器用貧乏なバトルマジシャン、異世界では最強でした~物理戦闘も魔法も召喚も全て使えれば強いに決まってるでしょう~

遠野紫

文字の大きさ
上 下
28 / 90
第一部 異世界アーステイル編

28 わずかな希望

しおりを挟む
 あれから1年が経った。未だ元の世界に戻れるような兆候はない。
 機会があればその度に闇に飲まれしモンスターを狩り続けてはいるものの、一向に何かが進展する感覚は無かった。

 今日もいつものようにクリムゾンたちの所に寄ってからギルドへ行く。その繰り返し。

「HARU……大丈夫?」

 RIZEが声をかけてくる。どうしたのだろうか。

「何か気になることでも?」
「なんか、顔色悪くて……」
「……大丈夫。心配しないで」
 
 ここ最近まともに眠れていないのがバレたのか。いや、この肉体自体は睡眠を必要としていないのは確認済みだ。
 ……けど体は大丈夫でも、精神はもたないようだ。日に日に精神が衰弱している気がする。

「私、HARUのためならその、頑張るよ……?」

 RIZEはそう言うと恥ずかしがりながらもやたらと煽情的な動きでこちらを見てきた。
 ……誰だこんなことを教えたのは。

「そういうのは駄目だよRIZE」
「でも男の人を癒すのはこういうのが一番効くってお客さんが言ってた」
「うーむ……」

 あれ以降クリムゾンとRIZEは一緒に暮らし始めたらしいけど、その影響でRIZEが店に入り浸った結果変な事を覚えていく。
 流石に客は選んだ方が良いのかもしれないぞ……今度クリムゾンに言っておくか。仮にも未成年の少女が店のお手伝いをしているんだし。

「それじゃ俺は行って来る」
「うん、いってらっしゃい」

 いつものようにRIZEに見送られて店を出る。クリムゾンは店の準備で忙しいらしくこの時間に会う事は出来無いが、その代わりとして夜店じまいをした後に会いに行っている。
 出来るだけ毎日確認しないと、どこか遠くへ行ってしまう。そんな気がしている。もちろん気のせいだとは思う。……思いたい。

 こうしていつものルーティンを終えた後は、これまたいつものようにギルドに行って依頼の確認をする。
 闇に飲まれしモンスターが現れていないかを確認し、現れていた場合は即倒しに行く。

「おお、白姫さんじゃねえか」
「こんにちは、何か目立つ依頼や噂などはあったりしますか?」

 この1年で数多くのモンスターを狩り続けて功績をたてまくった俺は、いつの間にか白姫という二つ名で呼ばれるようになっていた。
 もちろんその由来は俺の見た目が影響している。目立つ白髪に姫のように美しい容姿……いや、他人が言うならまだしも自分で言うとちょっと恥ずかしいなこれ。

 どうしてこんな二つ名に……まあそれはいい。二つ名があるおかげで他の街からも強力なモンスターを狩って欲しいという依頼がやってくることも多々あるからな。
 名を売ればそれだけ闇に飲まれしモンスターに辿り着く確率が上がる。
 少々の羞恥心というデメリットこそあれど、それ以上のメリットが今の俺にはあるんだ。

「うーん、特にこれと言っては……お、そうだこれとかどうだ」

 受付の男はそう言うと一枚の紙を見せてきた。

「ここ最近見たことの無い世界が見えたっていう報告があってな。それも一人二人とかじゃ無く、そこら中で確認されているらしい。幻惑魔法を使うモンスターが大量発生しているんじゃないかと言われているが真偽は不明だ」
「……これは」

 紙に書かれていたのは紛れも無く、ビル群と思われるものだった。

「これをどこで!?」
「うぉっ、どうしたんだ急に!?」

 気付けば体が勝手に動いていた。口が勝手に言葉を発していた。
 心臓がドキドキと強く鼓動する。全身に血が流れていく感覚がする。

「この紙自体は量産されたもんでどこから来たのかはわからないんだ。それにこの現象もそこらじゅうで発生しているらしく特定の場所でってのは聞いたことが無い」
「そう……ですか……」
「理由はわからないが白姫さんがそこまで気になるってのは中々珍しいな。もしかして闇に飲まれしモンスター絡みなのか?」
「大体そんなところです」

 流石に元の世界について話すことは出来ないし、これくらいにぼかしておいた方がいいだろう。 
 
 それにしても、さっきのあの体の反応に精神の昂り。
 ……俺はまだ元の世界を諦めてはいなかったんだ。諦めたフリをして心を守っていただけなのかもしれないな。
 
「そっか。俺、まだまだ大丈夫だったんだな」
「白姫さん……? よ、よくわかりませんけど、頑張ってくださいね」
「はい! 俺、頑張りますよ!」

 ギルドを出て街の正門へ向かう。こうしちゃいられない。少しでも情報を集めてやる。
 あの光景が見えたって情報があちらこちらに出ている。それはつまりプレイヤーに関係なくこの世界の人にもあの光景が見えているってことだ。
 記憶が影響しているとか、そう言う訳では無い。であれば今回のこの事象が元の世界に戻るための手がかりとなる可能性は高い。

 とにかくこういった時はまずオールアールだ。ここには周辺国家のありとあらゆる情報が流れてくる。
 そしてその読みはビンゴだった。街中はその話題でもちきりで、そこら中に俺が見たのと同じような紙が貼られている。
 それも一種類じゃない。ビル群だけでも複数種類ある。
 
 さらに嬉しいことに、紙に書かれた内容はビル群だけじゃ無かった。
 ビッグベンに富士山にナイアガラの滝……地球の色々な場所の光景が紙には描かれていた。
 これは絶対に何かしらの手がかりになる。そう確信した。

 けど、そこからが地獄だった。
 現象自体はそこらじゅうで起こるらしいのだが、その現象の発生条件がわかっていないのだ。
 場所も時間も見た人もバラバラ。場所が特定できず、かつ朝早くから夜遅くまでとなると……。

「無理だ……」

 こうなりゃ昼間から酒場で焼け酒をするしかない。
 これだと思ったのに、あと一歩が届かない感覚。あまりにももどかし過ぎる。
 幸いこの世界では酒を飲むのに年齢制限はないらしいからそれだけが救いだ。嫌なこともアルコールで飛ばしてしまえば良い。
 
「おい聞いたか。この街の新しい竜騎士が決まったらしいぞ」
「へーそいつは珍しいな。一体何年振りなんだ?」

 特に意味がある訳でも無いだろうについ話声に耳を傾けてしまう。
 けど、こういった何気ない会話から糸口が見つかるってのも稀に良くある話だ。 
 
 それにしても竜騎士……か。ゲームに置いては空中戦が出来る数少ない職業だったな。
 竜を召喚してその上に乗って、頭上からチクチクネチネチと陰キャ戦法が出来て……。
 
 ……竜を召喚して、それに乗って頭上から?
 
「これだ!」

 なんで今の今まで思いつかなかったんだ。
 何かを探すのなら飛んで探すのが一番効率がいいじゃないか。
 速攻で会計を済ませて……ああもうメンドクサイ、流石に金貨なら足りるだろ。

「おつりはいらないので!」
「ちょ、ちょっとこれ金貨じゃないか!? いくらなんでも受け取れないよ……!」
「本当にあの、大丈夫なので! では!」

 こうなれば善は急げだ。早速フレイムドラグーンを召喚して空から探すぞ。
 って流石に街中だと無理だな。少し街から離れるか。

 よし、街から出て少し歩いた場所にある広場。ここでなら問題は無いだろう。

「来い、フレイムドラグーン!」
「アギャオス!」

 改めて見ても大きすぎる程の真っ赤な龍が姿を現す。

「ギャッス♪」
「うぉぁっ」

 久しぶりの召喚だからかじゃれついてくる。なんだこの龍可愛いな。
 って今はそうじゃないんだ。

「探したいものがあるんだ。俺を乗せて飛んで欲しい」
「ギャスギャス!」

 任せろと言う風に鳴くと、俺が乗りやすいようにかがんでくれた。
 
「よし、こっちの準備は完了だ。頼んだぞ」
「アギャッス!」
 
 フレイムドラグーンはその巨大な翼を羽ばたかせて、瞬く間に地面から離れて行く。
 流石にこれほどに巨大な体を浮かせるだけの空力が発生しているとは思えないが、きっとドラゴン特有の特殊なパワーとかがあるのかもしれないな。

 にしても、これなら圧倒的に探しやすい。紙に書いてあった情報によれば、あの光景はそれなりに大きい空間の歪みのようなものの中に見えるらしいから、この距離からでも見ればわかるはずだ。

「……久しぶりに気が昂ってるのか、俺は」

 未だに心臓の動機は止まらない。
 この勢いが無くならない内に次の手がかりを見つけたい所だな。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

処理中です...