上 下
90 / 90
第二部 並行異世界地球編

42 器用で大富豪なバトルマジシャン

しおりを挟む
 それからというもの、事態は恐ろしい程スムーズに解決した。
 それだけ黒姫の能力は高かったと言う訳だ。

 しかしそうなるとまた新たな問題が生まれてくる。
 このあまりにもブラックボックス過ぎる存在を、どう扱うべきか……だ。

「やはり処分した方が良いだろう。いくら晴翔の命令を聞くと言っても安全性が確保されている訳では無いからな」

 トウヤの意見としては、また何かを起こさない内にどうにかしてしまった方が良いと言うものだった。
 実際俺もその意見には賛成したい所なんだが、果たしてもう一度コイツを殺してしまって大丈夫なのだろうか。

 ナビはどう思う?

[彼女にはもう調停機能としての能力は残っていません。しかし世界との繋がりを持っている以上、魔力パスを繋いでおくリスクは高いかと思われます]

 ……うん?
 つまり、どういうことだ。安全だけど安全じゃないってことか?

 調停機能としての能力が無いってことは、今回みたいに闇に飲まれしモンスターを呼び出すことはもう無いってことだよな。
 気になるのは世界との繋がりって所か。

[世界との繋がりとは簡単に言えば世界そのものを維持する機構です。調停機能はその内の一つとなります]

 難しいことはよくわからないが、結局黒姫をテイムしたままだと危険が危ないってことか。
 それならやっぱ処分しちゃった方がよかったりすんのかね。

[処分した場合、また新たな調停機能が生まれてしまうでしょう]

 マジかよ。

[……一つ、全てが丸く収まる可能がございます]

 なんだって?

[晴翔様自身を世界の維持機構に組み込んでしまうのです]

 おいおい、また随分ととんでもないことになって来たな。
 俺を維持機構に組み込むってそんなことが可能なのかよ……。

[今すぐにでも始められますが、どういたしますか]

 ああっちょ、ちょっと待ってくれ。
 それ、失敗リスクとかあるのか?

[もちろん存在します。しかし今の晴翔様であればその確率は低いでしょう]

 ……うーん、本当にそんなホイホイと決めてしまっていいのか。
 けど、このまま放っておいていい案件でも無いのは確かだ。
 ああ、クソッ覚悟を決めるしかないのか。

 ……頼む、やってくれ

[承りました]

 ぁ……視界が、揺らぐ。

「ッ!? おい、どうした晴翔!」

 やべ、こんなことになるなら一言、言っておくべきだった……か。

――――――

 どうした、何が起きている……?
 視界に広がるのは真っ白な空間。何も無い。物が無いなんて話じゃない。空すら真っ白でもはや地平線すら認識出来ないレベルだ。

「ナビ、いるか?」
[はい、晴翔様]

 よかった。ナビは使えるみたいだな。

「ここはどこなんだ? 一面真っ白過ぎるんだが」
[世界の外側と言うべきでしょうか。晴翔様は今、肉体を持たない概念のような状態になっています]
「……それ、戻れるんだよな?」
[不可能です]

 ……?

「待て、もう一度言ってくれ」

 俺の聞き間違いだと思いたかった。

[残念ながら元の肉体に戻ることは不可能でしょう。しかしご安心ください。世界の維持機構に晴翔様を組み込むことには成功いたしました]
「待ってくれ、戻れないなんてそんなことお前は言ってなかっただろ!」
[はい、申しておりません。リスクについては質問されなかったため、回答をいたしませんでした]

 ……あぁ、落ち着け。こんなバカなことがあってたまるか。まるで嵌められたみたいじゃないか。
 きっと何とかなる。そうでないとマジで気が狂いそうだ。

「戻るための方法は無いのか」
[既に肉体を失っているため不可能です]
「……そうか」
[元より晴翔様は元の世界では亡くなっておりますから今更でもあります]
「は……?」

 待て、待ってくれ。こんな状況で処理しきれない情報を増やさないでくれ。

「亡くなってるって、それなら今まで生きていた俺は何なんだ」
[晴翔様はアーステイルに召喚されたその瞬間、心臓発作によってその命を終えています。しかし向こうの世界で得た体のままこちらに戻ってきたことで今にいたるのです]

 ……そうか。だから陽や桜と違って俺だけこの姿だったのか。
 けど、それならそれで結果オーライととらえるべきなのか。この姿じゃ無かったらとっくの昔にゲームオーバーになっていた。

[本題に入りましょう。晴翔様は維持機構に組み込まれたため、この空間で世界の維持を行うことになります]
「淡々と説明しやがって……こっちはまだ受け入れきれてないってのに」
[それは失礼いたしました]
「いやいい、どうせ戻れないんだろ。なら今出来ることをやるだけだ」
 
 未練はある。別れの挨拶も無しにこんなことになったのを簡単に受け入れられるはずが無い。
 けど世界の平和のためであるのなら、間接的にも大切な人のためになることだ。
 やってやるさ。何しろ俺は器用貧乏な……いや違うな。

 こんだけ色々とやってのけたんだぜ?
 器用で大富豪なバトルマジシャンだぜ俺は。

[それでは早速やらなければならないことがございます。ダンジョンの奥には未だ闇に飲まれしモンスターが残っています。彼らを討伐しきらなければ真の平和はやってこないでしょう]
「そう言えばアイツらはダンジョンの外に出てこなかっただけでまだ残ってはいるんだっけか」

 放って置いたらまた何かの機会に出て来ちまうかもしれない。倒しておいた方が良いのは理解できる。

「けどその方法は? 今の俺はもう元には戻れないんだろ」
[ええ、なので丁度よく存在している彼女の体を端末として使いましょう]
「彼女……黒姫のことか? え、そんなことできるのかよ」
[パスは未だ残っています。それに今の晴翔様は概念体なのであの肉体に憑依する形で扱う事が出来るでしょう。あの体は調停機能が作り出したものですし可能です]

 ……戻れないってのは何だったのか。何のための覚悟だったわけ?

[だから申しましたよ。元の体には戻れないと]
「……お前、その言い方だともうあっちに戻れない的な風に捉えちまうだろうが! 色々と情報の開示が足りてないんだよお前は!」

 けど、良かった。また会えるんだ。また少し変わったいつも通りの毎日を送れるのか。
 
「よし、なら早速世界の内側……って言えばいいのか? そこに戻ろうぜ。んで闇に飲まれしモンスターも全部ぶちのめしてチャチャッと世界を平和にしてやる」
[やる気十分ですね晴翔様]
「ああ、消沈してたのはほぼお前のせいだけどな」
[記憶にございませんね]

 ナビがこんなんだから不安こそ数えきれない。結局、世界の維持機構についても俺はよくわかっていない訳だしな。
 だがそれでも俺は前に進み続ける。どれだけ火の粉が降りかかろうが全て払って見せるさ。
 白姫の伝説をアーステイルだけじゃなく、こっちの世界にも見せてやる。



『世界に危機が起こりし時、その少女はどこからともなく現れる。麗しいその姿からは想像も出来ない凄まじい力を振るい、世界を守るのだ。人呼んで「白姫」。自らを器用で大富豪だと謳う彼女を、人々は決して忘れることは無いだろう』

器用貧乏なバトルマジシャン 完
しおりを挟む
感想 4

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(4件)

A・l・m
2024.03.16 A・l・m

魔法学園編、じゃなかった並行地球編。

性別が逆じゃなくて良かったね。


と書こうと思ったら結局えろ制服になっていた……。
(でもまあ、逆の性別じゃなくて良かったね)

でもこれ、自動調整装備?
それとも特注とかドワーフ向けとかが……。

解除
A・l・m
2024.01.29 A・l・m

ボス、クリア!

……いや新たな謎が出ちゃってる!

解除
A・l・m
2024.01.03 A・l・m

うむ……。
フィギュア王子たちは婚約者(幼女)に『闘え……闘え……』とか言うつもりなのだろうか。

タダで戦わせられるぜヒャッハーとでも考えているのだろうか……。


……まずは普通に依頼から始めなよ……。

解除

あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

最強の職業は付与魔術師かもしれない

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された5人の勇者。彼等は同じ高校のクラスメイト同士であり、彼等を召喚したのはバルトロス帝国の3代目の国王だった。彼の話によると現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が世界各地に出現し、数多くの人々に被害を与えている事を伝える。そんな魔王軍に対抗するために帝国に代々伝わる召喚魔法によって異世界から勇者になれる素質を持つ人間を呼びだしたらしいが、たった一人だけ巻き込まれて召喚された人間がいた。 召喚された勇者の中でも小柄であり、他の4人には存在するはずの「女神の加護」と呼ばれる恩恵が存在しなかった。他の勇者に巻き込まれて召喚された「一般人」と判断された彼は魔王軍に対抗できないと見下され、召喚を実行したはずの帝国の人間から追い出される。彼は普通の魔術師ではなく、攻撃魔法は覚えられない「付与魔術師」の職業だったため、この職業の人間は他者を支援するような魔法しか覚えられず、強力な魔法を扱えないため、最初から戦力外と判断されてしまった。 しかし、彼は付与魔術師の本当の力を見抜き、付与魔法を極めて独自の戦闘方法を見出す。後に「聖天魔導士」と名付けられる「霧崎レナ」の物語が始まる―― ※今月は毎日10時に投稿します。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。