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第一部 異世界アーステイル編
38 彼の正体
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「あれ、アルスさん?」
「ああ、君か」
ギルドへ行くとそこにはアルスがいた。相も変わらず表情の読めないと言うか、そもそも存在しないかのようなそれで淡々と依頼を受けていた。
うーん、せっかく会った訳だし彼も依頼を受けようとしているタイミングだ。ここは親睦も深めておくためにも一緒に行かせてもらおうかな。
「俺も丁度依頼を受けようと思っていたんですけど、同行しても良いですか?」
「ああ、構わない」
……会話はそれで終わった。
ま、まあ承諾してもらえたのならそれでいいか。
ということで依頼に出た俺たち二人はスターティアから東にあるジャングルへとやって来た。
道中はそれはもう地獄だった。話題など無い。無言で歩き続けるあの時間を、どれだけ早く終われば良いと思った事だろうか。
転移用のワープポイントが無い場所への依頼だったのなら先に確認しておくべきだったかもしれない。
思えば狂夜とレイブンと共にドラグレンを狩りに行った時も似たような状況だったか。
あっちと違ってアルスは俺に対して特に負の感情は無い。ただそれ以外の感情も無いっぽい。本当にプレイヤー同士としての関係しかない。
……はずなんけど、何か彼にはこう、妙な感覚があるんだよな。同じ魔力反応を感じるってのもそうだし、あまり他人な気がしないというか。
「HARU、どうしたんだ?」
「ああ、いや何でもないんです」
とりあえず依頼に集中しよう。ここはいつどこからモンスターが飛び出してくるかわからないジャングルのまっただ中だ。
下手に気を抜こうものなら足元をすくわれかねない。
「む、来たな」
アルスはそう言うと剣を抜いて戦闘態勢を取った。
こちらも同じく剣を抜き、気配のした方を向く。
「ウグルルゥゥゥ……」
「ロックディノだな。依頼対象の方から来てくれるとは好都合だ」
姿を見せたのは今回の依頼対象である闇に飲まれしロックディノだった。
恐竜と岩石が混ざったような外見からわかるように、コイツはとにかく硬い。ゲームに置いてはダメージカットが入っていたがこちらではどうなのか……。
「俺が前に出て注意を引きます。アルスさんは後方に回り込んでください」
「了解した」
アルスが横方向に駆け出したのを確認し、あえてロックディノに見えやすいように派手に動きながら近づいて行く。
「グアァァァッ!!」
「よし、喰いついたな」
上手いことこちらにヘイトが向いたようだ。
「ぐっ……! これでも食らえ、ファイアボール!」
噛みつき攻撃を剣で受け止め、そのまま口内にファイアボールをぶち込む。
「ギュアアアアッァ!? グルアァッ!!」
「効いてはいる……が、やっぱ火属性の魔法は通りが悪いか」
目立ったダメージカットのようなものは無いみたいだが、岩石の体には炎はあまり通用しないようだった。少しだけ驚きはしたもののその後すぐにまた噛みついて来やがった。
なら、攻撃は彼に任せよう。
「俺が動きを止めるので、その内にアルスさんは弱点をお願いします! マッドディグ!」
「うむ、任せろ」
アルスの答えを聞いてから土属性の拘束魔法を発動させる。その瞬間、地面から突き出た泥のツルが奴の四肢を拘束した。
マッドディグは中級魔法スキルではあるが、俺の魔力量で行使すれば奴の動きを数秒間完全に止めることくらいは出来た。
「ここだ……!」
「グァッァ……」
ロックディノの懐に潜り込んだアルスは首の鱗の隙間を縫うように器用に剣を入れ、とてつもない硬さを誇るロックディノの首を容易く刎ねてしまった。
やっぱり何度見ても練度が段違いだな。もはや彼の剣技には美しさすら感じる。
「ふぅ、終わったか」
「お疲れ様ですアルスさん」
「ああ、だがまだ安心するのは早い。まだこれで一体目だからな」
そうだ。今回の依頼はこの辺りに現れる複数の闇に飲まれしモンスターの討伐だ。
だから必然的にまだこの辺りには奴らが潜んでいる可能性がある。彼の言う通り気を抜くのは早いな。
「そうだ。それなら今の内に補給をしておきましょう」
「む、そうだな」
この世界における俺たちの体はステータス通りのスペックを持つ。だがそれはそれとして体力にしろ魔力にしろ消耗はする。
だから時間と余裕があるうちに補給しておくことが不慮の事故を減らすためにもなる。
「HARU、それは……?」
「……? それ、とは?」
アイテムボックスから取り出した干し肉に視線を向けながらアルスはそう尋ねてきた。
「ただの干し肉、ですけど」
「干し肉……か。だが俺たちの体は食物を摂取しなくても大丈夫では無いか? 何故わざわざ効率の悪い方法を……」
そう言うアルスは小さな粒を手の平の上に置いていた。
「アルスさんこそそれは?」
「これは栄養と魔力を一度に補給できる丸薬だ。以前魔導国で手に入れたのだが、これはとても良い。飲みこむだけで良いし消化能力もほとんど関係なくエネルギーが補給できる」
「そうなんですね……もしかして」
流石にそんなことは無いだろうと思いつつも聞いてみる。
「普段からそれしか食べていない訳では無いですよね? なーんて、そんな訳……」
「その通りだが?」
「え……」
まさかとは思っていたけど、本当にそうだとなるとその、なんて返せば良いんだ?
彼は決してギャグや冗談を言うような人物では無いはず。
「食事は出来るだけ効率化した方がいい。いつどこで何が起こるかもわからないからな。それに闇に飲まれしモンスターが現れた時に動けなくなるのは困る」
「それはそうですけど……」
ああ、駄目だ。この人もレイブンとかと同じく覚悟が決まり過ぎちゃっているタイプの人だ。
というかそうなるとアルスも何かありそうだな……。
「HARUは……何故わざわざ非効率的な方法をしているんだ? いや、気分を害したのならすまない。ただ聞いてみたくなっただけなんだ」
「それはやっぱり、美味しい方がいいじゃないですか?」
俺もダンジョンでの一件があってから終わった生活をしていたが、それも相まってより悪化する悪循環に入っていた気がする。
最低限、人は人らしく生活しないと駄目だ。例え体が必要としなくても、精神はそうじゃない。
「美味しい……か。知識としてはわかっているつもりだったが、そこまでの価値が……」
「よし、それなら!」
この際だ、アルスにも人間らしい食事を教えよう。
「この依頼の後って時間空いてますか? 一緒に美味しいものを食べましょう!」
「時間なら空いている。でも良いのか?」
「気にしないでください。俺がやりたいから勝手にやることですので」
ということでその後無事に依頼を終えた俺とアルスの二人はクリムゾンの店へとやってきた。
「いらっしゃいませ……ってHARU? こんな時間に珍しいですね。と、そちらは?」
「この人はアルスさん。同じプレイヤーとしてこの世界に来たみたいなんだけど……まあ細かい話は後にして、この人にとびっきり美味しい料理を食べてもらいたいんだ」
「なるほど、それならいつも以上に腕に寄りをかけて料理しなきゃですね!」
そう言うとクリムゾンは厨房の方へと入って行った。
そして数分が経つと、店のお手伝いをしているRIZEが俺たちの元へ料理を運んできた。
「おまたせ。どうぞ、オムライスだよ」
「オムライス?」
「もしかして、知らない……?」
この反応、本当に知らないっぽいな。
いや、現代日本人でオムライスを知らないことあるか?
レイブンはこの世界生まれだったからそう言う事もあったが、流石に彼は違うはず。というか海外の人でも流石にオムライスは知っているんじゃ?
「オムライスはね、凄く美味しい料理だよ。私も大好き」
「そうなのか。……では、いただこう」
アルスはスプーンを持ち、とろとろ卵のオムライスを口に運んだ。
「これは……これが、美味しいという感覚……?」
「どう、美味しい?」
「あ、凄く、良い。知識として知っていることと実際に感じることがこれだけ違うとは思わなかった」
スプーンが止まらない様子のアルス。どうやらお気に召したようだ。
気付けば初めて会った時から一切変わらなかった表情が少し緩んでいるような気がした。
しかしまあ、こうなってくるととても気になって来るな。アルスという人物について。
あまりにも人間離れした思考。そして異常なまでの強さ。
……いくつも疑問は浮かんでくるが、一番気になることはただ一つ。
「……アルスさん、一つ聞いても良いでしょうか」
「なんだ?」
「アルスさんは……一体何なのでしょうか」
失礼を承知で聞いた質問。しかし彼の異常性を解明するにはこう聞くしか無かった。
「そうか、言っていなかったな。俺は……儀式魔法によって作られた魔導AIだ」
「ああ、君か」
ギルドへ行くとそこにはアルスがいた。相も変わらず表情の読めないと言うか、そもそも存在しないかのようなそれで淡々と依頼を受けていた。
うーん、せっかく会った訳だし彼も依頼を受けようとしているタイミングだ。ここは親睦も深めておくためにも一緒に行かせてもらおうかな。
「俺も丁度依頼を受けようと思っていたんですけど、同行しても良いですか?」
「ああ、構わない」
……会話はそれで終わった。
ま、まあ承諾してもらえたのならそれでいいか。
ということで依頼に出た俺たち二人はスターティアから東にあるジャングルへとやって来た。
道中はそれはもう地獄だった。話題など無い。無言で歩き続けるあの時間を、どれだけ早く終われば良いと思った事だろうか。
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思えば狂夜とレイブンと共にドラグレンを狩りに行った時も似たような状況だったか。
あっちと違ってアルスは俺に対して特に負の感情は無い。ただそれ以外の感情も無いっぽい。本当にプレイヤー同士としての関係しかない。
……はずなんけど、何か彼にはこう、妙な感覚があるんだよな。同じ魔力反応を感じるってのもそうだし、あまり他人な気がしないというか。
「HARU、どうしたんだ?」
「ああ、いや何でもないんです」
とりあえず依頼に集中しよう。ここはいつどこからモンスターが飛び出してくるかわからないジャングルのまっただ中だ。
下手に気を抜こうものなら足元をすくわれかねない。
「む、来たな」
アルスはそう言うと剣を抜いて戦闘態勢を取った。
こちらも同じく剣を抜き、気配のした方を向く。
「ウグルルゥゥゥ……」
「ロックディノだな。依頼対象の方から来てくれるとは好都合だ」
姿を見せたのは今回の依頼対象である闇に飲まれしロックディノだった。
恐竜と岩石が混ざったような外見からわかるように、コイツはとにかく硬い。ゲームに置いてはダメージカットが入っていたがこちらではどうなのか……。
「俺が前に出て注意を引きます。アルスさんは後方に回り込んでください」
「了解した」
アルスが横方向に駆け出したのを確認し、あえてロックディノに見えやすいように派手に動きながら近づいて行く。
「グアァァァッ!!」
「よし、喰いついたな」
上手いことこちらにヘイトが向いたようだ。
「ぐっ……! これでも食らえ、ファイアボール!」
噛みつき攻撃を剣で受け止め、そのまま口内にファイアボールをぶち込む。
「ギュアアアアッァ!? グルアァッ!!」
「効いてはいる……が、やっぱ火属性の魔法は通りが悪いか」
目立ったダメージカットのようなものは無いみたいだが、岩石の体には炎はあまり通用しないようだった。少しだけ驚きはしたもののその後すぐにまた噛みついて来やがった。
なら、攻撃は彼に任せよう。
「俺が動きを止めるので、その内にアルスさんは弱点をお願いします! マッドディグ!」
「うむ、任せろ」
アルスの答えを聞いてから土属性の拘束魔法を発動させる。その瞬間、地面から突き出た泥のツルが奴の四肢を拘束した。
マッドディグは中級魔法スキルではあるが、俺の魔力量で行使すれば奴の動きを数秒間完全に止めることくらいは出来た。
「ここだ……!」
「グァッァ……」
ロックディノの懐に潜り込んだアルスは首の鱗の隙間を縫うように器用に剣を入れ、とてつもない硬さを誇るロックディノの首を容易く刎ねてしまった。
やっぱり何度見ても練度が段違いだな。もはや彼の剣技には美しさすら感じる。
「ふぅ、終わったか」
「お疲れ様ですアルスさん」
「ああ、だがまだ安心するのは早い。まだこれで一体目だからな」
そうだ。今回の依頼はこの辺りに現れる複数の闇に飲まれしモンスターの討伐だ。
だから必然的にまだこの辺りには奴らが潜んでいる可能性がある。彼の言う通り気を抜くのは早いな。
「そうだ。それなら今の内に補給をしておきましょう」
「む、そうだな」
この世界における俺たちの体はステータス通りのスペックを持つ。だがそれはそれとして体力にしろ魔力にしろ消耗はする。
だから時間と余裕があるうちに補給しておくことが不慮の事故を減らすためにもなる。
「HARU、それは……?」
「……? それ、とは?」
アイテムボックスから取り出した干し肉に視線を向けながらアルスはそう尋ねてきた。
「ただの干し肉、ですけど」
「干し肉……か。だが俺たちの体は食物を摂取しなくても大丈夫では無いか? 何故わざわざ効率の悪い方法を……」
そう言うアルスは小さな粒を手の平の上に置いていた。
「アルスさんこそそれは?」
「これは栄養と魔力を一度に補給できる丸薬だ。以前魔導国で手に入れたのだが、これはとても良い。飲みこむだけで良いし消化能力もほとんど関係なくエネルギーが補給できる」
「そうなんですね……もしかして」
流石にそんなことは無いだろうと思いつつも聞いてみる。
「普段からそれしか食べていない訳では無いですよね? なーんて、そんな訳……」
「その通りだが?」
「え……」
まさかとは思っていたけど、本当にそうだとなるとその、なんて返せば良いんだ?
彼は決してギャグや冗談を言うような人物では無いはず。
「食事は出来るだけ効率化した方がいい。いつどこで何が起こるかもわからないからな。それに闇に飲まれしモンスターが現れた時に動けなくなるのは困る」
「それはそうですけど……」
ああ、駄目だ。この人もレイブンとかと同じく覚悟が決まり過ぎちゃっているタイプの人だ。
というかそうなるとアルスも何かありそうだな……。
「HARUは……何故わざわざ非効率的な方法をしているんだ? いや、気分を害したのならすまない。ただ聞いてみたくなっただけなんだ」
「それはやっぱり、美味しい方がいいじゃないですか?」
俺もダンジョンでの一件があってから終わった生活をしていたが、それも相まってより悪化する悪循環に入っていた気がする。
最低限、人は人らしく生活しないと駄目だ。例え体が必要としなくても、精神はそうじゃない。
「美味しい……か。知識としてはわかっているつもりだったが、そこまでの価値が……」
「よし、それなら!」
この際だ、アルスにも人間らしい食事を教えよう。
「この依頼の後って時間空いてますか? 一緒に美味しいものを食べましょう!」
「時間なら空いている。でも良いのか?」
「気にしないでください。俺がやりたいから勝手にやることですので」
ということでその後無事に依頼を終えた俺とアルスの二人はクリムゾンの店へとやってきた。
「いらっしゃいませ……ってHARU? こんな時間に珍しいですね。と、そちらは?」
「この人はアルスさん。同じプレイヤーとしてこの世界に来たみたいなんだけど……まあ細かい話は後にして、この人にとびっきり美味しい料理を食べてもらいたいんだ」
「なるほど、それならいつも以上に腕に寄りをかけて料理しなきゃですね!」
そう言うとクリムゾンは厨房の方へと入って行った。
そして数分が経つと、店のお手伝いをしているRIZEが俺たちの元へ料理を運んできた。
「おまたせ。どうぞ、オムライスだよ」
「オムライス?」
「もしかして、知らない……?」
この反応、本当に知らないっぽいな。
いや、現代日本人でオムライスを知らないことあるか?
レイブンはこの世界生まれだったからそう言う事もあったが、流石に彼は違うはず。というか海外の人でも流石にオムライスは知っているんじゃ?
「オムライスはね、凄く美味しい料理だよ。私も大好き」
「そうなのか。……では、いただこう」
アルスはスプーンを持ち、とろとろ卵のオムライスを口に運んだ。
「これは……これが、美味しいという感覚……?」
「どう、美味しい?」
「あ、凄く、良い。知識として知っていることと実際に感じることがこれだけ違うとは思わなかった」
スプーンが止まらない様子のアルス。どうやらお気に召したようだ。
気付けば初めて会った時から一切変わらなかった表情が少し緩んでいるような気がした。
しかしまあ、こうなってくるととても気になって来るな。アルスという人物について。
あまりにも人間離れした思考。そして異常なまでの強さ。
……いくつも疑問は浮かんでくるが、一番気になることはただ一つ。
「……アルスさん、一つ聞いても良いでしょうか」
「なんだ?」
「アルスさんは……一体何なのでしょうか」
失礼を承知で聞いた質問。しかし彼の異常性を解明するにはこう聞くしか無かった。
「そうか、言っていなかったな。俺は……儀式魔法によって作られた魔導AIだ」
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