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第一部 異世界アーステイル編
12 チンピラと未熟者
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近接戦闘も魔法もそれなりにまともに使えるようになってきた。そろそろ闇の勢力に関する依頼を本格的に受けて行っても良いんじゃないか。
そう考えてギルドで依頼を確認していた俺だったが、そこでまた治安の悪いのに絡まれてしまった。
「あんたが例のハルっていう冒険者か」
「……」
大柄で筋肉質な男はそう言いながら、壁に張られている依頼を取ろうとした俺の腕を掴んだ。
幼女の細い腕を掴む大男。周りから見たら事案だぞ?
「無視しようったって無駄だぞ。アンタがハルだってのは調べがついているし、今ここには俺の仲間も多くいる。逃げようったってそうはいかねえ」
なるほど。一時の気の迷いってことでも無いらしい。明らかに計画的な犯行と言う訳だ。
「……何の用でしょうか?」
「アンタが急にシルバーランクになったって聞いてな。なあ、一体どんな不正をしたんだ?」
まあ、そうなるか。ぽっと出の冒険者……それもこんな幼女が、それなりの冒険者でも手を焼いていたモンスターを倒して一気に冒険者ランクを上げた。
どう考えても不正を働いたとしか思えないだろうさ。
しかしこいつらがどう思おうが、これは事実だからなぁ。
「不正なんてしていませんよ。俺は俺の実力を正当に評価してもらっただけです」
「そんな訳があるか。闇に飲まれたフィールドウルフを倒しただぁ? その年で俺を超えられる結果を残せる訳がねえだろうがよ!」
「そうだそうだ! アルバートさんはシルバーランクの中でも相当な実力者なんだぞ。そう簡単にひよっこ冒険者が超えられるわけが無いんだ!」
ああ、ザ・取り巻きみたいなのが出てきた。
というかやたら強気だと思ったら、一応冒険者としての実力は相当なんだなこいつ。
しかしどうしたもんか。勇者だからとか言ってみるか?
[儀式魔法については秘匿されており、勇者の存在を語ったところで意味は薄いかと思われます]
そうなのか。だとするともうステータスを直接見せて理解してもらうしかないか。
「そこまで言うのならステータスを見せますよ。それで納得してもらえるのならいくらでもね」
「おいおい、良いのか? 不正がバレても知らねえぞ?」
アルバートとか言ったっけか。かなり強気だな。まあ良いさ。どうせステータスを見せればその煩い口を塞げるだろう。
「へっ、後悔してももう遅いぜ。おい、そこの受付嬢!」
「ど、どうかしましたかアルバートさん?」
「コイツの能力を測りたい。能力調査用の石板を出せ」
「は、はい! わかりました!」
受付嬢は男に命令され、慌ててギルドの奥へと入って行く。こいつのこのギルドでの立ち位置が何となくわかるな。ガキ大将か何かか?
「それではこちらをどうぞ……」
「よし、じゃあ早速そのステータスを見せてもらおうか」
「わかりました。では……」
冒険者登録をした時と同じように手の平を石板に乗せる。
表示されたステータスに特に変わりは無かった。レベルは表示されるが経験値は表示されないようで、この世界に来てから倒したモンスターの分は反映されているのかいないのかわからないな。
「な、なんだコイツは……!」
アルバートは石板に表示された俺のステータスを見て目を丸くして驚いていた。
「嘘だ、こんなステータスあり得るはずがねえ……! てめえ、また不正をしやがったな!」
「不正じゃありませんよ。これが正真正銘、俺のステータスです」
「クソッ、もう何も信じられねえ! おい、こうなりゃ直接戦わねえと気が済まねえぞ!」
おいおい、こんなところでおっぱじめる気か!?
「ついてこい、お前の化けの皮を剥いでやる!」
と、どうやらこの場でそのまま殴り掛かる程の短絡的な思考では無いらしい。その点はシルバーランクなだけはあるか。
まあそんな訳でオールアールから出て少しした場所にある草原へと連れて来られた訳だけど、これホイホイと付いてきて良かったのだろうか。
実はこいつの癖がそう言う感じで、何かと理由を付けて人気のない場所に俺を連れて行きたかっただけとか……。
「よし、この辺りで良いだろう。アンタの不正、絶対に見破ってやるからな」
そんなことは無かった。シンプルに俺の存在を良く思っていないだけだった。
まあそれならそれで、俺の力で痛い目見せてやればなんとかなるだろう。
「ルールは単純、戦闘継続が出来なくなるか降参するかで負けだ」
「わかりました。それでは……!」
剣を抜き構える。そんな俺を見たアルバートも背に担いでいた斧の抜いて臨戦態勢を取った。しかしそのまま動かない。
なるほど、闇雲に動くことのリスクを知っているのか。流石はシルバーランクだ。
だが俺だってギラに剣術を教わったんだ。もうただの一般男性では無い……!
「……なにッ!?」
地を蹴ってアルバートの側面へと潜り込む。体の動きを完全に制御できる今の俺はその高い身体能力を存分に発揮することが出来た。
要は向こうが反応する前に即座に潜り込むことに成功した訳だ。
「チェックメイトです」
「ぐっ……ま、まだだ!」
首元ギリギリに剣を突き付けたにも関わらずアルバートはまだ戦闘を続ける気だった。
……そうだった。ルールは戦闘継続が出来るかどうか。だから寸止めする必要は無いのか。
それなりに力の差があることを見せつければ諦めてくれるかと思っていたが、どうやらそう簡単には行かないようだった。
人を……斬らないといけないんだ。
「オラァ! さっきまでの威勢はどうした!」
「うぉっ」
アルバートが振り払った斧を咄嗟に剣で受け止める。
俺の身長が低いが故に狙ってくる場所はだいたい絞られるため、攻撃を受け止めるのはそう難しい事では無かった。
これもゲームには無かったことだな。基本的に身長差による当たり判定の差は無かった。
こっちではそれも意識して立ち回りを考えなければ。
「な、なんなんだあんたは! 何故俺の体重をかけた一撃をそんな剣で防げる!?」
「それがステータスの差……ですよ」
武器を使った戦闘技術では恐らくアルバートの方が俺よりも遥かに優れているだろう。
だが俺と彼の間には圧倒的なステータスの差がある。そのせいで彼の攻撃は真正面からでは俺に対してまともな影響を与えることは出来ない。
とは言え俺も彼を斬れない。剣を振ろうとすると本能的に威力を抑えてしまう。
「アンタ、さっきまでの剣とまるで違うな。何故俺を斬ろうとしない? 戦場でその躊躇いは命を落としかねないものだ。そんなんで今までどうやって冒険者をやってきたんだ?」
図星だ。すでに見抜かれていた。
だが俺は勝たなきゃいけない。
「ッ……ファイアボール!」
直接人を斬ることは躊躇いが出てしまう。それなら魔法だ。直接感覚がないから少しはマシだった。
「ま、魔法だと!?」
意表を付けたのかアルバートは回避が遅れ、ファイアボールが直撃した。
「大した威力だ……だが、まだ俺は負けんぞ!」
「嘘だろ……!?」
しかしアルバートはまだ立っていた。
今まで俺が相手してきたモンスターは軒並みこのファイアボールで倒してきた。なのにどうしてアイツはまだ立っていられるんだ……!
これが、シルバーランクの冒険者というやつなのか……?
どうやら俺は彼の事をみくびっていたようだ。ただの治安の悪いチンピラだと思っていた。
だが実際のところはかなりの実力者であったらしい。ギルドでのあの態度もその力と自信に裏付けされたものなんだろう。
それにかなりの経験を積んでいる。肉体的にも精神的にも。
ああ、俺の方が情けねえよ……。
ステータスの差があるからって余裕ぶっこいてたらこのザマだ。
この世界で生きて行くうえで、このままじゃ駄目なんだ。
「……やるしかない」
剣を握り直し、もう一度アルバートの元へと駆ける。
もう怖がっている場合じゃない。ここは日本とは違うんだ。斬らなければ斬られる……そういう世界なんだ。
「ぐぁッ……!」
出来るだけ致命傷にならないように、かつ刃の通りやすい関節の鎧の薄い場所を狙って剣を振った。
とは言え俺の攻撃力だと並みの金属鎧程度なら簡単に斬り裂けるようだ。
「うぐっ……ここまで、か……」
足の関節を斬られたアルバートはその場に崩れ落ち、もう立ち上がることは出来なかった。
「……俺の勝ちですね」
「くっ……ああ、悔しいがそのようだな。認めてやるよ。あんたが……ハルがシルバーランクに恥じない器だってことをよ」
「さて、不正の疑惑は晴れたようなので俺はもう帰ります。あとこれをどうぞ」
「……こいつは?」
回復ポーションを取り出してアルバートに渡してやった。
一応取り巻きは連れてきているみたいだが、流石にモンスター蔓延る草原に負傷させたまま置いて行くのは俺の良心が許さない。
「ポーションです。こんな草原のど真ん中で足を痛めていては色々と困るでしょうし」
「……そうか。それならありがたく頂いておこうじゃねえか」
そうしてアルバートがポーションを飲み終わるのも見ずに俺は街へと帰り始めた。
そして翌日。
ギルドへ行くといつも以上に騒々しかった。
「なんだなんだ? 何の騒ぎだ?」
「おお、今来たのか? いやー聞いてくれよ。あのアルバートが受付嬢に謝って回ってんだよ。びっくりするだろ? 一体昨日今日の間に何があったのかねぇ」
なんでも、今まで迷惑をかけたからと受付嬢や冒険者に謝って回っているらしい。
恐らく……いやまず確実に昨日俺に負けたことが影響してそうだな。
「おお、ハルじゃねえか!」
と、そんなアルバート本人がやってきた。
「き、昨日ぶりですね。足の怪我はどうです?」
「そりゃもうアンタに貰ったポーションのおかげで完全復活だ。感謝してるぜ」
「はは、それはどうも」
元の原因が彼にあるとはいえ斬ったのは俺だから感謝されるのもなんか違う気がするな……。
「それだけじゃねえ。あんたと戦って、俺なんてまだまだだってのがわかったんだ。それに冷静になってみりゃあ、有頂天になっちまって今まで色んな奴に迷惑かけちまってた。だから謝って回ってんだ。……許して貰えるかはわからねえけどな」
そう言う彼の表情は昨日初めて会った時とは違ってかなり誠実なソレだった。きっと彼なりに思う所はあるのだろう。
「そんで、それが終わったら特訓の旅に出ようと思うんだよ」
「特訓の旅……ですか」
「ああ。俺よりもつええ奴がまだまだいるってのがわかったんだ。もっと特訓して強くなって、そん時は今度こそあんたを負かしてやるからよ。覚悟しておけ!」
なるほど。昨日のあの一戦で成長したのは俺だけじゃ無かった。
彼もまた、あの戦いから知ることがあったのだろう。
「わかりました。その時はまた」
「ああ、よろしく頼むぜ!」
アルバートはそう言うと、またギルドの中へと戻って行った。
そう考えてギルドで依頼を確認していた俺だったが、そこでまた治安の悪いのに絡まれてしまった。
「あんたが例のハルっていう冒険者か」
「……」
大柄で筋肉質な男はそう言いながら、壁に張られている依頼を取ろうとした俺の腕を掴んだ。
幼女の細い腕を掴む大男。周りから見たら事案だぞ?
「無視しようったって無駄だぞ。アンタがハルだってのは調べがついているし、今ここには俺の仲間も多くいる。逃げようったってそうはいかねえ」
なるほど。一時の気の迷いってことでも無いらしい。明らかに計画的な犯行と言う訳だ。
「……何の用でしょうか?」
「アンタが急にシルバーランクになったって聞いてな。なあ、一体どんな不正をしたんだ?」
まあ、そうなるか。ぽっと出の冒険者……それもこんな幼女が、それなりの冒険者でも手を焼いていたモンスターを倒して一気に冒険者ランクを上げた。
どう考えても不正を働いたとしか思えないだろうさ。
しかしこいつらがどう思おうが、これは事実だからなぁ。
「不正なんてしていませんよ。俺は俺の実力を正当に評価してもらっただけです」
「そんな訳があるか。闇に飲まれたフィールドウルフを倒しただぁ? その年で俺を超えられる結果を残せる訳がねえだろうがよ!」
「そうだそうだ! アルバートさんはシルバーランクの中でも相当な実力者なんだぞ。そう簡単にひよっこ冒険者が超えられるわけが無いんだ!」
ああ、ザ・取り巻きみたいなのが出てきた。
というかやたら強気だと思ったら、一応冒険者としての実力は相当なんだなこいつ。
しかしどうしたもんか。勇者だからとか言ってみるか?
[儀式魔法については秘匿されており、勇者の存在を語ったところで意味は薄いかと思われます]
そうなのか。だとするともうステータスを直接見せて理解してもらうしかないか。
「そこまで言うのならステータスを見せますよ。それで納得してもらえるのならいくらでもね」
「おいおい、良いのか? 不正がバレても知らねえぞ?」
アルバートとか言ったっけか。かなり強気だな。まあ良いさ。どうせステータスを見せればその煩い口を塞げるだろう。
「へっ、後悔してももう遅いぜ。おい、そこの受付嬢!」
「ど、どうかしましたかアルバートさん?」
「コイツの能力を測りたい。能力調査用の石板を出せ」
「は、はい! わかりました!」
受付嬢は男に命令され、慌ててギルドの奥へと入って行く。こいつのこのギルドでの立ち位置が何となくわかるな。ガキ大将か何かか?
「それではこちらをどうぞ……」
「よし、じゃあ早速そのステータスを見せてもらおうか」
「わかりました。では……」
冒険者登録をした時と同じように手の平を石板に乗せる。
表示されたステータスに特に変わりは無かった。レベルは表示されるが経験値は表示されないようで、この世界に来てから倒したモンスターの分は反映されているのかいないのかわからないな。
「な、なんだコイツは……!」
アルバートは石板に表示された俺のステータスを見て目を丸くして驚いていた。
「嘘だ、こんなステータスあり得るはずがねえ……! てめえ、また不正をしやがったな!」
「不正じゃありませんよ。これが正真正銘、俺のステータスです」
「クソッ、もう何も信じられねえ! おい、こうなりゃ直接戦わねえと気が済まねえぞ!」
おいおい、こんなところでおっぱじめる気か!?
「ついてこい、お前の化けの皮を剥いでやる!」
と、どうやらこの場でそのまま殴り掛かる程の短絡的な思考では無いらしい。その点はシルバーランクなだけはあるか。
まあそんな訳でオールアールから出て少しした場所にある草原へと連れて来られた訳だけど、これホイホイと付いてきて良かったのだろうか。
実はこいつの癖がそう言う感じで、何かと理由を付けて人気のない場所に俺を連れて行きたかっただけとか……。
「よし、この辺りで良いだろう。アンタの不正、絶対に見破ってやるからな」
そんなことは無かった。シンプルに俺の存在を良く思っていないだけだった。
まあそれならそれで、俺の力で痛い目見せてやればなんとかなるだろう。
「ルールは単純、戦闘継続が出来なくなるか降参するかで負けだ」
「わかりました。それでは……!」
剣を抜き構える。そんな俺を見たアルバートも背に担いでいた斧の抜いて臨戦態勢を取った。しかしそのまま動かない。
なるほど、闇雲に動くことのリスクを知っているのか。流石はシルバーランクだ。
だが俺だってギラに剣術を教わったんだ。もうただの一般男性では無い……!
「……なにッ!?」
地を蹴ってアルバートの側面へと潜り込む。体の動きを完全に制御できる今の俺はその高い身体能力を存分に発揮することが出来た。
要は向こうが反応する前に即座に潜り込むことに成功した訳だ。
「チェックメイトです」
「ぐっ……ま、まだだ!」
首元ギリギリに剣を突き付けたにも関わらずアルバートはまだ戦闘を続ける気だった。
……そうだった。ルールは戦闘継続が出来るかどうか。だから寸止めする必要は無いのか。
それなりに力の差があることを見せつければ諦めてくれるかと思っていたが、どうやらそう簡単には行かないようだった。
人を……斬らないといけないんだ。
「オラァ! さっきまでの威勢はどうした!」
「うぉっ」
アルバートが振り払った斧を咄嗟に剣で受け止める。
俺の身長が低いが故に狙ってくる場所はだいたい絞られるため、攻撃を受け止めるのはそう難しい事では無かった。
これもゲームには無かったことだな。基本的に身長差による当たり判定の差は無かった。
こっちではそれも意識して立ち回りを考えなければ。
「な、なんなんだあんたは! 何故俺の体重をかけた一撃をそんな剣で防げる!?」
「それがステータスの差……ですよ」
武器を使った戦闘技術では恐らくアルバートの方が俺よりも遥かに優れているだろう。
だが俺と彼の間には圧倒的なステータスの差がある。そのせいで彼の攻撃は真正面からでは俺に対してまともな影響を与えることは出来ない。
とは言え俺も彼を斬れない。剣を振ろうとすると本能的に威力を抑えてしまう。
「アンタ、さっきまでの剣とまるで違うな。何故俺を斬ろうとしない? 戦場でその躊躇いは命を落としかねないものだ。そんなんで今までどうやって冒険者をやってきたんだ?」
図星だ。すでに見抜かれていた。
だが俺は勝たなきゃいけない。
「ッ……ファイアボール!」
直接人を斬ることは躊躇いが出てしまう。それなら魔法だ。直接感覚がないから少しはマシだった。
「ま、魔法だと!?」
意表を付けたのかアルバートは回避が遅れ、ファイアボールが直撃した。
「大した威力だ……だが、まだ俺は負けんぞ!」
「嘘だろ……!?」
しかしアルバートはまだ立っていた。
今まで俺が相手してきたモンスターは軒並みこのファイアボールで倒してきた。なのにどうしてアイツはまだ立っていられるんだ……!
これが、シルバーランクの冒険者というやつなのか……?
どうやら俺は彼の事をみくびっていたようだ。ただの治安の悪いチンピラだと思っていた。
だが実際のところはかなりの実力者であったらしい。ギルドでのあの態度もその力と自信に裏付けされたものなんだろう。
それにかなりの経験を積んでいる。肉体的にも精神的にも。
ああ、俺の方が情けねえよ……。
ステータスの差があるからって余裕ぶっこいてたらこのザマだ。
この世界で生きて行くうえで、このままじゃ駄目なんだ。
「……やるしかない」
剣を握り直し、もう一度アルバートの元へと駆ける。
もう怖がっている場合じゃない。ここは日本とは違うんだ。斬らなければ斬られる……そういう世界なんだ。
「ぐぁッ……!」
出来るだけ致命傷にならないように、かつ刃の通りやすい関節の鎧の薄い場所を狙って剣を振った。
とは言え俺の攻撃力だと並みの金属鎧程度なら簡単に斬り裂けるようだ。
「うぐっ……ここまで、か……」
足の関節を斬られたアルバートはその場に崩れ落ち、もう立ち上がることは出来なかった。
「……俺の勝ちですね」
「くっ……ああ、悔しいがそのようだな。認めてやるよ。あんたが……ハルがシルバーランクに恥じない器だってことをよ」
「さて、不正の疑惑は晴れたようなので俺はもう帰ります。あとこれをどうぞ」
「……こいつは?」
回復ポーションを取り出してアルバートに渡してやった。
一応取り巻きは連れてきているみたいだが、流石にモンスター蔓延る草原に負傷させたまま置いて行くのは俺の良心が許さない。
「ポーションです。こんな草原のど真ん中で足を痛めていては色々と困るでしょうし」
「……そうか。それならありがたく頂いておこうじゃねえか」
そうしてアルバートがポーションを飲み終わるのも見ずに俺は街へと帰り始めた。
そして翌日。
ギルドへ行くといつも以上に騒々しかった。
「なんだなんだ? 何の騒ぎだ?」
「おお、今来たのか? いやー聞いてくれよ。あのアルバートが受付嬢に謝って回ってんだよ。びっくりするだろ? 一体昨日今日の間に何があったのかねぇ」
なんでも、今まで迷惑をかけたからと受付嬢や冒険者に謝って回っているらしい。
恐らく……いやまず確実に昨日俺に負けたことが影響してそうだな。
「おお、ハルじゃねえか!」
と、そんなアルバート本人がやってきた。
「き、昨日ぶりですね。足の怪我はどうです?」
「そりゃもうアンタに貰ったポーションのおかげで完全復活だ。感謝してるぜ」
「はは、それはどうも」
元の原因が彼にあるとはいえ斬ったのは俺だから感謝されるのもなんか違う気がするな……。
「それだけじゃねえ。あんたと戦って、俺なんてまだまだだってのがわかったんだ。それに冷静になってみりゃあ、有頂天になっちまって今まで色んな奴に迷惑かけちまってた。だから謝って回ってんだ。……許して貰えるかはわからねえけどな」
そう言う彼の表情は昨日初めて会った時とは違ってかなり誠実なソレだった。きっと彼なりに思う所はあるのだろう。
「そんで、それが終わったら特訓の旅に出ようと思うんだよ」
「特訓の旅……ですか」
「ああ。俺よりもつええ奴がまだまだいるってのがわかったんだ。もっと特訓して強くなって、そん時は今度こそあんたを負かしてやるからよ。覚悟しておけ!」
なるほど。昨日のあの一戦で成長したのは俺だけじゃ無かった。
彼もまた、あの戦いから知ることがあったのだろう。
「わかりました。その時はまた」
「ああ、よろしく頼むぜ!」
アルバートはそう言うと、またギルドの中へと戻って行った。
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