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第三章『ステラ・グリーンローズ』
52 ステラの記憶
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焼野原に俺は立っていた。
そしてこの体は……ステラ・グリーンローズの姿をしているのにも関わらず、プレイヤーキャラとしてのそれでは無いと感じるこの体は……一体何なのだろうか。
だが気になるのはそれだけじゃなかった。
目の前には巨大な魔物が……魔王がいる。
傷だらけではあるが、その巨体は今なお強く大地を踏みしめている。
対して俺の体はもう限界のようだった。
「この我をここまで追い詰めたのだ。よくやったと褒めてやりたい所だが……どうやら、もう長くはないようだな」
「そうだな……けど、これで終わりじゃないさ」
俺の体は勝手に話し始める。
そしてその声は同様にキャラとしてのステラのそれでは無かった。
「私の残した魔法が、必ずお前を……いや、魔王そのものを滅ぼすだろうよ」
変わらず俺は、俺の意思に関係なく話し続けた。
どうやら今の俺は一種の思念体のようなもので、ただの傍観者でしかないようだ。
そのためか俺には一切の行動が許されてはいないみたいだな……。
それでも恐怖や不安といったものは一切無い。
むしろ、この状況がまるで必然だとすら言える程の落ち着きがあった。
そんな状態だからこそ、俺自身が口にした言葉にも意識を向けられる。
魔王そのもの……その言葉の意味も、何故だか今の俺にはわかるのだ。
今目の前にいるこの魔王は原初の魔王と呼ばれている存在で、その名は「魔王ルーンアルファ」。
アヴァロンヘイムに突如として現れ、あらゆるものを破壊していった災厄の化身。
それがこの原初の魔王であった。
そしてそんな魔王に対して反旗を翻したのが、エルフの王家であるグリーンローズ……今ここにいる俺自身だ。
「その体ではもう満足に戦うことも出来ぬだろう。なのに何故だ。何故それほどまでに自信に満ちた表情をしている。それだけの切り札が、今の貴様にあるとでも言うのか?」
「はは……気になるか? ……そうだろうな。これは魔王をも殺せる……そんな『勇者』を呼び出せる魔法だ。気にならないはずがないだろうよ」
「勇者だと? 何を言い出すかと思えば……世迷いごとを。あのような凡夫ごときが我に敵うはずが無かろう」
「いいや、アンタは勘違いをしている。この魔法で呼び出すのは異界の勇者だ。とんでもない強さを持った……な。そのためならこの命、躊躇うまでもなく奉げてやるさ」
勇者召喚の魔法……それは元々ステラが作り出したもの。
そしてその魔法を完成させるために、ステラは自らの命を差し出したのだ。
そう、これは俺の……いや……「私の記憶」だった。
――――――
「はっ……!?」
目を覚ますと、まず飛び込んできたのは知らない天井だった。
「ステラ……? ステラ!? 良かった……目が覚めたんだね……!」
駆け寄ってきたルキオラは目に涙を浮かべていた。
きっとそれだけ俺の事を心配してくれていたんだろう。
「あら、起きたようね」
そう言いながらメイデンが部屋の中へと入って来る。
流石にタイミングが良過ぎるし、彼女も部屋の外で俺が目覚めるまでずっと待っていてくれたのだろうか。
「ルキオラもメイデンも、すまなかったな」
「本当だよ……急に倒れちゃうんだもん……。あたしたち、凄い心配したんだよ」
「……本当に、すまなかった」
俺が思っている以上に、彼女たちには心配をさせてしまったようだ。
「いいのよ。私たち、同じパーティの仲間なのだから。さて、それじゃあ謝るのはそのくらいにして……貴方が気を失っている間に見たものを私たちにも教えてくれないかしら」
「うん? それはどういう……」
「寝言……って言っていいのかな? ステラ、うわ言のように何か呟いてたんだよ。勇者がどうとか……原初の魔王がどうとか」
……気絶している間に見たあれのことか。
「分かった。……けど、これに関してはただの夢だったり俺の妄想の可能性だってある。それでも良いんだな?」
確かにあれは俺の、ステラ・グリーンローズとしての俺自身の記憶だと認識している。
だけどそれはおかしいはずなんだ。だって俺は地球生まれの日本人なんだぞ?
この世界の住人としての記憶があるはずが無いんだ。
「構わないわ。少なくとも、私たちが勇者として召喚されたことについてもわかるかもしれないじゃない?」
「……そうだな」
それでも、せめて彼女たちとだけでも情報の共有はしておいた方が良い。
そう考えた俺は気絶している間に見た事を全て……あの記憶について俺がどう感じているのかも含めて、二人に伝えたのだった。
そしてこの体は……ステラ・グリーンローズの姿をしているのにも関わらず、プレイヤーキャラとしてのそれでは無いと感じるこの体は……一体何なのだろうか。
だが気になるのはそれだけじゃなかった。
目の前には巨大な魔物が……魔王がいる。
傷だらけではあるが、その巨体は今なお強く大地を踏みしめている。
対して俺の体はもう限界のようだった。
「この我をここまで追い詰めたのだ。よくやったと褒めてやりたい所だが……どうやら、もう長くはないようだな」
「そうだな……けど、これで終わりじゃないさ」
俺の体は勝手に話し始める。
そしてその声は同様にキャラとしてのステラのそれでは無かった。
「私の残した魔法が、必ずお前を……いや、魔王そのものを滅ぼすだろうよ」
変わらず俺は、俺の意思に関係なく話し続けた。
どうやら今の俺は一種の思念体のようなもので、ただの傍観者でしかないようだ。
そのためか俺には一切の行動が許されてはいないみたいだな……。
それでも恐怖や不安といったものは一切無い。
むしろ、この状況がまるで必然だとすら言える程の落ち着きがあった。
そんな状態だからこそ、俺自身が口にした言葉にも意識を向けられる。
魔王そのもの……その言葉の意味も、何故だか今の俺にはわかるのだ。
今目の前にいるこの魔王は原初の魔王と呼ばれている存在で、その名は「魔王ルーンアルファ」。
アヴァロンヘイムに突如として現れ、あらゆるものを破壊していった災厄の化身。
それがこの原初の魔王であった。
そしてそんな魔王に対して反旗を翻したのが、エルフの王家であるグリーンローズ……今ここにいる俺自身だ。
「その体ではもう満足に戦うことも出来ぬだろう。なのに何故だ。何故それほどまでに自信に満ちた表情をしている。それだけの切り札が、今の貴様にあるとでも言うのか?」
「はは……気になるか? ……そうだろうな。これは魔王をも殺せる……そんな『勇者』を呼び出せる魔法だ。気にならないはずがないだろうよ」
「勇者だと? 何を言い出すかと思えば……世迷いごとを。あのような凡夫ごときが我に敵うはずが無かろう」
「いいや、アンタは勘違いをしている。この魔法で呼び出すのは異界の勇者だ。とんでもない強さを持った……な。そのためならこの命、躊躇うまでもなく奉げてやるさ」
勇者召喚の魔法……それは元々ステラが作り出したもの。
そしてその魔法を完成させるために、ステラは自らの命を差し出したのだ。
そう、これは俺の……いや……「私の記憶」だった。
――――――
「はっ……!?」
目を覚ますと、まず飛び込んできたのは知らない天井だった。
「ステラ……? ステラ!? 良かった……目が覚めたんだね……!」
駆け寄ってきたルキオラは目に涙を浮かべていた。
きっとそれだけ俺の事を心配してくれていたんだろう。
「あら、起きたようね」
そう言いながらメイデンが部屋の中へと入って来る。
流石にタイミングが良過ぎるし、彼女も部屋の外で俺が目覚めるまでずっと待っていてくれたのだろうか。
「ルキオラもメイデンも、すまなかったな」
「本当だよ……急に倒れちゃうんだもん……。あたしたち、凄い心配したんだよ」
「……本当に、すまなかった」
俺が思っている以上に、彼女たちには心配をさせてしまったようだ。
「いいのよ。私たち、同じパーティの仲間なのだから。さて、それじゃあ謝るのはそのくらいにして……貴方が気を失っている間に見たものを私たちにも教えてくれないかしら」
「うん? それはどういう……」
「寝言……って言っていいのかな? ステラ、うわ言のように何か呟いてたんだよ。勇者がどうとか……原初の魔王がどうとか」
……気絶している間に見たあれのことか。
「分かった。……けど、これに関してはただの夢だったり俺の妄想の可能性だってある。それでも良いんだな?」
確かにあれは俺の、ステラ・グリーンローズとしての俺自身の記憶だと認識している。
だけどそれはおかしいはずなんだ。だって俺は地球生まれの日本人なんだぞ?
この世界の住人としての記憶があるはずが無いんだ。
「構わないわ。少なくとも、私たちが勇者として召喚されたことについてもわかるかもしれないじゃない?」
「……そうだな」
それでも、せめて彼女たちとだけでも情報の共有はしておいた方が良い。
そう考えた俺は気絶している間に見た事を全て……あの記憶について俺がどう感じているのかも含めて、二人に伝えたのだった。
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