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第一部 異世界アーステイル編
25 ロールプレイの暴力
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ダンジョンに潜ってすぐに異変に気付いた。
ここにいる奴らは、今まで戦って来たモンスターと比べて遥かにレベルが高い。
見た目はそこら中にいるスライムやらゴブリンやらと変わらないはずなのに、ステータスや戦闘能力が異常に高いのだ。
皮膚や鱗はとても硬く、フェイントや回り込みに仲間との連携などの戦略面も強化されている。ありとあらゆる要素において外のモンスターと段違いの強さを持っていた。
正直ここにいるゴブリンの方が外で倒したワイバーンよりも遥かに厄介だ。
……だがこの不可思議な現象には覚えがある。
ダンジョンレベリングシステム。ゲームでは通称DLSと呼ばれていたものだ。
これはそのダンジョンに挑むプレイヤーのレベルに合わせてダンジョン内のモンスターのレベルやAIが強化されるというもの。
もちろんそれだけでは高難易度厨しか喜ばないマゾダンジョンと化してしまう。
このシステムでは報酬のレアリティもしっかり上昇するのだ。そのため強い装備を得るためにはより高難易度のダンジョンを進む必要があった。
かくいう俺もビルドを組みなおす度にこのダンジョンに潜っていたんだよな。と言うか恐らくPVP勢はだいたい経験があるんじゃなかろうか。
まあそれはそれとして、恐らくこのダンジョンは最初に入ったパーティに適応されているんだろうな。
噂ではゴールドランク一人とシルバーランク3人のパーティ。それもシルバーランクの3人は限りなくゴールドランクに近いレベルという超凄腕のパーティだったようだ。
そのせいでこのダンジョンはほぼほぼゴールドランクに適応した超高難易度ダンジョンになってしまったと。
そりゃ他の一般冒険者にはきつい訳だ。他に全く挑戦者がいねえもん。当たり前か。この世界ってシルバーランクでも凄いらしいし。
と言っても、こちとら最強のトップナイン4人だ。
あっという間に蹂躙して上層から中層に降りるための階段に辿り着いてしまった。
「これが中層に降りる階段だな」
「拙者はまだまだいけますが皆さんは大丈夫でござるか?」
「我は問題無し」
「俺も大丈夫です」
「よし、では行くぞ」
階段を下りている間に襲われても大丈夫なように4人で陣形を組み、どの方向からでも対処できるようにしてゆっくりと下りて行く。
そして全員が下り終わった時、どういう訳か今俺たちが下りてきたはずの階段が消えてしまった。
「……なんてことだ」
「もう戻れないということでござるなぁ」
「まあ良いさ。恐らく別の場所に上るための階段があるはずだしな」
「……もしかして最深部まで潜らないと戻れなかったりしませんよね」
つい口に出てしまった。こういった状況で士気を下げるようなことは控えるべきなんだが、つい口が滑ってしまう。
だって口にしないと安心できないと言うかさ。
「仮にそうだったとしても、進み続けるだけだ。どちらにしろ俺たちが死ねば遅かれ早かれ世界が滅ぶ」
「そうですよね」
レイブンは相変わらず覚悟が決まりまくっている。やっぱりなんかおかしいよこの人。
まあそんな訳でひと悶着あったものの、俺たち4人からしたら特に障壁も無く最後の間……階層ボスのところまでたどり着いた。
ダンジョンには中層以降各階層の最後に階層ボスが存在する。狂夜がぶち込まれたってのはこのボス部屋のことだろう。
「開けるぞ」
レイブンはそう言ってボス部屋の扉を開ける。
すると奥の方に大きな蛇型のモンスターがいるのが見て取れた。
「キングヨルムンか」
「これは中々面白いのが出てきたでござるな」
キングヨルムンは超大型の蛇型のモンスターだったはず。ただでさえ巨大な体から放たれる攻撃は威力が高いのに、さらに強力な酸と毒を持っているんだよなこいつ。
酸は一定時間防御力が減るし、毒は防御を貫通して割合ダメージを受ける。どちらにしても装備を過信できなくなるから中々厄介なものだ。
「行くぞ!」
「応! 拙者の剣技、見せてやるでござる!」
まずレイブンと武神君が前に出た。作戦はいたって単純。彼ら二人が前でヘイトを向けられている内に俺とジャガバタで強力な一撃を叩き込む。
奴の特性的にあまり長引くとこちらがジリ貧になる。だから早期決着を目指すって訳だ。
「ハァァッ!!」
まずはレイブンの攻撃。彼の持つ斧が高速で奴の腹を切り裂いていく。
しかしそれだけではまったく致命傷にはならない程、キングヨルムンは強靭だった。
「お次はこちらでござる!」
キングヨルムンがレイブンに意識を向けると同時に、今度は武神君が居合の構えを取り奴の気を引く。
それに見事にはまったキングヨルムンはそのまま彼に噛みつく。が、その瞬間に彼の刀が無数の斬撃をキングヨルムンの顔に与えていた。
「居合抜刀ノ型……『陽』! うーん奇麗に決まったでござる」
カウンター技である居合抜刀ノ型『陽』。これは攻撃の瞬間に合わせて居合攻撃を仕掛けるものだ。
ただこの攻撃はダメージ軽減があるだけで、全てのダメージを無効化出来る訳じゃ無かったはず。だからあまり多用し過ぎると気付けば体力が減りすぎていることがある諸刃の剣のはずなんだけど……。
「はぐっ……よし、回復でござる」
そのダメージを補うために武神君は金色のリンゴを食べていた。あれはガチャの中当たりで入手できるゴールデンアップルだ。
ゲーム内で高レベルの錬金術師NPCからかなりの高額で買う事も出来るハイポーションと同格の回復効果を持つあれは、なんと体力全回復に全状態異常回復という破格の能力だ。
そのためかプレイヤー間では高級リンゴとかハップルとか呼ばれている。
……それを彼はカウンターをする度に食べていた。
えっなんで、どうなってんの。あれ一個手に入れるのにだいたいリアルマネーで5000円から10000円くらいかかるんだけど?
なんでそんなに持ってるんだよ。あとなんでそんなにポンポンと食えるの?
躊躇いとかはお持ちでいらっしゃらない?
「気を付けろ毒液だ!」
と、あまりにも異質過ぎる光景を前にして精神を置き去りにしていた俺を引き戻したのはレイブンの叫び声だった。
「うぉっ!?」
ギリギリでキングヨルムンの吐き出した毒液を避ける。たった今俺がいた所は紫色のネバネバとした液体に包まれていた。
「うぐっ……」
「ジャガバタさん!」
だが移動速度が遅いグレートグラディエーターであるジャガバタは毒液を受けてしまっていた。
キングヨルムンの持つ毒は強化毒というもので普通の回復アイテムでは治せない。原則として戦闘状態以外で使用しなければならない特別なアイテムが必要だ。
この世界においても恐らく同じはず。速く戦闘を終えて治さないと……。
「ムグッ……ふぅ」
なんとジャガバタも武神君と同じく何の躊躇いも無く高級リンゴを食べていた。
……一体何がどうなってるんだ。
「よぉし、一発受けたんだから一発返さないとなぁ!」
「そ、そうですね」
ジャガバタはクソデカ大剣を構え、スキルを発動させた。
「激昂待機! 来い蛇野郎、こっちだ!」
「キシェェェェッ!!」
ジャガバタの発動させた激昂待機は移動速度を極限まで遅くする代わりに攻撃倍率と防御力を上昇させるスキルだ。それにこの間に受けたダメージ分倍率が上昇するという、まさにロマンの一撃と言ったスキルだった。
「不味い、今度は酸を吐くぞ! くっ、止められないか!」
「俺が止めます!」
レイブンの攻撃をものともせずキングヨルムンは酸を口内に溜め始めた。それを避けられない状態のジャガバタに放つつもりなんだろう。
今までの経験上、酸で肉体が溶けてしまうことはないだろうが、あらゆる面でステータスはしっかりと影響している。だから恐らく防御力の減少は発生するはずだ。
いくら防御力が上昇していようが防御力自体が下げられてしまえばどうにもならない。
だから、奴の好きにはさせない。
「アイシクルランス!」
杖の先から細長い氷の槍を生み出し奴の口へと飛ばす。
「ギュエァァァッ!」
「よし、今だ!」
「来た来たァァ!!」
ジャガバタの全体重の乗った一撃がキングヨルムンを真っ二つにぶった切った。
「ふぅ……これで終わりだな」
「初めてとは思えない連携でしたな。拙者もここまで良い動きが出来たのは初めてでござる」
「……あの、武神君にジャガバタさん」
「おやHARU殿、何か気になることでも?」
「どうしてあの高級リンゴをあんなに簡単に使えるんですか……?」
言わずにはいられなかった。
「ああ、それは……拙者たちはお金だけが取り柄のような物でしてな。いや、お金だけは惜しまず使わせてくれたと言った方がよろしいか……」
「……元の世界に戻れるかもわからないのだ。……言ってしまっても良いんじゃない?」
「……そうね」
そう言うと武神君とジャガバタはロールプレイをせずに自分自身の言葉で自分たちについて話した。
彼ら……いや彼女ら二人はかなり有名な大企業の社長の二人娘らしい。
その名に恥じぬように厳しい教育や習い事に明け暮れる毎日で、まともに遊びに出ることも出来ない日々を送っていたと言う。
そんな時出会ったのがMMORPGであるアーステイルであったと。
最初の内は何度も父親に止められていたようだが、自身の教育方針の結果外の世界も知らず友達もいない娘について改めて考え直した父親は最終的にアーステイルのプレイを認めたのだと言う。
それに月数十万くらいの課金なら他に変なことをされる可能性を考慮するとなんでも無かったようだ。
いや、うん……うん?
なんかこう、桁が違うなぁ。
「だから私たちにとってこの世界は初めての連続だった。食べ物も風景も、それにダンジョンも」
「入るたびに細かく形を変えるダンジョンはそれはそれは魅力的だったわ」
「それで長い間こもりきりだったと……」
見た目から勝手に特訓の旅とか修行とかそういうのかと思っていたが、シンプルに好奇心に突き動かされていたって感じなのか。
まあ極度の箱入り娘ってことなんだろうな……そう考えて無理やり理解するしかないや。
「話はそれまでにしておいてくれ。あまり長居をするとボスが復活するかもしれない」
「そうですね……それじゃあ進みましょうか」
「そうでござるな」
「応よ!」
一度素を知ってしまうと違和感が凄いけど……このロープレも恐らくリアルでの抑圧の結果なんだろうな。
それならどうこう言うのはそれこそ野暮ってもんだ。
「ここを下りれば下層だ。恐らく今までとは比にならない程に強力なモンスターたちがいる。気を引き締めてくれ」
上層から下りてきた時と同じように4人で陣形を組んで慎重に階段を下りて行く。
だがそんな時、突然足元に魔法陣が展開された。
「な、なんだこれっ!?」
明らかに罠だこれ!
「皆さん気を付けっ……て!?」
眩い光に包まれたかと思えば、次の瞬間には全く見覚えの無い空間にいた。
ここにいる奴らは、今まで戦って来たモンスターと比べて遥かにレベルが高い。
見た目はそこら中にいるスライムやらゴブリンやらと変わらないはずなのに、ステータスや戦闘能力が異常に高いのだ。
皮膚や鱗はとても硬く、フェイントや回り込みに仲間との連携などの戦略面も強化されている。ありとあらゆる要素において外のモンスターと段違いの強さを持っていた。
正直ここにいるゴブリンの方が外で倒したワイバーンよりも遥かに厄介だ。
……だがこの不可思議な現象には覚えがある。
ダンジョンレベリングシステム。ゲームでは通称DLSと呼ばれていたものだ。
これはそのダンジョンに挑むプレイヤーのレベルに合わせてダンジョン内のモンスターのレベルやAIが強化されるというもの。
もちろんそれだけでは高難易度厨しか喜ばないマゾダンジョンと化してしまう。
このシステムでは報酬のレアリティもしっかり上昇するのだ。そのため強い装備を得るためにはより高難易度のダンジョンを進む必要があった。
かくいう俺もビルドを組みなおす度にこのダンジョンに潜っていたんだよな。と言うか恐らくPVP勢はだいたい経験があるんじゃなかろうか。
まあそれはそれとして、恐らくこのダンジョンは最初に入ったパーティに適応されているんだろうな。
噂ではゴールドランク一人とシルバーランク3人のパーティ。それもシルバーランクの3人は限りなくゴールドランクに近いレベルという超凄腕のパーティだったようだ。
そのせいでこのダンジョンはほぼほぼゴールドランクに適応した超高難易度ダンジョンになってしまったと。
そりゃ他の一般冒険者にはきつい訳だ。他に全く挑戦者がいねえもん。当たり前か。この世界ってシルバーランクでも凄いらしいし。
と言っても、こちとら最強のトップナイン4人だ。
あっという間に蹂躙して上層から中層に降りるための階段に辿り着いてしまった。
「これが中層に降りる階段だな」
「拙者はまだまだいけますが皆さんは大丈夫でござるか?」
「我は問題無し」
「俺も大丈夫です」
「よし、では行くぞ」
階段を下りている間に襲われても大丈夫なように4人で陣形を組み、どの方向からでも対処できるようにしてゆっくりと下りて行く。
そして全員が下り終わった時、どういう訳か今俺たちが下りてきたはずの階段が消えてしまった。
「……なんてことだ」
「もう戻れないということでござるなぁ」
「まあ良いさ。恐らく別の場所に上るための階段があるはずだしな」
「……もしかして最深部まで潜らないと戻れなかったりしませんよね」
つい口に出てしまった。こういった状況で士気を下げるようなことは控えるべきなんだが、つい口が滑ってしまう。
だって口にしないと安心できないと言うかさ。
「仮にそうだったとしても、進み続けるだけだ。どちらにしろ俺たちが死ねば遅かれ早かれ世界が滅ぶ」
「そうですよね」
レイブンは相変わらず覚悟が決まりまくっている。やっぱりなんかおかしいよこの人。
まあそんな訳でひと悶着あったものの、俺たち4人からしたら特に障壁も無く最後の間……階層ボスのところまでたどり着いた。
ダンジョンには中層以降各階層の最後に階層ボスが存在する。狂夜がぶち込まれたってのはこのボス部屋のことだろう。
「開けるぞ」
レイブンはそう言ってボス部屋の扉を開ける。
すると奥の方に大きな蛇型のモンスターがいるのが見て取れた。
「キングヨルムンか」
「これは中々面白いのが出てきたでござるな」
キングヨルムンは超大型の蛇型のモンスターだったはず。ただでさえ巨大な体から放たれる攻撃は威力が高いのに、さらに強力な酸と毒を持っているんだよなこいつ。
酸は一定時間防御力が減るし、毒は防御を貫通して割合ダメージを受ける。どちらにしても装備を過信できなくなるから中々厄介なものだ。
「行くぞ!」
「応! 拙者の剣技、見せてやるでござる!」
まずレイブンと武神君が前に出た。作戦はいたって単純。彼ら二人が前でヘイトを向けられている内に俺とジャガバタで強力な一撃を叩き込む。
奴の特性的にあまり長引くとこちらがジリ貧になる。だから早期決着を目指すって訳だ。
「ハァァッ!!」
まずはレイブンの攻撃。彼の持つ斧が高速で奴の腹を切り裂いていく。
しかしそれだけではまったく致命傷にはならない程、キングヨルムンは強靭だった。
「お次はこちらでござる!」
キングヨルムンがレイブンに意識を向けると同時に、今度は武神君が居合の構えを取り奴の気を引く。
それに見事にはまったキングヨルムンはそのまま彼に噛みつく。が、その瞬間に彼の刀が無数の斬撃をキングヨルムンの顔に与えていた。
「居合抜刀ノ型……『陽』! うーん奇麗に決まったでござる」
カウンター技である居合抜刀ノ型『陽』。これは攻撃の瞬間に合わせて居合攻撃を仕掛けるものだ。
ただこの攻撃はダメージ軽減があるだけで、全てのダメージを無効化出来る訳じゃ無かったはず。だからあまり多用し過ぎると気付けば体力が減りすぎていることがある諸刃の剣のはずなんだけど……。
「はぐっ……よし、回復でござる」
そのダメージを補うために武神君は金色のリンゴを食べていた。あれはガチャの中当たりで入手できるゴールデンアップルだ。
ゲーム内で高レベルの錬金術師NPCからかなりの高額で買う事も出来るハイポーションと同格の回復効果を持つあれは、なんと体力全回復に全状態異常回復という破格の能力だ。
そのためかプレイヤー間では高級リンゴとかハップルとか呼ばれている。
……それを彼はカウンターをする度に食べていた。
えっなんで、どうなってんの。あれ一個手に入れるのにだいたいリアルマネーで5000円から10000円くらいかかるんだけど?
なんでそんなに持ってるんだよ。あとなんでそんなにポンポンと食えるの?
躊躇いとかはお持ちでいらっしゃらない?
「気を付けろ毒液だ!」
と、あまりにも異質過ぎる光景を前にして精神を置き去りにしていた俺を引き戻したのはレイブンの叫び声だった。
「うぉっ!?」
ギリギリでキングヨルムンの吐き出した毒液を避ける。たった今俺がいた所は紫色のネバネバとした液体に包まれていた。
「うぐっ……」
「ジャガバタさん!」
だが移動速度が遅いグレートグラディエーターであるジャガバタは毒液を受けてしまっていた。
キングヨルムンの持つ毒は強化毒というもので普通の回復アイテムでは治せない。原則として戦闘状態以外で使用しなければならない特別なアイテムが必要だ。
この世界においても恐らく同じはず。速く戦闘を終えて治さないと……。
「ムグッ……ふぅ」
なんとジャガバタも武神君と同じく何の躊躇いも無く高級リンゴを食べていた。
……一体何がどうなってるんだ。
「よぉし、一発受けたんだから一発返さないとなぁ!」
「そ、そうですね」
ジャガバタはクソデカ大剣を構え、スキルを発動させた。
「激昂待機! 来い蛇野郎、こっちだ!」
「キシェェェェッ!!」
ジャガバタの発動させた激昂待機は移動速度を極限まで遅くする代わりに攻撃倍率と防御力を上昇させるスキルだ。それにこの間に受けたダメージ分倍率が上昇するという、まさにロマンの一撃と言ったスキルだった。
「不味い、今度は酸を吐くぞ! くっ、止められないか!」
「俺が止めます!」
レイブンの攻撃をものともせずキングヨルムンは酸を口内に溜め始めた。それを避けられない状態のジャガバタに放つつもりなんだろう。
今までの経験上、酸で肉体が溶けてしまうことはないだろうが、あらゆる面でステータスはしっかりと影響している。だから恐らく防御力の減少は発生するはずだ。
いくら防御力が上昇していようが防御力自体が下げられてしまえばどうにもならない。
だから、奴の好きにはさせない。
「アイシクルランス!」
杖の先から細長い氷の槍を生み出し奴の口へと飛ばす。
「ギュエァァァッ!」
「よし、今だ!」
「来た来たァァ!!」
ジャガバタの全体重の乗った一撃がキングヨルムンを真っ二つにぶった切った。
「ふぅ……これで終わりだな」
「初めてとは思えない連携でしたな。拙者もここまで良い動きが出来たのは初めてでござる」
「……あの、武神君にジャガバタさん」
「おやHARU殿、何か気になることでも?」
「どうしてあの高級リンゴをあんなに簡単に使えるんですか……?」
言わずにはいられなかった。
「ああ、それは……拙者たちはお金だけが取り柄のような物でしてな。いや、お金だけは惜しまず使わせてくれたと言った方がよろしいか……」
「……元の世界に戻れるかもわからないのだ。……言ってしまっても良いんじゃない?」
「……そうね」
そう言うと武神君とジャガバタはロールプレイをせずに自分自身の言葉で自分たちについて話した。
彼ら……いや彼女ら二人はかなり有名な大企業の社長の二人娘らしい。
その名に恥じぬように厳しい教育や習い事に明け暮れる毎日で、まともに遊びに出ることも出来ない日々を送っていたと言う。
そんな時出会ったのがMMORPGであるアーステイルであったと。
最初の内は何度も父親に止められていたようだが、自身の教育方針の結果外の世界も知らず友達もいない娘について改めて考え直した父親は最終的にアーステイルのプレイを認めたのだと言う。
それに月数十万くらいの課金なら他に変なことをされる可能性を考慮するとなんでも無かったようだ。
いや、うん……うん?
なんかこう、桁が違うなぁ。
「だから私たちにとってこの世界は初めての連続だった。食べ物も風景も、それにダンジョンも」
「入るたびに細かく形を変えるダンジョンはそれはそれは魅力的だったわ」
「それで長い間こもりきりだったと……」
見た目から勝手に特訓の旅とか修行とかそういうのかと思っていたが、シンプルに好奇心に突き動かされていたって感じなのか。
まあ極度の箱入り娘ってことなんだろうな……そう考えて無理やり理解するしかないや。
「話はそれまでにしておいてくれ。あまり長居をするとボスが復活するかもしれない」
「そうですね……それじゃあ進みましょうか」
「そうでござるな」
「応よ!」
一度素を知ってしまうと違和感が凄いけど……このロープレも恐らくリアルでの抑圧の結果なんだろうな。
それならどうこう言うのはそれこそ野暮ってもんだ。
「ここを下りれば下層だ。恐らく今までとは比にならない程に強力なモンスターたちがいる。気を引き締めてくれ」
上層から下りてきた時と同じように4人で陣形を組んで慎重に階段を下りて行く。
だがそんな時、突然足元に魔法陣が展開された。
「な、なんだこれっ!?」
明らかに罠だこれ!
「皆さん気を付けっ……て!?」
眩い光に包まれたかと思えば、次の瞬間には全く見覚えの無い空間にいた。
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