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出会いの章『異世界アヴァロンヘイム』
19 勝利に犠牲は付き物
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大きく吹き飛ばされたものの、幸いにもフライの効果が切れる程のものでは無かった。
すぐに態勢を整えて、魔王へと向き直る。
「完全に倒したと思っていたんだが……」
『ああ、確かに死んだとも。たった一度だがね』
一度……まるで、何度でも死ねるかのような言い方だな。
もちろんゲーム内での魔王ルーンオメガにそんな能力は無かった。
これも恐らくこの世界特有の差異だろう。
正直なところ、完全に想定外だ。
「……ざっと30万か」
ステータスを開き、残りの体力を確認する。
今の一撃によるダメージは大体30万程だった。致命的と言う程では無いが、そう何度も受けて良いものでは無いだろうな。
それどころかもっと強力な攻撃をされて生きていられる保証は無い。
『貴様には我も驚かされている。まさかこの我を一度倒すだけでは飽き足らず、我の本気の攻撃を受けても貴様は肉塊にならずに今もその形を保っているのだからな』
本気の攻撃……か。
それが本当なのか、俺を混乱させるためのハッタリなのか。俺にはわからない。
だが、どちらにしたって警戒を怠る理由にはならないのは確かだ。
『さて、我の命を一つ削った貴様には褒美として、我の持つ最大級の魔法をその身で受ける義務を与えよう。光栄に思うといい』
そう言うと魔王は6本ある腕にそれぞれ別の魔法陣を展開し始めた。
当然だがそんなものをゲーム内で見たことは無い。
つまり、俺の知らない魔法が放たれると言うことだ。
……どうする。
確かに俺は魔王を倒したことがある。だがそれは所詮はゲームの中での話だ。
今こうして本物の魔王を前にして、想定外の事が連続して、それでも本当に俺はアイツを……この世界の魔王ルーンオメガを倒せるのか?
『さあ、見るがいい。魔法を極めし者が辿り着く極致を!!』
「そうはさせません!!」
魔王が魔法を放とうとした瞬間、俺の後ろから何かが魔王へと向かって飛んでいった。
『貴様はあの時の!!』
よく見るとそれは、ルキオラを探していた時に冒険者組合で彼女に関する情報をくれた冒険者だった。
「ヌゥッ!! ハアアァァァァッ!!」
『ウグゥッ、しつこいぞ貴様!!』
彼が魔王の腕を殴るとその拳からは爆発が起こり、魔王の展開している魔法陣を木っ端みじんに破壊したのだった。
「ステラ! 今の内に、最高の一撃を与えてやってください!」
「貴方はどうするんですか!?」
今攻撃をすれば魔王と共に彼も巻き込んでしまう。
「……私の心配なら、いりません!」
だが彼は自らの犠牲を覚悟で魔王の足止めを行うつもりだった。
「……わかりました」
であればその覚悟、無駄にはしない。
「魔龍の業火……!」
第八等級魔法の中でも一番と言って良い程に火力の高い魔法を放つ。
『グアァッァァァァ!? な、なんだこの炎は……!! 我の命が、次々に削られていく……だとォ!?』
魔龍の業火は単発の魔法では無く、その場所に残るタイプの設置型の魔法だ。
そのためなのかはわからないが、今魔王は「復活しては死ぬ」と言う最悪のループを繰り返しているらしい。
そして奴自身が口にしている「命が削れる」という表現から、恐らく復活できる回数に限りがあるのだろう。
『おのれ、ハイエルフごときがァァ……』
その結果、魔法の効果が切れる頃にはもう魔王の姿は影も形も無くなっているのだった。
思えば先程は魔法による靄が残っているまま魔王の死亡確認を行っていた。これが良くなかったのだろう。
対して今はもう塵一つ無かった。完全に、消失したのだ。
「……」
だが、完全勝利と言うには失ったものが多すぎる。
ルキオラに、名も知らぬ冒険者。二人も……それも目の前で失ってしまったのだ。
正直、精神的に参ってしまうものがあった。
「……帰るか」
ああ、そうだ。この場にいても何も始まらない。
事の全てをアーロンに話すためにも……まずは冒険者組合へ戻るとしよう。
――――――
「無事だったんですねステラさん!!」
冒険者組合の建物に入った瞬間、アーロンが飛びついてきた。
「……」
彼女の柔らかな胸が押し付けられているが、正直今はそう言った気分にはなれなかった。
ので、彼女をゆっくりと下ろした後、魔王が復活してからの顛末を彼女に語った。
「ステラさん、まずは感謝を。魔王を倒していただき、本当にありがとうございました。王国を代表してお礼いたします。そして……謝罪を。まさかこんなにも早く魔王が現れるだなんて思いもしませんでした。こうなってしまったのは僕の責任です」
そう言うとアーロンは組合長であることを証明する登録証を机の上に置いた。
「……今日をもって、僕はエルトリア王国冒険者組合長を辞退いたします。この程度の事で許して欲しいなどとは言えませんが、どうか」
「い、いや待ってくださいよ!」
流石にそれは、責任がどうとかじゃないだろ!
そもそも彼女が責任を負うべきものでもないはずだ。魔王の復活なんて、災害のようなものなんだから……!
「なにもそこまでしなくても……!」
「いえ、最終的に貴方をここに呼んだのは僕の判断です。それなのに、魔王討伐のための準備を貴方に提供できずにいた。その結果、貴方の身に危険が及んだだけではなく、街にまで多くの被害が出ていたかもしれないのです」
「それは確かにそうですけど……」
彼女の言う事もわからなくはない。
何か問題があった時に責任の所在は重要だ。
……だとしてもだ。
責任を取らなければならないのはわかるが、彼女がそこまでする必要はやっぱりないはずだ。
それに、今このタイミングで彼女が組合長を辞めるのは相当に不味い。
「それでも駄目です。魔王の復活なんてことが起こったんですから、しばらくの間は王国内に混乱が続くと思います。そうなったとき、この国を守るために冒険者組合が必要なんですよ。なのに組合長がいなくなるなんて、愚の骨頂だとは思いませんか!?」
少し言い過ぎてしまったが、これくらい言わないときっとアーロンは受け入れてくれないだろう。
「……優しいのですね、ステラさんは。自分の命すら危険だったはずなのに、今なお街のことを、そして僕のことを気にかけてくれる。……わかりました。組合長の辞退は撤回しましょう」
「アーロンさん……!」
良かった。これでも押し通そうとするのならば相応の手段に出なければならなかった所だ。
「ステラ!!」
と、その時だった。
扉が勢いよく開け放たれ、一人の冒険者が入って来た。
「貴方は……」
それはさっき魔王との戦いで名誉の死を遂げたはずの彼だった。
すぐに態勢を整えて、魔王へと向き直る。
「完全に倒したと思っていたんだが……」
『ああ、確かに死んだとも。たった一度だがね』
一度……まるで、何度でも死ねるかのような言い方だな。
もちろんゲーム内での魔王ルーンオメガにそんな能力は無かった。
これも恐らくこの世界特有の差異だろう。
正直なところ、完全に想定外だ。
「……ざっと30万か」
ステータスを開き、残りの体力を確認する。
今の一撃によるダメージは大体30万程だった。致命的と言う程では無いが、そう何度も受けて良いものでは無いだろうな。
それどころかもっと強力な攻撃をされて生きていられる保証は無い。
『貴様には我も驚かされている。まさかこの我を一度倒すだけでは飽き足らず、我の本気の攻撃を受けても貴様は肉塊にならずに今もその形を保っているのだからな』
本気の攻撃……か。
それが本当なのか、俺を混乱させるためのハッタリなのか。俺にはわからない。
だが、どちらにしたって警戒を怠る理由にはならないのは確かだ。
『さて、我の命を一つ削った貴様には褒美として、我の持つ最大級の魔法をその身で受ける義務を与えよう。光栄に思うといい』
そう言うと魔王は6本ある腕にそれぞれ別の魔法陣を展開し始めた。
当然だがそんなものをゲーム内で見たことは無い。
つまり、俺の知らない魔法が放たれると言うことだ。
……どうする。
確かに俺は魔王を倒したことがある。だがそれは所詮はゲームの中での話だ。
今こうして本物の魔王を前にして、想定外の事が連続して、それでも本当に俺はアイツを……この世界の魔王ルーンオメガを倒せるのか?
『さあ、見るがいい。魔法を極めし者が辿り着く極致を!!』
「そうはさせません!!」
魔王が魔法を放とうとした瞬間、俺の後ろから何かが魔王へと向かって飛んでいった。
『貴様はあの時の!!』
よく見るとそれは、ルキオラを探していた時に冒険者組合で彼女に関する情報をくれた冒険者だった。
「ヌゥッ!! ハアアァァァァッ!!」
『ウグゥッ、しつこいぞ貴様!!』
彼が魔王の腕を殴るとその拳からは爆発が起こり、魔王の展開している魔法陣を木っ端みじんに破壊したのだった。
「ステラ! 今の内に、最高の一撃を与えてやってください!」
「貴方はどうするんですか!?」
今攻撃をすれば魔王と共に彼も巻き込んでしまう。
「……私の心配なら、いりません!」
だが彼は自らの犠牲を覚悟で魔王の足止めを行うつもりだった。
「……わかりました」
であればその覚悟、無駄にはしない。
「魔龍の業火……!」
第八等級魔法の中でも一番と言って良い程に火力の高い魔法を放つ。
『グアァッァァァァ!? な、なんだこの炎は……!! 我の命が、次々に削られていく……だとォ!?』
魔龍の業火は単発の魔法では無く、その場所に残るタイプの設置型の魔法だ。
そのためなのかはわからないが、今魔王は「復活しては死ぬ」と言う最悪のループを繰り返しているらしい。
そして奴自身が口にしている「命が削れる」という表現から、恐らく復活できる回数に限りがあるのだろう。
『おのれ、ハイエルフごときがァァ……』
その結果、魔法の効果が切れる頃にはもう魔王の姿は影も形も無くなっているのだった。
思えば先程は魔法による靄が残っているまま魔王の死亡確認を行っていた。これが良くなかったのだろう。
対して今はもう塵一つ無かった。完全に、消失したのだ。
「……」
だが、完全勝利と言うには失ったものが多すぎる。
ルキオラに、名も知らぬ冒険者。二人も……それも目の前で失ってしまったのだ。
正直、精神的に参ってしまうものがあった。
「……帰るか」
ああ、そうだ。この場にいても何も始まらない。
事の全てをアーロンに話すためにも……まずは冒険者組合へ戻るとしよう。
――――――
「無事だったんですねステラさん!!」
冒険者組合の建物に入った瞬間、アーロンが飛びついてきた。
「……」
彼女の柔らかな胸が押し付けられているが、正直今はそう言った気分にはなれなかった。
ので、彼女をゆっくりと下ろした後、魔王が復活してからの顛末を彼女に語った。
「ステラさん、まずは感謝を。魔王を倒していただき、本当にありがとうございました。王国を代表してお礼いたします。そして……謝罪を。まさかこんなにも早く魔王が現れるだなんて思いもしませんでした。こうなってしまったのは僕の責任です」
そう言うとアーロンは組合長であることを証明する登録証を机の上に置いた。
「……今日をもって、僕はエルトリア王国冒険者組合長を辞退いたします。この程度の事で許して欲しいなどとは言えませんが、どうか」
「い、いや待ってくださいよ!」
流石にそれは、責任がどうとかじゃないだろ!
そもそも彼女が責任を負うべきものでもないはずだ。魔王の復活なんて、災害のようなものなんだから……!
「なにもそこまでしなくても……!」
「いえ、最終的に貴方をここに呼んだのは僕の判断です。それなのに、魔王討伐のための準備を貴方に提供できずにいた。その結果、貴方の身に危険が及んだだけではなく、街にまで多くの被害が出ていたかもしれないのです」
「それは確かにそうですけど……」
彼女の言う事もわからなくはない。
何か問題があった時に責任の所在は重要だ。
……だとしてもだ。
責任を取らなければならないのはわかるが、彼女がそこまでする必要はやっぱりないはずだ。
それに、今このタイミングで彼女が組合長を辞めるのは相当に不味い。
「それでも駄目です。魔王の復活なんてことが起こったんですから、しばらくの間は王国内に混乱が続くと思います。そうなったとき、この国を守るために冒険者組合が必要なんですよ。なのに組合長がいなくなるなんて、愚の骨頂だとは思いませんか!?」
少し言い過ぎてしまったが、これくらい言わないときっとアーロンは受け入れてくれないだろう。
「……優しいのですね、ステラさんは。自分の命すら危険だったはずなのに、今なお街のことを、そして僕のことを気にかけてくれる。……わかりました。組合長の辞退は撤回しましょう」
「アーロンさん……!」
良かった。これでも押し通そうとするのならば相応の手段に出なければならなかった所だ。
「ステラ!!」
と、その時だった。
扉が勢いよく開け放たれ、一人の冒険者が入って来た。
「貴方は……」
それはさっき魔王との戦いで名誉の死を遂げたはずの彼だった。
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