大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫

文字の大きさ
上 下
22 / 76
3 勇者パーティの後始末

22 帰還

しおりを挟む
 俺たちがギルドに戻って来た時、そこはもうお祭り状態だった。

「おい、あいつらが帰って来たぞ!!」

 誰かのその言葉を合図に、その場にいた者たちが湧き上がる。

「こ、これはいったい……?」

「アンタらが魔人を討伐してくれたんだろ? 各地で暴れていた魔物が一斉に鎮静化したんだよ」

「そんとき魔人討伐の依頼を受けているのはアンタらだけだからな。隠しても無駄だぜ~?」

 この場にいる者のほとんどは既に酔っているのか、顔が赤かったりフラフラしている者が多い。
 
 しかし彼らの言っていることが正しいなら、俺がファルにかけた魔力抑止は効果があったようでなによりだ。
 ただ一つ問題がある。俺は魔人を討伐したことになっている。
 いやまあ確かに問題が解決したのなら、普通は魔人を討伐したもんだと思うよな。

 どう考えたって、魔人が人の少女の姿になっているとは思わないはずだ。

「サザン様! このたびはありがとうございました!! サザン様ならきっとやれると信じていましたよ!」

 受付嬢は俺を見るなり、報酬が入っているであろう大きな袋を持ち勢いよく走って来る。

「こちらが報酬になります! これからもどうかよろしくお願いしますね、我らの英雄様!!」

「英雄様にカンパーーイ!!」

 そりゃ魔人を討伐したら英雄だよな。うん。
 でも倒してないんだこれが。
 ……罪悪感が凄い。
 
 いや、魔物の活性化自体は止めたのだから一応救いの英雄であることに間違いはない。
 間違いはないが……魔人討伐の依頼の報酬を受け取っても良いものだろうか。

 そこで俺は、この場の大勢の者が酒を浴びるように飲んでいることに気付く。
 なら……。

「よーし、宴だ! この英雄様が払うから、皆たっぷり飲んでくれ!!」

 ……これだ!

「おおぉぉぉ英雄様あぁ!!なんて太っ腹なんだぁぁ!!」

 想像通り、皆うまいこと乗ってくれた。これで少しは罪悪感も薄まると言うものだ。
 報酬の分で足りなかったらその時はその時だ。英雄様はその程度でケチ臭くはならないのだ。

 俺はファルをパーティメンバーとして正式に迎え入れるための処理をしに、受付嬢のもとへ向かう。

「パーティメンバーの新規追加ですね。……あの、今メンバーを追加するとパーティランクが下がってしまうのですがよろしいでしょうか。サザン様のパーティは今回の功績でSランクに認められると思うのですが」

「構わない、続けてくれ」

「はい。それでは」

 受付嬢はパーティランクについての注意点を言ってくれたが、今はそれは関係ないことだ。ファルを新人冒険者として登録した以上、彼女のいる俺たちのパーティランクは引き続きAランクのままとなる。

 ここまで来てSランクの名誉のために彼女を裏切ることなんて出来ないしな。

 これでファルも俺たちの正式なメンバーとなった。彼女は魔力抑止をしているとは言え魔人だからな。これからの成長が楽しみだ。




「なあ英雄様の連れの嬢ちゃん……えっと、メルちゃんだっけ? 俺たちとあっちで飲まねえか?」

 こういう酒の席だと、やっぱりこういう人が現れるのね。
 でも私だってもう弱くない。こんな輩一人で対処しなきゃ……。

「すみません、私そういうのは結構なので」

「まあまあそう言わずにさぁ」

 そのまま離れようとしたが、腕を掴まれ無理やり引っ張られる。

「……やめてください」

「ちょっと一緒に飲むだけだろぉ? ほら、あっちで一緒に飲もうぜ」

 無理やり振りほどこうとするも、思った以上に掴む力が強く振りほどくことが出来ない。

「俺、一応レベル40超えの戦士なんだよ。魔術師のメルちゃんじゃあどれだけ頑張っても振りほどくことは出来ないかなぁ~?」

「くっ……」

 じわじわと少しずつ引っ張られていく。このままだと裏まで連れていかれてしまう……。
 コイツらに力づくで何かをされたら、私にはそれを防ぐことは出来ない……。

「こんな上玉、英雄様だなんて乗せられて喜んじまってるガキのもんにさせとくのはあまりに勿体ねえよなぁ」

「嫌……やめて……」

「その子、嫌がっているだろう?」

 突然、私の腕を引っ張る男の背後に一人の青年が現れた。

「なんだぁ……? っておいおいアンタ、逃げ帰って来た勇者サマじゃねえかよ。魔人は倒せないけど可愛い女の子は救うっての?」

「その手を離せよ。嫌がってるだろ」

 勇者と呼ばれた青年はそのまま言葉を続ける。

「なら力づくでやってみィィィテテテェェ!?」

「あまり乱暴はしたくないんだ」

 目にも止まらない速さで、勇者は男の肩の関節を逆方向に曲げる。今にもボキっといってしまいそうではあるが、そうならないのは勇者が手加減しているのか男が戦士として屈強だからなのか。

「クソッ覚えていろよ! お前みたいな逃げ帰ってきちまう弱虫勇者なんてすーぐに超えてやるからなぁ!!」

 男は勇者を振りほどき、捨て台詞を吐きながら去っていった。

 それにしても、この青年が勇者……。
 魔人と実際に戦った私だからわかる。彼は決して弱くは無い。ただそれでも、勇者であったとしても魔人に届かなかった。それだけのことなんだ。

「あの、ありがとう」

「良いさ。困っている人がいたら助けるのが勇者の仕事だからね。それじゃ」

「えっと……」

「うん? まだ何か?」

「私が言っていいのかわからないけど……魔人討伐に失敗したからって、それを悔やまないで欲しいの。確かに魔人は強かったけど、あなたたちだってかなり強いはず!」

「そう言ってくれるのはありがたいけど、それじゃ駄目なんだ」

「え……?」

 勇者は覚悟の決まったような、深刻な表情をしてそう言った。
 その姿は、強くなければならないという一種の呪いにかかっているようにも思えた。

「ごめん……こんな話、無関係の人にするべきじゃなかった。それじゃ……」

 勇者は逃げるように去ってしまった。
 しかし、彼の最後の表情が頭に焼き付いて離れない。恐らく彼は、今後も辛い現実に直面していくのだと思う。

 でも、私にはどうすることも出来ない……。




 あれからしばらく経ったが、まだ宴が終わる気配はない。

「流石にそろそろ寝たいんだがな……」

 夜も遅くなってきたが、奢ると言ってしまった以上俺が先に出て行くわけにはいかない。
 英雄様が宴から抜けだしたら色々と不味いだろうしな。

「……なんでアイツが、ランが生きているの……!?」

「うん? 今どこかでランを呼ぶ声が……」

 喧騒に紛れてランを呼ぶ声が聞こえた気がしたが、振り返ってもそれらしき人物は見つからなかった。

 結局この後、解放されたのは次の日の昼頃だった。

「うぅ……飲みすぎた」

「以前にも似たようなことになっていたな。その時は私が介抱してやったのだが」

「いやランは俺のベッドに潜り込んでいただけじゃないか」

「サっサザンとランはそのような関係であるのか!?」

 ファルは俺とランの言葉を聞いて何かを誤解したようだ。

「えっと違うんだそれは」

「私は違くなくとも構わないが?」

 頼むから話をややこしくしないでくれ!

「それで、次はどうするー?」

「リアはどうしたいの?」

「私は特にないけど、ひとまずファルの装備品を揃えなきゃね!」

「そうだな。このまま丸腰というわけには行かないだろう」

 ファルにはひとまず俺のスペアの短刀を持たせてはいるが、防具は何も装備してない。
 確かにこのままでは依頼を受けるのもダンジョンに潜るのにも不便だ。

「それじゃ、まずは大きめの街に行って色々と整えるか!」

 次の目的も決まったことだし、ひとまず俺は寝る! 徹夜だからな!

 昨日聞こえた声の正体も気になるが、それよりも俺は目の前の睡眠に心を奪われていたのだった。

勇者パーティの後始末 完
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜

ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。 その一員であるケイド。 スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。 戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。 それでも彼はこのパーティでやって来ていた。 彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。 ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。 途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。 だが、彼自身が気付いていない能力があった。 ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。 その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。 自分は戦闘もできる。 もう荷物持ちだけではないのだと。 見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。 むしろもう自分を卑下する必要もない。 我慢しなくていいのだ。 ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。 ※小説家になろう様でも連載中

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。 応援本当に有難うございました。 イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。 書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」 から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。 書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。 WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。 この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。 本当にありがとうございました。 【以下あらすじ】 パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった... ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから... 第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。 何と!『現在3巻まで書籍化されています』 そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。 応援、本当にありがとうございました!

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい

桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。 しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた! 今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。 そうしていると……? ※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!

処理中です...