器用貧乏なバトルマジシャン、異世界では最強でした~物理戦闘も魔法も召喚も全て使えれば強いに決まってるでしょう~

遠野紫

文字の大きさ
上 下
58 / 90
第二部 並行異世界地球編

10 思わぬ再会

しおりを挟む
 ……朝か。また普通の今日が始まった……ら良いな。
 って、これが希望的観測になるのはなんか嫌だな。せっかくこの安全な世界に戻ってきたって言うのに。
 向こうだと「朝起きたら街が襲われていた」みたいなのが何回かあったし、俺自身は大丈夫でも街のために気を張ることは多かった。

 とりあえず当たり前の平和に感謝しつつ、いつもの朝を送ろう。
 そうだ、休日だし朝の身支度のついでに溜まったゴミも出しておくか。

「よいしょっと……あぁ、クソッ」

 相変わらず微妙に身長が足りないせいでゴミ袋を入れるのが難しい。
 こんなことになるならもう少し年齢の高いキャラにするべきだったかもしれない。

「あれ……」

 背伸びやジャンプを駆使しながら四苦八苦してマンションに設置されたごみ箱にゴミ袋を入れ終わると同時に、後ろから声が聞こえてきた。
 けどこの声どこかで……。

「HARU……?」
「……!」

 声の主は間違いなく俺の事をHARUと呼んだ。
 だがそれは普通に考えておかしい。HARUは俺のアーステイルにおけるキャラ名だ。この世界でその名前を知る者は3人しかいない。
 しかし逆に言えばその3人であれば、俺の事を知っているということになる。

「……やっぱり」

 ゆっくりと振り向く。するとそこにはあの時、空間の歪みに飛び込んだ後に出会ったクリムゾン……須見桜がいた。

「クリムゾン……なのか?」
「やっぱりHARUなんですね……!」
「うぉぁっ!?」
 
 俺の言葉を聞くなり桜は抱き着いてきた。

「もう会えないのかと思ってました……!」
「俺も、どうやって探そうかと思ってたよ。けど、まさかこんなにすぐに会えるとは……」

 泣き始めてしまった桜を慰めるように、やさしく彼女の頭を撫でる。
 しばらくの間そのままでいると、落ち着いてきたのかゆっくりと俺から離れたのだった。

「その、いきなりすみません」
「いえいえ、こうなっても仕方ないような状況ではあるから」
「それでどうしてHARU……いえ、晴翔はその姿なんですか?」

 ああ、そうだった。彼女に出会えたことに完全に意識を持っていかれていたが、よく考えたら彼女の方は元の姿になっているんだよな。
 でもそれに対して俺はキャラとしてのHARUの姿だ。一体何が違うのだろうか。

「それについては俺もわからないんだ。こっちに戻ってきた時にはもうこの姿だったとしか言えないな」
「そうなんですか……ここで立ち話もあれですし、私の部屋に来ますか?」
「それはありがたいけど、こんな姿でも俺の中身は男なんだぞ……?」
「構いませんよ。元より向こうの世界でも晴翔のことは男としても意識していましたし」

 ……まあ彼女がそう言うのならそれでいいか。

 そうして桜に案内されるがままに部屋まで付いて行くと、これまた驚いてしまった。
 何しろ俺の住んでいる部屋と同じ階だったんだからな。

 そうか。そうだった。
 須見と言う苗字にどこか見覚えがあったのは当然か。集合ポストにあったんだから。
 偶然にも彼女とすれ違ったことは無かったからここまで気付けなかったのか。せめて一度会っていればなぁ……。
 まあ今こうして出会えた訳だし、今さら考えても仕方ないことではあるんだよな。

「どうぞ」
「……お邪魔します」

 桜に促されるままに彼女の部屋へと入る。
 部屋の間取りこそ俺の部屋と変わらないが、オシャレなインテリアで要所要所が飾られているからか全く別物に感じる。
 それ以上に女性の部屋に上がるのが初めてなせいで心臓が……。

「晴翔? どうかしましたか?」
「あ、いや、何でもない」

 こういう時はとりあえず部屋を褒めてみよう。

「い、良い部屋だね」
「ふふっ、ありがとうございます。飲み物はコーヒーで良いですか?」
「はっ、はい」

 部屋に上げてもらうだけでは無く、コーヒーまでいただいてしまって良いのだろうか。

 その後少ししてコーヒーカップを二つ持った桜がやってきた。

「どうぞ」
「ありがとうございます。いただきます」
「なんだか緊張してます?」
「それは、まあ……はい」

 流石に挙動不審過ぎたのか速攻でバレてしまった。
 この魔物を相手にするのとはまた違う緊張感には俺は弱いみたいだ。

「あまり緊張しなくても良いんですよ? 私たち結構昔からの仲じゃないですか」
「それは……そうだね」

 向こうにいた期間だけでも数年間は一緒にいたし、ゲーム時代の関わりも含めたらかなり長いこと彼女と関わっているのは確かだ。
 けどそれとこれとは別な気がする。

「こうして会えたわけですし、色々と話したいことはありますが……何から話しましょうか」
「じゃあまず俺から、こっちに帰って来てからの事を話しておくよ」
 
 こっちで生き返ってから魔法学園に通うことになったこと、そこであった事などを桜に話した。
 すると先程の俺と入れ替わるように、今度は桜の方が驚いていた。

「東都魔法学園……ですか。確か有名な魔法大学でしたっけ。実は今度魔物ハンターとして授業のお手伝いをすることになっているんです」
「……え?」

 耳を疑った。あの桜が魔物ハンターとして……?
 向こうでも魔物と戦うことはあまり無かったはずだが、一体どうしてなんだ?

「魔物ハンターって、あの魔物ハンターなのか?」
「ええ、でも前線で戦う方とは違って私はサポートを行う後衛なんです。どういう訳かこっちに来てからも能力はそのままだったんですけど、それを知ったハンター協会の方にお誘いを受けまして」

 ハンター協会か。魔物ハンターを束ねる組織であり、魔物を狩るためにハンターや他の組織に色々な協力を行っていたはずだ。
 確かにそんな組織が勇者としての俺たちの力を知ったら……まあまず放ってはおかないだろうな。

「けど、後方とは言え桜が魔物ハンターになるなんてな」
「私も魔物は怖いですし、戦うのも得意では無いですけど……それでも一人でも私の力で救えるのなら、私はこの力を使って助けたいんです」

 桜の顔は本気のそれだった。
 少なくとも流されて仕方なくとか、誰かに脅されているとかでは無かった。間違いなく自らの意思で戦うことを選んでいる。そんな顔だった。
 
 であれば俺が否定する訳にもいかないだろう。

「そうだったのか。それなら俺も応援するよ」
「ありがとうございます。それで、あの……」
「うん?」

 桜は視線を泳がせながら何かを言いたそうにしていた。

「どうしたんだ?」
「えっと、実はこっちに来てからずっとHARU成分が足りていないって言うんですかね。そんな状態でして」
「HARU成分」

 HARU成分。

「ああ、もう我慢できません!」
「んぉぁっ!?」 

 それは一瞬のことだった。気付けば俺は彼女に抱きかかえられていた。
 桜の言う通り、向こうでの能力がこっちでもそのままなのは間違いが無い。そんな身体能力を感じさせる速度で俺は抱きかかえられてしまっていたんだから。

「はぁぁっ! これ、これです。この柔らかさと温かさからしか得られない栄養素があるんです!」
「ちょ、ちょっと待っ」

 ヤバイ、近い!
 クリムゾンとはまた違う系統の美人さを感じる桜の顔が目の前に……!

「はぁっはぁっ晴翔には悪いですけど、この姿のままで私は嬉しいですよ……!」

 この状況で言われても素直に喜べない……!
 ああ、さっきとは逆に俺が桜に撫でまわされている。けど状況が違い過ぎる……!
 俺は慰めようとしていたが今の桜の手は何かこう、良くないものを感じる……。

「あっ、待て待ってくれそこは……」
「大丈夫です晴翔、小さくても触り心地は良い物ですよ」
「だ、駄目だっ。あっぁぁっ……!」

 ……俺は今後桜と接していくうえで、果たして男としての尊厳を保てるのだろうか。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

処理中です...