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終章『アヴァロンヘイムと悪魔の軍勢』
65 大司教の正体
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貧民街を出た馬車を追って行くと、とある教会に辿り着いた。
そして馬車は裏手から教会の敷地内に入って行く。
「これ以上は無理か……」
流石にこんな時間から堂々と不法侵入をするわけにはいかなかった。
いや時間帯に関わらず不法侵入は不味いんだけども。
「でも、少なくともこの教会に攫われた少女が集められていることは分かったわね」
「問題はその後どうしているのか……そして何のために集めているのか……だな」
結局このまま中で殺されたりしていたらどうしようもない。
どう足掻いても教会の中で起きている事を調べられないとお手上げだった。
……いや待て、手ならあるぞ。
ステラから数多くの魔法を受け継いだ今、俺は透明化魔法を使えるのだ。
「二人共、聞いてくれ。俺に策がある」
俺は透明化魔法を使った教会内への侵入について、二人に話した。
「確かにそれなら教会の中に侵入できそうだけど……あまりにも危険過ぎるよ。もしもステラの身に何かあったら……!」
「心配かけてすまない。けどもう、この手しかないんだ」
ルキオラにはまた心配をかけてしまうな……。
しかし今ここで引き下がるわけにはいかないのもまた事実だった。
「ふふっ。貴方なら大丈夫だと思うけれど、その時は任せておきなさい。最悪、聖王都を敵に回してでも貴方を助け出すわ」
「それは……少し待ってほしい。けど、心配してくれるのは嬉しいよメイデン」
ルキオラを悲しませないために、そしてメイデンに国家転覆をさせないためにも、俺にミスは許されなかった。
「それじゃあ行って来る」
透明化魔法を発動させ……その後、全装備を解除した。
この透明化魔法の厄介な点はただ一つ。身に着けている装備品は透明化されないところだ。
そのため基本的に透明化している間は丸腰でなければならなかった。武器すら持てないのだ。
そのことを二人には伝えていない。きっとそれを言えば、ルキオラはこの作戦を許してはくれないだろうから。
「ふぅ……」
庭を抜け、まずは教会内に入ることに成功した。
次は馬車から運び込まれた少女たちの捜索か……あわよくば大司教が何かしてくれちゃっていれば話が速いんだけどね……。
「大司教様。新たに少女が運び込まれましたので、どうかご確認を」
廊下の奥から、あの聖職者の男とはまた別の男の声が聞こえてきた。
つまりは少なくとも共犯者がいるということだ。
あの男の単独での犯行と言う訳では無いことがこれで判明したな。
そしてこの内容からして、男が話している相手は大司教だろう。
万が一にも重要な何かを聞き逃してしまったら洒落にならないため、ゆっくりと慎重に、忍び足で声がした方へと向かった。
透明化することは出来ても気配まで消せるわけではないのがもどかしい。
「……ご苦労様。下がっていいわよ」
恐らく大司教がいるであろう部屋の前に行くと、中から妖艶な声が聞こえてきた。
煽情的で蠱惑的。そんな人を惑わすような声。
今の一言だけで、間違いなくこれが大司教のものであると一瞬で理解できてしまった。それだけの異質さがその声にはあったのだ。
「いえ、まだご報告したいことがあるのです。現在、貧民街から届く少女の数が減っておりまして……」
「……そろそろだとは思っていたのだけれど、思ったよりは早かったわね」
男の報告を受けても大司教の声は何も変わらず、いたって普通で、冷静なままだった。
と言うより、その言葉から察するに彼女自身既にその事実には気付いていたのか。
「ですので、今後はターゲットの基準を拡大するか……あるいは他国への侵攻を進める必要があるかと思われます」
「そうね……選択の時が来たのかもしれないわ。だけどそれは……すくなくとも今この瞬間ではないようね」
「と、言いますと……?」
「だって、虫が入り込んでいるんですもの。そうでしょう? 扉の向こうで、私たちの会話を盗み聞きしている誰かさん?」
「ッ!?」
気付かれている……!?
いや、透明化の魔法は正常に発動しているし、そもそも扉を挟んでいる以上こちらは向こうから見えていないはずだ。
それに気配だって可能な限り消していたんだ。
少なくとも部屋の中から気付けるはずは無かった。
「……怯えているのね? ええ、確かに怖いでしょう。見つかるはずが無い。気づかれるはずが無い。そう思っていたんだもの。怖いに決まっているわよね。でも大丈夫よ。心配はいらないの。私は貴方の行動を許します。そして貴方に救済を与えましょう」
「大司教様、何を……ぐぁっぁ!? や、やめてくださ……ぃ!? た、助け……誰かたす……け……」
……何だ?
部屋の中で何が起こった?
男の断末魔が聞こえたかと思えば、すぐに消えた。
この状況だ……死んだとしか思えない。
だが何故今このタイミングで男を殺す必要があったのか。
それに彼女の言葉からはそんな意図がまるで感じられなかった。
「……そこね?」
「ッ!!」
殺気を感じ、すぐさま扉から離れた。
その瞬間、扉を貫いて何かが飛び出してくる。
「あら、外しちゃったのかしら……」
そう言いながら大司教が扉を開けて部屋から出てくる。
現れた彼女の肌はあり得ない程に色白で、特徴的な紅い瞳が目立っていた。そして背中からは大きな翼が生えていて、口の中には鋭い牙が見えた。
……紛れもなく、その姿は吸血鬼のそれであった。
そして馬車は裏手から教会の敷地内に入って行く。
「これ以上は無理か……」
流石にこんな時間から堂々と不法侵入をするわけにはいかなかった。
いや時間帯に関わらず不法侵入は不味いんだけども。
「でも、少なくともこの教会に攫われた少女が集められていることは分かったわね」
「問題はその後どうしているのか……そして何のために集めているのか……だな」
結局このまま中で殺されたりしていたらどうしようもない。
どう足掻いても教会の中で起きている事を調べられないとお手上げだった。
……いや待て、手ならあるぞ。
ステラから数多くの魔法を受け継いだ今、俺は透明化魔法を使えるのだ。
「二人共、聞いてくれ。俺に策がある」
俺は透明化魔法を使った教会内への侵入について、二人に話した。
「確かにそれなら教会の中に侵入できそうだけど……あまりにも危険過ぎるよ。もしもステラの身に何かあったら……!」
「心配かけてすまない。けどもう、この手しかないんだ」
ルキオラにはまた心配をかけてしまうな……。
しかし今ここで引き下がるわけにはいかないのもまた事実だった。
「ふふっ。貴方なら大丈夫だと思うけれど、その時は任せておきなさい。最悪、聖王都を敵に回してでも貴方を助け出すわ」
「それは……少し待ってほしい。けど、心配してくれるのは嬉しいよメイデン」
ルキオラを悲しませないために、そしてメイデンに国家転覆をさせないためにも、俺にミスは許されなかった。
「それじゃあ行って来る」
透明化魔法を発動させ……その後、全装備を解除した。
この透明化魔法の厄介な点はただ一つ。身に着けている装備品は透明化されないところだ。
そのため基本的に透明化している間は丸腰でなければならなかった。武器すら持てないのだ。
そのことを二人には伝えていない。きっとそれを言えば、ルキオラはこの作戦を許してはくれないだろうから。
「ふぅ……」
庭を抜け、まずは教会内に入ることに成功した。
次は馬車から運び込まれた少女たちの捜索か……あわよくば大司教が何かしてくれちゃっていれば話が速いんだけどね……。
「大司教様。新たに少女が運び込まれましたので、どうかご確認を」
廊下の奥から、あの聖職者の男とはまた別の男の声が聞こえてきた。
つまりは少なくとも共犯者がいるということだ。
あの男の単独での犯行と言う訳では無いことがこれで判明したな。
そしてこの内容からして、男が話している相手は大司教だろう。
万が一にも重要な何かを聞き逃してしまったら洒落にならないため、ゆっくりと慎重に、忍び足で声がした方へと向かった。
透明化することは出来ても気配まで消せるわけではないのがもどかしい。
「……ご苦労様。下がっていいわよ」
恐らく大司教がいるであろう部屋の前に行くと、中から妖艶な声が聞こえてきた。
煽情的で蠱惑的。そんな人を惑わすような声。
今の一言だけで、間違いなくこれが大司教のものであると一瞬で理解できてしまった。それだけの異質さがその声にはあったのだ。
「いえ、まだご報告したいことがあるのです。現在、貧民街から届く少女の数が減っておりまして……」
「……そろそろだとは思っていたのだけれど、思ったよりは早かったわね」
男の報告を受けても大司教の声は何も変わらず、いたって普通で、冷静なままだった。
と言うより、その言葉から察するに彼女自身既にその事実には気付いていたのか。
「ですので、今後はターゲットの基準を拡大するか……あるいは他国への侵攻を進める必要があるかと思われます」
「そうね……選択の時が来たのかもしれないわ。だけどそれは……すくなくとも今この瞬間ではないようね」
「と、言いますと……?」
「だって、虫が入り込んでいるんですもの。そうでしょう? 扉の向こうで、私たちの会話を盗み聞きしている誰かさん?」
「ッ!?」
気付かれている……!?
いや、透明化の魔法は正常に発動しているし、そもそも扉を挟んでいる以上こちらは向こうから見えていないはずだ。
それに気配だって可能な限り消していたんだ。
少なくとも部屋の中から気付けるはずは無かった。
「……怯えているのね? ええ、確かに怖いでしょう。見つかるはずが無い。気づかれるはずが無い。そう思っていたんだもの。怖いに決まっているわよね。でも大丈夫よ。心配はいらないの。私は貴方の行動を許します。そして貴方に救済を与えましょう」
「大司教様、何を……ぐぁっぁ!? や、やめてくださ……ぃ!? た、助け……誰かたす……け……」
……何だ?
部屋の中で何が起こった?
男の断末魔が聞こえたかと思えば、すぐに消えた。
この状況だ……死んだとしか思えない。
だが何故今このタイミングで男を殺す必要があったのか。
それに彼女の言葉からはそんな意図がまるで感じられなかった。
「……そこね?」
「ッ!!」
殺気を感じ、すぐさま扉から離れた。
その瞬間、扉を貫いて何かが飛び出してくる。
「あら、外しちゃったのかしら……」
そう言いながら大司教が扉を開けて部屋から出てくる。
現れた彼女の肌はあり得ない程に色白で、特徴的な紅い瞳が目立っていた。そして背中からは大きな翼が生えていて、口の中には鋭い牙が見えた。
……紛れもなく、その姿は吸血鬼のそれであった。
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