器用貧乏なバトルマジシャン、異世界では最強でした~物理戦闘も魔法も召喚も全て使えれば強いに決まってるでしょう~

遠野紫

文字の大きさ
上 下
76 / 90
第二部 並行異世界地球編

28 脅威再び

しおりを挟む
 あの騒動からしばらくの間、世界は平和そのものだった。
 もちろんそれは良い。平和であるのならそれ以上のことは無いからな。

 ……だがそれが逆に不安だ。
 あれだけの事をして来たのにも関わらず、あれ以降何も起きていない。いくらなんでも平和すぎる。
 あの女性だって諦めるつもりは無いと言っていた。であればまた近い内に何かをしてくる可能性がある。
 警戒しておくに越したことはないだろう。

「どうした晴翔、難しい顔しやがってよぉ」
「あぁ、別になんでもないよ」

 リュウとも色々とあった訳だが、なんだかんだで結局友人同士の距離感に落ち着いたようだ。

「ねえちょっと、あれ見てよあれ!」

 そんな時、エリンがそう叫んだ。よりにもよってその声量を耳元でだ。

「うわっ、急に耳元で叫ぶなよ……」
「だって仕方ないじゃない! あんなの見たこと無いんだもの!」

 エリンはそう言って窓の外に向かって指を刺した。

「……おいおい、マジで言ってんのか」

 窓の外にいたのはあの時の女性……まあそれはまだ良い。どうせまた会うだろうとは思っていた。
 問題なのは……何故かたくさんいたことだろうか。

「浮遊魔法……よね? 使える人なんてほぼいないって言われてるのに、あんなにたくさん……」
「いや、たくさんって言うかよ……全員同じ顔してねえか?」

 その異常性を目にし、最初は呆気に取られていた二人も徐々に冷静さを取り戻しつつあった。
 それと同時にクラスの他の生徒も窓の外の光景に釘付けとなっていた。

「お迎えにあがりました、白姫様」
「白姫……ってなんだ?」
「さあ?」

 当然だが白姫伝承は秘匿されており、生徒が知っているようなものでは無い。

「申し訳ありません、ここでは晴翔様でしたか」

 それに気付いたのかあの女性はご丁寧に俺の本名を出しやがってくれてしまった。

「晴翔……って」
「お前のこと……なのか?」

 すぐ隣にいるエリンとリュウはそう言いながらゆっくりと俺の方を見る。
 どうするべきか。今ここで出て行くのは流石に軽率過ぎる気もする。しかし出て行かなければそれはそれで奴らが何をしでかすかわかったものじゃない。

「仕方がありません。あまり野蛮なことはしたくはありませんが……」

 そう言うと先頭にいた女性の元に魔力が集まって行くのを感じた。
 ほれ見たことか。こうなりゃもう悠長にしている訳にもいかない。

「すまん、ちょっと行って来る」
「はっ!? えっ!?」

 窓を開け、そこから飛び降りる。
 幸いこの世界にはやたら体が頑丈だったりする人もいるから窓から飛び降りるくらいは日常茶飯事だ。

「あぁ、白姫様……再びお会いしてくださったこと、誠に感謝いたします」
「……それで、何の用なんだ」

 わざわざこれだけの人数で学園にまでやってきたんだ。何かしら穏やかじゃない理由があるんだろう。

「先日もお願いした通り、私たちの元に来ていただきたいのです。そしてどうか私共をお導きください」
「またそれか。悪いがそのつもりは無い」
「そうですか……それでは仕方がありませんね。多少強引にでも貴方様を連れて行かなければならないことを、深くお詫びいたします」
「おい、待て……!」

 目の前の女性が手をかざすと共に、強烈な魔力が発せられた。

「マジックプロテクション!」

 咄嗟に学園全体を防御魔法で覆う。
 いや、足りない。この感覚、恐らく魔法だけでは無い未知の系統……マジックプロテクションだけだと完全には防げない!

 同時に他の防御魔法も使えれば良いが……そうだ、複合魔法!
 攻撃魔法以外でも使用できるのなら、可能性はある。

「オールプロテクト……!」

 物理攻撃、魔法攻撃、属性攻撃、状態異常、その全てを10%軽減する中級魔法であるオールプロテクトとマジックプロテクションを複合する。
 オールプロテクトは防げる種類は多いが軽減倍率が低い。マジックプロテクションだけでは魔法由来のものは防げても、逆に言えばそれしか防げない。

 だからその二つを混ぜ合わせ、全てをほぼ完ぺきに防ぐバリアを生成する……!

「……おや、これはこれは」
「はぁ……はぁ……」

 ぶっつけ本番だったが上手くいったようだ。

「まさか今の攻撃を完璧に防いでしまうだなんて……素晴らしいです」
「お前ら、覚悟は出来てるな?」

 俺が防がなければこの辺り一帯が吹き飛んでいた。
 それだけのことをしておきながら目の前の女性は悪びれる様子も無い。きっと、罪悪感なども無いんだろう。

「突然このようなことをしたこと、重ねてお詫びいたします。しかしそうでもしなければ貴方様が私共の元には来てくださらないと考えたのです」
「そもそも、何故俺を……白姫をそこまで求めるんだ」

 彼女らは白姫を崇拝していると言っていた。であれば、それだけの理由が絶対にあるはずだ。

「そうですね……貴方様がどうしてもと言うのであれば、今ここで話してしまいましょうか」

 そう言うと先頭にいた女性は俺の前に降りてきた。

「言っておくが妙なことはするなよ。少しでも変な動きを見せればその瞬間に攻撃を行う」
「えぇ、それで構いませんわ」

 目の前の女性は黒い靄を放ちながらもその奥で柔和な笑みを浮かべてそう言った。
 笑顔だと言うのにそれはとてつもなく不気味なものだった。

「では簡単にお話しいたします。このままでは世界が滅ぶのです」
「……うん?」

 突拍子もなさすぎる。
 と言うか簡単に話すって言っても簡単にし過ぎじゃないか?

「悪いがそこまでだ」
「ッ!!」

 その瞬間だった。

「あら、これだけでも駄目なのですね……」

 目の前で女性の頭が真っ二つに割れたのだった。
 しかしどういう訳か人間的な中身は無く、彼女の断面からはただ黒い靄が出るばかりだった。 

 いや、それはこの際どうでも良い。いやどうでも良くは無いか。
 問題なのはそうなった原因となる一撃だ。
 あまりにも速すぎる攻撃だった。気配を感じてから瞬きをするよりも速くその攻撃は終了していた。

「いきなり悪いな。これに関してはあまり外に出したくは無い情報なんでね」
「……あなたは」

 剣を構えた一人の男がそこには立っていた。
 目を引く紅い長髪に紅い瞳……この特徴を俺は知っている。
 
「エリンのお兄さん……ですね?」
「……ああ、そうだ」
 
 やはりそうか。それこそ性別以外は彼女とそっくりな見た目をしている。
 それにしても妹も合わせて3人皆そっくりだな……って、あれ?
 なんだ、この妙な違和感は。何か重要なことを忘れているような……。

「しかし、なんだ。こうなってから言うのはあれなんだがな……頼む、白姫……いや葛城晴翔。俺たちに力を貸して欲しい」

 突然エリンの兄は頭を下げてそう言って来た。
 何が何だかわからない状況続きだが、恐らくただ事じゃないのは確実だろう。それだけは何とか理解できた。

「まあ、こちらも色々と聞きたいことはありますから。ひとまず話だけは聞きますよ」
「感謝する。それでは案内しよう。俺たちの拠点……白姫教団の拠点へ」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

処理中です...