じの武器を持っていた気がする。実際に持ってみると気分が乗る。やはり何事も形からだな……っとこれは……?」

 拓夢がこん棒を手慣れた感じで振り回しながらその感触を確かめていた時、女性の悲鳴が辺りに響いたのだった。

「女性の悲鳴。ってことはその原因になる何かがいるってことだ。早速こいつを確かめさせてもらうとするか」

 拓夢が声の方へと進んでいくと、少女を取り囲む蛮族の集団が姿を現した。

「嬢ちゃん良い服着てるじゃねえかよ。もしかしてどこかの貴族だったりィ?」
「それなら金とか持ってんじゃないの? ほら、全部出しな」
「わかりました……」

 少女は所持金を全て蛮族たちに渡す。しかし蛮族たちは少女を逃がすことは無かった。

「な、なんなんですか……もうお金はありません……」
「やっぱ気が変わった。せっかくだからお前自身もいただいて行こうと思ってなァ」
「ひぃっ!? やめてくださっあっぁあ!!」

 蛮族の一人が少女を捕まえ、また別の蛮族が彼女の纏っている高価そうな衣服を破いていく。

「流石はどこかの令嬢だ。結構なボディを持ってるじゃねえかよォ。さぞかし良いモン食ってんだろうなァ!」
「誰か……助け……」
「フンッ!!」

 その蛮族は完全に衣服を破ききる前に首をはねられ絶命した。

「な、なんだァ!?」
「流石は鍛冶スキルMAXで作ったこん棒だ。刃物でも無いのにこれだけ奇麗に首を斬れるとは……」
「どこから現れやがった!」
「そいっ!」
「ンヌベヤァッッ!?」

 拓夢は返り血を浴びて真っ赤に染まりながら次々に蛮族の首をはねて行く。その光景はまさに地獄。執拗にこん棒で叩き続ける拓夢の手によって、先程まで意気揚々と少女を襲っていた蛮族たちは残さず肉塊になってしまった。

「ふぅ……」
「あ……あぁ……」

 少女は腰が抜けてしまいその場に崩れ落ちてしまう。目の前で起きた惨劇に脳が追いついていない少女はただただうわ言のように声を出すのみである。

「このこん棒があれば俺は最強だな」
「あ、あの……助けていただいてありがとうございます」
「ん? いいよいいよ俺も金が欲しかったわけだし」

 拓夢は蛮族の荷物を漁りながらそう答える。そしてその中から使えそうなものと数十枚の金貨をアイテムボックスに収納した拓夢はそそくさとその場を去った。その中には少女が蛮族に渡した金貨も混ざっていた。



「いやー蛮族になってすぐにこれだけの収穫とはね。もう普通に生きるのが馬鹿みたいに思えてくるよ」

 拓夢は宿屋で金貨の山を眺めながらそう呟いた。しかし彼はまだ知らなかった。蛮族になるという事がどういうことなのかを。

「貴様がタクムだな。貴様には窃盗容疑がかかっている。大人しく来てもらおうか!」

 部屋の扉を開け入って来たのは街の憲兵だった。蛮族に襲われていた少女は自分が蛮族に渡したお金も無くなっていることに気付き、憲兵に拓夢を追わせていたのだ。

「あーそうか。蛮族ってのはそういうことだもんな。なら……」
「何をするグベギャッッ」

 憲兵が槍を突き出そうとした瞬間、拓夢はこん棒を投げて憲兵の首を吹き飛ばした。

「これで俺も指名手配犯か。上等だ。追って来る者皆返り討ちにすれば良いだけだからな」
「何事だ! き、貴様!!」
「まだいたのか。ソイヤッ!」
「ギョビョッッ」

 的確に振り抜かれたこん棒が新たにやって来た憲兵の頭部にクリーンヒットし、部屋中に鮮血をまき散らした。

 どんどん新手が来るだろうと判断した拓夢は窓ガラスを割り、部屋の外に勢いよく飛び出した。普通の人間なら大怪我するような高さだが、勇者として能力を上げてきた彼にとっては些細な高さだった。

「一度やってみたかったんだよなダイナミック脱出」

 何事も無く着地した拓夢はそのまま走り出す。宿屋の中に入っていっていた憲兵たちは完全に出遅れる形となり、結果的に拓夢の街からの逃走を許してしまうのだった。

「さーてこれからどうするかね。蛮族として名が広まってしまうと宿屋にも泊まれない。ならキャンプでしょ。これも憧れてたのよソロキャン」

 拓夢は道具作成スキルを使ってテントを作り出した。と同時に敵対生物の入れない結界魔法を使って安全地帯を作り出し、そこに設置した。

「キャンプっつったら焚火だよな」

 拓夢は辺りに落ちている枯れ木を集め、火炎魔法で着火する。勇者特典として拓夢は全属性の魔法を使うことが出来るため、火や水などで生活に困ることは無かった。

 落ち着ける場所を確保した拓夢はアイテムボックスから携帯食料を取り出して食べ始めた。味気の無い携帯食料だが、焚火で炙ることで少しはマシになる。拓夢が魔王討伐の旅で身に付けたライフハックだった。

 食事を終えて腹を膨らませた拓夢はしばらく焚火を眺めた後、水と火の複合魔法で体を洗浄してから就寝した。結界魔法によって獣も魔物も悪意ある人間すらも入ることは出来ない。安心して寝られる環境と言う点では宿屋でも野宿でも特に変わりは無かった。

 では何故拓夢が金を払ってまで宿屋に泊まるのか。それは宿屋での食事が目的だった。一部には食堂や酒場付きの宿屋もあったが、そうでない宿屋での泊った者にしか振舞われない食事に拓夢は夢中だったのだ。それでも神への憎しみの方が強かったため今こうなっているのだが。

 翌日、拓夢は追手が届かないであろう遠くの地を目指して進み始めた。同じ地に留まればそれだけ多方面からヘイトを買うというのもあったが、何より色々なところへ赴き世界中を滅茶苦茶にするというのが今の拓夢の目的の一つだった。

 幸い魔王討伐のために世界中を旅した拓夢は位置関係もおおよそ把握していた。故にこの世界が彼の手によって滅茶苦茶にされるのもそう遠くないであろう。何しろ魔王を討伐した勇者なのだ。もはや誰にも彼を止めることなど出来ない。

「よし、次はあそこにするか!」

 暴力がすべてを解決する蛮族と化した拓夢による神への、世界への反逆が始まったのだ。
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