器用貧乏なバトルマジシャン、異世界では最強でした~物理戦闘も魔法も召喚も全て使えれば強いに決まってるでしょう~

遠野紫

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第一部 異世界アーステイル編

03 冒険者ギルド

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 部屋の扉を開けると、そこはよくある部屋と言った感じだった。最低限の家具としてベッドと机と収納ボックス的な物がある。
 とは言え収納についてはアイテムボックスが使えるっぽいのであまり使うことは無いだろう。こう、アイテムを引き出したりしまったりできるアレだ。
 まあそんな感じで、ファンタジーものでよく見る感じの部屋だね。

 ただ細かい所で少し違う点が見受けられる。
 まず照明だな。この文明感だと松明とかそういったものが光源になりそうなものだが、この部屋にあったのは謎の魔道具的な何かだ。

[それは火属性の魔素を使った光源装置です]
「火属性……魔素……ってことは魔法か?」
[はい。この世界では魔道具の文明が発達しており、貴方がたの世界の生活水準程では無いにしろ最低限の生活は出来るかと]

 なるほどなるほど。それは朗報だ。前々から思ってたんだが、普通の一般人が中世的な世界にぶち込まれたら絶対に生活に問題出てくるよなとは思っていたんだ。
 それを魔道具がなんとかしてくれるなんて、この世界はなんて良い世界なんだ。何より魔道具なんてロマンがあるじゃないか。
 まあロマンが好きじゃなくちゃわざわざ器用貧乏な職業で上を目指そうなんてしないからね。

 しかもそれだけじゃない。灯り以外に水場関連も魔道具によって結構しっかりしていた。トイレもあるし、なんとシャワーもある。
 やはり日本人としては風呂に入りたいところだが、異世界でシャワーを浴びれるだけで恵まれまくっているからな。これ以上は望まないさ。

「……」

 と、そうして水場を確認していた俺の前には鏡。意識せずとも見えてしまう。この俺の今の凄まじく可愛い姿が。

「これが……俺なのか」

 ゲームの時から見慣れていた姿。しかしいざこうして自分がその姿になったのだと思うと色々と考えてしまう。
 長いまつ毛にツヤツヤサラサラの白髪。そして可愛らしいぱっちりお目目。改めて触れたほっぺたはやはりモチモチだ。
 完全に女の子だった。それも幼女。
 となるとどうしても気になってしまう。

「……俺の体なんだ。触っても何も悪くないよな」

 手が自然と胸元に伸びる。男として生まれた以上は絶対に抗えない欲求に支配された俺の体は勝手に動いてしまっていた。
 そして次の瞬間、ふにっとしたとてつもなく柔らかい感触が俺の手から伝わり体中を駆け巡る。

「こ、こんな感触なのか……!」

 こうなるんだったらもっと大きなキャラにしておけば良かった……って、いやいや何をしているんだ俺は!?
 自分の体だぞ? 
 自分に欲情しているようなものじゃないのかこれは?
 よし、落ち着け。とにかく落ち着け。

「ふぅー……」

 深呼吸で心を落ち着ける。

「さ、さて、こうして寝るところも確保できたわけだし、ついに行っちゃいますか……ギルドに!」

 自分に言い聞かせるようにそう叫ぶ。そうしなければ精神がどうにかなってしまいそうだった。

[ギルドはここスターティアの街のほぼ中心にあります]
「おお、地図が直接目の前に!?」

 ナビの能力によるものか、視界内に目的地であるギルドまでの道筋がマーキングされた地図が表示された。
 これは便利だ。これで異世界という超アウェーな場所でも迷うことが無くなるな。

[地図機能は一度訪れた場所にしか使えないため過信は禁物です]

 ふ-む、そういうデメリットというか仕様があるのか。その辺はゲームと同じなんだな。

「え、というかここスターティアの街なの?」

 スターティアの街。それはアーステイルを始めたプレイヤーが全員まず目にする場所だろう。要は最初の街である。

「どうして最初の街に? それこそ俺たちはPVPランカーだからもっと後半の街でも良かったんじゃ?」
[実は儀式魔法にも限界があるのです。全ての勇者を好きな場所に転移させるだけの力は無く、儀式魔法の要となっているこの街を初期地点としているのです]
「あー、そういうことなのか。なら仕方無いか」

 とはいうもののスターティアから他の街……特にゲーム後半に登場した街へはかなり距離があるはずだ。そこを歩いていくとなると相当時間がかかりそうだな。

[ご安心を。貴方がたの保有する転移アイテムや転移スキルは問題なく使えますのでそこは問題ありません]
「あ、そうなのね」

 それなら大分話が変わって来る。転移アイテムは基本買い得だから大量に買いだめがあるし、プレイヤーは原則として最後に訪れた街へ一瞬で転移するスキルを持っている。

 じゃあ疑問も晴れたし、今度こそギルドへ行こうじゃ無いか。
 あ、忘れない内にズボンタイプの服に着替えておこう。幸いゲーム内で手に入れたアバター衣装はそのまま使えるようだしな。

 ……とそんな訳でギルドへたどり着いた俺だが、どうやらギルドへ来ていたのは俺だけでは無かったようだ。

「あぁ!? てめえ今なんつったんだゴラァ!」

 治安が悪すぎる。早速殴りあいになりそうな雰囲気の男が二人、受付の前にいた。
 そこ邪魔なんだけど……流石にアレに仲裁に入るのはシンプルに恐怖。

「先に仕掛けてきたのはそっちだろうが」
「んだと! てめえもういっぺん言ってみろ!」

 と、そこで片方の男が殴り掛かった。だがもう一人の方はそれをあっさりと避けたみたいだ。そして目にもとまらぬ速さで男の首に手刀を浴びせていた。
 いやぁあの速さ、バトルマジシャンの俺でなきゃ見逃しちゃうね。相当な手練れだよあれは。
 というかよくよく思い返すと、そもそも俺は彼を知っていた。

[召喚された勇者の一人、デュアルアックスのレイブンですね]

 そうだったレイブンだ。PVPランク2位の実力者。彼の職業はデュアルアックス。その名の通り両手に持った斧で無数の攻撃を行う職業だ。高い火力と手数を誇っていて近接系の中でも最強と名高いものだったか。

 さらに彼は卓越したスキル回しの能力を持っている。アーステイルにはスキル使用後に特定の行動をすると硬直を緩和できるスキルがあるが、彼はそれを百発百中で発動させられる。猶予フレームを考えればとんでもないことだが、それを彼は当然のようにやってのけている。
 その境地に至るまでにはとんでもない苦労があっただろうな。

 それにしてもこっちに来てそんなに経っていないだろうに、もうあんな動きが出来るのか……。

「お前は……」

 と、そんなクソツヨな彼と目があってしまった。
 えっいきなり殴られたりしないよね?

「確かあの時にいた一人だな。となるとギルドに冒険者登録にでも来たのか?」

 ああそうか。最初に女神さまに説明されている時にトップナインの9人は全員いたんだもんな。って、その時に全員の顔を記憶していたってのか?
 なにその洞察力と記憶力。そりゃ戦闘スピードが一番早いバトルアックスを使いこなせるだけはあるわ。

「そうですそうです。とりあえずギルドに行けば進展するかと思いましてね」
「そうか。だが気を付けろ。ここにはさっきの奴みたいに治安の悪い連中が多いみたいだからな」

 ああ、あの気絶させられた人の事か。そう言えば先に仕掛けてきたのはそっちみたいなことを言っていたような。

「俺が冒険者登録をしたばかりだと知って、ちょっかいをかけてきやがったんだ」
「え、登録をしたばかりって?」
「気付いていなかったのか? どうやら俺たちは能力こそそのままだが、冒険者ランクは最初からのようだ」

 ……マジで?

[はい。ゲーム内におけるランクはあくまでゲーム内で独立したシステムであるため、この世界における貴方がたの冒険者ランクは未登録状態……言わば一番下からとなります]

 おいおいマジかよ。
 それじゃあ絡まれてもしょうがない……いやしょうがなくは無いか。こればかりは絡んでくる方が悪だわ。

「とにかく、俺はランクは放っておいてでも闇の勢力を討伐しに出かける。少しでも早く奴らを滅ぼしたいんでな……」
「そうですか。気を付けてくださいね」

 とまあそんな訳でレイブンは行ってしまった。どうせなら一緒に行動した方が良さそうな気もするが、彼には彼なりの考えがあるのだろう。
 やたらと切羽詰まった表情をしていたような気もするが、きっといきなり異世界に転移させられたせいだろうな。俺もいまだに理解しきれてないし。

 さて、それじゃあ俺も冒険者登録をしますかね。

「冒険者登録ですか? それならばこちらの石板に手を置いてください」

 これまたよくあるやつだな。こう、能力的なのが表示されるやつだろう。

「こ、これは……!」

 案の定能力が表示された。そして受付嬢の反応も案の定と言った感じだった。
 まあ具体的には筋力とか生命力とか、保有魔力量とか、その辺が一般冒険者の数十倍から数百倍だってさ。凄いね。
 これでも俺は物理系と魔法系の両振りだから、恐らく特化ビルドの人はもっととんでもないんだろうな。
 
 あと目立つとしたらプレイヤーレベルだろうかね。ゲームにおけるレベルキャップは300。当然PVP勢はカンスト前提だ。
 ああ懐かしい。夜も寝ずに狩場でひたすら雑魚狩りをしていたのを思い出す。カンストした時の感動は忘れもしない。
 まあそこまでしてPVP勢としてはやっとチュートリアル終了なわけだけども。

「ま、まさか二人続けてこんなステータスの新人が現れるなんて……!」
「あー、多分まだあと数人は来ると思いますよ?」
「えぇ!? いやそんなまさか。これほどのステータスを持っている人がそうぽんぽんと来るはずがありませんって!」

 なお、その後他の勇者も来たようだった。次の日受付嬢に会ったらなんかもうこの世の終わりでも見たかのような状態になっていた。
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