固有能力『変身』を使いヒーロー活動をしていた私はどうやらファンタジーな異世界でも最強のようです

遠野紫

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88 魔然王

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 魔然王の出現により、バルエニアを襲う雷雨はより激しさを増していた。
 そんな中、咲は佐上の連れていた奴隷の少女たちを避難所に送ってから港へと走る。

「アイツの好きにさせたらヤバイ……!」

 切羽詰まった様子の咲。
 と言うのも、彼女は先程佐上を襲った雷が魔然王によるものだと睨んでいたのである。
 あの状況でピンポイントで彼に雷が当たる可能性は低く、自然そのものを操る魔然王が現れたことで雷雨が激しくなったことから、それは決してありえない話では無かった。

 咲が港に辿り着いた時、そこには何人かの冒険者や傭兵が集まっていた。
 全員それなりに腕には覚えがあるようで、魔然王からバルエニアを守るためにここに集結したのだった。

 そんな彼らの前に魔然王は悠々と降りてくる。

「あなたが魔然王でいいんだよね?」

 咲は即座にそう言って魔然王の前に立った。
 他の者は皆、魔然王の放つ威圧感に負けてしまっているのか一歩たりとも動くことが出来ずにいた。

「ええ、その通りでございますわ。私は自然の化身にして五大魔将が一人、魔然王ですわ」

「なら話は早い。私はあなたを倒す」

「あらあら、随分と勇ましいこと」

 今にも魔然王に飛び掛かろうという様子の咲を見るなり、魔然王は余裕そうな笑みを浮かべるのだった。

「ふむ、どうやら貴方が魔将を倒して周っているというお方なのですね。どうです、少々お話をいたしませんか?」

「あなたと話すことは無い」

「まあまあ、あなたにとっても悪い話ではないと思いますのに」

「……聞くだけ聞いてあげる」

 魔然王のその言葉が気になったのか咲はひとまず彼女の話を聞いてみることにしたようだ。

「単刀直入に申し上げます。貴方、魔将に入りませんこと?」

「……?」

 その言葉は咲の想定外のものだった。
 魔将を討ち取って回っている自分をまさか魔将に勧誘してくるだなんて思うはずがなかったのである。

「五大魔将も今では私一人。これでは私の目的を達成するのも難しいのです。ですが貴方程の実力の持ち主であれば魔将として何不自由なく活動することができるでしょう」

「悪いけどそれは出来ない」

 咲は即答した。自分勝手に生きて、いたずらに人の命を弄ぶ魔将と言う存在になるなどありえない選択だった。

「そうですか……残念ですわ。貴方であれば間違いなく世界を支配することだって出来るでしょうに」

「世界征服とかは興味ないからね。それより、あなたの目的と言うのを聞かせてもらおうか」

 魔将がどうこうと言った話より、魔然王の目的の方が今の咲にとっては重要な話となっていた。

「簡単なことですわ。人類の間引き……それこそが私の目的でございます」

「間引き? 全滅させるんじゃなくて?」

「魔龍神王は確かにそうしようとしていますけれど、私としては自然を破壊する人間をあくまで減らしたいだけなのです。結局のところは人間も含めての生態系ですから」

「なるほど、読めてきた。あなたが魔龍神王に忠誠を誓っていない理由は、人類を滅ぼそうとしている魔龍神王を利用しようとしているだけだからってことね」

 咲は納得したように頷く。
 魔然王の口ぶりはまるで魔龍神王に忠誠を誓っている訳では無いといったものであった。
 その理由がそもそも魔龍神王と魔然王では最終的な目的地が違うのだと言う事に、咲は気付いたようだ。

「もっとも、人類を減らすと言う過程は同じ訳ですからギブアンドテイクの関係を築いていることに変わりはありませんけどね」

「ならやっぱり私はあなたを倒さないといけない」

「あらあら、それでは交渉は決裂ですわね」

 人類を間引くなどと言われてしまってはもう咲は引き下がることが出来なかった。
 一方魔然王は咲のその反応に驚くこともなく、最初からこうなることを想定していたかのように淡々と話し続ける。

「先程、あなたと戦っていた一人の人間を始末しましたが……残念ながら人類の中にはあのようなとても褒められたものでは無い存在も多くいるのです。それは、おわかりですよね?」

「やっぱりあなたが雷を落としたんだ……正直、彼が死んだことを悲しみはしないし、特に思う事もないよ。でも人を殺して良い理由探しをしたら終わりだとは思ってる。間引きなんて、もってのほか」

「そうですか……貴方となら分かり合えるかと思っていたのですが、残念です」

 魔然王は心底残念そうな表情を浮かべた後、スッと手を振り上げた。

「では、手始めにここバルエニアに沈んでいただきましょうか。大陸の交易の中心であるここを機能不全にしてしまえば、人類の文明の発展速度は大きく落ちますからね」

 そう言い終えると共に、彼女の後方で巨大な津波が発生したのだった。
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