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4 王国の危機

24 イル・ネクロ

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 イル・ネクロ……それは巨大な龍の魔物であり、伝承によると数百年に一度この辺りに現れるらしい。
 元々この国のある場所はイル・ネクロの通り道だったらしく、それに気付かずここに国を築いてしまったためにどうしたものかと考えている内に今に至ると言う。
 それだけならば今すぐどうこうということは無いだろう。
 しかし今、この国にイル・ネクロが向かっていると周辺諸国から連絡があったようで、それはもう大変な騒ぎになっている。
 何しろ他の街にイル・ネクロが訪れた際には、防衛施設が全く意味を持たずあっと言う間に壊滅したと言う報告もあるのだ。
 当然この国が襲われればひとたまりもない。
 そのため国王は国の保有している財だけでは無く私財を投じてまで、各国から有力な冒険者や傭兵を集めている。
 そして集まった者たちで迎撃作戦を行うのだと言う。
 この国が陥落すれば周辺諸国の貿易が停止してしまうため、辺り一帯に大きな被害が出てしまう。それを何としてでも食い止めたいのだろう。

 冒険者が語った内容は概ねこんなものだった。

「情報提供助かるよ」

「俺もこの国出身じゃないから詳しくは知らないんだけどな。でもこの作戦で活躍すれば報酬たっぷりだから参加しない手は無いぜ!」

 そう言ってその冒険者はギルドの奥へと向かって行った。
 どこか楽観的な印象を受ける者だったが、それなりの装備を纏っていたため実力者であることは間違いないのだろう。
 だとしても緊張感と言うか危機感が無さすぎる気もするが。

「私たちはどうするの?」

「受けるにしても情報が少なすぎるな。何の対策も無しに挑んでいい相手とは思えない」

 詳しくはわからないものの、話し通りの存在となるとSランクパーティが複数でも辛いのではないだろうか。
 
 魔物は通常『Eランク』から『Sランク』までのランク付けが行われている。
 しかしその枠組みに当てはまらない『特異ランク』とされる例外的な魔物が存在する。その魔物は勇者パーティや複数の国の軍隊が出向くことになる程に強力な存在だ。
 なお後から聞いた話だが、魔人ファレルロも特異ランクに指定される予定だったらしい。勇者パーティが敗北したのだから当たり前と言えば当たり前か。

 それらを踏まえると、今回のイル・ネクロは恐らく特異ランクである気がする。
 とは言えこれはあくまで経験則からの推測であって、普通にSランクの魔物である可能性もある。そう願いたい。
 ……これほどに冒険者が賑わっている時点でその願いも潰えているようなものかもしれないが。

「そこの冒険者さんも参加希望ですか?」

「え!? いえ俺たちは」

 突然受付嬢が話しかけてくる。毎度の事だが受付嬢は気配遮断のスキルでも持っているのかと思う程にその接近に気付けない。妙なことをしたら背後からサクっとやられそうだ。

「参加希望であればこちらの書類にサインをお願いしますね」

 受付嬢はやたらグイグイと迫って来る。
 恐るべし王国の受付嬢。きっと普段からかなりの修羅場を潜り抜けているのだろう。面構えが違う。

「イル・ネクロについて情報が少なすぎますからね。今は一旦……」

「それなら心配はありませんよ。作戦前に情報交換含めての作戦会議を行いますので」

「そうなのですか?」

 各パーティ単位での戦いになるのかと思っていたが、どうやら全員で一斉に戦いを挑む方式の様だ。
 なおさらイル・ネクロが特異ランクである可能性が高まった。いやほぼ確実だろう。
 それだけ入念に準備を進めなければならないと言うことは、それだけ国にとって脅威になると言うことに他ならない。

 しかしそれなら好都合でもある。今以上の確かな情報が手に入る可能性も高い上に、先ほどの冒険者が言っていたように報酬の多さも魅力的だ。

 作戦に参加するなら、ひとまず皆の意見も聞いておかないといけないな。

「皆はどうしたい」

「もしかして、私たちが日和って依頼を受けないと思ってるの?」

「はは、まさか」

 メルもリアも、ランもファルも、皆その目には決意と覚悟が滲み出ていた。
 そうか、俺たちは仮にも魔人と戦ったパーティだ。……もう俺が心配する必要も無いのかもな。

「早速贖罪が出来て嬉しいぞ。この国と、この国に住む人々を守って見せよう」

 自らが過去に行った殺しの罪滅ぼしを行う絶好の機会であるためか、一際ファルは張り切っていた。
 しかし危なっかしさも感じる。贖罪に力を入れ過ぎて自らのことを蔑ろにしている。そんな不安定さも感じてしまう。

「その意気だファル。だが決して人々のために死ぬみたいなことはやめてくれよ。お前はもう俺たちの仲間なんだから別れるのは悲しいんだ」

「……そうだな。忘れぬよう心に刻み込んでおこう」

 そう言ってほほ笑んだファルだが、急にそんな表情をしたものだから思わずドキっとしてしまった。
 落ち着け。今は少女の見た目だが中身は魔人だ。
 
 一旦心を落ち着けるためにも、俺は作戦に参加するためのサインを書きに受付へと向かった。
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