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「ショータ様、ここが私たちの家になるのですか……?」
「ああ。ドラゴンロード討伐の報酬として空き家を使わせてもらえるようになったんだ。それに最低限の家具も付いているみたいだから今すぐ住めるぞ。……色々あったが、これでやっと落ち着けそうだな」

 たった二日の出来事だ。だがその密度は凄まじかったな。

 奴隷として捕まって、そこでリーシャと出会って……。リーシャの故郷に行ったらワイバーンに襲われていて、そしたら今度は王国に来た途端にさらに強いとか言うドラゴンと戦わされて……。

 いや密度が濃すぎるだろ。

「ひとまず中を確認してみようか」

 早速リーシャと二人で内部の確認をした。どうやら家具だけじゃなく道具も用意されているみたいで、調理場には鍋や調理器具が備え付けられているし、外の畑には水を入れるための桶に作業用のシャベルや鍬が置いてある。正直思っていた以上だ。

「ショータ様!」
「どうした?」

 リーシャが呼んでいるな。何か面白いもんでもあったのか。

「これ、お風呂ですよ!」
「それがどうかしたのか?」
「お風呂を自分の家に置くなんて富豪や貴族でも無いと出来無いんです。水の処理をするにもお湯を作るにもかなり精度の高い魔道具が必要ですから」
「なるほどな」

 はーんなるほどね。こいつはあれか。ギルド長さんが色々と手回ししてくれたって感じか。やたら家具や道具がしっかりしてんのも風呂があんのも、全ては龍殺しの英雄のためにってことかね。それなら遠慮なく使わせてもらうとするか。

「どうやらギルド長さんは俺たちのために結構良いものを揃えてくれたみたいだな。せっかくだからその厚意に甘えるとしようぜ?」
「は、はいショータ様!」
「よし! それじゃあまずはリーシャの服を買いに行くか!」
「えぇっそんな私の事はお気になさらず!」

 お気になさらずって言っても出会った時からずっとみすぼらしい服装のままだからな。結構可愛いんだから出来る限りオシャレさせてあげたいもんだ。幸いドラゴンロード討伐の報酬として空き家とは別に多額の金も貰ってるからな。変に高級すぎるドレスとかじゃなけりゃあ大体何とかなるだろ。

「金なら大丈夫だから心配すんな。それにリーシャは可愛いからもっと可愛い服を着せたいんだ。まあこれはただの俺のわがままかもしれないけどな。」
「か、可愛い……!? そんなっ私なんて……えへへ」

 照れ笑いを浮かべるリーシャも可愛いな。……ん? 待て、俺今さらっととんでもないこと言ったような? いや可愛い子に可愛いと言う事は別におかしくもなんともないか。

 何か微妙な空気感のまま向かったのは、この王国内で一番栄えている商店街だ。一番と言うだけあって服を売っている店も多い。ただ問題なのは俺自身ファッションには疎いことだな。ましてや女の子の子の身とか全然わからねえのが困りもんだ。

「ショータ様、これはどうでしょうか」
「良いんじゃないか?」

 フリルの付いた白いワンピース姿のリーシャが、体をくるくると回しながら全身を見せてきた。ゆらゆら揺れるワンピースがまさに可憐な少女と言った様相だ。明るめの髪色と白いワンピースの相性も良いんだろうな。

 ……ただそれ以上の事はわからねえ。可愛いか似合ってるかは直感的にわかるが、それ以上の事が俺には判断できねえからな。まあ国一番の商店街で売ってるんだから変なもんではねえだろう。

「それではこちらはいかがでしょうか」
「おお……い、良いんじゃないか」

 今度はショートパンツとシャツか。さっきと変わって随分とラフな感じだな。健康的で活発な印象は悪くは無い。悪くは無いんだが……露出が多すぎないか?

 リーシャは小柄ではあるものの決してちんちくりんでは無いんだよな。この服だと女性的な体のラインが露出によって強調されている。これから同じ屋根の下で過ごすという事を考えると、ちょっと俺の理性が大変そうだ。

「ショータ様はどちらの方が好みでしょうか」
「俺か? どちらも似合ってるし、俺はどちらも良いと思うんだが。両方買えるだけの金ならあるしな」
「……そうですか」

 なんかちょっと悲しそうな表情をした気が……俺なんか不味いこと言っただろうか。

 結局リーシャの選んだ服を両方と下着をいくつか購入して、今度は食料を調達することにした。調理場が結構しっかりしているみたいで、機能を確かめるためにもリーシャが料理を振舞ってくれるらしい。

 とは言えここでも問題が発生だ。食材が全くわからん。見たことも無い野菜ばかりでどれがどんなものなのかが俺には判断が出来ない。

「これとこれと……あとこれもください!」
「はいよお嬢ちゃん」

 どうやらリーシャは普段から料理をしていたみたいだな。助かった。ひとまず食材調達は彼女に任せておけば良いだろう。念のため後でどれがどういったもんなのかは聞いておかねえとな。

「ショータ様、これだけあれば十分だと思います」
「そうか。よし、これでひとまず揃えるもんは揃えたし帰ろうか」

 ひとまずこれで買わなきゃいけないもんは終わりか。武器とか防具とかは今は要らねえしな。

「量も多いだろ。俺が持つよ」
「そんな、ショータ様に迷惑をかける訳には……」
「そんくらい気にすんな。適材適所ってやつだ。リーシャには食材を選んでもらったわけだしな」

 リーシャから受け取った袋は思ったよりも重かった。これを軽々持っていたリーシャは思ったよりも怪力なのかもしれねえな。それか獣人自体がそう言う特性を持つのか。

 家に戻るなりリーシャは調理場に行って早速料理を作り始めた。見た感じかなり手際も良いし、普段から料理をしていたのは間違いないだろうな。

 さて、それなら俺は料理が出来るまでの間に他の場所を確認しておくか。まずは風呂だ。

「おおっ?」

 風呂桶は思ったよりも大きく大人でもゆったりと入れそうなサイズ感だ。ただ気になるのはリーシャが言っていた魔道具ってやつか。風呂を沸かすのにも水の処理にもそいつを使わないといけないみたいだからな。俺でも使えると良いんだが。

「こいつか?」

 風呂場の奥に置いてある謎の置物。この空間に置いてあるには明らかに異質なこいつが恐らくその装置なんだろう。どう使うかはわからないがとりあえずギルドにあった石板みたいに手でも触れてみるか。

「うおっ!?」

 手で触れた途端、置物から水……いやこれはお湯だな。少し熱めのお湯が出てきた。なるほど、起動するには手で触れる必要があるわけだ。それならこいつを浴槽の上に置いて中を満たせば……。

「おぉ……マジで風呂だぜこりゃ」

 あっと言う間に風呂が用意出来ると言うわけだな。日本人としては風呂があるのはかなり助かる。というか普通にガスとか電気で沸かすよりも速いぜこれ。流石は魔法。流石は魔道具。

「こいつが風呂を用意する道具なら……お、あったあった」

 風呂は沸かすだけでは駄目だ。浴槽内の水を処理できないと風呂としては成り立たない。そしてそのための装置が浴槽の側面に付いていた。恐らくこいつに同じように手を触れれば、今度は浴槽内の水が消えるんだろうな。

 とりあえず今は入らないため、冷めないように蓋をして今度は外の畑へ向かった。

 畑にはこれまた同じように水を生み出すと思われる装置が置いてあった。そして風呂の側面に付いていたものと同様のものも石材で囲まれた中に置いてある。使い終わった水はこれで消せという事だな。

 途中で確認したトイレもそうだが、基本上下水道の役割はこの道具が何とかしてくれるみたいだ。至れり尽くせりにも程がある。魔道具バンザイ。これだけの道具がありゃあ、もしかしたら米とか大豆とか作れるんじゃないかこれ。まあ商店街に置いてあったものを見た感じ、育てるための苗自体を手に入れられるかが怪しいんだが。

「ショータ様、そろそろ料理が出来上がります」
「お、待ってました。今行くよ」

 よし、細かいことは置いといて今はとりあえずリーシャの手料理を楽しむこととしよう。
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