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「い、いいのか? 私が用意したドラゴン部隊を放っておいて。君は良くとも他の奴らはあっという間に殺されるんだぞ」
「ああ、問題は無い。既に全部倒して来たからな」
「なんだって……?」

 奴が言っていた通りなら、爆発まであと10秒無い。まだ負けていないなんて大分かっこつけたこと言っちまったが、剛鎧を使っても都市を吹き飛ばす程の爆発を防ぎきれるかは正直賭けだ。

 それなら、この爆弾を遠くに持っていくしかねえ。

「ショータ殿、一体何を……」
「こいつを遠くへと運ぶ。この都市に爆発が及ばないところまでな」

 どういう理屈かはわからないが、都市を守るバリアは消えていやがるからな。恐らくこれもあのクソ学者がやったんだろうだろうが……。

「ば、馬鹿なのか君は!? そんなことをすれば君はただでは済まないんだよ!?」
「そ、そうだ。其方が犠牲になる必要は……」
「いや、この都市を守るにはそれしか無い」

 極雷龍の制止を無視し、爆弾と化したもう一体の極雷龍を抱えて飛んだ。炎龍の飛行能力なら数秒あれば十分だ。

「ショータ殿ォォ!!」

 後方から極雷龍の叫ぶ声が聞こえてきた。

 それと同時に、抱えていた極雷龍が爆発した。爆発により辺りの空気が震える。至近距離で爆発を受けたからか耳が良く聞こえない。それに、瞬間的にではあるが今この周辺は物凄い温度になっているだろう。果たして炎龍の外皮でも耐えられるかどうか。まあ、都市を守って終わるのなら悪くは無い最後か。

 ……なんてな。

 実際は既に、爆発の圏内からは抜けている。極雷龍が爆発する直前に、その力を吸収していたんだ。獣宿し『天雷』……それが極雷龍の力だった。だから今の俺の姿は極雷龍にそっくりな、透き通るような白い鱗に包まれた美しいドラゴンのソレになっている。この力は凄い。まるで雷のような圧倒的な速さを出すことが出来る。爆発した瞬間に逃げても余裕で間に合ったぜ。

 そんなわけで、無事に生きていることを伝えるためにも俺は都市に戻った。

「ショータ殿……」
「おう、呼んだか」
「ショ、ショータ殿!?」
 
 当然だが極雷龍は驚いている。そりゃそうだろうな。完全に死んだものとして送り出していたし。

「嘘だ……あの爆発から無傷で生還するなんてありえない……!」
「ありえないも何も、今まさにここにいるじゃないか」
「ぐっ……まあ良いさ。もう私の用事は済んでいるんだからね。都市が吹き飛ばなかったのは残念だけど、目的はきちんと果たしている。次に会った時には今度こそ君を実験体として捕えてやるから、それまで待っているんだな」

 学者はそう言って消えた。またしても逃がしてしまったな。出会う度に面倒事を持ってくるから、出来ればさっさと処理してしまいたいところだが……奴とはまだまだ長いこと付き合うことになりそうだぜ。

 こうして、天空都市の防衛は俺たち側の勝利で終わった。後からわかったことだが、どうやらあの学者は既に都市の内部に仲間を潜伏させていたらしい。そいつが魔物の脱走騒ぎを引き起こし、その混乱に乗じてバリアを弱体化させていたようだ。今回のようなことが無いように、都市はバリアをより強固に張り直し、さらに何重にも重ねて張るようにした。またバリア用の装置も複数の場所に配置し、簡単には突破できないように対策した。魔力消費は激しくなってしまうが、背に腹は代えられないとのことだ。

 そんなわけで、ひとまず外からの攻撃は心配する必要は無くなった。極雷龍が死にかけているのが不安材料ではあるが、こればかりは時間が解決してくれるのを待つしか無いだろう。とは言え意識はあるため話は聞くことが出来た。

 一番気になっていた極水龍との連絡が途絶えたことについては、バリアの内部にて体を療養させていたからというのが答えだった。この都市に張られているバリアは通信系の魔術も通さないらしい。外から洗脳されたり今回のような潜伏している輩がいたりすることを考えれば、当然と言えば当然ではある。万全では無い極雷龍は自らが洗脳されることを懸念して外には出なかったようだ。……こちらからするとそれでも少しくらい連絡してほしいものだが。

 まあそれについては既に解決法があるようだから考えないことにしよう。極雷龍はこの天空都市の技術を使って通信装置を作らせていた。原理はわからないがこいつを使えばバリアを張っていても通信が行えるらしい。良かったぜ。このまま定期的に天空都市に行ったり来たりしないといけないのかと思っていたからな。

 とまあ色々とあったわけだが、極雷龍の無事がわかったし都市も守れたし俺は一旦帰ることにした。欲を言うと極雷龍にも一緒に戦って欲しい所だが、無理なもんは無理だと割り切るしかない。




「おや、君は……」
「今回で二度目だ。……次は無いぞ」

 基地へと戻った学者の前に、ローブを着こんだ者が現れた。学者にはその顔は見えないが、怒りの感情が籠ったその声からローブの者がどんな感情を抱いているのかは理解できていた。

「それは君の判断かい? それとも本営の判断?」
「どちらもだ。これ以上貴様を放置することは出来ない」
「はぁ……一応結果は出しているんだけどねぇ。研究は一朝一夕でどうにかなるものじゃないってのはわかって欲しいものだよ」

 学者は目の前の者に対してか、もしくはまた別の者に対してか、どこか遠い目をしながらそう言った。

「確かに貴様の研究の成果は目を見張るべきものだ。だが、それ以上に自由にやりすぎだ。天空都市の技術を模倣するにしても、あれほど派手に事を起こす必要は無かったはずだ。獣王国の時も、研究所を破壊してさっさと戻れと命令があったはずだ」
「だってぇ、どうせやるなら派手にやった方が楽しいじゃないか」
「チッ……とにかく次に妙なことを起こしたら、その時は貴様の首が飛ぶと思え」

 そう言ってローブの者は去って行った。

「怖い怖い……さあて、次の準備に取り掛からないとね」

 学者も、何事も無かったかのように研究を再会した。




「そうか。極雷龍がそんなことになっていたとはな。それに、その学者とやらが天空都市から何を奪って行ったのかも気になるところだ」

 確かに極水龍の言う通り、奴が何を奪って行ったのかは最後まで謎だった。と言うのも、天空都市からは何かが奪われた形跡は無かったんだ。重要な物は厳重な宝物庫に置いていたらしくなんだかんだ言って警備は強かったようだが、その宝物庫も開けられた形跡は無かったと……謎が深まるばかりだぜ。

「とにかく、先の事は後で考えよう。ショータ殿も今は休むと良い」
「なら、お言葉に甘えさせてもらおうかな」

 後の事は極水龍たちが纏めておいてくれるようだから、俺は久々の我が家に帰ることにした。リーシャの顔も早く見たいしな。

「……!! おかえりなさい、ショータ様……!!」
「おう、ただいま。俺がいない内に何か問題は無かったか」

 家の扉を開けると、即座にリーシャが飛びついてきた。そんなリーシャの頭を撫でながら、留守中のことを聞いた。数日ぶりの耳の柔らかい感触に懐かしさ

「大丈夫です。少し寂しかったくらいで、他は何も……」

 リーシャは少し暗い表情でそう話した。やはり寂しい思いをさせてしまっていたか。ただ、そうは言っても今の俺にどうこうできる話では無いからな……。リーシャを危険な旅に連れて行くわけにも行かないし。出先でナイトウルフの時みたいなことがあったら最悪だ。せめてスマホか何かがあれば遠くにいても会話くらいは出来るんだがな……。

 ……あ。

 そこで俺は極雷龍から渡された通信機のことを思い出した。あれがあれば遠くにいてもリーシャと会話が出来る。次の旅に出る前にちゃちゃっと貰ってこようかね。都市を救った英雄なんだからそれくらい許されるべきだよな。よし、そうと決まったらとりあえず今日は休むだけ休みまくって明日以降のために英気を養おう。

 しかしそう考えたは良いものの……俺は完全に忘れていた。リーシャとの生活というものがどんなものだったかを。

「……」
「ふぅ……気持ち良いですねショータ様♪」

 そうだ。俺とリーシャは同じ風呂に裸で入っていたんだ。ここ最近ドタバタとしていて完全に忘れちまっていた。いくら体が女とは言え、心は多感な高校生男子なんだ。当然だがこんな状況で精神が落ち着くはずが無え。獣宿しの一族でなければ即死だったぜ。

「ショータ様、おやすみなさい……♪」
「あ、ああ……」

 そして、久々だからと同じベッドで寝ることにもなっちまった。後ろから抱き着かれている状態だからリーシャの柔らかい体が直に触れて……いや考えるな寝ろさっさと寝ろ。

 が、なんだかんだ言って疲れが溜まっていたのか色々張りつめていたもんが無くなって安心したのか安眠できた。
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