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4 王国の危機

28 最高の一撃

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「イル・ネクロに通用する魔法があるというのは本当か!?」

「ああ。だけどこれにはデメリットもあるんだ」

 魔法攻撃を行う者たちに、この付与魔法について説明した。
 ヤツに通用する可能性があること、そして大きな負担がかかること。
 それを聞いて立候補する者はいないと思っていた。
 死ぬほど辛い反動が来るものは極力避けたいはずだからだ。

「俺がやってやろうじゃねえか」

 しかし堂々と名乗り出た者がいた。炎魔法を得意とする魔術師のバーンだ。

「本当に良いのか? 反動は凄まじいものになると考えられるが」

「誰かがやらなきゃいけねえんだろ? それにそんな役回り、女子供にはさせたくねえ。いいから俺に任せとけって」

 熱血漢と言った印象のある彼であるが、この覚悟と正義感からまさに炎のような心を感じ取れた。
 この頼れる存在といった雰囲気からグロスのことを思い出す。アイツは見せかけだけのクズだったが。
 
 大まかな流れとしては、魔法の使える者が詠唱を行い発動寸前の状態でバーンへと渡す。
 そして彼に集中した魔法を一つの魔法に纏めて放つ。それによりすべての魔法が合体して高威力の一撃となるわけだ。

 これが効かなければヤツに通用する攻撃手段は俺たちには無いということになる。
 この状況を逆転するための最高の一撃を放てなければ終わりと言うわけだ。

 炎、水、風、氷……ありとあらゆる属性の魔法が唱えられては彼に集められて行く。

「おお、すげえなこの感覚!? 何て言うか、体の底からエネルギーが湧き上がるみてえだ!」

「みんなの魔法が一時的にバーンの中に入っているわけだからな。その分撃った後の反動も大きくなってしまうわけだが……」

「気にすんなって。こんな魔法を作れるだけですげえんだから、もっと胸を張れよ」

 この後想像を絶する反動が訪れるというのに人の心配が出来るだけの余裕。あまりにもいい男過ぎる。
 それに対してグロスのクズさに腹が立ってきた。
 やっぱりあの時もっと色々とやっておくべきだったか。

「だいたい20個ほどの魔法が集まったが、これでどうだ?」

「バーンの最大魔力量から考えるともう少しほど集められる。けど体の負担が大きくなりすぎる可能性があるからここらで止めておいたほうが……」

「なら続けてくれ」

「良いのか?」

 これ以上彼の中に魔法を集めれば、反動によって死ぬ可能性すら出てくる。
 しかしそれでも彼は続けると言った。

「この国には守らなきゃいけないヤツがいるんだ。だから何としてでもイル・ネクロの進行は止めないといけねえ」

「……そうか。撃った後の補助は全力で行う。だから耐えてくれよ……!」

 この話を聞いてしまった以上絶対にこの国を守らなければならなくなってしまった。
 俺自身メルやリアに救われた過去を持っている以上、大事な人を守りたいというその気持ちは痛い程わかる。
 
「よし、後はバーンの最大火力の魔法をヤツに放てば、集められた魔法と合体して最高の一撃になるはずだ」

「わかったぜ。……この一撃、皆の想いの乗った最高の一撃にしてやるよ」

 彼は得意の炎魔法の詠唱を始めた。
 魔法陣は多くの魔法を集めたためか特大サイズになっており、彼自身から放たれる魔力濃度が異常なまでに濃密になっていく。

「……フレイムインパクト!!」

 詠唱を終えた彼の持つ杖の先端からは詠唱時よりも遥かに巨大な魔法陣が複数展開され、その一つ一つから極太の炎の塊が射出された。
 それはイル・ネクロに着弾すると、轟音と共に大きな爆発を引き起こす。
 今までの攻撃ではびくともしなかったヤツの体がグラリと揺れ動き、連続で放たれた炎の塊が次々に追撃を与えて行く。

 そして遂にイル・ネクロはその歩みを止めた。
 それだけでは無い。
 前足で体重を支えることが出来なくなったのか、前方に崩れ落ちたのだ。
 ヤツに、絶対的な存在だと思われたその巨体に、とうとうダメージを与えることに成功したのだ。

「ぐっ……がはっ」

 しかしその代償として、バーンの体に降りかかった反動も大きかった。
 大量に集めた魔法を一気に撃ち出したため極度の魔力欠乏状態となり、手足に力が入らなくなる。
 内臓にまでダメージが入ったのか吐血もしてしまっている。
 むしろ生きているのが不思議な程だ。

「ポーションだ! 頼む、飲んでくれ!」

 バーンは自らポーションの瓶を持つことが出来ないため、口を開けて無理やりにでも飲ませる。

「ごほっ……。はぁ……はぁ……死ぬかと思ったぜ……」

 俺の作る完全回復ポーションは以前リアの腕を治したように、どんな怪我でも治すほどの効果を持ったものだ。
 だがそれは回復させるだけであって、一度味わった苦痛を記憶から消すことは出来ない。
 バーンに降りかかった死ぬほどの苦痛という記憶は消えないのだ。今後の冒険者生活に支障が出る可能性だってある。
 体が大丈夫だからと言って精神まで大丈夫かと言われれば、決してそうでは無いのだ。

「ヤツはどうなった?」

 ポーションによって回復した後、即座にイル・ネクロの状態を確認しに行くバーン。
 彼の精神は壊れてはいないようで良かった。この分ならきっと大丈夫だろう。

「完全に動きが停止しているな……やったのか?」

 イル・ネクロは崩れ落ちた後動いてはいないようだった。
 これで倒すことが出来たのならば何よりだが、そう簡単なものなのであろうか。

「よし、確認のため近接部隊を向かわせよう。遠距離部隊、補助部隊は援護の準備を」

 ガルドの指示により近接部隊の準備を始める。
 俺も前線に出たいものだが、エンチャントを行える者が俺だけである以上下手な行動は出来ない。
 とりあえず近接部隊にも既に必要そうなエンチャントは一通りかけてあるため、俺は再びポーションの生成を始める。
 何かあった時のために余裕を持っておくのは大事だからな。




「ふーん、近くで見ると本当にでけえな」

「あまり近づくと危険ですよ」

 黄土色の鎧を纏った細身の戦士であるイドは、イル・ネクロに近づこうとする冒険者を諫める。
 完全に死んでいることを確認できていない以上、彼の行動は正しいだろう。

「ウイ、キュウ、私の後ろにいて」

「やっぱりカイは頼りになるわね!」

「けものわーる随一の肉弾戦特化なだけあるね」

 キュウ、ウイの二人を守るようにカイが先陣を切って歩く。彼女たちの中でただ一人盾を持っているため防御能力に自信があるのだろう。

「イル・ネクロの目の前にまで来たわけだが、どう確認すれば良い?」

『目を確認してくれ。死んでいるのであれば、強い光を当てても瞳孔が動かないはずだ』

 サザンの通信魔法によって近接部隊はガルドとの情報共有が出来る。
 これによって近接部隊はイル・ネクロが生きているかどうかの確認方法の共有や、もしもの際に円滑な行動が出来るようになる。

「了解した」

 ランはイル・ネクロの顔の方に向かい、その厚く重い瞼を上げた。
 その瞬間、大きな目はギロリと動きランを睨む。
 ヤツは、イル・ネクロは生きていたのだ。
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