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10 ルガレア王国と星龍教団

58 ルガレア王国

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 数日かけてサザンとランの二人はルガレア王国へとたどり着く。少し高めの入国料を払い国内に入ると、そこは以前箱庭の中で訪れた時と同じく賑わっていた。
 
「情報集めならまずは冒険者ギルドへ行くべきだと思うが、ランはそれで良いか?」

「ああ、構わない」

 ランの答えを聞いたサザンはギルドのある方へ向き直し歩き始める。少し歩くと国民の住む住宅街からは離れ、代わりに商店が増え始めた。商店では武器や防具などの装備品に薬草や革袋などの道具、貿易によって持ち運ばれた諸外国の品などが多く並べられている。国民が生活に使う商店街と言うよりは、冒険者や旅の者が立ち寄ることを前提にしていると言って良いだろう。

 そのまま歩き続けた先に冒険者ギルドはある。中に入ると、大勢の冒険者で溢れていた。とは言っても以前サザンが訪れた際はイル・ネクロという脅威によって王国外からも多くの冒険者や傭兵が集められていたため、今はその時程の飽和状態では無かった。

 サザンはまず冒険者登録を行うために受付へと向かった。サザンの持つ冒険者登録証は箱庭の中でのものであるため、箱庭外であるこのギルドで使えるかがわからなかったからだ。
 しかしその考えは杞憂に終わった。受付嬢に確認した所、登録証は箱庭の中でのものと同一だったのだ。ただ、パーティ登録がされていたメンバーと現在のメンバーが違うため登録のやり直しは発生したのだった。

「サザン様とラン様のお二人でのパーティ登録が完了いたしました」

「……ありがとうございます」

 登録証を受け取ったサザンは少し表情を曇らせた。登録証から前のパーティメンバーであるメルとリア、そしてファルの名が消されたのだ。登録証から名が消えたというだけで、それ以上でもそれ以下でもない。それでも今のサザンは三人と繋がるものが消えることに対して敏感であったのだ。

 少しして依頼の張り出されている掲示板へと向かうサザン。掲示板には薬に使うキノコの採取から村を襲う魔物の討伐まで幅広く依頼が張り出されている。サザンが依頼を探し始めたのも、もしかしたら何かしらの手がかりがあるかもしれないと思っての行動だった。人探しの依頼がギルドに持ち込まれることも決して少なくは無いためだ。だが、どの依頼にもメルたちに関する情報は無かった。

 そこまで期待していなかったサザンは掲示板から離れる。そんな時、冒険者による噂話が耳に入って来た。その内容は二人の女冒険者による活躍。一人は神官、そしてもう一人は魔術師。その話の二人はメルとリアに限りなく似ていると感じた。

 サザンは取り乱しながら、その話をしていた冒険者に尋ねる。そうして詳しく話を聞いた限り、やはりその二人はメルとリアである可能性が高いようだった。しかし妙なことに、その二人の容姿は少女のようだと言うのだ。洗練された戦闘技術や能力は遥かに高いがその見た目は年若き少女である。だから噂になっているのだと。

 サザンはその情報に違和感を覚える。それも当然の事だった。メルとリアは箱庭外での十数年で成長していて、決して少女と言える容姿では無かったはずなのだ。それでもこの二人がメルとリアである可能性が高いと思ったサザンは、その情報を頼りに二人を探すことにしたのだった。

「サザン、何か進展はあったのか?」

「それらしい情報を見つけたんだ。ちょうど近くに向かう依頼もあったから、その依頼をこなしつつ探そうと思う」

 サザンは二人が先日依頼を受けたという辺りに向かうことにした。同時にその辺りで繁殖し過ぎてしまった魔物を討伐する依頼もこなす。増えすぎた魔物は餌を求めたり縄張り争いのために近隣の村を襲うことがある。それに特定の種だけが増えすぎると生態系への影響も生まれるのだ。

 自動で魔物がリポップするダンジョン内ならばともかく、ダンジョン外ではその生態系への影響がいつか悲劇を生むことになる。それを防ぐためにも冒険者ギルドは定期的な討伐依頼を張り出している。

 肌身離さず持っていた登録証と違い、革袋に入れていた貨幣はどこかに行ってしまっていた。道中で狩った魔物の素材も王国で生活する上では少々物足りない額だった。そのため当面の生活費を稼ぐためにも、サザンは該当のエリアで魔物を狩りつつ二人を探すことにした。

 結局その日、サザンは二人には出会えなかった。二人が依頼を受けたというこの場所は木々が生い茂る森であり見通しも悪い。そう簡単に出会える場所でも無かったので当然と言えば当然だった。

 サザンとランが宿へと戻ったのは既に日が落ちた後であり、一階にある酒場は夕食を楽しむ冒険者や旅人で賑わっていた。ギルドからそう遠くない位置関係も影響しているのだろう。
 
 二人も夕食をとるためにカウンター席へと座る。宿代は立地の影響か決して安くは無いため贅沢は出来無い。それでもサザンたちの能力であれば魔物討伐に苦戦することは無いため、貧乏生活を強いられるという事も無い。二人はパンとスープを食べ終えた後、明日の活動に支障が出ない程度に酒を嗜んだ。

 こうして二人が夕食を終えた頃、突然酒場の中に集団が入って来たのだった。

 集団の内の何人かは店主の許可も無く厨房へ入ったかと思うと酒樽を持ちだす。また別の者は酒場にいた女冒険者の腕を掴み無理やり外へ連れ出そうとする。突然の事に状況が上手く呑み込めていないサザンだったが、店主の苦悶の表情にこの状況が褒められたことでは無いことを悟った。

「とりあえず、腕を離してはもらえませんか?」

 サザンは女冒険者を連れ出そうとしている男の腕を掴み、そう言った。サザンの意図を理解したのかランも酒樽を持ち出そうとしている者たちに近づいて行く。

「何だ貴様は。この星龍教団に歯向かおうと言うのか?」

 サザンに腕を掴まれた男はそうに言い放つ。傲慢さを隠そうともしないその声色にサザンは苛立ちを隠せなかった。

「良いだろう。我らに歯向かう愚か者には粛清が必要だ」

 男はそう言うと、突然サザンに向かって魔法を放つ。

「石になり己の罪を償うと良い……何……だと?」

 男が放ったのは石化魔法。しかし耐性魔法をエンチャントしてあるサザンには石化魔法は効かなかった。自分の放った魔法が無力化されたのを見て男は酷く動揺する。それを見ていたであろう者たちも同様を隠せないようで、一目散に酒場を出て行ったのだった。

「……凄いなアンタ」

 酒場にいた冒険者の一人がそう声を漏らす。それに次いで酒場はまた活気を取り戻していった。

「あの星龍教団を追い返せるなんて大したタマだよアンタは」

「その星龍教団と言うのは……?」

 サザンは酒場の皆が言う星龍教団というものについて店主に聞く。それを聞いた店主は目を丸くするが、サザンがこのルガレア王国に来たばかりだと言うことを話すと合点がいったように頷いた。そしてサザンに星龍教団について話し始めたのだった。
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