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第二章 現れしメインヒロイン
31 瘴気の魔獣
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「知っているのかいローリエ?」
「は、はい……。あれは恐らく……瘴気の魔獣です」
「聞いたことねえけどよ……流石にあれがヤバすぎる魔獣だってのは俺にも分かるぜ」
「ビスカさんの言う通り、あれは私たちが相手にして良い魔獣ではありません……。教会で修行をしていた時、大司教様が教えてくれました。かつて世界を災厄に包み込んだ凶悪にして超常の魔獣……それがあの魔獣なんです。だから、今すぐにでも逃げるべきで……」
ローリエはゆっくりと、怯えながらも冷静に瘴気の魔獣との距離を取っている。
けど、その時だった。
「ッ!!」
ローリエの動きが止まった。
その視線は洞窟入り口に横たわっている死体へと向いている。
「ローリエ? どうかしたの……?」
「彼は……あそこに囚われているんです……」
ローリエの表情が徐々に怒りのそれへと変わって行く。
さっきまでの怯えた様子はどこへやら。
けど私はその表情に見覚えがあった。
それはアルストのとあるイベント。
プレイヤーはアンデッドが蔓延るダンジョンに挑むこととなり、その最奥にいるアンデッドキングを倒すことになる訳だけど……その際にローリエは物凄く怒っていたんだ。
と言うのも、彼女は聖職者であり、優しい心の持ち主。
だから死者の魂が冒涜されることに物凄く嫌悪感を抱くと共に、決して許せないと正義感を発露させたのだった。
「おいおい、そいつはどういう意味だ?」
「彼は死してなお、あの体に囚われているんです。そして、魂のエネルギーを瘴気の魔獣に吸われ続けています。恐らくは数日前からずっと……どれだけ苦しくとも、成仏できずに……」
「マジかよ……随分と悪趣味な魔獣だなアイツは……」
「じゃああれを倒さないと、あの人は解放されないってこと!?」
「待ちなよ、ソニア。君の気持はわかるけど、私たちじゃ勝ち目は無い。ここは撤退して……」
ガラムは冷静にソニアを止める。
けど、その時には既にローリエが動き始めてしまっていた。
「待って、ローリエ……!」
「貴方だけは絶対に許しません……! ボルトニグ!!」
止めようとするも、既にローリエは上級光魔法を放っていた。
それは瘴気の魔獣へと飛んで行き、着弾する。
確かに瘴気の魔獣は光属性が弱点だった。
だから彼女の選択自体は間違ってはいない。
けど、判断は間違っていた。
「そんな……!?」
光が晴れた時、瘴気の魔獣には一切の傷は無かった。
ローリエは相当な実力を持つ術者だ。
それなのに、瘴気の魔獣には傷一つ付いていなかった。
それだけ、裏ダンジョンに出てくる魔獣は桁違いなのだ。
だから、感情に任せて攻撃を仕掛けてしまったローリエの判断は間違っていたとしか言えない。
それでも……私は彼女の想いを無駄にしたくは無かった。
「おい! 奴が攻撃してくるぞ!」
「ローリエ! 避けて!」
瘴気の魔獣は弱点である光魔法使いのローリエを脅威と認識したのか、彼女へと向けて攻撃準備を始めた。
禍々しい肉塊のような体をぐねぐねと動かし、口のような部分から瘴気の塊を噴き出してくる。
「下がって!」
噴き出された瘴気から彼女を庇うように、私はローリエの前へと出た。
「だ、駄目ですアルカさん! 人は瘴気には耐えられません!」
後ろにいるローリエがそう叫ぶ。
そう、彼女の言う通り瘴気は人の身では耐えられない。
……と、思われている。
あくまで「思われている」だけだった。
「アルカさん!! ……え?」
私は瘴気の魔獣から放たれた瘴気を真正面から受けた。
でも特に体に問題は無い。ピンピンしている。
それどころか体内の魔力量が回復したくらいだ。
と言うのも、この世界において瘴気とは言わば「あまりにも濃すぎる魔力の塊」なのである。
では何故それほどまでに瘴気が危険視されているのかと言えば、その濃度が関係していた。
この世界において、生物も魔獣も多かれ少なかれ魔力を持つ。
けれど際限なく持てる訳では無く、当然限界もあった。
そして瘴気をまともに食らえば、その限界を優に超えてしまう訳である。
そうなれば結果として、体は耐えられずに死んでしまう。
それは体内体外問わず、周囲の微生物も同様だ。
死体を中心として、生物が近づけない危険地帯と化してしまうのだ。
そうなると当然体の腐敗も起こらないし、死ぬ時だって外傷が発生しない。
つまり洞窟の入り口のあの死体が装備に対して体が奇麗だったのも、瘴気の魔獣によって殺されたからだった訳だ。
とは言え、そんなとんでもない瘴気も今の私にとってはただの魔力補給でしかない。
なにせ私は保有魔力の上限が物凄く高いから。
「アルカさん……大丈夫なんですか……?」
「うん、ピンピンしてるよ。だから安心して」
安心させるために、ローリエ含む皆に私の体を見せる。
「おいおい……そんなのアリかよ」
「瘴気を真正面から受けて大丈夫だなんて……やはり君は規格外にも程があるよ」
「でも、それでこそアルカだよ! やっぱり私の目に狂いは無かった!」
ソニアだけは嬉しそうにはしゃいでるけど、多分ここは前二人のリアクションの方が正しいと思うよ。
「ふふっ、貴方って本当……面白いのね」
「ミラ?」
何か含みのある言い方と表情のミラがやや気になる所ではあるけども……今はまず瘴気の魔獣をどうにかしないと。
私とミラは大丈夫でも、ソニアたちは間違いなく駄目だからね。
「よし、それじゃあ……今度はこっちの番だよ、瘴気の魔獣」
私は瘴気の魔獣の方を向き、決め顔でそう言った。
「は、はい……。あれは恐らく……瘴気の魔獣です」
「聞いたことねえけどよ……流石にあれがヤバすぎる魔獣だってのは俺にも分かるぜ」
「ビスカさんの言う通り、あれは私たちが相手にして良い魔獣ではありません……。教会で修行をしていた時、大司教様が教えてくれました。かつて世界を災厄に包み込んだ凶悪にして超常の魔獣……それがあの魔獣なんです。だから、今すぐにでも逃げるべきで……」
ローリエはゆっくりと、怯えながらも冷静に瘴気の魔獣との距離を取っている。
けど、その時だった。
「ッ!!」
ローリエの動きが止まった。
その視線は洞窟入り口に横たわっている死体へと向いている。
「ローリエ? どうかしたの……?」
「彼は……あそこに囚われているんです……」
ローリエの表情が徐々に怒りのそれへと変わって行く。
さっきまでの怯えた様子はどこへやら。
けど私はその表情に見覚えがあった。
それはアルストのとあるイベント。
プレイヤーはアンデッドが蔓延るダンジョンに挑むこととなり、その最奥にいるアンデッドキングを倒すことになる訳だけど……その際にローリエは物凄く怒っていたんだ。
と言うのも、彼女は聖職者であり、優しい心の持ち主。
だから死者の魂が冒涜されることに物凄く嫌悪感を抱くと共に、決して許せないと正義感を発露させたのだった。
「おいおい、そいつはどういう意味だ?」
「彼は死してなお、あの体に囚われているんです。そして、魂のエネルギーを瘴気の魔獣に吸われ続けています。恐らくは数日前からずっと……どれだけ苦しくとも、成仏できずに……」
「マジかよ……随分と悪趣味な魔獣だなアイツは……」
「じゃああれを倒さないと、あの人は解放されないってこと!?」
「待ちなよ、ソニア。君の気持はわかるけど、私たちじゃ勝ち目は無い。ここは撤退して……」
ガラムは冷静にソニアを止める。
けど、その時には既にローリエが動き始めてしまっていた。
「待って、ローリエ……!」
「貴方だけは絶対に許しません……! ボルトニグ!!」
止めようとするも、既にローリエは上級光魔法を放っていた。
それは瘴気の魔獣へと飛んで行き、着弾する。
確かに瘴気の魔獣は光属性が弱点だった。
だから彼女の選択自体は間違ってはいない。
けど、判断は間違っていた。
「そんな……!?」
光が晴れた時、瘴気の魔獣には一切の傷は無かった。
ローリエは相当な実力を持つ術者だ。
それなのに、瘴気の魔獣には傷一つ付いていなかった。
それだけ、裏ダンジョンに出てくる魔獣は桁違いなのだ。
だから、感情に任せて攻撃を仕掛けてしまったローリエの判断は間違っていたとしか言えない。
それでも……私は彼女の想いを無駄にしたくは無かった。
「おい! 奴が攻撃してくるぞ!」
「ローリエ! 避けて!」
瘴気の魔獣は弱点である光魔法使いのローリエを脅威と認識したのか、彼女へと向けて攻撃準備を始めた。
禍々しい肉塊のような体をぐねぐねと動かし、口のような部分から瘴気の塊を噴き出してくる。
「下がって!」
噴き出された瘴気から彼女を庇うように、私はローリエの前へと出た。
「だ、駄目ですアルカさん! 人は瘴気には耐えられません!」
後ろにいるローリエがそう叫ぶ。
そう、彼女の言う通り瘴気は人の身では耐えられない。
……と、思われている。
あくまで「思われている」だけだった。
「アルカさん!! ……え?」
私は瘴気の魔獣から放たれた瘴気を真正面から受けた。
でも特に体に問題は無い。ピンピンしている。
それどころか体内の魔力量が回復したくらいだ。
と言うのも、この世界において瘴気とは言わば「あまりにも濃すぎる魔力の塊」なのである。
では何故それほどまでに瘴気が危険視されているのかと言えば、その濃度が関係していた。
この世界において、生物も魔獣も多かれ少なかれ魔力を持つ。
けれど際限なく持てる訳では無く、当然限界もあった。
そして瘴気をまともに食らえば、その限界を優に超えてしまう訳である。
そうなれば結果として、体は耐えられずに死んでしまう。
それは体内体外問わず、周囲の微生物も同様だ。
死体を中心として、生物が近づけない危険地帯と化してしまうのだ。
そうなると当然体の腐敗も起こらないし、死ぬ時だって外傷が発生しない。
つまり洞窟の入り口のあの死体が装備に対して体が奇麗だったのも、瘴気の魔獣によって殺されたからだった訳だ。
とは言え、そんなとんでもない瘴気も今の私にとってはただの魔力補給でしかない。
なにせ私は保有魔力の上限が物凄く高いから。
「アルカさん……大丈夫なんですか……?」
「うん、ピンピンしてるよ。だから安心して」
安心させるために、ローリエ含む皆に私の体を見せる。
「おいおい……そんなのアリかよ」
「瘴気を真正面から受けて大丈夫だなんて……やはり君は規格外にも程があるよ」
「でも、それでこそアルカだよ! やっぱり私の目に狂いは無かった!」
ソニアだけは嬉しそうにはしゃいでるけど、多分ここは前二人のリアクションの方が正しいと思うよ。
「ふふっ、貴方って本当……面白いのね」
「ミラ?」
何か含みのある言い方と表情のミラがやや気になる所ではあるけども……今はまず瘴気の魔獣をどうにかしないと。
私とミラは大丈夫でも、ソニアたちは間違いなく駄目だからね。
「よし、それじゃあ……今度はこっちの番だよ、瘴気の魔獣」
私は瘴気の魔獣の方を向き、決め顔でそう言った。
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