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41 暴走した龍種
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「ふぅ……これでもう数十体目だぜ」
ここ最近、暴走した龍種がやたら増えた印象がある。いや、印象があるっつうか実際増えているか。今までにも龍型の魔物が襲ってくることは無くは無かったが、ここまでアホみてえにドバドバと出てくることは無かったはずだ。間違いなく、奴らが動いているだろうな。
極水龍曰く暴走している魔物はそのほとんどがドラゴンロードと同じくらいの能力らしく、弱くは無いが国を落とすほどの性能は無い。一体何の目的でこのようなことをしているんだか。
「ショータ殿、北側の魔物は一掃してきた。そちらはどうだ」
「こっちも一通り片付けた。いきなりこれだけの魔物が現れるってのはきな臭い限りだな」
「ああ。幹部だと言う彼が言った通り、奴らも本気なのかもしれないな」
まだ完全には信用しちゃいないが、この騒ぎのことを考えるとアイツの言っていることと辻褄は合う。いよいよその時が来たのかもしれねえ。
「だがいつ攻め込まれるかもわからないんじゃあな……っと極雷龍から通信だ。どうした、何かあったのか? ……何だと?」
「向こうで何かあったのか?」
極水龍の表情は険しいものに変わっていた。極雷龍側に何か良くないことがあったってことだろうな。
「……天空都市が落とされた」
「何だって?」
天空都市はあの事件以降かなり重厚にバリアを張っていたはずだ。内外問わず攻撃に対する対策だって用意していた。それを奴らは落としたってのか?
「極雷龍は何とか逃げ出したみたいで、今は別のところに避難しているらしい。かなり深手を負っているみたいで動くに動けないようだ」
極水龍はどこか落ち着きのない様子だ。仲間がそんな状態になっているんだから仕方のないことではあるか。……しゃあねえな。今この国から離れるのは間違いなく悪手だが、このまま極雷龍を失うのも不味い。ましてや奴らの手に落ちるのは何より防がねえといけねえ。
「俺が確認しに行く。彼がいる場所ってのを教えてくれ」
「……頼んだ」
極水龍は俺を引き留めることはしなかった。今までの事もあり、今ここで俺を引き留めても意味が無いことはわかっているんだろう。
「国は任せた」
「ああ、こっちは任せてくれ。……アイツを頼んだぞ、ショータ殿」
極水龍に場所を教えて貰い、すぐさまその場所へと飛んだ。
――――――
「せいやぁっ!」
アルバートの振り下ろした大盾は、龍型魔物の首を容易く吹き飛ばした。まるで盾による攻撃とは思えない程にその切れ口は鋭利なものとなっている。彼の凄まじい怪力があるからこそ成せる技だろう。
「ふぅ、いっちょ上がりだな」
「まだ来るわよ! フレイムインパクト!」
「うぉっと!」
アマンダによって彼の横をすり抜けるようにして放たれた炎魔法が、後ろにいた魔物を焼く。その命中精度は確かな物であり、例え彼が動いていたとしても当たることは無かっただろう。
「油断しないで、まだまだたくさんいるんだから」
「ははっ悪いな」
「……笑い事じゃない」
軽快に笑い飛ばそうとするアルバートを窘めるようにエイミーはそう言った。しかし会話に加わりながらも、彼女は目前の魔物に攻撃魔法を放ち続けている。魔法の詠唱を行いながら会話を行うというのは相当な難易度であり、その行動が彼女が熟練の魔術師であることを物語っている。
「クライムを失った時はどうなることかと思ったが、案外何とかなるもんだな」
「水龍様に色々と仕込まれたおかげね」
「……辛い日々だった。けど無駄じゃない。彼のおかげで私たちはさらに強くなれた」
クライムを失った三人は当初、連携は崩れるわ互いの邪魔になるわでSランクパーティとしての力を出し切れてはいなかった。クライムと言う司令塔を失った彼らは空中分解しかけていたのだ。それを見かねた極水龍は彼らを鍛え始めたのだった。もっとも、翔太がいない間の戦いの相手を探していただけかもしれないが。
「本当にそうね。最初の内は何をされたのかもわからない内に地面を舐めさせられていたり、気付いたら空中に飛ばされていたり、何もできずにやられてばかりだったわ」
「だが、だんだんと行動が視えるようになっていったな」
「……うん。何度も攻撃される度に、だんだん予備動作で次の行動が予測できるようになっていた。それに魔力の扱い方も教えて貰った」
エイミーは片手に魔力を集め始める。
「……魔力を練り込んで質を上げる。そんなこと、今まで考えたことも無かった」
「詠唱の精度や魔力量を上げることに集中してばかりだったものね」
「……でもこれを理解してからは、今までとは完全に違う世界が見えた気がする……!」
エイミーは集めた魔力を詠唱に組み込み、魔物に向かって撃ちこんだ。そしてその瞬間、魔物は内側から爆発し霧散した。同じSランクパーティの魔術師が同じ魔法を使った時よりも遥かに高い威力ということが見て取れる。これが魔力の質の差による威力の差だという事は、この場の全員が理解していた。
「私も負けていられないわね!」
「俺もな!」
アルバートとアマンダもエイミーに続いて魔物への攻撃をより激しくさせた。
「クライムが戻ってきたらまた皆でやっていけるように、もっと強くならないとな!」
「ええ、彼が戻ってきた時に見限られないようにね!」
「……またあの時みたいに、楽しく旅をしたい……!」
三人がいつかクライムが戻って来た時のことを話していたその時だった。
「グァ……」
魔物はそれまで暴れ狂っていたのが嘘のように急に動きを止めたのだ。
「何だ……?」
「……何かおかしい」
「ね、ねえアレ……!」
アマンダの指さす先には、黒い炎を纏い黒い外皮に身を包むドラゴンが飛んでいた。禍々しいその雰囲気は、他の魔物とは明らかに違う異質な圧を放っている。
「何……あれ……」
「よくわからんが、味方じゃないってのはわかる」
「ギュアア……」
「魔物たちがあのドラゴンに向かって行く……?」
動きを止めていた魔物たちは皆一斉に黒いドラゴンへと向かって行く。その異質な光景は、まるであのドラゴンが魔物たちを呼び寄せているかのようだった。
「グルアアァァァァァ!!」
「ぅっ!?」
三人が黒いドラゴンを見ていると、ソレは突然咆哮し始めた。
「あ、足が……!」
「……な、なんで、上手く立てない……!?」
本能的な恐怖を呼び起こすような咆哮が三人を襲う。足は震え、力は上手く入らない。アルバートは何とか気力で耐え抜いたようだが、アマンダとエイミーの二人はその場に崩れ落ちてしまった。またアルバートも立っているのがやっとであり、動くこともままならなかった。それでもSランクパーティであることを認められた彼らだからこそ、これだけの被害で済んでいる。並みの冒険者では失神していてもおかしくは無いだろう。
「今のは一体……」
「……これ、絶対不味いやつ」
「見たらわかるわよ。でも、こんな状況じゃ……」
「ひとまず王国に戻ろう。立てるか?」
アマンダとエイミーは立とうとするが、やはり上手く力が入らない様子だ。
「うっ……く……駄目ね」
「……んっ……無理」
「……そうか。仕方が無い」
「うあぁっ!?」
「んぉっ!?」
アルバートは二人を抱え上げ、王国に向かって歩き始めた。
「こうしてると冒険者になったばかりのことを思い出すな。あの頃はパーティが壊滅しかけることも多々あったか。そのたびに前衛職である俺とクライムの二人で二人を運んで帰ったっけか」
「ちょ、そんな昔のことをなんで今……!」
「……確かに懐かしい感覚」
エイミーはアルバートの昔話を聞いて、過去の事を思い出して感傷に浸っているようだった。異常な存在がすぐそこに迫っていると言うのに、この空間はどこか穏やかな雰囲気だった。恐怖を忘れるためか、はたまた本能的に今話しておかなければならないと感じていたのか、それは本人たちにもわからない。
ここ最近、暴走した龍種がやたら増えた印象がある。いや、印象があるっつうか実際増えているか。今までにも龍型の魔物が襲ってくることは無くは無かったが、ここまでアホみてえにドバドバと出てくることは無かったはずだ。間違いなく、奴らが動いているだろうな。
極水龍曰く暴走している魔物はそのほとんどがドラゴンロードと同じくらいの能力らしく、弱くは無いが国を落とすほどの性能は無い。一体何の目的でこのようなことをしているんだか。
「ショータ殿、北側の魔物は一掃してきた。そちらはどうだ」
「こっちも一通り片付けた。いきなりこれだけの魔物が現れるってのはきな臭い限りだな」
「ああ。幹部だと言う彼が言った通り、奴らも本気なのかもしれないな」
まだ完全には信用しちゃいないが、この騒ぎのことを考えるとアイツの言っていることと辻褄は合う。いよいよその時が来たのかもしれねえ。
「だがいつ攻め込まれるかもわからないんじゃあな……っと極雷龍から通信だ。どうした、何かあったのか? ……何だと?」
「向こうで何かあったのか?」
極水龍の表情は険しいものに変わっていた。極雷龍側に何か良くないことがあったってことだろうな。
「……天空都市が落とされた」
「何だって?」
天空都市はあの事件以降かなり重厚にバリアを張っていたはずだ。内外問わず攻撃に対する対策だって用意していた。それを奴らは落としたってのか?
「極雷龍は何とか逃げ出したみたいで、今は別のところに避難しているらしい。かなり深手を負っているみたいで動くに動けないようだ」
極水龍はどこか落ち着きのない様子だ。仲間がそんな状態になっているんだから仕方のないことではあるか。……しゃあねえな。今この国から離れるのは間違いなく悪手だが、このまま極雷龍を失うのも不味い。ましてや奴らの手に落ちるのは何より防がねえといけねえ。
「俺が確認しに行く。彼がいる場所ってのを教えてくれ」
「……頼んだ」
極水龍は俺を引き留めることはしなかった。今までの事もあり、今ここで俺を引き留めても意味が無いことはわかっているんだろう。
「国は任せた」
「ああ、こっちは任せてくれ。……アイツを頼んだぞ、ショータ殿」
極水龍に場所を教えて貰い、すぐさまその場所へと飛んだ。
――――――
「せいやぁっ!」
アルバートの振り下ろした大盾は、龍型魔物の首を容易く吹き飛ばした。まるで盾による攻撃とは思えない程にその切れ口は鋭利なものとなっている。彼の凄まじい怪力があるからこそ成せる技だろう。
「ふぅ、いっちょ上がりだな」
「まだ来るわよ! フレイムインパクト!」
「うぉっと!」
アマンダによって彼の横をすり抜けるようにして放たれた炎魔法が、後ろにいた魔物を焼く。その命中精度は確かな物であり、例え彼が動いていたとしても当たることは無かっただろう。
「油断しないで、まだまだたくさんいるんだから」
「ははっ悪いな」
「……笑い事じゃない」
軽快に笑い飛ばそうとするアルバートを窘めるようにエイミーはそう言った。しかし会話に加わりながらも、彼女は目前の魔物に攻撃魔法を放ち続けている。魔法の詠唱を行いながら会話を行うというのは相当な難易度であり、その行動が彼女が熟練の魔術師であることを物語っている。
「クライムを失った時はどうなることかと思ったが、案外何とかなるもんだな」
「水龍様に色々と仕込まれたおかげね」
「……辛い日々だった。けど無駄じゃない。彼のおかげで私たちはさらに強くなれた」
クライムを失った三人は当初、連携は崩れるわ互いの邪魔になるわでSランクパーティとしての力を出し切れてはいなかった。クライムと言う司令塔を失った彼らは空中分解しかけていたのだ。それを見かねた極水龍は彼らを鍛え始めたのだった。もっとも、翔太がいない間の戦いの相手を探していただけかもしれないが。
「本当にそうね。最初の内は何をされたのかもわからない内に地面を舐めさせられていたり、気付いたら空中に飛ばされていたり、何もできずにやられてばかりだったわ」
「だが、だんだんと行動が視えるようになっていったな」
「……うん。何度も攻撃される度に、だんだん予備動作で次の行動が予測できるようになっていた。それに魔力の扱い方も教えて貰った」
エイミーは片手に魔力を集め始める。
「……魔力を練り込んで質を上げる。そんなこと、今まで考えたことも無かった」
「詠唱の精度や魔力量を上げることに集中してばかりだったものね」
「……でもこれを理解してからは、今までとは完全に違う世界が見えた気がする……!」
エイミーは集めた魔力を詠唱に組み込み、魔物に向かって撃ちこんだ。そしてその瞬間、魔物は内側から爆発し霧散した。同じSランクパーティの魔術師が同じ魔法を使った時よりも遥かに高い威力ということが見て取れる。これが魔力の質の差による威力の差だという事は、この場の全員が理解していた。
「私も負けていられないわね!」
「俺もな!」
アルバートとアマンダもエイミーに続いて魔物への攻撃をより激しくさせた。
「クライムが戻ってきたらまた皆でやっていけるように、もっと強くならないとな!」
「ええ、彼が戻ってきた時に見限られないようにね!」
「……またあの時みたいに、楽しく旅をしたい……!」
三人がいつかクライムが戻って来た時のことを話していたその時だった。
「グァ……」
魔物はそれまで暴れ狂っていたのが嘘のように急に動きを止めたのだ。
「何だ……?」
「……何かおかしい」
「ね、ねえアレ……!」
アマンダの指さす先には、黒い炎を纏い黒い外皮に身を包むドラゴンが飛んでいた。禍々しいその雰囲気は、他の魔物とは明らかに違う異質な圧を放っている。
「何……あれ……」
「よくわからんが、味方じゃないってのはわかる」
「ギュアア……」
「魔物たちがあのドラゴンに向かって行く……?」
動きを止めていた魔物たちは皆一斉に黒いドラゴンへと向かって行く。その異質な光景は、まるであのドラゴンが魔物たちを呼び寄せているかのようだった。
「グルアアァァァァァ!!」
「ぅっ!?」
三人が黒いドラゴンを見ていると、ソレは突然咆哮し始めた。
「あ、足が……!」
「……な、なんで、上手く立てない……!?」
本能的な恐怖を呼び起こすような咆哮が三人を襲う。足は震え、力は上手く入らない。アルバートは何とか気力で耐え抜いたようだが、アマンダとエイミーの二人はその場に崩れ落ちてしまった。またアルバートも立っているのがやっとであり、動くこともままならなかった。それでもSランクパーティであることを認められた彼らだからこそ、これだけの被害で済んでいる。並みの冒険者では失神していてもおかしくは無いだろう。
「今のは一体……」
「……これ、絶対不味いやつ」
「見たらわかるわよ。でも、こんな状況じゃ……」
「ひとまず王国に戻ろう。立てるか?」
アマンダとエイミーは立とうとするが、やはり上手く力が入らない様子だ。
「うっ……く……駄目ね」
「……んっ……無理」
「……そうか。仕方が無い」
「うあぁっ!?」
「んぉっ!?」
アルバートは二人を抱え上げ、王国に向かって歩き始めた。
「こうしてると冒険者になったばかりのことを思い出すな。あの頃はパーティが壊滅しかけることも多々あったか。そのたびに前衛職である俺とクライムの二人で二人を運んで帰ったっけか」
「ちょ、そんな昔のことをなんで今……!」
「……確かに懐かしい感覚」
エイミーはアルバートの昔話を聞いて、過去の事を思い出して感傷に浸っているようだった。異常な存在がすぐそこに迫っていると言うのに、この空間はどこか穏やかな雰囲気だった。恐怖を忘れるためか、はたまた本能的に今話しておかなければならないと感じていたのか、それは本人たちにもわからない。
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