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第一部 異世界アーステイル編
32 男、狂夜
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[報告。狂夜様からメッセージが届いております]
「狂夜から?」
何だろうか。少なくとも良い感じの別れ方では無かったはずだが……俺に何の用なのだろうか。
「メッセージを開いてくれ……ふむふむ?」
そこに書かれていた内容はあまりにも意外過ぎるものだった。
「女の子との接し方を教えて欲しい……?」
一体どういう風の吹きまわしなんだ。彼はそう言ったことに一切興味が無いように感じたが……。
ま、まあ力を貸して欲しいってのなら断るのもなぁ。
一応プレイヤー同士だし、一度共闘した仲でもあるからな。
ということで実際に会うことにした。オールアールのとある喫茶店にて待ち合わせ、そこで話すことになった。
「すまん、HARU。お前にしか頼めないんだ。他の奴らとは全くと言って面識がないし、レイブンのやつはそう言ったことはあまり強くないだろうしな」
狂夜はバツが悪そうにそう言った。
まあ彼には悪いが、それは俺もそう思う。
「で、どうして急にそんなことを言い始めたんです?」
まさかとは思うが恋愛関係……いや、それ以外に無いよな。
ふーん、あの狂犬と言った風味のコイツがねぇ。
「なんかニヤニヤしてるがそう言うんじゃねえからな。実はな……前に言ったエランってのいたろ」
「ああ、前パーティの?」
「そうだ。それで、オレはずっとアイツのことを男だと思っていたんだが……違ったんだ。アイツ、女の子だった」
……え、そんなことある?
「その顔、マジで驚いてるみたいだな」
「そりゃ……そうですよ。いきなりそんなこと言われてもね」
「まあそうなるだろうな。で、そうなって来ると困るんだよオレが。今までは普通に年下のガキだと思っていたから何とも思っていなかったがよぉ……」
狂夜の表情が徐々にこわばって行く。そして同時に頬が赤く染まっていった。
「なんか、こう……異性だと言う事を意識しちまうと急に……」
「でも本人にそう言った感情が無いんだったら気にしなければ良いのでは?」
「出来るかそんな事!? 飯も作ってもらって、一つ屋根の下で暮らしてんだぞ! 意識しないでいろってのが無理な話だろうが!?」
うーん、これただののろけ話では?
もう俺帰って良いかな。
「このままだとオレの方がどうにかしちまう。だからいっそのことアイツを……女の子として扱った方がふんぎりがつく気がするんだよ」
「……すれば良いのでは?」
「それが出来ないから相談してるんだ。万年彼女いない人生だったオレに今更何が出来るってんだ」
自分への棘になるが、それは俺も同じだった。
むしろそう言う話なら俺に相談されても困る。俺だって女の子とそう言う関係になったことは無いんだ。
「残念ですけど俺も女の子とそう言った関係になったことは無いので他をあたってくれませんか?」
「そこをなんとか! 今は女の子なんだろ!?」
そんな無茶な。女の子の体だからって女の子の精神がわかる訳が……。
いや、コイツ引き下がる気が一切ないな。……仕方がない。このまま粘着され続けても困るしなぁ。
「はぁ……変なことになっても俺は知りませんからね」
「た、助かるぜ!!」
「それじゃあまずは……」
女の子との接し方なんて俺も知らない。だから元の世界で蓄えた二次元知識を使って何とかするしか無かった。
「女の子と言えばやはりかわいい服が好きなはずです。ここは一緒に買いに行ってみてはどうです?」
ということで狂夜はエランと買い物デートをすることになってしまった。
いや、しょっぱなから飛ばし過ぎだろこれは。接し方を教えてくれでいきなりデートに行かせるやつがあるか。
知るか! 俺はラノベの恋愛しか知らんのだ!
「別に新しい服なんていいのに……」
「いや、今の服もしばらくそのままだったろ? た、たまには別のもんでも着たいかと思ってな」
どこかぎこちない様子だが、とりあえず今のところは良い感じに進んでいるようだ。
このまま何も無いことを願うが……。
「これとかどうかな」
「……今までのとあまり変わらなくねえか?」
エランが選んだ服は元々着ていたものとそう変わらない質素なものだった。
「そうかな。でも僕にはこれでも十分だし……」
「そ、そんなことは無いぞ」
狂夜はぎこちなくそう言いながらこちらを向く。助けが欲しい。そう言っているようだった。
仕方がない。ここはメッセージを使って……っと。
「……ッ!?」
俺が送ったメッセージを見た狂夜は絶句していた。
まあそうもなるだろう。もっと可愛いのでも良いんじゃないか。そう言ったニュアンスの事を伝えろって書いたからな。
「くっ……ふぅ、な、なあエラン」
「なに?」
「その……よ。もう少し可愛いのでも、い、良いんじゃねーの?」
「か、可愛い? でも僕にはそう言うのは似合わな……」
「いや、似合う。絶対に」
ごり押し。結局それしか道は無かった。
「そ、そうかな……それじゃあ……」
エランはそう言って別の服を持ってきた。
「これとか、どうだろう……変じゃない、かな?」
「……その、凄い似合ってるぜ」
「そうかな……へへ、そうかな」
エランの表情が緩んでいく。どうやら良い感じだな。結構行き当たりばったりな感じで作戦を進めたが、思ったよりもいい方向に進んでいるかもしれない。
「試着してみたらどうだ?」
「うん!」
エランはそうして元気よく返事をすると店の奥へと入って行く。
そして少ししてから出てきた。
「どうかな?」
「やっぱり似合ってる。か、かわ……可愛いと思うぞ」
「可愛いっ!? その、いざ言われると凄く恥ずかしいと言うか……」
二人揃って表情を緩ませ、頬を赤らめている。
あー、これは何を見せられているんだ俺は。
そもそもよく考えたら何をしているんだ俺は。何で他人の恋愛事情の手助けなんかしているんだ。
「んじゃそれにするか」
「うん! へへっ可愛い……かぁ」
天真爛漫と言うのは彼女のためにあるのだろう。そう言った程に良い笑顔だった。
……まあ、この顔が見られたのなら良しとするか。
そうして無事に……いや無事かはわからないが買い物デートを終えた狂夜とエランは店を出て街を歩くことにしたのだった。
もちろんこれも俺の作戦の一つ。親密度を上げるのなら二人きりで街を見て回れば良い。もちろん買った服を着た状態でね。
何も急に事を起こす必要はないんだ。ゆっくりと雑談でもしながらぶらぶらと歩く。そうして徐々に距離を縮めて行くんだ。
……絶対こっちを先にやるべきだったのでは?
「あっ」
「どうした?」
急に声を出したエランの視線の先にあったのは小物を売っている屋台だった。
「部屋の片づけの時にちょっとした入れ物が欲しいと思ったんだよね」
「そうか。んじゃそれも買って行こうな。……これとかどうだ?」
「うーん、耐久性にちょっと問題があるかな……?」
「耐久性……って、ちょっと待てお前なんでわかるんだよ」
狂夜は驚いた様子でエランにそう尋ねていた。
確かに見ただけでわかったのは俺も気になるな。
「僕、鑑定眼のスキルを持ってて……」
「初耳なんだが……」
「黙ってたのはごめんなさい。けどこのスキルのせいであのパーティに半ば無理やり入れられたようなものだから……」
「そうだったのか。無遠慮にすまん」
「あっ謝らないでキョーヤは悪くないから!」
慌てたようにそう言うエラン。狂夜もどうしていいかはわからないみたいだった。
にしても、まさかそんな過去があったとは。これは思った以上にあのケインとかいうやつがヤバイ奴なのかもしれないぞ。
「ぁっ……」
「今度はどうした?」
「来る……すぐそこにいる……」
そう言うとエランはフルフルと震えながらうずくまってしまった。
こうしちゃいられない。
「狂夜!」
「HARUか! 一体何がどうなってんだ……!?」
クソッ突然の事過ぎて何が何だかわからない。
「ケインが……いるんだ……」
「ケインのやろうが!? にしてもいるってどこに……」
「キョーヤ……?」
聞き覚えのある声。それは紛れもなくあの時龍の谷で聞いたそれだった。
「は、はは……まさかこんなところで会うだなんて思わなかったぞ」
「……オレもだ。クソ野郎」
「狂夜から?」
何だろうか。少なくとも良い感じの別れ方では無かったはずだが……俺に何の用なのだろうか。
「メッセージを開いてくれ……ふむふむ?」
そこに書かれていた内容はあまりにも意外過ぎるものだった。
「女の子との接し方を教えて欲しい……?」
一体どういう風の吹きまわしなんだ。彼はそう言ったことに一切興味が無いように感じたが……。
ま、まあ力を貸して欲しいってのなら断るのもなぁ。
一応プレイヤー同士だし、一度共闘した仲でもあるからな。
ということで実際に会うことにした。オールアールのとある喫茶店にて待ち合わせ、そこで話すことになった。
「すまん、HARU。お前にしか頼めないんだ。他の奴らとは全くと言って面識がないし、レイブンのやつはそう言ったことはあまり強くないだろうしな」
狂夜はバツが悪そうにそう言った。
まあ彼には悪いが、それは俺もそう思う。
「で、どうして急にそんなことを言い始めたんです?」
まさかとは思うが恋愛関係……いや、それ以外に無いよな。
ふーん、あの狂犬と言った風味のコイツがねぇ。
「なんかニヤニヤしてるがそう言うんじゃねえからな。実はな……前に言ったエランってのいたろ」
「ああ、前パーティの?」
「そうだ。それで、オレはずっとアイツのことを男だと思っていたんだが……違ったんだ。アイツ、女の子だった」
……え、そんなことある?
「その顔、マジで驚いてるみたいだな」
「そりゃ……そうですよ。いきなりそんなこと言われてもね」
「まあそうなるだろうな。で、そうなって来ると困るんだよオレが。今までは普通に年下のガキだと思っていたから何とも思っていなかったがよぉ……」
狂夜の表情が徐々にこわばって行く。そして同時に頬が赤く染まっていった。
「なんか、こう……異性だと言う事を意識しちまうと急に……」
「でも本人にそう言った感情が無いんだったら気にしなければ良いのでは?」
「出来るかそんな事!? 飯も作ってもらって、一つ屋根の下で暮らしてんだぞ! 意識しないでいろってのが無理な話だろうが!?」
うーん、これただののろけ話では?
もう俺帰って良いかな。
「このままだとオレの方がどうにかしちまう。だからいっそのことアイツを……女の子として扱った方がふんぎりがつく気がするんだよ」
「……すれば良いのでは?」
「それが出来ないから相談してるんだ。万年彼女いない人生だったオレに今更何が出来るってんだ」
自分への棘になるが、それは俺も同じだった。
むしろそう言う話なら俺に相談されても困る。俺だって女の子とそう言う関係になったことは無いんだ。
「残念ですけど俺も女の子とそう言った関係になったことは無いので他をあたってくれませんか?」
「そこをなんとか! 今は女の子なんだろ!?」
そんな無茶な。女の子の体だからって女の子の精神がわかる訳が……。
いや、コイツ引き下がる気が一切ないな。……仕方がない。このまま粘着され続けても困るしなぁ。
「はぁ……変なことになっても俺は知りませんからね」
「た、助かるぜ!!」
「それじゃあまずは……」
女の子との接し方なんて俺も知らない。だから元の世界で蓄えた二次元知識を使って何とかするしか無かった。
「女の子と言えばやはりかわいい服が好きなはずです。ここは一緒に買いに行ってみてはどうです?」
ということで狂夜はエランと買い物デートをすることになってしまった。
いや、しょっぱなから飛ばし過ぎだろこれは。接し方を教えてくれでいきなりデートに行かせるやつがあるか。
知るか! 俺はラノベの恋愛しか知らんのだ!
「別に新しい服なんていいのに……」
「いや、今の服もしばらくそのままだったろ? た、たまには別のもんでも着たいかと思ってな」
どこかぎこちない様子だが、とりあえず今のところは良い感じに進んでいるようだ。
このまま何も無いことを願うが……。
「これとかどうかな」
「……今までのとあまり変わらなくねえか?」
エランが選んだ服は元々着ていたものとそう変わらない質素なものだった。
「そうかな。でも僕にはこれでも十分だし……」
「そ、そんなことは無いぞ」
狂夜はぎこちなくそう言いながらこちらを向く。助けが欲しい。そう言っているようだった。
仕方がない。ここはメッセージを使って……っと。
「……ッ!?」
俺が送ったメッセージを見た狂夜は絶句していた。
まあそうもなるだろう。もっと可愛いのでも良いんじゃないか。そう言ったニュアンスの事を伝えろって書いたからな。
「くっ……ふぅ、な、なあエラン」
「なに?」
「その……よ。もう少し可愛いのでも、い、良いんじゃねーの?」
「か、可愛い? でも僕にはそう言うのは似合わな……」
「いや、似合う。絶対に」
ごり押し。結局それしか道は無かった。
「そ、そうかな……それじゃあ……」
エランはそう言って別の服を持ってきた。
「これとか、どうだろう……変じゃない、かな?」
「……その、凄い似合ってるぜ」
「そうかな……へへ、そうかな」
エランの表情が緩んでいく。どうやら良い感じだな。結構行き当たりばったりな感じで作戦を進めたが、思ったよりもいい方向に進んでいるかもしれない。
「試着してみたらどうだ?」
「うん!」
エランはそうして元気よく返事をすると店の奥へと入って行く。
そして少ししてから出てきた。
「どうかな?」
「やっぱり似合ってる。か、かわ……可愛いと思うぞ」
「可愛いっ!? その、いざ言われると凄く恥ずかしいと言うか……」
二人揃って表情を緩ませ、頬を赤らめている。
あー、これは何を見せられているんだ俺は。
そもそもよく考えたら何をしているんだ俺は。何で他人の恋愛事情の手助けなんかしているんだ。
「んじゃそれにするか」
「うん! へへっ可愛い……かぁ」
天真爛漫と言うのは彼女のためにあるのだろう。そう言った程に良い笑顔だった。
……まあ、この顔が見られたのなら良しとするか。
そうして無事に……いや無事かはわからないが買い物デートを終えた狂夜とエランは店を出て街を歩くことにしたのだった。
もちろんこれも俺の作戦の一つ。親密度を上げるのなら二人きりで街を見て回れば良い。もちろん買った服を着た状態でね。
何も急に事を起こす必要はないんだ。ゆっくりと雑談でもしながらぶらぶらと歩く。そうして徐々に距離を縮めて行くんだ。
……絶対こっちを先にやるべきだったのでは?
「あっ」
「どうした?」
急に声を出したエランの視線の先にあったのは小物を売っている屋台だった。
「部屋の片づけの時にちょっとした入れ物が欲しいと思ったんだよね」
「そうか。んじゃそれも買って行こうな。……これとかどうだ?」
「うーん、耐久性にちょっと問題があるかな……?」
「耐久性……って、ちょっと待てお前なんでわかるんだよ」
狂夜は驚いた様子でエランにそう尋ねていた。
確かに見ただけでわかったのは俺も気になるな。
「僕、鑑定眼のスキルを持ってて……」
「初耳なんだが……」
「黙ってたのはごめんなさい。けどこのスキルのせいであのパーティに半ば無理やり入れられたようなものだから……」
「そうだったのか。無遠慮にすまん」
「あっ謝らないでキョーヤは悪くないから!」
慌てたようにそう言うエラン。狂夜もどうしていいかはわからないみたいだった。
にしても、まさかそんな過去があったとは。これは思った以上にあのケインとかいうやつがヤバイ奴なのかもしれないぞ。
「ぁっ……」
「今度はどうした?」
「来る……すぐそこにいる……」
そう言うとエランはフルフルと震えながらうずくまってしまった。
こうしちゃいられない。
「狂夜!」
「HARUか! 一体何がどうなってんだ……!?」
クソッ突然の事過ぎて何が何だかわからない。
「ケインが……いるんだ……」
「ケインのやろうが!? にしてもいるってどこに……」
「キョーヤ……?」
聞き覚えのある声。それは紛れもなくあの時龍の谷で聞いたそれだった。
「は、はは……まさかこんなところで会うだなんて思わなかったぞ」
「……オレもだ。クソ野郎」
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