固有能力『変身』を使いヒーロー活動をしていた私はどうやらファンタジーな異世界でも最強のようです

遠野紫

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91 目覚め

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 アルティメットカルノライザーに変身し、見事魔然王を討ち取った咲。
 しかしその代償として彼女は気絶してしまうのだった。

 それからしばらくして……。

「……うん?」

 咲は目を覚ました。
 目の前には見覚えの無い天井。
 
「あっ……!?」

 そんな彼女の顔を覗き込むのは一人の女ゴブリンであった。

「まさかこんなに早く目を覚ますだなんて……流石は召喚されし勇者の力ですね……」

「えっと……?」

「あ、ああっすみません!」

 咲の目覚めが想定外だったのか、女ゴブリンは驚きを隠せずにいた。
 とは言えこのまま咲を放置する訳にもいかないことに気付き、彼女に説明を行うのだった。

 まず彼女が説明したのはこの場所についてだ。
 ここはゼルがリーダーをしている穏健派の拠点であった。
 魔然王との戦いの後、ゼルは咲と桜の二人をこの拠点へと迎え入れたのである。
 
「すみません、あれからどれくらい経ってます……?」

 次の説明に移る前に、咲はそう言って自分がどれだけの間眠っていたのかを尋ねた。
 以前にアルティメットカルノライザーに変身した際は一ヵ月程は寝込んでしまっていたのだ。
 そのため、あれからどれだけ経ってしまったのかと言うことに恐怖していた。

「確か……ゼル様が貴方を運び込んでから今日で二日目ですね」

「二日……?」

 しかし、咲の心配とは裏腹に女ゴブリンの口から語られたのは思いもしない日数であった。
 
「我々の開発したポーションもあの状態の貴方には効果が薄く、一ヵ月程は目覚めないと思われたのですが……」

 そう言いながら彼女は咲の奥へと視線を向ける。
 
「……桜?」

 その視線の先を見た咲は桜の名を呟く。
 そう、そこには桜が寝ていたのだ。

「……え?」

 だが、桜が何故か一緒に寝ていると言うこと以上に気になることが彼女にはあった。
 どういう訳か桜は下着姿なのである。
 そしてその瞬間、咲自身も自分が下着姿になっていることに気付いた。

「え、なにこれ」

「ここに来てからずっと、彼女は貴方に回復魔法をかけ続けていたのですよ。きっとそのおかげで本来よりもかなり速く目覚めることが出来たのでしょう」

「……そうだったんですね。でもそれはそれとして、この格好は一体?」

 それは当然の疑問であった。
 何故か二人揃ってほぼ裸なのだ。疑問に思うのが当然というものだろう。
 
「なんでも肌を密着させた方が回復魔法の効果が高くなるだとか」

「なるほど? そ、そういうものなんですか……?」

 若干眉唾ではあるものの、現に咲はこうして目覚めていた。
 
「……んぅ、咲ちゃん……咲ちゃん!?」

 と、その時である。
 桜も目を覚ましたらしく、目覚めている咲の姿を見るなり彼女の名を叫ぶのだった。

「……おはよう、桜」

「良かった……やっと起きたんだね……」

 桜はへにゃりと笑いながらそう言う。
 その表情には心の底からの安堵がこれでもかと言う程に現れていた。

「心配させちゃってごめん……」

「ううん、いいの。こうして無事に目覚めた訳だし」

 桜が咲の体を包み込むようにぎゅっと優しく抱き着きしめる。

「そうだ、肌を密着させると回復魔法がどうたらって……」

 肌同士が密着したことで先程の女ゴブリンの話を思い出した咲はそう言って桜にも尋ねるのだが……何故か彼女は露骨に視線を逸らしたのだった。

「桜?」

「う、うんそうだね。その方が効果が高いらしいよ」

 どこか焦っているような様子で桜はそう答える。
 
「本当に効果あるんだよね……?」

 そのあまりにも怪し過ぎる姿を見た咲は訝しんでいた。
 
「……えっと、ごめん。半分は嘘なの。その、咲ちゃんを近くに感じてたくて」

 何とも言えない表情を浮かべたまま桜は続けた。

「で、でも効果が高くなるのは本当だよ! 手の平を直接肌に密着させた方が回復魔法の効果は高まるって本で読んだし、実際に咲ちゃんの回復速度は高まったから」

「そうなんだ……」

「咲ちゃん、怒ってる……?」

 桜は怯えにも似た表情を浮かべ、震える声でそう言った。
 流石に有事だと言うのに好きにやり過ぎたかと思った桜だが、当の咲は怒っている訳でも無く、そう言った感情を桜にぶつける気も無かった。

「別に怒ってないから安心して。それよりもどちらかと言うと不甲斐なさの方が大きいかも」

「不甲斐なさ……?」

「うん。いつも桜から積極的に誘ってもらってばかりでさ。桜はそれだけ私のことを思っているのに、私の方からは中々手が出せなくて……。私がもう少し変態だったらよかったのに」

「へ、変態!?」

 想定外の事を言われたためか桜は素っ頓狂な声をあげていた。

「変態はその、違うんじゃないかな……?」

「いや、桜ほどの積極性に追い付くにはやっぱり変態性が必要だと思う。私にもそれがあればきっともっと桜を満足させてあげられる……!」

「あ、あはは……」

 咲が変な方向に突っ走り始めたこともあり、桜は愛想笑いをすることしか出来ずにいた。
 
「だから、今度は私から……」

「えっと、良い感じの雰囲気の中すみません。私、席を外した方が良いですよね?」

「あ……」

 完全に二人だけの世界になっていたために声をかけられずにいた女ゴブリンだったが、これ以上は限界だと思いとうとう口を開いたのだった。 
 そしてその瞬間、咲は今までの全てが彼女に見られていたのだと理解してしまう。

「すみません、変なものをお見せしてしまって……」

「いえいえ。むしろこんなにも濃厚な美少女同士の絡みを見られて私は幸せ者ですよ。でもこれ以上私がここにいたらノイズになるので、出て行きますね」

 そう言って女ゴブリンが部屋を出ようとしたその時だった。

「た、大変だ!!」

 これ以上ないくらいに慌てた様子の男ゴブリンが部屋の扉を開け放つと同時にそう叫んだのである。

「ちょ、ちょっと! 入って来る前にはまず確認をしなさい!!」

 それを見た女ゴブリンもまた、反射的にそう叫んだ。
 と言うのも咲と桜の二人は下着姿であり、そんな時に問答無用で扉を開いた彼に怒りを覚えるのも無理も無いことであった。
 だがあまりにも男ゴブリンの様子がただ事ではないものであったため、彼女は一旦頭を冷静にして彼の話を聞くことにしたようだ。

「それで、何が大変なのですか?」

「奴が……魔龍神王がついに現れやがったんだ……!!」

「……なんですって?」

 それを聞いた女ゴブリンは一瞬思考が止まり言葉に詰まってしまう。
 魔龍神王の恐ろしさを知る彼女にとって、その情報はそれほどの衝撃を与えるにふさわしいものであったのだ。
 
 そして咲と桜の二人もまた衝撃を受けていた。
 魔将を束ねる最強にして最凶の存在である魔龍神王が突如として現れたのだからそうなっても仕方がなかった。
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