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第三章『ステラ・グリーンローズ』

56 この森にはクソデカい魔物が棲んでいる

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 夜中、突如として大きな音がしたために飛び起きてしまった。

「なんだ、今のは……!?」

 音の発生場所は近いなんてものじゃなかった。
 間違いなく、結界への攻撃だろう。

「ステラ、今のって……」

 少し遅れてルキオラも起きたようだった。
 寝起きだと言うのに、既に臨戦態勢となっている。流石は各地を旅していたって言うだけはあるな。

「わからない……けど、間違いなくただ事ではないはずだ」

 この結界には微量ながら不可視の魔法をかけてある。
 だからそれを突破できるだけの能力を持った魔物であることは確定なのだ。

「俺が確認してくる。ルキオラは一旦ここで待機していてくれ」

 そう言ってテントの外へ出ると、そこには結界を攻撃している魔物がいた。
 
「グルルルゥゥゥ……!!」

 おいおい、随分と物騒じゃないか。
 見たところ狼型の魔物のようだが……あのサイズの奴は記憶にないな。
 爪や毛色からフォレストウルフのような気もしなくもないが、アイツらはこれほどまでに大きくないはず。

 いや待て、そう言えばクソデカくなったメガマンティスがいたっけか?
 となるとコイツらも同じように何らかの要因で大きくなった個体って可能性が……。

「グワォォッ!!」

 そんな魔物は今も鋭い爪を使って何度も何度も結界を切り裂いている。
 強度はかなりあるからこの程度の攻撃で今すぐに壊れるってことは無いだろうが、それでもこのまま放置しておいていいもんじゃないだろうな……。

「ルキオラ、とりあえず外に出て来てくれるか」
 
 今すぐに脅威があるって訳じゃ無いからルキオラを呼び出す。
 と同時に、ケラルトとメイデンもテントから出てきた。

「これは、フォレストウルフ……? まさかこれほどに大きい個体が出てくるなんて……」

「やっぱりフォレストウルフなんですかねこれ……?」

 迷っていた俺とは裏腹に、ケラルトは特に特に迷う事もなくこの魔物をフォレストウルフだと断定していた。
 
「ええ、この森周辺は特に魔力密度が濃くて、たまに物凄く大きく成長する魔物が出てくるのよ」

「……そう言う事だったんですね」

 どうりでクソデカい訳だ。
 ゲームではモデルの都合上サイズが変わることは無かったが、この世界では外部要因によっていくらでも大きさが変わったり生態が変わったりする訳だ。

 んで、このフォレストウルフも通常の個体よりも大きく強くなっているから不可視の魔法を貫通して俺たちを認識できたと言うことだな。
 まあ、考えてみれば当たり前か。生物なら個体差くらい出てくるものだよな。
 これもまたゲームとは違う点だ。やっぱり今後はゲーム知識を過信し過ぎないようにしないと。

「でもこの結界があれば大丈夫なのよね?」

 ケラルトは期待に満ちた目でこちらを見てくる。

「いえ、それが……この結界は未完成なので、恐らく朝まではもたないと思います」

 しかし残念なことに、この結界はまだ未完成だった。
 これ以上に強い結界を張るためには本職でなければ……それこそ生産職であったり、結界魔法に強い陰陽師系のスキルが必要なのだ。

 なので、恐らく朝になる前にはこの結界は消失してしまうだろう。
 それよりも一番の問題なのはこの結界の持つ欠陥だ。

「それなら結界が残っている内に、こちらから攻撃をしてしまいましょう?」

「それも出来ないんですよねぇ……これ、内側からの攻撃も無効化しちゃうので」

 そう、この結界の一番の欠点はこちら側からの攻撃も向こうに届かないと言う事だ。
 考えてもみてくれ。片方からは攻撃が通るのにもう片方からは一切通らないなんて、そんなマジックミラーのようなものを簡単に作れるはずが無いだろう。
 それこそ陰陽師系が高レベルになってようやっと習得できるようなスキルだった。

「じゃあ、どうしたら……」

「解除するしかないですね。そして奴らを倒す」

「倒すって言っても、この森で巨大化した個体は相当に強くなっていて……いえ、貴方なら出来るのでしょうね。魔王殺しのステラなら」

 結局のところはそう言う事だ。
 正直、奴らがいくら強くなっていようが魔王よりも強いとは思えない。
 少なくとも今この場の危機を無くす程度は造作もないだろう。

 一つ問題点があるとすれば、このマジックアイテムは一度発動させると再度発動させるまでには結構なクールタイムが必要だった。
 今の俺の制作技術ではこれが限界なんだから仕方のないことではある。
 だがそれはつまり、これ以降は交代で見張りをしないといけないのだ。

 そのことを皆に伝えたところ……それでも良いと言ってくれた。
 一度ぬか喜びをさせてしまった所で忍びない話ではあるのだが、それでも彼女らは快くそう言ってくれたのだ。
 誠にありがたい事である。

「それじゃあ解除するぞ」

「ええ、お願い」

 皆に聞こえるようにそう言ってから、結界を解除する。

「グオゥッ!?」

 それまで自らを阻んでいた結界が急に消えたためか、フォレストウルフは一瞬驚いてその動きを止めていた。

「フレアバースト!」

 その隙に魔法をぶち込む。
 結果、フォレストウルフは塵と化した。

 この程度の相手でも結界を解除しないといけないのはやはりコスパが悪すぎるな。
 改良して、いつかは完璧なものを作り出さないと……。
 そう思いながら、俺は自ら見張り担当を名乗り出たのだった。
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