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プロローグ
11 学内剣術大会
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あろうことか魔力を持たない無能の烙印を押されてしまった里奈。
その影響は大きく、あの時の少年を筆頭に彼女を弄る者は決して少なくは無かった。
何故ならば、この世界において魔力を持たない者は迫害の対象なのである。
それが冒険者志望であると言うのならば、その扱いはなおのことだろう。
ましてや勇者の血筋であるルーン家の娘でありながら無能であるなど、自ら迫害してくださいと言っているようなものであった。
現に演習などでは荷物持ちや雑用を任されることも多く、お世辞にも冒険者学校における彼女の扱いは決して良いものとは言えないものだった。
だがそんなことで挫けたり諦めたりしない芯の強さを持つのが里奈である。
例え魔力量が絶望的に少ないと判断されて迫害されようと、それが真実では無いことを理解している彼女にとっては「だから何だ」と言う話でしかないのだ。
そもそも剣術においては同期の誰よりも……いや、学校内の誰よりも圧倒的なものを持っているだろう。
それを周りに知らしめることとなったのが冒険者学校内で行われた剣術大会だった。
この学内剣術大会はトーナメントを勝ち進んでいくと最終的には年齢やクラスに関係なく優勝を争うことになるため、手っ取り早く力を示すのにはまさに打ってつけなのである。
しかし当然のことながら無能な存在が学内での大規模な剣術大会に出るとなれば、それを弄られるのもまた必然だろう。
「無能なお前が大会に出るなんて、随分な事じゃないか。まあ、せいぜい死なないように頑張るんだな」
と、あの時の少年に面と向かって言われることもあった。
とは言え、そんな事は里奈にとってはどうでもいいことである。
何故ならいくら精神が体に引っ張られていると言っても、前世での年齢を考えると少年は遥か年下のひよっこなのだ。
そんな彼に憤っているようでは大人気ない……と、心のどこかで思っていたのも大きいだろう。
そうして迎えた剣術大会当日。
まず最初に里奈の相手として出てきたのは彼女と同じ日に入学した少女だった。
彼女は里奈よりも一つか二つは年齢が上である。
トーナメントの仕組み的に一回戦や二回戦では年齢が近かったり同じタイミングで入学してきた生徒と当たるようになっているのだが、それでも若干の誤差はあるのだ。
ただ、その程度の誤差は里奈にとっては本当に些細なものでしか無かった。
「用意……始め!!」
「ッ!? ……こ、降参します」
事実、審判による開始の合図が終わると共に既に里奈は少女の懐に潜り込んでおり、彼女の降参によって一瞬にして勝敗が決定したのである。
その際の里奈の速さは凄まじいもので、目で追えた者はこの大会の参加者の中でも上位数人程度しかいないだろう。
それだけの事をすれば里奈の扱いも少しは変わるもので、高い実力を持つ者ほど里奈への認識を改めるのだった。
しかしそれでも、彼女の扱いを変えない者はいる。
その筆頭が、あの時の少年であった。
あれだけの啖呵を切ってしまった以上、里奈が実は強者であったなど到底認められるはずが無いのだ。
「あ、えりえないだろ……だって、アイツは無能のはずで……」
そう言って今も熱心に里奈が何かトリックを使ったのではないかと探る彼だが、そんなものはあるはずが無い。
何故ならこの勝利は里奈自身が正真正銘実力で勝ち取ったものなのだから。
さて、そうなると困るのは彼自身である。
何しろ二回戦で彼は里奈と当たるのだ。
このままでは今まで無能だと蔑み迫害していた相手に無様に敗北してしまう訳である。
だがどれだけトリックを探そうと無いものを見つけることなど出来ず、とうとうその時はやってきてしまった。
「くそっ……お前! 一体どんなトリックを使ってやがる……!!」
その結果、彼は思わず里奈に向かってそう叫んでしまう。
「トリック……? 無いよ、そんなの」
それに対し里奈は冷静にそう答える。
その様子を見た少年は彼女が嘘を言っている訳では無いことに気付いてしまったようだ。
「嘘だろ……いや、そんなはずは……」
彼の顔はどんどん青ざめて行き、その声も弱々しいものへと変わって行った。
勝てるはずが無いと、改めて理解してしまったのだ。
「用意……始め!!」
「俺が負ける? ありえない、ありえないんだそんなことは……!」
それでも彼はまだ諦めてはいなかった。
審判による開始の合図と共に、剣を構えて里奈に向かって走り出す。
その姿はかなり洗練されており、彼がそれなりの剣の使い手であることは誰が見ても明白であった。
それもそのはずである。何しろ彼はそこそこ名の知れた剣士の息子なのだ。
……もっとも、その実力は三人兄弟で一番下なのだが。
そのせいで彼は常に実力不足を笑われながら生きてきており、もはや自分よりも下の存在を迫害し蔑むことでしか自己を保てなくなっていた。
不幸にもその対象として選ばれてしまったのが他でもない里奈なのである。
入学の日に魔力測定を行ったあの時、里奈が測定不能を出したあの時に、今しかないと思った彼はあの言葉を放ったのだ。
「無能は無能のまま……! 俺の下にいれば良いんだよッッ!!」
そんな彼は全身全霊で叫びながら剣を振り下ろしていた。
その気迫は凄まじく、低級の魔物ならばその気迫だけで動きを止められるのではないかと言う程だった。
当然だ。ここで里奈に負けると言うことは彼自身のプライドの死を意味するため、死に物狂いで勝ちに行くのは至って当然の事なのである。
「んなっ……!?」
しかし彼の放った全力のその一撃は、里奈にいとも容易く受け止められてしまった。
「ぐぁっ……!!」
それどころか彼の剣は里奈の攻撃によって簡単に弾き飛ばされてしまう。
そして無防備な状態に里奈による重い一撃を食らった彼は気絶してしまうのだった。
「勝者、アルカ・ルーン!!」
こうして里奈は難なく少年に勝利し、三回戦へと進むことになった。
なお、仮に彼がここで里奈と戦わずとも、彼の実力であれば結局は遅かれ早かれ里奈と当たっていただろう。
そしてそうなった場合、彼がこうなることもまた必然と言える。
つまり最初から彼は喧嘩を売る相手を間違えてしまっていたのだ。
その後、無双状態の里奈はそれこそ無双ゲーのごとくバッタバッタと対戦相手を倒していき、あっという間に剣術大会優勝者の名を手にしたのだった。
その影響は大きく、あの時の少年を筆頭に彼女を弄る者は決して少なくは無かった。
何故ならば、この世界において魔力を持たない者は迫害の対象なのである。
それが冒険者志望であると言うのならば、その扱いはなおのことだろう。
ましてや勇者の血筋であるルーン家の娘でありながら無能であるなど、自ら迫害してくださいと言っているようなものであった。
現に演習などでは荷物持ちや雑用を任されることも多く、お世辞にも冒険者学校における彼女の扱いは決して良いものとは言えないものだった。
だがそんなことで挫けたり諦めたりしない芯の強さを持つのが里奈である。
例え魔力量が絶望的に少ないと判断されて迫害されようと、それが真実では無いことを理解している彼女にとっては「だから何だ」と言う話でしかないのだ。
そもそも剣術においては同期の誰よりも……いや、学校内の誰よりも圧倒的なものを持っているだろう。
それを周りに知らしめることとなったのが冒険者学校内で行われた剣術大会だった。
この学内剣術大会はトーナメントを勝ち進んでいくと最終的には年齢やクラスに関係なく優勝を争うことになるため、手っ取り早く力を示すのにはまさに打ってつけなのである。
しかし当然のことながら無能な存在が学内での大規模な剣術大会に出るとなれば、それを弄られるのもまた必然だろう。
「無能なお前が大会に出るなんて、随分な事じゃないか。まあ、せいぜい死なないように頑張るんだな」
と、あの時の少年に面と向かって言われることもあった。
とは言え、そんな事は里奈にとってはどうでもいいことである。
何故ならいくら精神が体に引っ張られていると言っても、前世での年齢を考えると少年は遥か年下のひよっこなのだ。
そんな彼に憤っているようでは大人気ない……と、心のどこかで思っていたのも大きいだろう。
そうして迎えた剣術大会当日。
まず最初に里奈の相手として出てきたのは彼女と同じ日に入学した少女だった。
彼女は里奈よりも一つか二つは年齢が上である。
トーナメントの仕組み的に一回戦や二回戦では年齢が近かったり同じタイミングで入学してきた生徒と当たるようになっているのだが、それでも若干の誤差はあるのだ。
ただ、その程度の誤差は里奈にとっては本当に些細なものでしか無かった。
「用意……始め!!」
「ッ!? ……こ、降参します」
事実、審判による開始の合図が終わると共に既に里奈は少女の懐に潜り込んでおり、彼女の降参によって一瞬にして勝敗が決定したのである。
その際の里奈の速さは凄まじいもので、目で追えた者はこの大会の参加者の中でも上位数人程度しかいないだろう。
それだけの事をすれば里奈の扱いも少しは変わるもので、高い実力を持つ者ほど里奈への認識を改めるのだった。
しかしそれでも、彼女の扱いを変えない者はいる。
その筆頭が、あの時の少年であった。
あれだけの啖呵を切ってしまった以上、里奈が実は強者であったなど到底認められるはずが無いのだ。
「あ、えりえないだろ……だって、アイツは無能のはずで……」
そう言って今も熱心に里奈が何かトリックを使ったのではないかと探る彼だが、そんなものはあるはずが無い。
何故ならこの勝利は里奈自身が正真正銘実力で勝ち取ったものなのだから。
さて、そうなると困るのは彼自身である。
何しろ二回戦で彼は里奈と当たるのだ。
このままでは今まで無能だと蔑み迫害していた相手に無様に敗北してしまう訳である。
だがどれだけトリックを探そうと無いものを見つけることなど出来ず、とうとうその時はやってきてしまった。
「くそっ……お前! 一体どんなトリックを使ってやがる……!!」
その結果、彼は思わず里奈に向かってそう叫んでしまう。
「トリック……? 無いよ、そんなの」
それに対し里奈は冷静にそう答える。
その様子を見た少年は彼女が嘘を言っている訳では無いことに気付いてしまったようだ。
「嘘だろ……いや、そんなはずは……」
彼の顔はどんどん青ざめて行き、その声も弱々しいものへと変わって行った。
勝てるはずが無いと、改めて理解してしまったのだ。
「用意……始め!!」
「俺が負ける? ありえない、ありえないんだそんなことは……!」
それでも彼はまだ諦めてはいなかった。
審判による開始の合図と共に、剣を構えて里奈に向かって走り出す。
その姿はかなり洗練されており、彼がそれなりの剣の使い手であることは誰が見ても明白であった。
それもそのはずである。何しろ彼はそこそこ名の知れた剣士の息子なのだ。
……もっとも、その実力は三人兄弟で一番下なのだが。
そのせいで彼は常に実力不足を笑われながら生きてきており、もはや自分よりも下の存在を迫害し蔑むことでしか自己を保てなくなっていた。
不幸にもその対象として選ばれてしまったのが他でもない里奈なのである。
入学の日に魔力測定を行ったあの時、里奈が測定不能を出したあの時に、今しかないと思った彼はあの言葉を放ったのだ。
「無能は無能のまま……! 俺の下にいれば良いんだよッッ!!」
そんな彼は全身全霊で叫びながら剣を振り下ろしていた。
その気迫は凄まじく、低級の魔物ならばその気迫だけで動きを止められるのではないかと言う程だった。
当然だ。ここで里奈に負けると言うことは彼自身のプライドの死を意味するため、死に物狂いで勝ちに行くのは至って当然の事なのである。
「んなっ……!?」
しかし彼の放った全力のその一撃は、里奈にいとも容易く受け止められてしまった。
「ぐぁっ……!!」
それどころか彼の剣は里奈の攻撃によって簡単に弾き飛ばされてしまう。
そして無防備な状態に里奈による重い一撃を食らった彼は気絶してしまうのだった。
「勝者、アルカ・ルーン!!」
こうして里奈は難なく少年に勝利し、三回戦へと進むことになった。
なお、仮に彼がここで里奈と戦わずとも、彼の実力であれば結局は遅かれ早かれ里奈と当たっていただろう。
そしてそうなった場合、彼がこうなることもまた必然と言える。
つまり最初から彼は喧嘩を売る相手を間違えてしまっていたのだ。
その後、無双状態の里奈はそれこそ無双ゲーのごとくバッタバッタと対戦相手を倒していき、あっという間に剣術大会優勝者の名を手にしたのだった。
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