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93 魔龍神王
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「ふぅ……よしっ!」
咲は深呼吸の後、ベルトを呼び出してケツァライザーへと変身した。
そして浮遊城に向かって飛んで行く。
「うわ、物凄い数の砲塔……」
浮遊城の周りはこれでもかと言う数の砲塔で埋め尽くされており、それを見た咲はそう呟いていた。
これらが全て攻撃をしてくれば空中の機動力に特化したケツァライザーであっても無傷で切り抜けるのは不可能だろう。
しかし、どういう訳か一向に攻撃が始まる気配は無かった。
ここまで近づけば咲が浮遊城を狙っていることは魔龍神王もわかっているだろうに、何故か砲塔は一切攻撃を開始する素振りすら見せないのである。
「何がどうなっているの……? なんで攻撃が……」
不気味な程に静かな中、咲は浮遊城の真上へと向かって飛び続ける。
その後、何事も無く真上へとたどり着いた彼女は浮遊城へと降り立った。
「ここが、浮遊城イトラシュ……」
そこにあったのは西洋風の城のような建造物である。
見てわかる通り、浮遊城と呼ばれる所以はこの建物にあった。
煌びやかに飾られたその豪華な城を地盤ごと浮遊させているのだ。魔龍神王がいかに規格外な存在かがわかるだろう。
「おやおやあ? その様子だとこういった城には慣れていないみたいだねえ」
その時、突如として男の声が辺りに響き渡るのだった。
「誰ッ……!? いや、ここにいる者なんて一人しかいない。あなたが……魔龍神王ね」
咲は頭を抑えながらそう言う。
その声は重く、魂の奥底から恐怖を呼び起こすようなものであった。
つまりは魔将のそれと似たものだと思うだろうが、それとは比べるまでも無い程にこの声には恐ろしい迫力と重みがあったのだ。
そのため咲も立っているのすらやっとの状態となってしまう。
「その通り! 最強にして最凶だとか言われちゃってる魔龍神王とはこの俺のこと。それにしても、あーんなにとんでもない力と穏健派の後ろ盾を持っているもんだから、てっきりどっかしらの英雄気取りのお貴族様かと思ったんだけどねえ」
魔龍神王は咲を見ながらそう言う。
彼女が浮遊城の装飾を珍しそうに見ていたことから、そう言った建築には慣れているはずの貴族では無いのだと、彼は瞬時に判断したのである。
「だとしたら、なに……?」
「いーやあ? 別にこれといって何かあるわけじゃないんだけどねえ。ただ、初代魔龍神王は『変身』スキル持ちにやられたもんだからさ。そういった英雄の血筋とかが多い貴族生まれは警戒できるなら警戒したいじゃん?」
「変身……ね。それなら安心して恐怖するといいよ」
そう言うやいなや咲はメルトライザーへと変身する。
ケツァライザーでは相殺出来なかった魔龍神王の声もメルトライザーであれば無力化出来るようで、彼女を襲っていた本能的な恐怖は完全に消失したようだ。
「……ああ、そういうことね。んじゃやっぱ報告は間違ってなかったと言う訳だ」
その光景を見た魔龍神王は少し驚いたかと思えば、すぐにまた元の不気味な笑みに戻ってしまう。
「報告ってことは、それじゃあやっぱり全ての魔将を討ち取ったからとうとう親玉であるあなたが出てきたってことね。目的は何? 復讐とか敵討ちとかなら都合が良いし乗ってあげるけど」
「おー、大正解!! ……と、言いたいところなんだけどねえ。ちょっと間違ってるんだなこれが。別に魔将のこととかは最悪どうだっていいのよ」
「……」
魔龍神王は変わらず不敵な笑みを浮かべたまま続ける。
「だって、魔将ちゃんったら皆揃いも揃って自分勝手なんだもん。忠誠心とかも全然ないし? いやぁおじさん、困っちゃうなあ。……ま、それが魔将が魔将たる素質なんだけどね。ああ! そう言えば魔獣王ちゃんだけは違ったっけ? 彼ほどの従順な部下を失って、おじさん悲しいなあ」
どこか芝居じみた口調で魔龍神王はそう言う。
だがそれは魔性を失った悲しみをごまかすためのおちゃらけなどでは無かった。
むしろ彼にとっては魔将などどうでも良い存在なのだと言う事が、その言葉からは透けて見えるのだった。
「……魔獣王は少なくともあなたの事を慕っていた。そんな風に扱うのは敵とは言え放っておけない」
「あらあら? 魔獣王ちゃんったら討つべき敵すらも虜にしちゃうだなんて。全く、たらしなんだから」
魔獣王は少なくとも忠義に関しては認めざるを得ない物を持っていたと、咲自身ある種尊敬にも似た感情を抱いているのだ。
そんな彼を小馬鹿にする魔龍神王の言葉には少しばかり怒りの感情を抱いてしまっていた。
「慕っていたと言えば、魔然王ちゃんを随分とまたこっぴどくやっつけてくれちゃったみたいねえ。あのまま泳がせておけば面白いことになったと言うのにさ」
とは言え魔龍神王にとってはそんな事どうでもいいらしく、咲の怒りの感情すらも無かったことのようにそのまま話を続けるのだった。
「つまり、裏切りを知りながら泳がせていたと?」
「そう、その通り! 自分自身は全てが上手くいっていると思っている中、実は全てバレていて最終的にはどうしようもないくらいに致命的な状況になってしまう……。そう言うの、凄くそそられるからねえ」
「……やっぱり、真正のろくでなしだよあなたは」
咲は呆れたようにそう呟く。
「だからこそ、俺は魔龍神王なんだよねえ。そもそもの話、人類の根絶なんて俺一人で十分だったのさ。魔人王による人間の都市の乗っ取りも、うまく行けば人間たちがほどよく自滅していくかなぁと思って任せていただけだしね。だから、最初から必要無かったのよ。部下も、ましてや仲間なんていうものも。単独にして最強……! それこそがこの魔龍神王なのだよぉ!!」
「くっ……!?」
魔龍神王の纏うオーラがその雰囲気を変える。
同時に、彼は戦闘態勢をとった。
そう、今まで彼が放っていたのは通常時のそれであったのだ。
ここからが彼の、魔龍神王の本当の恐ろしさなのだった。
「かかってこい、人類の救世主よ! この魔龍神王を見事討ち取って見せろぉ!!」
咲と魔龍神王の最終決戦が、今始まる。
咲は深呼吸の後、ベルトを呼び出してケツァライザーへと変身した。
そして浮遊城に向かって飛んで行く。
「うわ、物凄い数の砲塔……」
浮遊城の周りはこれでもかと言う数の砲塔で埋め尽くされており、それを見た咲はそう呟いていた。
これらが全て攻撃をしてくれば空中の機動力に特化したケツァライザーであっても無傷で切り抜けるのは不可能だろう。
しかし、どういう訳か一向に攻撃が始まる気配は無かった。
ここまで近づけば咲が浮遊城を狙っていることは魔龍神王もわかっているだろうに、何故か砲塔は一切攻撃を開始する素振りすら見せないのである。
「何がどうなっているの……? なんで攻撃が……」
不気味な程に静かな中、咲は浮遊城の真上へと向かって飛び続ける。
その後、何事も無く真上へとたどり着いた彼女は浮遊城へと降り立った。
「ここが、浮遊城イトラシュ……」
そこにあったのは西洋風の城のような建造物である。
見てわかる通り、浮遊城と呼ばれる所以はこの建物にあった。
煌びやかに飾られたその豪華な城を地盤ごと浮遊させているのだ。魔龍神王がいかに規格外な存在かがわかるだろう。
「おやおやあ? その様子だとこういった城には慣れていないみたいだねえ」
その時、突如として男の声が辺りに響き渡るのだった。
「誰ッ……!? いや、ここにいる者なんて一人しかいない。あなたが……魔龍神王ね」
咲は頭を抑えながらそう言う。
その声は重く、魂の奥底から恐怖を呼び起こすようなものであった。
つまりは魔将のそれと似たものだと思うだろうが、それとは比べるまでも無い程にこの声には恐ろしい迫力と重みがあったのだ。
そのため咲も立っているのすらやっとの状態となってしまう。
「その通り! 最強にして最凶だとか言われちゃってる魔龍神王とはこの俺のこと。それにしても、あーんなにとんでもない力と穏健派の後ろ盾を持っているもんだから、てっきりどっかしらの英雄気取りのお貴族様かと思ったんだけどねえ」
魔龍神王は咲を見ながらそう言う。
彼女が浮遊城の装飾を珍しそうに見ていたことから、そう言った建築には慣れているはずの貴族では無いのだと、彼は瞬時に判断したのである。
「だとしたら、なに……?」
「いーやあ? 別にこれといって何かあるわけじゃないんだけどねえ。ただ、初代魔龍神王は『変身』スキル持ちにやられたもんだからさ。そういった英雄の血筋とかが多い貴族生まれは警戒できるなら警戒したいじゃん?」
「変身……ね。それなら安心して恐怖するといいよ」
そう言うやいなや咲はメルトライザーへと変身する。
ケツァライザーでは相殺出来なかった魔龍神王の声もメルトライザーであれば無力化出来るようで、彼女を襲っていた本能的な恐怖は完全に消失したようだ。
「……ああ、そういうことね。んじゃやっぱ報告は間違ってなかったと言う訳だ」
その光景を見た魔龍神王は少し驚いたかと思えば、すぐにまた元の不気味な笑みに戻ってしまう。
「報告ってことは、それじゃあやっぱり全ての魔将を討ち取ったからとうとう親玉であるあなたが出てきたってことね。目的は何? 復讐とか敵討ちとかなら都合が良いし乗ってあげるけど」
「おー、大正解!! ……と、言いたいところなんだけどねえ。ちょっと間違ってるんだなこれが。別に魔将のこととかは最悪どうだっていいのよ」
「……」
魔龍神王は変わらず不敵な笑みを浮かべたまま続ける。
「だって、魔将ちゃんったら皆揃いも揃って自分勝手なんだもん。忠誠心とかも全然ないし? いやぁおじさん、困っちゃうなあ。……ま、それが魔将が魔将たる素質なんだけどね。ああ! そう言えば魔獣王ちゃんだけは違ったっけ? 彼ほどの従順な部下を失って、おじさん悲しいなあ」
どこか芝居じみた口調で魔龍神王はそう言う。
だがそれは魔性を失った悲しみをごまかすためのおちゃらけなどでは無かった。
むしろ彼にとっては魔将などどうでも良い存在なのだと言う事が、その言葉からは透けて見えるのだった。
「……魔獣王は少なくともあなたの事を慕っていた。そんな風に扱うのは敵とは言え放っておけない」
「あらあら? 魔獣王ちゃんったら討つべき敵すらも虜にしちゃうだなんて。全く、たらしなんだから」
魔獣王は少なくとも忠義に関しては認めざるを得ない物を持っていたと、咲自身ある種尊敬にも似た感情を抱いているのだ。
そんな彼を小馬鹿にする魔龍神王の言葉には少しばかり怒りの感情を抱いてしまっていた。
「慕っていたと言えば、魔然王ちゃんを随分とまたこっぴどくやっつけてくれちゃったみたいねえ。あのまま泳がせておけば面白いことになったと言うのにさ」
とは言え魔龍神王にとってはそんな事どうでもいいらしく、咲の怒りの感情すらも無かったことのようにそのまま話を続けるのだった。
「つまり、裏切りを知りながら泳がせていたと?」
「そう、その通り! 自分自身は全てが上手くいっていると思っている中、実は全てバレていて最終的にはどうしようもないくらいに致命的な状況になってしまう……。そう言うの、凄くそそられるからねえ」
「……やっぱり、真正のろくでなしだよあなたは」
咲は呆れたようにそう呟く。
「だからこそ、俺は魔龍神王なんだよねえ。そもそもの話、人類の根絶なんて俺一人で十分だったのさ。魔人王による人間の都市の乗っ取りも、うまく行けば人間たちがほどよく自滅していくかなぁと思って任せていただけだしね。だから、最初から必要無かったのよ。部下も、ましてや仲間なんていうものも。単独にして最強……! それこそがこの魔龍神王なのだよぉ!!」
「くっ……!?」
魔龍神王の纏うオーラがその雰囲気を変える。
同時に、彼は戦闘態勢をとった。
そう、今まで彼が放っていたのは通常時のそれであったのだ。
ここからが彼の、魔龍神王の本当の恐ろしさなのだった。
「かかってこい、人類の救世主よ! この魔龍神王を見事討ち取って見せろぉ!!」
咲と魔龍神王の最終決戦が、今始まる。
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