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第一部 異世界アーステイル編
48 そして元の世界へ
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「偉大なる勇者様方。本当にありがとうございました」
……気付けばあの世界に行く前にいた真っ白な空間だった。
同じように目の前にはあの時の女神様がいる。もっとも本当に女神様なのかはわからないんだけども。
「貴方たちのおかげで闇の勢力は力を失い、人類は救われました」
闇の勢力は力を失った……か。結局あの魔龍を倒したことであの世界、いやあの世界に生きる人類は救われたってことで良いんだよな。
それなら心残り無く……いや、無いことは無いけども。それでも少しはスッキリした気分で元の世界に戻れるってもんだ。
そう言えば他の皆はちゃんと元の世界に戻れるのだろうか……。
不安になって辺りを見回すと、空を見つめている状態の見知らぬ女性と少女が一人、そして見知った顔の青年が一人立っていた。
そうか、アルスは元の世界において体を持たないからあの姿のままってことだな。
「もしかして、あなたがHARU?」
と、そこで一人の少女が話しかけてきた。
「……君が、RIZEなのか?」
確証はない。だが何となく雰囲気でそう思った。
「うん、そうだよ。私はRIZE……本名は陽、日乃本陽」
「陽……うん、覚えた。そうだ俺も名乗らないとな。俺は葛城晴翔、元の世界でもきっといつか会おう」
「晴翔……約束だよ」
彼女と指切りをする。
彼女の元の体の事を考えると向こうの世界の方が自由に動けるだろうし、こっちでは日の下を走り回ることも出来ないはずだ。
それでも戻ることを選んだ彼女の選択と覚悟は無駄には出来ない。
「ぅっぁ……あれ、ここは……って、もしかしてRIZEちゃんとHARUさん!?」
どうやら遅れてクリムゾン……も気付いたようだ。
クリムゾンであってるよな?
「二人も元の世界に戻ることにしたんですね。私も向こうのお店とか気になることはありますけど、それでも私の故郷はこっちですから……」
彼女も彼女でかなり難しい選択を迫られたのだろう。それでも元の世界を選んだ。それだけなんだ。
「うん。あ、そうだ。クリムゾンも名前聞いて良い?」
「名前……と言うのは本名のこと? いいよ。私は須見桜。よろしくね」
須見……どこかで聞いたような。
「それでそちらの方が……」
「あ、ああっ俺が晴翔……葛城晴翔」
「それで私が日乃本陽」
「陽ちゃんに晴翔さん。……向こうでも会えるかはわかりませんが、よろしくお願いしますね」
そうだ。会える確証はない。名前を知ったところでどこに住んでいるのかもわからないんだ。
けど、会う努力はするさ。それでいつか絶対に辿り着く。
[報告、メッセージが届いています]
うわびっくりした。まだナビの機能は生きているのか。
それにしてもこんな時にメッセージ?
……とりあえず開いてみるか。
メッセージ一覧を確認すると他のプレイヤーからいくつか届いていた。
まずはレイブンのもの。どうやら彼が最後の瞬間に全員に、空間の歪みや俺が元の世界に戻ることについてメッセージを送ってくれたようだ。
こんな時だってのにそれ以外の事は書いていない辺りが彼らしいと言えば彼らしいな。また会えたら良いとは思うが……それはきっと叶わないんだろう。
次に武神君とジャガバタ。彼女たちは元の世界に帰らずにあの世界で生きることにしたらしい。
色々と葛藤があったことの想像は難くない。しかしこれは彼女たち自身がした判断だ。俺が外からどうこう言える話でもないよな。
それと次は狂夜か。なるほど、エランと共に生きることにしたから元の世界には帰らない……ね。アイツも何だかんだあんな感じでしっかり男らしい所あるんだよな。
そして最後はアリス。彼女もあの世界に残り、無垢な人々を守り続けることを選んだらしい。
自分の犯した罪を償うため……か。凄い覚悟だ。白姫なんて呼ばれて浮かれていた俺なんかよりも遥かに立派だな。
「それでは勇者様方。あなた方の未来を私は祈っています」
女神がそう言うと、視界がだんだんと白くなり始めた。
……ああ、これで本当に終わったんだ。
元の世界に帰ったら異世界に行く前の元通りの生活が始まる。
これで目が覚めたら俺の部屋に……。
――――――
「はっ……!?」
戻ってきた……って、ここはどこだ!?
見慣れた俺の部屋では無いのは確かだ。真っ暗でどこに何があるのかもわからない。
ひとまず灯りが欲しいが……あれ、ちょっと待て何だこれ。
どうやら狭い何かに閉じ込められているのかすぐ横に壁があり、同じように上には天井があった。
まるで箱か何かだな……。細長くて暗い箱の中に閉じ込められるって何かで聞いたことあるような……あ。
……気付いてしまった。これ、棺桶では?
いやいや落ち着け。何で俺が棺桶に入る必要がある? だって俺は異世界に行く前に確かに自分のベッドで寝たぞ……!?
おいおい洒落にならないって! せっかく元の世界に戻ってきたのにこのままここで惨めに死ぬってのか!?
「頼む! 誰か助けてくれぇ!!」
大声で助けを求めるが、外からの反応は無い。このままだと絶対に不味い。そもそも今どの状態なんだ!? 周りに人がいないんならもう葬儀は終わってるのか!?
……待て、今出した俺の声……おかしく無かったか?
「あーぅぁっ!?」
……嫌な汗が全身から噴き出る気がする。
これはこんなところに閉じ込められていることからでは無い。何故か声が、女の子のそれなんだ。
それも聞き覚えのあるものだ。具体的には向こうの世界でのHARUの体のそれだった。
まさかと思いゆっくりと体を触ってみる。
髪はサラサラで長い。ほっぺたはモチモチ。そして胸元には小さいながらもしっかりと柔らかい双丘があった。
間違いない。今の俺はHARUだった。
「どうして……」
思わずどこぞの猫のような言葉を口からこぼしてしまう。だが実際そうなってもおかしくはない状況だろうこれは。
元の世界に戻ってきたのに姿が変わっていないとか、どうなっているんだよ!?
「うぉっ!?」
と、そんな時俺が今入っている箱が動いた気がした。
「何だ!?」
同時に突然辺りが赤く染まって行く。
「おいおいおい待て待て待ってくれ!?」
……どうやら最悪のタイミングだったらしい。これから燃やすところなんだ。
ああ、元の世界に戻ってばかりであの世行きか。俺の命ももはやこれまで。辞世の句でも呼んだ方がいいかな。
……とかなんとか思いながら数分が経った。おかしい。周りの箱は燃えているのに、俺が一切燃える気がしない。
それどころか熱もほんのり温かいくらいにしか感じない。
これ、もしかしてHARUのステータスまで引き継いでいるのか?
「ぅっ」
再び台が動く。何だ、まだ中途半端にしか燃えていないような……そうか、俺が生きていることに気付いてくれたのか!
その予想は正しく、しばらくしてから外の光が見え始めた。
そしてそのまま外まで移動させられた。
「ど、どういうことなんだこれは……」
「その、俺もよくわかりません」
恐らく火葬技師とかそう言う役職の人なのだろうが、俺を見るなり顔を青くして別の所に行ってしまった。
うーん、流石にこの状態でぶらぶらと出歩く訳にも行かないしここで待つとするか……。
「晴翔……晴翔なの!?」
「か、母さん!?」
どこからか聞き覚えのある、それでいてしばらく聞いていなかった声が聞こえてくる。
紛れもなく母さんのものだ。けど今の俺はこんな姿で晴翔のそれとは全然違って……。
「ぶわっ」
「よかった、生きていてくれて……!」
「うぇっ!?」
……この姿に全く疑問を抱いていない?
「どうなってるのかはわからないけれど、あなたが生きていてくれるのならそれだけで良いのよ……!」
……俺自身も何が起こっているかはわからないが、それを考えるのは後で良いや。
今はただ一言、言わないといけないことがある。
「ただいま母さん」
これでやっと本当に、俺の異世界での戦いは終わったんだ。
[器用貧乏なバトルマジシャン、異世界では最強でした~物理戦闘も魔法も召喚も全て使えれば強いに決まってるでしょう~]
第一部 異世界アーステイル編 完
……気付けばあの世界に行く前にいた真っ白な空間だった。
同じように目の前にはあの時の女神様がいる。もっとも本当に女神様なのかはわからないんだけども。
「貴方たちのおかげで闇の勢力は力を失い、人類は救われました」
闇の勢力は力を失った……か。結局あの魔龍を倒したことであの世界、いやあの世界に生きる人類は救われたってことで良いんだよな。
それなら心残り無く……いや、無いことは無いけども。それでも少しはスッキリした気分で元の世界に戻れるってもんだ。
そう言えば他の皆はちゃんと元の世界に戻れるのだろうか……。
不安になって辺りを見回すと、空を見つめている状態の見知らぬ女性と少女が一人、そして見知った顔の青年が一人立っていた。
そうか、アルスは元の世界において体を持たないからあの姿のままってことだな。
「もしかして、あなたがHARU?」
と、そこで一人の少女が話しかけてきた。
「……君が、RIZEなのか?」
確証はない。だが何となく雰囲気でそう思った。
「うん、そうだよ。私はRIZE……本名は陽、日乃本陽」
「陽……うん、覚えた。そうだ俺も名乗らないとな。俺は葛城晴翔、元の世界でもきっといつか会おう」
「晴翔……約束だよ」
彼女と指切りをする。
彼女の元の体の事を考えると向こうの世界の方が自由に動けるだろうし、こっちでは日の下を走り回ることも出来ないはずだ。
それでも戻ることを選んだ彼女の選択と覚悟は無駄には出来ない。
「ぅっぁ……あれ、ここは……って、もしかしてRIZEちゃんとHARUさん!?」
どうやら遅れてクリムゾン……も気付いたようだ。
クリムゾンであってるよな?
「二人も元の世界に戻ることにしたんですね。私も向こうのお店とか気になることはありますけど、それでも私の故郷はこっちですから……」
彼女も彼女でかなり難しい選択を迫られたのだろう。それでも元の世界を選んだ。それだけなんだ。
「うん。あ、そうだ。クリムゾンも名前聞いて良い?」
「名前……と言うのは本名のこと? いいよ。私は須見桜。よろしくね」
須見……どこかで聞いたような。
「それでそちらの方が……」
「あ、ああっ俺が晴翔……葛城晴翔」
「それで私が日乃本陽」
「陽ちゃんに晴翔さん。……向こうでも会えるかはわかりませんが、よろしくお願いしますね」
そうだ。会える確証はない。名前を知ったところでどこに住んでいるのかもわからないんだ。
けど、会う努力はするさ。それでいつか絶対に辿り着く。
[報告、メッセージが届いています]
うわびっくりした。まだナビの機能は生きているのか。
それにしてもこんな時にメッセージ?
……とりあえず開いてみるか。
メッセージ一覧を確認すると他のプレイヤーからいくつか届いていた。
まずはレイブンのもの。どうやら彼が最後の瞬間に全員に、空間の歪みや俺が元の世界に戻ることについてメッセージを送ってくれたようだ。
こんな時だってのにそれ以外の事は書いていない辺りが彼らしいと言えば彼らしいな。また会えたら良いとは思うが……それはきっと叶わないんだろう。
次に武神君とジャガバタ。彼女たちは元の世界に帰らずにあの世界で生きることにしたらしい。
色々と葛藤があったことの想像は難くない。しかしこれは彼女たち自身がした判断だ。俺が外からどうこう言える話でもないよな。
それと次は狂夜か。なるほど、エランと共に生きることにしたから元の世界には帰らない……ね。アイツも何だかんだあんな感じでしっかり男らしい所あるんだよな。
そして最後はアリス。彼女もあの世界に残り、無垢な人々を守り続けることを選んだらしい。
自分の犯した罪を償うため……か。凄い覚悟だ。白姫なんて呼ばれて浮かれていた俺なんかよりも遥かに立派だな。
「それでは勇者様方。あなた方の未来を私は祈っています」
女神がそう言うと、視界がだんだんと白くなり始めた。
……ああ、これで本当に終わったんだ。
元の世界に帰ったら異世界に行く前の元通りの生活が始まる。
これで目が覚めたら俺の部屋に……。
――――――
「はっ……!?」
戻ってきた……って、ここはどこだ!?
見慣れた俺の部屋では無いのは確かだ。真っ暗でどこに何があるのかもわからない。
ひとまず灯りが欲しいが……あれ、ちょっと待て何だこれ。
どうやら狭い何かに閉じ込められているのかすぐ横に壁があり、同じように上には天井があった。
まるで箱か何かだな……。細長くて暗い箱の中に閉じ込められるって何かで聞いたことあるような……あ。
……気付いてしまった。これ、棺桶では?
いやいや落ち着け。何で俺が棺桶に入る必要がある? だって俺は異世界に行く前に確かに自分のベッドで寝たぞ……!?
おいおい洒落にならないって! せっかく元の世界に戻ってきたのにこのままここで惨めに死ぬってのか!?
「頼む! 誰か助けてくれぇ!!」
大声で助けを求めるが、外からの反応は無い。このままだと絶対に不味い。そもそも今どの状態なんだ!? 周りに人がいないんならもう葬儀は終わってるのか!?
……待て、今出した俺の声……おかしく無かったか?
「あーぅぁっ!?」
……嫌な汗が全身から噴き出る気がする。
これはこんなところに閉じ込められていることからでは無い。何故か声が、女の子のそれなんだ。
それも聞き覚えのあるものだ。具体的には向こうの世界でのHARUの体のそれだった。
まさかと思いゆっくりと体を触ってみる。
髪はサラサラで長い。ほっぺたはモチモチ。そして胸元には小さいながらもしっかりと柔らかい双丘があった。
間違いない。今の俺はHARUだった。
「どうして……」
思わずどこぞの猫のような言葉を口からこぼしてしまう。だが実際そうなってもおかしくはない状況だろうこれは。
元の世界に戻ってきたのに姿が変わっていないとか、どうなっているんだよ!?
「うぉっ!?」
と、そんな時俺が今入っている箱が動いた気がした。
「何だ!?」
同時に突然辺りが赤く染まって行く。
「おいおいおい待て待て待ってくれ!?」
……どうやら最悪のタイミングだったらしい。これから燃やすところなんだ。
ああ、元の世界に戻ってばかりであの世行きか。俺の命ももはやこれまで。辞世の句でも呼んだ方がいいかな。
……とかなんとか思いながら数分が経った。おかしい。周りの箱は燃えているのに、俺が一切燃える気がしない。
それどころか熱もほんのり温かいくらいにしか感じない。
これ、もしかしてHARUのステータスまで引き継いでいるのか?
「ぅっ」
再び台が動く。何だ、まだ中途半端にしか燃えていないような……そうか、俺が生きていることに気付いてくれたのか!
その予想は正しく、しばらくしてから外の光が見え始めた。
そしてそのまま外まで移動させられた。
「ど、どういうことなんだこれは……」
「その、俺もよくわかりません」
恐らく火葬技師とかそう言う役職の人なのだろうが、俺を見るなり顔を青くして別の所に行ってしまった。
うーん、流石にこの状態でぶらぶらと出歩く訳にも行かないしここで待つとするか……。
「晴翔……晴翔なの!?」
「か、母さん!?」
どこからか聞き覚えのある、それでいてしばらく聞いていなかった声が聞こえてくる。
紛れもなく母さんのものだ。けど今の俺はこんな姿で晴翔のそれとは全然違って……。
「ぶわっ」
「よかった、生きていてくれて……!」
「うぇっ!?」
……この姿に全く疑問を抱いていない?
「どうなってるのかはわからないけれど、あなたが生きていてくれるのならそれだけで良いのよ……!」
……俺自身も何が起こっているかはわからないが、それを考えるのは後で良いや。
今はただ一言、言わないといけないことがある。
「ただいま母さん」
これでやっと本当に、俺の異世界での戦いは終わったんだ。
[器用貧乏なバトルマジシャン、異世界では最強でした~物理戦闘も魔法も召喚も全て使えれば強いに決まってるでしょう~]
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