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第二部 並行異世界地球編

32 ダンジョンのその先へ②

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「トウヤ、魔法を使うから少し離れていてくれ」

 トウヤに魔法を使う事を告げ、巻き添えをくらわないように離れていてもらう。

「勝算は……あるんだな。わかった……いや待て、奴の攻撃を耐えながら詠唱をする気なのか?」
「詠唱は必要ないから問題無い……ってうぉぁぁっ……!?」

 突然リーパーマンティスが視界から消えたかと思えば、次の瞬間には目の前に現れていた。

 悠長に話していたせいで油断していた。
 どうやら十数メートルくらいならジャンプで距離を詰められるらしい。

「ぐぅっ……!」

 咄嗟に避けられたから良いものの、あと一歩遅ければ俺の首が飛んでいたことだろう。なんともまあ恐ろしい話だ。

「大丈夫か晴翔……ッ!?」
「どうしたんだトウヤ」

 トウヤは俺の方を見たかと思えば瞬時にその顔を別の方へと向けていた。
 いや今はそんなことは良い。とにかく奴を、さっさとリーパーマンティスを倒さないと命がいくつあっても足りない。

「フレイムランス……アイススピア……!」

 炎属性のフレイムランスと氷属性のアイススピア。相反する二つの魔法を複合し、一本の槍を作り出す。
 そしてそれを奴にぶち込む……!

「おらァッ!!」

 着弾と同時に派手な爆発が奴を包み込む。
 そしてそれが晴れた時にはもう奴の姿はどこにもなかった。どうやら跡形も無く消し飛んでしまったようだ。

「ふぅ、思ったよりも呆気なかったな」

 攻撃速度に関してはトウヤの知るそれと大差なくて助かった。そうでなければもっと被害が出ていたか、最悪死んでいたかもしれない。
 それに耐久面だけが高くなると言う可能性もあるってのが知れたのは上々だ。

「晴翔、これを」

 リーパーマンティスがいた所を確認していた俺に、トウヤは自身が着ていた上着を脱いで差し出してきた。

「これはどういう……」
「スカートをリーパーマンティスにやられたみたいだからな。俺が今着ていたもので悪いが、よければ使ってくれ」

 そう言われ、咄嗟に下を見た。
 ……何と言う事だろうか。見事にスカートが切り裂かれている。
 多分さっき奴の攻撃を避けた時だろう。そうか、スカートまでは避けきれなかったんだな。

 というか制服にはかなり厳重に防護魔法がかけられているはずなんだが、こんな奇麗に切り裂かれて……っておいおい、それじゃあ俺はあれか? 
 トウヤに下着を見せつけながら格好つけて魔法をぶっ放してたってことか?

 何と言うか色々と恥ずかしいね。
 そして気を遣わせてしまってすまないトウヤ。

「気持ちは嬉しいけど替えはあるから心配しないでくれ」
「そうなのか?」
 
 気を使ってくれたところであれだが、アイテムウィンドウから色々と引っ張り出せるんだよな。
 それにこれからの戦いは学園制服だと力不足かもしれない。となれば自前の装備の方が性能が良い。

「あった、これこれ」

 アイテムウィンドウから向こうで使っていた装備一式を取り出す。

「以前手合わせをした時も思ったが、それどうなっているんだ……?」
「それが俺にもよくわからないんだ。アイテム化してしまっておけるって言えばわかるか……?」
「ああ、まあ……なんとなく」

 結局のところ、これがどういうシステムでこうなっているのかは俺にもわからないままなんだよな。
 マップ機能とかも合わせて全部勇者召喚に紐づいているものなんだろうが、それが何でこっちでも使えるのかは謎だ。
 それを言ったら俺がこの姿のままなのも謎なんだがな。

 まあいいか。とにかく新手が来ない内にさっさと着替えてしまおう。

「って、待て待てここで着替える気なのか」
「他に着替えられるような場所も無いだろ?」
「それもそうだが……それなら俺は向こうを向いていよう。着替え終わったら言ってくれ」

 そう言いながらトウヤは反対側を向いた。
 何から何まで気を遣わせてしまっている気がする。なんだか申し訳ないな。

 ……と言うかよく考えたら装備変更機能で行けたじゃん。
 まあ今更だ。過ぎてしまったことは仕方ない。

 後はこのズタズタスカートも一応持ち帰っておくか。こういう時アイテムウィンドウがあると荷物が増えなくて便利だな。

「終わったぞ」
「そうか。と言うか随分と速かったな……?」
「ああ、装備を取り出すやつの応用で直に服を変更できるのを忘れていてな」
「そうだったのか。それにしてもその服装……白姫伝承の通りの美しさだ」

 そうか。白姫伝承は俺が白姫として活動した結果生まれたものだから、この格好こそが白姫の正装みたいなものなのか。

「白姫伝承にどう伝わっているかはわからないが、この格好が美しいってのは俺もそう思うからな。どうせならもっと近くで見てもいいぞ」

 やっぱりこの格好が一番しっくりくる。長いことこの装備で戦い続けていたから当然か。
 ほらほら、今の俺は気分が良いからな。髪とか振り乱しちゃうぞ。可愛いだろ? 美しいだろ?

「……なあ晴翔。もしかするが……誰にでもそんな距離感だったりするか?」
「そうだが……それがどうかしたのか……?」
「あぁ、そうなのか……」

 トウヤは頭を抱えながらため息をついていた。
 ……いや、言いたいことはわかる。わかるけどな……お前も美少女になれば嫌でもわかるぞこの気持ちが。
 可愛い姿をほめてもらうとな。なんかこう、ゾクゾクするんだよ。

「まあ、いい。俺も人の事は言えないかもしれんしな。それより着替え終わったのなら奥へ進もう」
「奥……って言ってもここが最奥なんじゃないのか?」

 ダンジョンの最奥にいるボスってのがさっき倒したリーパーマンティスのはずだ。
 それにあんなに大層な扉に守られてたのもいかにもボス部屋って雰囲気がある。

「普通はそうだ。だが世界の調停機能はその仕組みすらも書き換えているらしい。そのせいで最奥であるこの部屋よりもさらにその先が存在している」

 そう言うとトウヤは壁際まで移動し、そこで何かを探し始めた。

「何を探しているんだ?」
「ダンジョンの綻びと呼ばれている物を探している。その先に通路が生成されているはずなんだ」

 綻びか……となると魔力を探知すればワンチャン見つかるかもしれない。
 ……いや駄目だ。この空間自体の魔力濃度が高すぎて細かな綻びなんか探知できそうにない。

 あ、そうだ。その先に通路があるんだったらマップ機能で一発でしょうよ。
 
 ……ビンゴだった。マップを開くとこの空間から一本だけ伸びる道が見えた。

「こっちにあるはずだ」
「わかるのか?」
「ああ、色々とあってな」

 トウヤを連れて道が伸びている場所まで行くと、壁が妙にへこんでいる箇所を発見した。

「これだな。少し離れていてくれ」

 言葉通り壁から離れてトウヤの後ろへと周る。
 すると剣を抜いたトウヤは思い切り壁を斬り始めた。

「よし、開いたな」

 ガラガラと音を立てて壁が崩れたかと思えば、その先にはここに来た時と同じような通路が伸びていた。
 と言うか思ったよりも脳筋な方法だった。もっとこう、秘密の鍵とかそういうのがあるのかと思ったら剣で無理やりって……。

「この先は本当に危険だ。オレたちも映像確認用の魔導カメラを置いてくるので限界だった」
「そんなに強い魔物が?」
「それもあるが、何よりも空気中の魔力が濃すぎるんだ。人の体には有毒過ぎる」

 魔力濃度が濃い……か。トウヤ程の実力者でも警戒せざるを得ないってのはどうなんだ。俺もヤバかったりするのか?
 何にせよあまり長居していい場所じゃあないってのは確実だな。

「覚悟は決めたか」
「ああ、元よりこの奥にいる奴をぶっ飛ばしに来たんだからな」
「そうだな。それじゃ進むぞ」

 トウヤに続いて壁の隙間から通路へと入る。
 ここに来るまでも魔力の濃さは感じたが、ここから先はさらにヤバそうだ。肌がピリピリする。

 一体、どれだけとんでもないのがいるんだろうな。
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