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第一部 異世界アーステイル編

42 復讐と覚悟

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 どうやら俺たちは偶然にもアリスが指名手配される原因となった街の跡地に転移してしまったようだ。
 恐らく転移先を指定せずに転移してしまったのが原因だろう。

「しばらく来ていなかった内に……こんなことになってたんだ……」

 辺りは完全に草木に覆われ、とてもここに人の営みがあったとは思えない状態となっていた。
 勇者として呼ばれてからもうそれだけの時が経っているということを感じさせるな。……いや、彼女の超級魔法が暴走して消えたってことは何も残っていないのは当然なのか。

 そう言えばアリスは魔法が暴走した時に自分以外の微弱な魔力反応があったと言っていたっけか。
 もう流石に残ってはいないだろうけど、一応確認だけはしてみるか。

 ナビ、この辺りに残っている魔力反応はあるか?

[……報告、ここから十数メートル離れた地点に微弱な魔力反応を確認しました。形質的に魔法生物の残したものでは無く、人間によって構築された魔術式のようです]
「何だって!?」
「うわっどうしたのHARU!?」

 しまったつい声が出てしまった。

「いえ、アリスさんが言っていた微弱な魔力反応をナビ……いえナビゲーションシステムに確認してもらったんですが、どうやら何かあったようです」
「えっナビゲーションシステムっそう言う事も出来たの!?」

 少し前の俺と同じ反応をしている……。やっぱ説明不足だよな儀式魔法とやらは。ナビゲーションシステムに色々な機能が付いているなら説明して欲しいものだよ。

「それで、魔力反応があったっていうのは?」
「こっちみたいです」

 アリスを連れてその反応があったと言う所へ向かう。
 するとそこだけ何故か植物が生えておらず地面がむき出しになっていた。

「ここみたいですけど、どう見ても怪し過ぎますね」
「そうね。ここだけ奇麗に草が生えてないもの」

 何かある。それは確実なんだろうけど、問題はその何かを知覚出来無いということだろう。
 どうしたら良いのか。

「あれ、これって……」
「何か見つけたんですか?」

 アリスは何かに気付いたようだった。何だろうか。もしかして彼女がエレメンタルウィザードであることが関係しているのか?

「これ……魔術式だ。結構複雑で……しかも組まれてからかなり経ってる……」
「魔術式……」

 そう言えばさっきもナビが魔術師と言っていた。だが俺は魔術式が何なのかは知らない。ならまあ、聞いた方が速いな。
 
 ナビ、魔術式とはなんだ?

[魔術式とは魔術師が組んだ自立発動型の魔法の総称です。魔力さえあればどのような場所環境でも動作させることが可能となり、遠隔で発動させたい時などに多く使用されます]

 それってつまり……。

「アリスさんは何者かに嵌められた……?」
「状況から見たら、そうなるのかも……でも、どうして……」
「アリスさん!?」

 突然その場で崩れ落ちてしまうアリス。……いや、無理もないか。

「何で、私は皆のために戦ってただけなのに……いや、駄目駄目こんなことしてる場合じゃない! ふぅ、こうしちゃいられない……! 街を消したのは確かに私だけど、それを狙った者がいるってことでしょ。私、許せない……!」

 ふんぎりがついたのか己を鼓舞するようにしてアリスは立ち上がった。
 その表情はさっきまでのような不安げで過去を引きずるそれでは無かった。復讐……と言えばいいのだろうか。
 だが良いじゃないか。ずっと後ろを向いているよりかはずっと良い。

「それなら俺も協力しますよ。けど、魔術式を組んだ者に心当たりがあったりするんですか?」
「改めて確認して気付いたんだけど、この魔力には覚えがあるの……私に宮廷魔導士になることを迫った王の臣下にこれと同じ魔力の持ち主がいた」
「それじゃほぼ黒じゃないですか。でもこれだけだとまだ証拠が足りないですよね……」

 状況証拠でしか無いものの、これはもう確実と言って良いだろう。
 あとはどうやって確実な証拠を手に入れるかだが……。

「大丈夫、証拠なんていらないから」
「えっ?」
「力でねじ伏せれば解決するわ」
「それは……もう少し手心と言うか何と言うか……」

 ああ駄目だアリスの雰囲気がレイブンとかアルスとかと同じ感じになっている。そして俺はこの感じを知っている。覚悟がヤバイ人のそれだ。
 ……これもう俺が何を言っても聞かなそうだ。

「HARU、確か転移アイテムを使えば直接街に行けるのよね」
「そうですけど……えっもしかして今まで一度も使っていなかったんですか?」

 ああそうか、だから彼女はずっと追われる生活を続けていたんだ。
 転移アイテムを知っていればすぐに転移して逃げてしまえば良い。それをしなかったのにはてっきり何か理由があるんだと思っていたけど、単純に使い方がわからなかっただけなのか……。
 ナビゲーションシステムも教えてあげればいいのに。

「それじゃあ私は行くわ」
「ま、待ってください。それなら俺も」
「それは助かるけど、私と行動したらあなたにまで変な噂が立ってしまうわ。それはあまり良くないと思うの」
「確かにそうですね……けどここまで知ってあとは放っておいてサヨナラというのも寝覚めが悪いと言うか……」
「それもそうね……」

 ここから先は彼女に任せた方が、少なくとも白姫としては正しいのだろう。
 変な噂が立って白姫としての活動に影響が出ると困るのは確かだ。
 けど、それはそれとして俺は……白姫では無く俺自身は少しでも彼女を助けたい。

「そうだ。それなら貴方、防御系魔法は使える?」
「防御魔法ですか? 上級までのならいくつか……」
「良かった。それなら少しだけ協力してもらおうかな。じゃあ向こうに着いたら私の作戦を伝えるから、こっち来て」
「うぉっ……!? ぶわっ!」

 無理やり引っ張られてバランスを崩し、彼女と肉薄することとなってしまった。いくら魔法職と言えどレベルのおかげでそれなりの身体能力はあるのだ。
 さらにはその際に彼女の腹部に顔が埋もれてしまい、そのまま身動きが取れないまま転移してしまったようだった。 

「着いたわ。ここがヒガシハージ王国。あの王が統べている国……って、HARU?」
「いえ、大丈夫です……」

 どうやら彼女は気付いていなかったようだが、俺には完全に彼女の肌の柔らかさが伝わってきていた。
 意識してしまうと色々と不味い……と言うか彼女が中身まで女なのかもわからないし、どちらにしろ俺の精神のためにもとにかく話題を変えてしまおう。

「それで作戦と言うのは?」
「簡単よ。私が自ら王とその臣下を詰め寄るわ。あの時は完全な罪の意思があったから抵抗できなかったけど、今は違う。私に免罪符を与えてしまったことを後悔すると良いわ」

 ああ、まあ……うん。
 もしかして防御魔法に付いて俺に聞いてきたのは……。

「そこで貴方には防御魔法を使って出来るだけそれ以外の所に被害が出ないようにして欲しいの。万が一ってことがあるでしょう?」
「ですよね」

 彼女の言動から何となく想像はしていたものの、やっぱりそうだったかぁ。
 とは言え協力すると言ってしまったし、ここは仕方ない。彼女の要望に応えるとしよう。

「わかりました。それじゃこっちはお任せください」
「ありがとう、お願いね」

 ……とまあこうして、俺とアリスの妙な共同関係が出来上がったのだった。
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