上 下
71 / 90
第二部 並行異世界地球編

23 対ドラゴン

しおりを挟む
 アリーナ内が絶望に包まれていく中、ドラゴンが再び攻撃の兆候を見せていた。

「不味い……防御魔法は剥がれたばかりだ。再展開にも時間がかかる……万事休すなのか?」

 学園長の焦りは本物だった。これまでのような飄々とした、どこか掴みどころのないそれでは無かった。
 それだけ非常事態と言うことなんだろう。

 こうなったらもう、やるしかないか……。

「悪いなリュウ、少し用事が出来ちまった」
「なっ、今この状況でか!?」
「ああ。けど大丈夫、このまま他の人と一緒に避難してくれ」
「……わかった。絶対に生きてまた会おうな」
「当たり前だ。それじゃ」

 そう言ってリュウと別れた後、アリーナの中心へと向かった。

「晴翔君……君も逃げた方が良い。もっとも、今から逃げてなんとかなるのかもわからないがな」
「いえ、その必要はありませんよ」

 体内の魔力を右手に集中させながら学園長の前へ出る。

「……それで、またハチャメチャに目立つことをしてしまうんですけど……もうこの際しょうがないですよね?」
「それは……いや良い。何か策があるのだろう? 責任なら私が取る。だから思い切りやってくれ」

 学園長の許しも得たので、いっちょ派手にやってしまうとしよう。
 ひとまずは奴の攻撃から皆を守る。こちらから仕掛けるのはそれからだ。

「マジックプロテクション」

 まずはマジックプロテクションをアリーナ全体に発動させ、皆を魔力による攻撃から防ぐ。
 先程の攻撃でわかったが、ドラゴンのブレスは半分くらいが魔力で構成されているようだからな。これだけでも威力を半減できる。

 さらに念には念を入れて、ブレス攻撃自体をかなり上空で爆発させるとするか。

「フレイムスピア……!」

 右手に集めた魔力を凝縮し、一本の炎の槍を作り出す。
 中級魔法とは言え、攻撃範囲を代償にしているからか射程と威力は上級魔法に匹敵する。コイツならあのドラゴンのブレスを射抜けるはずだ。

「……今だ!」

 ドラゴンがブレス攻撃を行ったと同時に上空へ向かって炎の槍を飛ばす。
 そしてそれは放たれたブレスに接触し、盛大に爆発させた。余波こそ地上に届いているものの、直接的な被害は無いだろう。

「……凄まじい威力だな」
「そうでしょう? 俺の本気の一撃ですからね」

 もちろん嘘だ。だがこう言っておけばこれ以上の詮索はされにくくなる……はず。

 っと、このまま悠長にしている場合じゃないな。
 このまま攻撃を許していたらこちらがジリ貧なのは変わらない。やっぱりドラゴンを直接叩かないと戦いは終わらないか。

「フレイムスピア!」

 もう一度フレイムスピアを発動させて炎の槍を作り出し、ドラゴンへと向けて跳ばす。
 ブレスの予備動作も無いし命中するはずだ。

「よし、やったか」

 予想通り炎の槍は奇麗に命中し、着弾すると共に派手な燃焼を引き起こした。
 いくらクソ強いドラゴンと言えどあれだけの熱量に晒されれば流石にダメージを負うはず……。

「あ、あれ……?」

 だが現実は違った。炎と煙が晴れた時、ドラゴンは結構ピンピンしていた。
 正直想定外だ。もう少しダメージが入るものだと思っていたが……。

「これほどの魔法でも駄目なのか……。はっ、ははっ……どうやら私たちは大きな勘違いをしていたようだな」
「が、学園長……?」

 突然学園長が笑い始めた。状況が状況だし、とうとう狂ったか?

「人間がどれだけ強力な魔法技術を持とうが、生物としての格が違い過ぎれば勝ち目が無い……。考えてみればわかることだった。だが……」

 そう言うと学園長は杖を握り直し、それをドラゴンに向けた。

「どうせなら最後まで足掻いてやろうじゃないか」

 どうやら戦意喪失という訳では無いようだ。とは言え、これは思った以上に厄介そうだぞ。
 威力だけで言えば上位魔法に匹敵するフレイムスピアが効かないとなるともう超級魔法しか……いやでも流石に威力がデカすぎて最悪他の場所に被害が出る。

 そもそもドラゴンに炎が効きずらいってだけかもしれない。アーステイルのゲームでもドラゴンは炎属性で設定されていた。
 この場合、水属性ダメージが上昇するんだったか……けどこれはあくまでゲームの設定だしな。この現実世界においてあのドラゴンにもその仕様が通用するとは到底思えない。

 と言うかあの高さを狙える高威力な魔法だと結局被害が拡大しそうで軽率に使えないし。
 ああ、向こうの世界って魔法を使いやすい環境だったんだな……。

 ……さて、困ったぞ。元はと言えば俺の使える魔法に「中威力以上、超高威力以下」のちょうど間が全く無いせいではあるんだけども。

「晴翔君、君に頼みがある」
「何でしょうか?」
「一つ試したいことがあるんだ。複合魔法と言うのだけどね」

 複合魔法……聞いたことの無い概念だった。
 恐らくアーステイルの世界には無く、この世界独自の概念なんだろう。

「これは魔法同士を組み合わせることで威力や射程を遥かに向上させることが可能になるという技術でね。私と晴翔君程の術者の魔法を組み合わせれば、それはもう相当な物になるはずだ」
「そんなものが……なら早速やりましょう!」

 そんな便利な物があるのなら最初から言ってくれって感じだが、まあそれが出来ない理由が何かしらあるってのがこの世界の常だしな。

「そうだな……だけど一つ、難点があるんだ」

 やっぱりあるのか……。

「この複合魔法は両者ともに膨大な魔力を消費する。失敗すれば暴走を引き起こし、誘爆するだろう。私と君の複合魔法ともなれば失敗時のリスクも大きい。だが成功すれば確実に……とは言えないが、あのドラゴンを葬ることができる可能性は高いはずだ」

 複合魔法か。威力上昇がどれくらいなのかにもよるが、今ここで提案してきたってことは少なくとも失敗さえしなければこの辺り一帯が吹き飛ぶなんてことは無さそうだ。

「わかりました。やりましょう」
「そう言うと思っていたよ」

 学園長は既に魔法発動の準備を進めていた。俺が乗って来るのは最初からわかっていたんだろうな。
 いや、どちらにせよ乗ってこなければ彼女一人でも攻撃を続ける気だったか。通用しなくとも最後まで足掻き続ける。それこそが人間の意地って奴なのか。
 ……正直向こうでの俺はあまりにも強すぎて忘れていた感覚な気がする。

「行くぞ晴翔君! レッド・エクスプロージョン!」
「ええ、やってやりましょう! フレイムスピア!」

 互いの発動した魔法が前方で混じり合っていく。俺と学園長の魔力が溶けあっていくのを感じる。

「ぐっ、凄まじい魔力だ……だが! 成功させて見せよう!」
「ッ!!」

 二人の魔力が一つになったと感じたその時、真っ赤だった炎の塊は青く変色し、凄まじい勢いでドラゴンの方へと飛んで行った。

「成功だ……!」

 これで終わる。
 そう思ったのもつかの間、俺たちが放った魔法はドラゴンに命中する直前で爆ぜたのだった。

「なん、だと……?」

 学園長の顔が青くなっていく。彼女程の人間であってもこれほどに想定外が続くとまともではいられないんだろう。

 しかし妙だ。何か不自然だった。
 ドラゴンはブレスを放った訳では無かった。それよりも何かをした素振りすら無かった。
 まるで無から爆発したかのような、そんな印象だった。

 ……これ以上あのドラゴンを放っておくのは危険な気がする。直感でしかないが、そう感じた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

最強の職業は付与魔術師かもしれない

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された5人の勇者。彼等は同じ高校のクラスメイト同士であり、彼等を召喚したのはバルトロス帝国の3代目の国王だった。彼の話によると現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が世界各地に出現し、数多くの人々に被害を与えている事を伝える。そんな魔王軍に対抗するために帝国に代々伝わる召喚魔法によって異世界から勇者になれる素質を持つ人間を呼びだしたらしいが、たった一人だけ巻き込まれて召喚された人間がいた。 召喚された勇者の中でも小柄であり、他の4人には存在するはずの「女神の加護」と呼ばれる恩恵が存在しなかった。他の勇者に巻き込まれて召喚された「一般人」と判断された彼は魔王軍に対抗できないと見下され、召喚を実行したはずの帝国の人間から追い出される。彼は普通の魔術師ではなく、攻撃魔法は覚えられない「付与魔術師」の職業だったため、この職業の人間は他者を支援するような魔法しか覚えられず、強力な魔法を扱えないため、最初から戦力外と判断されてしまった。 しかし、彼は付与魔術師の本当の力を見抜き、付与魔法を極めて独自の戦闘方法を見出す。後に「聖天魔導士」と名付けられる「霧崎レナ」の物語が始まる―― ※今月は毎日10時に投稿します。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

処理中です...