MMOやり込みおっさん、異世界に転移したらハイエルフの美少女になっていたので心機一転、第二の人生を謳歌するようです。

遠野紫

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出会いの章『異世界アヴァロンヘイム』

9 始めてのネームドボス

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 全身は白銀の毛皮で覆われ、額からは大きな二本の角が生えている。
 口から生える牙は鋭くて大きく、その殺気に満ちた眼光は見るだけで低級魔物を滅ぼすだろう。
 間違いなく、アレはこの辺りにいて良い魔物では無かった。
 
 それもそのはずだ。
 何しろアイツはかつて屈指の強敵と名高かったネームドボスなのだ。その名を「狼王ボルグ」と言う。
 適性レベルは250。言わずもがな、実装時のカンストレベルである。

「な、なんなんだアイツは……」

「下がっていてください!」

 即座に男を後ろに下がらせ、奴との間に入り込む形で俺は前に出た。
 間違いなく彼では相手にならない。直感でそう分かってしまう。

「ウルルゥゥゥ!」

 奴が遠吠えをした瞬間、その影から大量の狼型の魔物が現れた。
 これは眷属召喚と言うスキルによるものだろう。その名の通り大量の眷属を召喚するものだ。
 しかし、所詮は召喚された取り巻きだろうと侮っていると痛い目に遭う。
 眷属とは言えレベルは150あり、群れ補正による攻撃力の強化によって生半可な装備ではあっという間に溶かされてしまうのだ。

 当時、どれだけの熟練者パーティがコイツに辛酸をなめさせられたことだろうか。
 当然のことながら俺も例外ではなく、しばらくの間はコイツを倒すことだけを考えて生活していたくらいだった。

「グアゥッ!!」

「お、おい危ねえぞ嬢ちゃん!」

 狼王の眷属たちが一斉に飛び掛かって来る。
 懐かしいな。初戦闘の時の俺はこの攻撃で体力の半分以上を持っていかれていたっけか。
 だが……。

「フレイムピラー!」

 今は違う!

 第三等級魔法であるフレイムピラーを発動させて大量の炎の柱を地面から生やし、眷属を一頭ずつ焼いて行く。
 結局のところ、奴が最強だった理由はカンストレベルでの実装とネームドボス特有の情報不足がしばらく続いたことが大部分なのだ。

 ネームドボスは戦うだけでも一定の条件を満たす必要があり、連戦することも容易ではない。
 そのため戦闘回数を稼ぐことが難しく、攻略情報が出回りにくかった。
 それにカンストレベルがしばらくの間上がらなかったこともあって、狼王の強さが記憶に染みついている者が多いのは事実。

 それでも、今はその攻略情報もYoutubeに死ぬほど溢れているし、何よりカンストレベルも400まで上がっているのだ。
 それこそ、第三等級魔法でも眷属をワンパン出来る程には環境がインフレしていた。

「……正直悲しいよ俺は。一時期を制していた最強が、たかが数字の上昇程度で産廃になるんだから。けどそれが、レベル制MMOと言う物なんだ。残酷だけどな」

 眷属を失った狼王が俺に直接攻撃を仕掛けるべく突進してくる。
 だがその攻撃も俺は完全に見切っていた。狼王のモーションはもう何度も見ているのだ。
 それはもはや完全に把握していると言っても過言ではない程に。

「おかげで、あの時を思い出せたよ。ありがとう……。せめて、安らかに眠ってくれ。……フォールオブコキュートス」

 楽しかったあの時を思い出させてくれた狼王には、せめて苦しまずに消えて欲しかった。
 だからこそ、俺は第八等級魔法であるフォールオブコキュートスを発動させた。
 この魔法は凍てつく氷の地獄門を呼び出し、対象に超高倍率の氷属性ダメージを与えるものだ。
 特に狼王は氷属性に弱く、この魔法を受ければ確定で体力がゼロになるのは間違いないだろう。

「グル……ルゥ……」

 それから少しして、魔法による地獄門が消えるとそこにはもう狼王の姿は無かった。
 体力が尽き、消失したのだろう。

「はぁ……」

 緊張が解けたのか、俺は無意識に深呼吸をしていた。
 いやいや、あれだけの魔物を前にしてそれだけで済んでいるのがおかしいって。

「じょ、嬢ちゃん……今のは……」

 そうそう、普通ならこんな感じで恐怖に震えて……。
 ……あ。

「あんな魔法……見たことも聞いたこともねえ。それにあの魔物だって……」

「ええっと、とりあえず村に戻りましょうか」

「あ、ああそうだな……」

 無理やりにでも話を切り上げ、俺たちは村へと戻ることにした。
 そしてこの間にどうにか言い訳を探さなければ……。
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