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第一部 異世界アーステイル編
19 召喚獣大集合
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あれから一週間程が経った。最初の頃は何度かエール商会の奴らが来たことはあったが、その度に俺とRIZEが追い返していたのもあってか今では全く音沙汰無しだ。
もう諦めたのだろうか。
「その、ごめんなさいHARUさん。しばらく拘束するようなことになっちゃって」
「いえいえ、こっちも好きでやっていることなので」
クリムゾンは優しい人だ。だからこそ今のこの状況をあまり良く思っていないようだった。俺たちを縛ってしまっていると思っているのだろう。
しかしだからと言ってここではいさよならとはいかない。そんなことをしたら俺は一生俺自身を許せなくなりそうだ。
ひとまず一ヵ月程は様子を見てって感じか……と、そう考えていた夜遅くのことだった。
[報告。クリムゾン様からメッセージが届いています]
「クリムゾンから?」
こんな深夜に一体何の用だろうか。
「メッセージを開いてくれ」
ナビにそう言い、メッセ―ジの内容を視界内に表示させる。するとそのメッセージウィンドウには一言、「助けて」と書かれていた。
「なんだ……これ……」
一気に血の気が引いて行く感覚がする。まず間違いなく、彼女の身に何かが起こっている。
……考えが甘かったか。俺たちがいる以上直接的なことはもうしてこないと思っていたが、それ自体がブラフだったのかもしれない。
とにかくすぐに助けに行かないと……!
宿を出て彼女の店に向かう。そして到着してすぐに彼女を探すが、そこは既にもぬけの殻だった。
「ああ、クソッ……!」
焦って仕方が無い。いや、とにかく落ち着け俺……!
冷静にならないと考えられるものも考えられないぞ!
「ふぅっ……」
メッセージが来てからまだ時間は経っていない。恐らくまだこの街の中にいるはずだ。
なら人手を増やして探せば見つけられるはず。
装備品ウィンドウを視界内に表示し、召喚獣アクセサリーを装備する。
「来い、エインヘリヤル! タナトス! フレイムドラグーン!」
この前エインヘリヤルを呼び出した時と同じように指輪が光りだし、目の前に3体の召喚獣が現れた。
「説明は後でする。今はクリムゾンというプレイヤーを探して欲しい」
「了解だマスター!」
「承知いたしました我がマスター」
「ギャオス!」
一体は以前にも呼び出したエインヘリヤル。
そしてもう一体の人型召喚獣である彼はタナトスだ。黒いスーツに黒い手袋、そして黒髪黒マスクという全身黒で固めた見た目の彼はゲーム内では死後の世界の番人という設定があった。
その設定と比べても一切の遜色が無い不気味な雰囲気をこの世界の彼も纏っている。
そして最後の一体は巨大なドラゴンであるフライムドラグーン。灼熱の炎のように赤い鱗を持ち、身体能力的にも魔法の扱い的にも他者を寄せ付けない圧倒的なスペックを持つ龍……らしいのだが、まさか会話が出来ないとは思わなかった。
いやドラゴンだから当然と言えば当然か。
そうして俺の命令を聞いた召喚獣たちはそれぞれ別の方向へと向かって行った。
このスターティアの街はそんなに大きな街では無い。向こうが陸路で移動しているのならすぐに見つかるはずだ。
『マスター、それらしき馬車を発見いたしました』
「でかしたぞタナトス。俺も今からそっちに向かう。少しの間時間を稼いでくれ」
召喚獣の視界は俺にも見えているからだいたいの場所はわかる。あとはそこに向かうだけだ。
それまで彼には時間稼ぎをして貰えれば……。
『承知いたしました。どれ、このタナトスの力をお見せいたしましょう! ダークプリズン……!』
「……タナトス、念話が繋がったままなんだが」
何故かタナトスは念話を繋げたままスキルを発動させたようだった。
『ええ、繋げたままですので。マスター殿には是非私の雄姿を感じていただきたく、念話だけでも……と』
どうやら彼は想像以上に癖のある性格のようだ。
まあ彼が使ったスキルのおかげで正確な場所がわかったし、これ以上は言わないでおこう。
「タナトス、状況は?」
「おやマスター、お早い到着ですね。見ての通り、私の魔法により馬車の動きを止めたところです」
タナトスの言う通り目の前には影のような何かに拘束された馬車があった。
「おい、何で動かないんだ!」
「そんなの俺にもわかりませんよ!」
「ええい、こうなったら……!」
なにやら言い争いがあった後、馬車の扉が開き剣を持った厳つい男が一人降りてきた。
「ああ? なんだぁこりゃ……てめえらがやったのか?」
「だとしたら……どうします?」
タナトスは出てきた男に向かって不敵な笑みを浮かべた。味方であるはずの俺でさえ心の底がキュッとするような謎の恐怖感を覚える。
「ぐっ……だったらてめえらを倒せばいいってことだよなぁ!!」
男は一瞬恐怖に染まった表情をしたものの、それを跳ねのけたのかタナトスに向かって斬りかかった。
「タナトス!」
「心配には及びませんよマスター。私がこの程度の者に負けるはずはありませんので」
「言わせておけば随分強気じゃねえか!」
「……遅いですね。圧倒的に遅い」
男がタナトスに斬りかかるのとほぼ同時に、彼は男の背後に回りこんでいた。
「んなっ、何が起きてやがる……!?」
「はい、残念。チェックメイトですよ」
「ぐぁっ……」
タナトスは手のひらから影を呼び出し、男の首を絞める。
が、そんな時馬車の中からもう一人の男がクリムゾンを連れて出てきた。どうやらクリムゾンは気絶しているようだ。
「お、お前ら……! この女が痛い目見る前に武器を捨てるんだ……!」
アイツ、クリムゾンを人質にしやがった。
確かに今の状況だとそれが一番良い選択なのかもしれない。
……それが普通の奴らを相手にしているんだったらな。
「お、おい! 近づくんじゃねえ!」
男はクリムゾンの首にナイフを突きつけながらそう言う。
それでも俺は奴との距離を詰め続けた。
「ば、馬鹿なのかてめえは! ああもう知らねえぞ俺は! 無傷で連れてこいなんてそんな無茶な命令聞いてられるか!!」
男はそう叫ぶとナイフをクリムゾンに突き刺そうとした。
突き刺したのではない。突き刺そうとした。
「……ぁ?」
男は信じられないものを見るような目で困惑している。
それもそのはずだ。何しろ、クリムゾンにナイフが刺さらなかったんだからな。
彼女が気絶していて逆に助かった。意識がある状態では流石にこの戦法は使えない。
「彼女を人質にするのは意味が無いぞ。お前程度の攻撃はそもそも効果が無いんだからな」
「な、なんなんだアンタらは……なんなんだよ!!」
男はそう叫ぶとクリムゾンを置いて逃げ出した。
「……追わなくてよろしいのですか?」
「ああ、このまま逃がす。そして今回の事を報告させる」
タナトスが追わなくて良いのか聞いてきたがこれで良い。
クリムゾン自体も俺たちと同じく異常なほどのステータスを持っていることを奴らに知らせる。そうすればもういたずらにちょっかいをかけてくることは無くなるだろうからな。
これでもなお強引に力技で行こうとする程の短絡的な思考の持ち主ならあの規模の商会の主にはなっていないだろうし。
その旨をタナトスにも伝えると納得してくれたようだった。
それはそれとして彼が残された男の身柄が欲しいと言ってきたので好きにさせることにした。
……死後の世界の番人が好きにするなんて、想像もしたく無いな。
「それでは一件落着という事ですね」
「まあそうだな。後は彼女を店まで送り届けて……どうしたタナトス?」
気付けばタナトスが俺の背後に来ていた。なんか妙に距離が近い気がする。彼にはパーソナルスペースという概念は無いのだろうか。
「もう脅威は無いのです。あまり急がなくともよろしいのでは無いですか?」
「それはどういう……って、何をしてんだ……!?」
何をするかと思えばタナトスはいきなり抱き着いてきた。
「ああ、美しい……そして可愛らしい……! このようなマスターに召喚された私は幸せ者です……!」
「ま、待て! 俺は中身は男で……!」
確かに今の俺は見た目は完全に女の子のそれだ。だが中身は一般男性のそれなんだぞ!
「そんな些細なことなどお気になさらずに。さあ、私と共に……」
ああ、なんかこれダメだ。漂って来る匂いが頭の中をフワフワさせて……。
「あぁ、てめえ! マスターになにしてやがる!!」
「……邪魔が入りましたか」
エインヘリヤルの声が聞こえる……はっ、俺は何を!?
「おい大丈夫かマスター! コイツに何もされてねえか!」
「あ、ああ……大丈夫だ……って!?」
エインヘリヤルは俺をタナトスから庇うように抱き上げた。
これは俗に言うお姫様抱っこというやつでは……!?
「お、下ろしてくれ! そこまで大変なことにはなってないって!」
「……いや、コイツは信用できないんでな」
「心配なさらずとも、そのようなことはしておりませんよ」
タナトスは目元しか出ていないが、それでもわかる程に強烈に記憶に残るような不敵な笑みを浮かべていた。何かこう執着と言うか不気味なものを感じる。
……割と真面目にエインヘリヤルが来てくれたおかげで助かったのかもな。あのままだと一体どうなっていたことか……。
「グギャオス!!」
と、そこで聞き覚えのある鳴き声がした。その方向を見るとフレイムドラグーンが飛んでいる。
どうやら彼も俺たちのことを発見出来たようだ。
……というかエインヘリヤルたちがすぐに来なかったってことはもしかして……。
「タナトス、もしかして最初に馬車を見つけた時二人には連絡しなかったのか?」
呼び出した存在が同一なら召喚獣同士も同じ魔力で繋がっている訳だし、それなら念話だって出来るはずだ。
「ええ。だって彼女たちがいればマスターを独り占めできないでしょう?」
「て、てめえ! 最初からそのつもりじゃねえか!」
これは……しばらくの間は彼を召喚するのはやめた方が良いかもしれないな。
そんな訳で多少のいざこざこそあれど無事にクリムゾンを助け出すことに成功した。
後で本人に聞いた話だがどうやらいきなり襲われて拉致され、馬車の中で恐怖に耐えきれずに気絶してしまったらしい。
そんなギリギリの状態でも何とか最後の力を振りしぼって俺に助けを求めるメッセージを送ったようだ。
店の方もあれから目立った異常は無く、エール商会のものと思われる嫌がらせも無くなった。
もう彼女も彼女の店も襲おうとしている雰囲気は無いし、俺や召喚獣、RIZEなどの明らかにヤバイものが彼女の周りにいるってことを理解したのだろう。
そんな訳で今回の一件は完全に一件落着と言う訳だ。
まあそれでも万が一にという事があるかもしれないから、スターティアの街から離れる時は召喚獣の誰かを置いて行くとしよう。
……絶対にタナトスは呼び出さないけどな!
もう諦めたのだろうか。
「その、ごめんなさいHARUさん。しばらく拘束するようなことになっちゃって」
「いえいえ、こっちも好きでやっていることなので」
クリムゾンは優しい人だ。だからこそ今のこの状況をあまり良く思っていないようだった。俺たちを縛ってしまっていると思っているのだろう。
しかしだからと言ってここではいさよならとはいかない。そんなことをしたら俺は一生俺自身を許せなくなりそうだ。
ひとまず一ヵ月程は様子を見てって感じか……と、そう考えていた夜遅くのことだった。
[報告。クリムゾン様からメッセージが届いています]
「クリムゾンから?」
こんな深夜に一体何の用だろうか。
「メッセージを開いてくれ」
ナビにそう言い、メッセ―ジの内容を視界内に表示させる。するとそのメッセージウィンドウには一言、「助けて」と書かれていた。
「なんだ……これ……」
一気に血の気が引いて行く感覚がする。まず間違いなく、彼女の身に何かが起こっている。
……考えが甘かったか。俺たちがいる以上直接的なことはもうしてこないと思っていたが、それ自体がブラフだったのかもしれない。
とにかくすぐに助けに行かないと……!
宿を出て彼女の店に向かう。そして到着してすぐに彼女を探すが、そこは既にもぬけの殻だった。
「ああ、クソッ……!」
焦って仕方が無い。いや、とにかく落ち着け俺……!
冷静にならないと考えられるものも考えられないぞ!
「ふぅっ……」
メッセージが来てからまだ時間は経っていない。恐らくまだこの街の中にいるはずだ。
なら人手を増やして探せば見つけられるはず。
装備品ウィンドウを視界内に表示し、召喚獣アクセサリーを装備する。
「来い、エインヘリヤル! タナトス! フレイムドラグーン!」
この前エインヘリヤルを呼び出した時と同じように指輪が光りだし、目の前に3体の召喚獣が現れた。
「説明は後でする。今はクリムゾンというプレイヤーを探して欲しい」
「了解だマスター!」
「承知いたしました我がマスター」
「ギャオス!」
一体は以前にも呼び出したエインヘリヤル。
そしてもう一体の人型召喚獣である彼はタナトスだ。黒いスーツに黒い手袋、そして黒髪黒マスクという全身黒で固めた見た目の彼はゲーム内では死後の世界の番人という設定があった。
その設定と比べても一切の遜色が無い不気味な雰囲気をこの世界の彼も纏っている。
そして最後の一体は巨大なドラゴンであるフライムドラグーン。灼熱の炎のように赤い鱗を持ち、身体能力的にも魔法の扱い的にも他者を寄せ付けない圧倒的なスペックを持つ龍……らしいのだが、まさか会話が出来ないとは思わなかった。
いやドラゴンだから当然と言えば当然か。
そうして俺の命令を聞いた召喚獣たちはそれぞれ別の方向へと向かって行った。
このスターティアの街はそんなに大きな街では無い。向こうが陸路で移動しているのならすぐに見つかるはずだ。
『マスター、それらしき馬車を発見いたしました』
「でかしたぞタナトス。俺も今からそっちに向かう。少しの間時間を稼いでくれ」
召喚獣の視界は俺にも見えているからだいたいの場所はわかる。あとはそこに向かうだけだ。
それまで彼には時間稼ぎをして貰えれば……。
『承知いたしました。どれ、このタナトスの力をお見せいたしましょう! ダークプリズン……!』
「……タナトス、念話が繋がったままなんだが」
何故かタナトスは念話を繋げたままスキルを発動させたようだった。
『ええ、繋げたままですので。マスター殿には是非私の雄姿を感じていただきたく、念話だけでも……と』
どうやら彼は想像以上に癖のある性格のようだ。
まあ彼が使ったスキルのおかげで正確な場所がわかったし、これ以上は言わないでおこう。
「タナトス、状況は?」
「おやマスター、お早い到着ですね。見ての通り、私の魔法により馬車の動きを止めたところです」
タナトスの言う通り目の前には影のような何かに拘束された馬車があった。
「おい、何で動かないんだ!」
「そんなの俺にもわかりませんよ!」
「ええい、こうなったら……!」
なにやら言い争いがあった後、馬車の扉が開き剣を持った厳つい男が一人降りてきた。
「ああ? なんだぁこりゃ……てめえらがやったのか?」
「だとしたら……どうします?」
タナトスは出てきた男に向かって不敵な笑みを浮かべた。味方であるはずの俺でさえ心の底がキュッとするような謎の恐怖感を覚える。
「ぐっ……だったらてめえらを倒せばいいってことだよなぁ!!」
男は一瞬恐怖に染まった表情をしたものの、それを跳ねのけたのかタナトスに向かって斬りかかった。
「タナトス!」
「心配には及びませんよマスター。私がこの程度の者に負けるはずはありませんので」
「言わせておけば随分強気じゃねえか!」
「……遅いですね。圧倒的に遅い」
男がタナトスに斬りかかるのとほぼ同時に、彼は男の背後に回りこんでいた。
「んなっ、何が起きてやがる……!?」
「はい、残念。チェックメイトですよ」
「ぐぁっ……」
タナトスは手のひらから影を呼び出し、男の首を絞める。
が、そんな時馬車の中からもう一人の男がクリムゾンを連れて出てきた。どうやらクリムゾンは気絶しているようだ。
「お、お前ら……! この女が痛い目見る前に武器を捨てるんだ……!」
アイツ、クリムゾンを人質にしやがった。
確かに今の状況だとそれが一番良い選択なのかもしれない。
……それが普通の奴らを相手にしているんだったらな。
「お、おい! 近づくんじゃねえ!」
男はクリムゾンの首にナイフを突きつけながらそう言う。
それでも俺は奴との距離を詰め続けた。
「ば、馬鹿なのかてめえは! ああもう知らねえぞ俺は! 無傷で連れてこいなんてそんな無茶な命令聞いてられるか!!」
男はそう叫ぶとナイフをクリムゾンに突き刺そうとした。
突き刺したのではない。突き刺そうとした。
「……ぁ?」
男は信じられないものを見るような目で困惑している。
それもそのはずだ。何しろ、クリムゾンにナイフが刺さらなかったんだからな。
彼女が気絶していて逆に助かった。意識がある状態では流石にこの戦法は使えない。
「彼女を人質にするのは意味が無いぞ。お前程度の攻撃はそもそも効果が無いんだからな」
「な、なんなんだアンタらは……なんなんだよ!!」
男はそう叫ぶとクリムゾンを置いて逃げ出した。
「……追わなくてよろしいのですか?」
「ああ、このまま逃がす。そして今回の事を報告させる」
タナトスが追わなくて良いのか聞いてきたがこれで良い。
クリムゾン自体も俺たちと同じく異常なほどのステータスを持っていることを奴らに知らせる。そうすればもういたずらにちょっかいをかけてくることは無くなるだろうからな。
これでもなお強引に力技で行こうとする程の短絡的な思考の持ち主ならあの規模の商会の主にはなっていないだろうし。
その旨をタナトスにも伝えると納得してくれたようだった。
それはそれとして彼が残された男の身柄が欲しいと言ってきたので好きにさせることにした。
……死後の世界の番人が好きにするなんて、想像もしたく無いな。
「それでは一件落着という事ですね」
「まあそうだな。後は彼女を店まで送り届けて……どうしたタナトス?」
気付けばタナトスが俺の背後に来ていた。なんか妙に距離が近い気がする。彼にはパーソナルスペースという概念は無いのだろうか。
「もう脅威は無いのです。あまり急がなくともよろしいのでは無いですか?」
「それはどういう……って、何をしてんだ……!?」
何をするかと思えばタナトスはいきなり抱き着いてきた。
「ああ、美しい……そして可愛らしい……! このようなマスターに召喚された私は幸せ者です……!」
「ま、待て! 俺は中身は男で……!」
確かに今の俺は見た目は完全に女の子のそれだ。だが中身は一般男性のそれなんだぞ!
「そんな些細なことなどお気になさらずに。さあ、私と共に……」
ああ、なんかこれダメだ。漂って来る匂いが頭の中をフワフワさせて……。
「あぁ、てめえ! マスターになにしてやがる!!」
「……邪魔が入りましたか」
エインヘリヤルの声が聞こえる……はっ、俺は何を!?
「おい大丈夫かマスター! コイツに何もされてねえか!」
「あ、ああ……大丈夫だ……って!?」
エインヘリヤルは俺をタナトスから庇うように抱き上げた。
これは俗に言うお姫様抱っこというやつでは……!?
「お、下ろしてくれ! そこまで大変なことにはなってないって!」
「……いや、コイツは信用できないんでな」
「心配なさらずとも、そのようなことはしておりませんよ」
タナトスは目元しか出ていないが、それでもわかる程に強烈に記憶に残るような不敵な笑みを浮かべていた。何かこう執着と言うか不気味なものを感じる。
……割と真面目にエインヘリヤルが来てくれたおかげで助かったのかもな。あのままだと一体どうなっていたことか……。
「グギャオス!!」
と、そこで聞き覚えのある鳴き声がした。その方向を見るとフレイムドラグーンが飛んでいる。
どうやら彼も俺たちのことを発見出来たようだ。
……というかエインヘリヤルたちがすぐに来なかったってことはもしかして……。
「タナトス、もしかして最初に馬車を見つけた時二人には連絡しなかったのか?」
呼び出した存在が同一なら召喚獣同士も同じ魔力で繋がっている訳だし、それなら念話だって出来るはずだ。
「ええ。だって彼女たちがいればマスターを独り占めできないでしょう?」
「て、てめえ! 最初からそのつもりじゃねえか!」
これは……しばらくの間は彼を召喚するのはやめた方が良いかもしれないな。
そんな訳で多少のいざこざこそあれど無事にクリムゾンを助け出すことに成功した。
後で本人に聞いた話だがどうやらいきなり襲われて拉致され、馬車の中で恐怖に耐えきれずに気絶してしまったらしい。
そんなギリギリの状態でも何とか最後の力を振りしぼって俺に助けを求めるメッセージを送ったようだ。
店の方もあれから目立った異常は無く、エール商会のものと思われる嫌がらせも無くなった。
もう彼女も彼女の店も襲おうとしている雰囲気は無いし、俺や召喚獣、RIZEなどの明らかにヤバイものが彼女の周りにいるってことを理解したのだろう。
そんな訳で今回の一件は完全に一件落着と言う訳だ。
まあそれでも万が一にという事があるかもしれないから、スターティアの街から離れる時は召喚獣の誰かを置いて行くとしよう。
……絶対にタナトスは呼び出さないけどな!
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