上 下
60 / 81
第三章『ステラ・グリーンローズ』

60 ステラの置き土産

しおりを挟む
「……あれ、宝石は!?」

「さっきまでそこにあったはずだけれど……壊れてるそれじゃないかしら」

 皆の声で我に返ると、そこには砕けた宝石があった。

「……ステラ?」

「ん? あぁ、ルキオラか。どうしたんだ?」

「なんだか、ステラの体から出てる魔力が少し変わったような気がして……」

 魔力……か。恐らく彼女の記憶と一緒に魔力も俺の中に流れ込んできたんだろう。
 と言うか、この感じだと彼女との会話はルキオラたちには見えていなかったのか……?
 それどころか時間自体があまり進んでいないような……ああ、そうかなるほど。

 早速彼女から受け継いだ知識が活きたな。
 どうやらあの宝石には時間操作魔法がかけられていたようで、俺と彼女が会話をしていたのは物凄く圧縮された時間の中でのことだったみたいだ。
 つまり、ルキオラたちにはさっきの俺と彼女の会話は見えていないし聞こえてもいないと言う事になる。

 それなら、話しておかないといけないな。
 この世界のステラのことを……そして、今の俺のことを。


 ――――――


 俺の話を聞いたケラルトとルキオラに二人は、これでもかってくらいに驚いていた。
 対してメイデンは割と落ち着いているというか……なんなら普段通りとまで言える状態だ。

「メイデンはもっとこう……驚いたりしないのか?」

「確かに驚きはしたけれど、ある程度予想通りだったもの」

「予想通りって……」

 このトンチキな話を予想通りって、一体何をもってこんな予想をしていたのか。

 ……まあ、それはこの際置いておくとして。次に重要なのはこのアトリエについてだった。
 彼女の言葉通りならこのアトリエは崩壊し、ここにあるマジックアイテムも魔導書も全てがその下敷きになると言う事になる。

 ぶっちゃけ、そんなことになるくらいなら俺が貰いたい所だった。

「別に良いんじゃないの。きっとステラもそのつもりで貴女に記憶を与えたのでしょうし」

 と、ケラルトは言う。
 しかし一応はグリーンローズの王家の遺産ということになるわけで、彼女の方にこそ正当な権利があるはずだった。

 とは言えそれを彼女に伝えても、このレベルのマジックアイテムや魔導書を管理しきれる気がしないとのことで、結局俺が持っておいた方が安全だと言う事になった。
 ただ、魔導書に関してはあまりにも危険過ぎるもの以外は王国の図書館に寄贈することにする。
 きっとその方が今後の国の発展……いや、世界の発展に繋がるはずだ。

 また、それ以外にも何か重要なものがあったらいけないので、とりあえずアトリエ内のありとあらゆる物を俺とメイデンのアイテムボックスに放り込んだのだった。
 その後、入って来た時と同じようにケラルトが結界を開き、俺たちは聖地から出て街へと帰ったのである。

 それから数日後のこと。
 アイテムボックスに適当に放り込んだ物を三人で整理していた時のことだ。

「これ、何かしらね」

 メイデンが取り出したのは一つのマジックアイテムだった。
 当然ステラの記憶を持っている俺はそれが何なのかはわかる。
 ……わかるからこそ、それを使わせるわけにはいかなかった。

「さあ、何だろうな。とりあえずそこら辺に置いておいてくれ」

「あらあら……今の貴方にはこっちのステラの記憶があるのでしょう? それならこのアイテムが何なのかわかると思うのだけれど」

 クソッ、勘が鋭いせいで雑な話題反らしだと全く意味がない。

「あたしも気になるなぁ。けど、ステラが言いたくないなら仕方ないよね」

「うぐぐっ……」

 そんなに悲しそうな顔をしないでくれルキオラ。なんかこう、罪悪感が凄い。

「ほら、彼女もそう言っていることだし……観念しなさい?」

「おっお前わかってやってるな!?」

「さあ? なんのことかしら?」

 確信した。メイデンはあのマジックアイテムがどういう物かわかったうえで言っている。

「おいやめ、あっ……」

 メイデンとわちゃわちゃやっている間にマジックアイテムが起動してしまった。 

「ステラ!? ……え?」
 
「……ふふっ。ステラ、よく似合ってるわよ」

 メイデンが俺の姿を見るなりからかってくる。
 だから、嫌だったんだ。

 このマジックアイテムは簡単に言えば、頭からケモミミを生やすためのものだった。
 どうしてこんなものがあるのかと言えば、彼女の記憶曰く「面白そうだったから」……だそうだ。
 そのせいでこんな恥ずかしい姿をメイデンに見られることになってしまった。

 くそっ、何でステラはこんなものを作っているのか……!
 しかし真に恐ろしいのは、「面白そうだったから」で作ったようなトンチキマジックアイテムがまだまだたくさんあることだ。
 ……やっぱり、こんなマジックアイテムなんて持って来なければよかったのかもしれないな。

「その耳、ふわふわで可愛くてあたしは良いと思うよ?」

「……ありがとうルキオラ」
 
「そうね、ふふっ……凄く可愛いわよ」

「メイデン、お前は許さん」

 ルキオラから言われるのは恥ずかしいながらも嬉しいが、メイデンから言われるのは駄目だ。絶対に許さん。

「あら、手厳しいわね。でも可愛いと思うのは本当よ? ほら、こことかモフモフで凄く……」

「んぅっ!?」

「……ステラ、それは私を誘っているってことで良いのよね?」

「は……? え、待てメイデン目が怖……んぁっ」
 
 ケモミミにはしっかり神経が通っているのか、彼女の柔らかな手で触られる度に何とも言えないゾクゾクが襲ってきて……って、何を考えているんだ俺は。
 相手はあのメイデンだぞ。下手な事をすれば更なるネタにされるのは目に見えている。

 なのに……。

「メイ……デン……?」

 彼女の目を見ていると、不思議と抵抗する気は起こらなかった。

「そ、そんな……メイデンもステラもいつの間にそんな関係に……」

 待ってくれルキオラ、違うんだ。これは本当に違うんだ。
 そうだ、チャーム。メイデンはチャームを使えるんだ。きっとそのせいでこんなことに……。

「ふふっ、抵抗しないってことは……そう言う事よね?」

「……ステラのそんな顔、あたし初めて見たよ。……凄く、可愛いね」

 あれ、ルキオラの様子もおかしくなってないか?
 ……いや、彼女は割と積極的だったか。それが今爆発してしまったと言うだけで。

「貴方のその蕩けた顔をもっと見せてちょうだい?」

「あたしにも、ステラのもっといろんな姿を見せて欲しいな」

 ジワジワと近づいてくる二人。
 待ってくれ、これ以上は……俺の尊厳が、無くなってしまう……!

「ステラさん! 依頼の話で相談が……って、これは何事ですか!?」

 と、その時だった。突如として部屋の扉が開け放たれ、アーロンが入って来たのである。
 最初の内はきちんとノックをしていた彼女も今ではこんなに大胆に……だが、そのおかげで助かった。
 彼女の突然の来訪により、メイデンとルキオラの二人による俺の尊厳破壊はそこで終了となり、間一髪のところで俺は一命をとりとめたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ

トール
恋愛
会社帰り、駅までの道程を歩いていたはずの北野 雅(36)は、いつの間にか森の中に佇んでいた。困惑して家に帰りたいと願った雅の前に現れたのはなんと実家を模した家で!? 自身が願った事が現実になる能力を手に入れた雅が望んだのは冒険ではなく、“森に引きこもって生きる! ”だった。 果たして雅は独りで生きていけるのか!? 実は神様になっていたズボラ女と、それに巻き込まれる人々(神々)とのドタバタラブ? コメディ。 ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...