9 / 81
出会いの章『異世界アヴァロンヘイム』
9 始めてのネームドボス
しおりを挟む
全身は白銀の毛皮で覆われ、額からは大きな二本の角が生えている。
口から生える牙は鋭くて大きく、その殺気に満ちた眼光は見るだけで低級魔物を滅ぼすだろう。
間違いなく、アレはこの辺りにいて良い魔物では無かった。
それもそのはずだ。
何しろアイツはかつて屈指の強敵と名高かったネームドボスなのだ。その名を「狼王ボルグ」と言う。
適性レベルは250。言わずもがな、実装時のカンストレベルである。
「な、なんなんだアイツは……」
「下がっていてください!」
即座に男を後ろに下がらせ、奴との間に入り込む形で俺は前に出た。
間違いなく彼では相手にならない。直感でそう分かってしまう。
「ウルルゥゥゥ!」
奴が遠吠えをした瞬間、その影から大量の狼型の魔物が現れた。
これは眷属召喚と言うスキルによるものだろう。その名の通り大量の眷属を召喚するものだ。
しかし、所詮は召喚された取り巻きだろうと侮っていると痛い目に遭う。
眷属とは言えレベルは150あり、群れ補正による攻撃力の強化によって生半可な装備ではあっという間に溶かされてしまうのだ。
当時、どれだけの熟練者パーティがコイツに辛酸をなめさせられたことだろうか。
当然のことながら俺も例外ではなく、しばらくの間はコイツを倒すことだけを考えて生活していたくらいだった。
「グアゥッ!!」
「お、おい危ねえぞ嬢ちゃん!」
狼王の眷属たちが一斉に飛び掛かって来る。
懐かしいな。初戦闘の時の俺はこの攻撃で体力の半分以上を持っていかれていたっけか。
だが……。
「フレイムピラー!」
今は違う!
第三等級魔法であるフレイムピラーを発動させて大量の炎の柱を地面から生やし、眷属を一頭ずつ焼いて行く。
結局のところ、奴が最強だった理由はカンストレベルでの実装とネームドボス特有の情報不足がしばらく続いたことが大部分なのだ。
ネームドボスは戦うだけでも一定の条件を満たす必要があり、連戦することも容易ではない。
そのため戦闘回数を稼ぐことが難しく、攻略情報が出回りにくかった。
それにカンストレベルがしばらくの間上がらなかったこともあって、狼王の強さが記憶に染みついている者が多いのは事実。
それでも、今はその攻略情報もYoutubeに死ぬほど溢れているし、何よりカンストレベルも400まで上がっているのだ。
それこそ、第三等級魔法でも眷属をワンパン出来る程には環境がインフレしていた。
「……正直悲しいよ俺は。一時期を制していた最強が、たかが数字の上昇程度で産廃になるんだから。けどそれが、レベル制MMOと言う物なんだ。残酷だけどな」
眷属を失った狼王が俺に直接攻撃を仕掛けるべく突進してくる。
だがその攻撃も俺は完全に見切っていた。狼王のモーションはもう何度も見ているのだ。
それはもはや完全に把握していると言っても過言ではない程に。
「おかげで、あの時を思い出せたよ。ありがとう……。せめて、安らかに眠ってくれ。……フォールオブコキュートス」
楽しかったあの時を思い出させてくれた狼王には、せめて苦しまずに消えて欲しかった。
だからこそ、俺は第八等級魔法であるフォールオブコキュートスを発動させた。
この魔法は凍てつく氷の地獄門を呼び出し、対象に超高倍率の氷属性ダメージを与えるものだ。
特に狼王は氷属性に弱く、この魔法を受ければ確定で体力がゼロになるのは間違いないだろう。
「グル……ルゥ……」
それから少しして、魔法による地獄門が消えるとそこにはもう狼王の姿は無かった。
体力が尽き、消失したのだろう。
「はぁ……」
緊張が解けたのか、俺は無意識に深呼吸をしていた。
いやいや、あれだけの魔物を前にしてそれだけで済んでいるのがおかしいって。
「じょ、嬢ちゃん……今のは……」
そうそう、普通ならこんな感じで恐怖に震えて……。
……あ。
「あんな魔法……見たことも聞いたこともねえ。それにあの魔物だって……」
「ええっと、とりあえず村に戻りましょうか」
「あ、ああそうだな……」
無理やりにでも話を切り上げ、俺たちは村へと戻ることにした。
そしてこの間にどうにか言い訳を探さなければ……。
口から生える牙は鋭くて大きく、その殺気に満ちた眼光は見るだけで低級魔物を滅ぼすだろう。
間違いなく、アレはこの辺りにいて良い魔物では無かった。
それもそのはずだ。
何しろアイツはかつて屈指の強敵と名高かったネームドボスなのだ。その名を「狼王ボルグ」と言う。
適性レベルは250。言わずもがな、実装時のカンストレベルである。
「な、なんなんだアイツは……」
「下がっていてください!」
即座に男を後ろに下がらせ、奴との間に入り込む形で俺は前に出た。
間違いなく彼では相手にならない。直感でそう分かってしまう。
「ウルルゥゥゥ!」
奴が遠吠えをした瞬間、その影から大量の狼型の魔物が現れた。
これは眷属召喚と言うスキルによるものだろう。その名の通り大量の眷属を召喚するものだ。
しかし、所詮は召喚された取り巻きだろうと侮っていると痛い目に遭う。
眷属とは言えレベルは150あり、群れ補正による攻撃力の強化によって生半可な装備ではあっという間に溶かされてしまうのだ。
当時、どれだけの熟練者パーティがコイツに辛酸をなめさせられたことだろうか。
当然のことながら俺も例外ではなく、しばらくの間はコイツを倒すことだけを考えて生活していたくらいだった。
「グアゥッ!!」
「お、おい危ねえぞ嬢ちゃん!」
狼王の眷属たちが一斉に飛び掛かって来る。
懐かしいな。初戦闘の時の俺はこの攻撃で体力の半分以上を持っていかれていたっけか。
だが……。
「フレイムピラー!」
今は違う!
第三等級魔法であるフレイムピラーを発動させて大量の炎の柱を地面から生やし、眷属を一頭ずつ焼いて行く。
結局のところ、奴が最強だった理由はカンストレベルでの実装とネームドボス特有の情報不足がしばらく続いたことが大部分なのだ。
ネームドボスは戦うだけでも一定の条件を満たす必要があり、連戦することも容易ではない。
そのため戦闘回数を稼ぐことが難しく、攻略情報が出回りにくかった。
それにカンストレベルがしばらくの間上がらなかったこともあって、狼王の強さが記憶に染みついている者が多いのは事実。
それでも、今はその攻略情報もYoutubeに死ぬほど溢れているし、何よりカンストレベルも400まで上がっているのだ。
それこそ、第三等級魔法でも眷属をワンパン出来る程には環境がインフレしていた。
「……正直悲しいよ俺は。一時期を制していた最強が、たかが数字の上昇程度で産廃になるんだから。けどそれが、レベル制MMOと言う物なんだ。残酷だけどな」
眷属を失った狼王が俺に直接攻撃を仕掛けるべく突進してくる。
だがその攻撃も俺は完全に見切っていた。狼王のモーションはもう何度も見ているのだ。
それはもはや完全に把握していると言っても過言ではない程に。
「おかげで、あの時を思い出せたよ。ありがとう……。せめて、安らかに眠ってくれ。……フォールオブコキュートス」
楽しかったあの時を思い出させてくれた狼王には、せめて苦しまずに消えて欲しかった。
だからこそ、俺は第八等級魔法であるフォールオブコキュートスを発動させた。
この魔法は凍てつく氷の地獄門を呼び出し、対象に超高倍率の氷属性ダメージを与えるものだ。
特に狼王は氷属性に弱く、この魔法を受ければ確定で体力がゼロになるのは間違いないだろう。
「グル……ルゥ……」
それから少しして、魔法による地獄門が消えるとそこにはもう狼王の姿は無かった。
体力が尽き、消失したのだろう。
「はぁ……」
緊張が解けたのか、俺は無意識に深呼吸をしていた。
いやいや、あれだけの魔物を前にしてそれだけで済んでいるのがおかしいって。
「じょ、嬢ちゃん……今のは……」
そうそう、普通ならこんな感じで恐怖に震えて……。
……あ。
「あんな魔法……見たことも聞いたこともねえ。それにあの魔物だって……」
「ええっと、とりあえず村に戻りましょうか」
「あ、ああそうだな……」
無理やりにでも話を切り上げ、俺たちは村へと戻ることにした。
そしてこの間にどうにか言い訳を探さなければ……。
112
お気に入りに追加
213
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる