固有能力『変身』を使いヒーロー活動をしていた私はどうやらファンタジーな異世界でも最強のようです

遠野紫

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84 予想外の再会

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 食事を終えた三人は料理店を後にする。

「いやぁ満腹やな~」

「あれ……?」

 その時、咲はずっと感じていた違和感の正体に気付いたのだった。

「そう言えばゼルさんってキングゴブリンなんですよね? こんなに堂々と街に入っても大丈夫なものなんですか?」 

 咲の抱いていた違和感。それはキングゴブリンである彼が何故か当然のように街の中に出入りしていることであった。
 
「なんやそのことか」

 咲のその質問を聞いたゼルは、そういえば言っていなかったな……と言った表情をするなりそう言った。

「ワイら穏健派の魔物たちは対立派と戦うために色々と研究開発しとるんやが、その技術を人々のためにも役立てとるんや。んで、今日はその内の一つであるポーションを納品に来たわけやな。そのためにもワイはここバルエニアに自由に出入りできるようにしてもろてるんや」

 そう言いながらゼルはポーチをトンと叩く。

「あっ、さっきの……。すみません、納品予定だったのに使わせてもらっちゃって」

「いやいや、幾分かは余裕を持っとるから心配はいらんで」

 そう言った些細な会話もしつつ、三人はバルエニアの街を歩き続ける。
 そしてゼルが飲み物を買いに二人の元を離れたその時である。

「……咲ちゃん、あれ!」

 桜は何かを見つけたらしく、そう叫ぶのだった。

「えっ……」

 桜の視線の先にいたのは一人の青年――佐上であった。

「……生きてたんだ」

 最後の別れがあんなことになってしまったこともあり、咲は特に佐上のその後を気にしてはいなかった。
 とは言え一応はクラスメイトであったため、生存していたことに関しも特段悪い気はしていないようだ。

「あっ……」

 その時、咲は佐上と目が合ってしまった。
 その瞬間、佐上の顔が歪む。
 それから少しして複数人の少女を後ろに連れたまま二人の元へと歩いてくるのだった。

「……なんでお前らがここにいんだよ」

「それはこっちの台詞でもあるんだけど」

 クラスメイト同士の再会と言えば聞こえはいいが、実際の所はとんでもなく気まずい空気が溢れることとなっていた。

「……まあいいさ。俺は見ての通り上位冒険者になったからな。ここに来たのも依頼のためなんだよ」

 そう言いながら佐上は咲の前に得意げに冒険者登録証を掲げて見せた。

「冒険者になってたんだ」

「ああ。俺みたいに強い奴なら、ここで生きていくならそれが一番都合がいい。もっとも、外れ勇者のお前にはわからないかもしれないけどなぁ」

 相も変わらず佐上は咲の事を下に見ているようだった。
 いや、むしろあの時よりもさらに悪化しているようにも見える。

 すると彼の後ろにいた少女が口を開いた。

「佐上さま、そちらの方がよく話されていた咲と言う方なのですか?」

「ああそうさ。外れ勇者の癖に俺をコケにしやがった身の程知らずだ」

「では……私たちの敵と言うことですね」

 その瞬間、少女の纏う雰囲気が変わる。

「えっと、そっちの子は?」

 そんな彼女が何者なのか気になった咲はそう尋ねる。

「コイツは俺の奴隷だ」

「奴隷って……」

 そう言うものがあることは知っていた咲だが、こうして実際に目にするのは初めてであった。
 そのため一瞬思考が止まってしまう。

「こんな小さい子を奴隷になんて……!」

 その間に今度は桜が佐上に向かってそう叫んでいた。

「おいおい、勘違いしないでくれよ? 俺はあくまで正当な取引で奴隷を購入しただけなんだからな」

 佐上はいやらしい笑みを浮かべたまま続ける。
 
「奴隷はいい。お前らと違ってコイツらは絶対に俺の言うことを聞くし、見た目だって選びたい放題だ」

 佐上の言うように彼の後ろにいる少女は皆、世間一般には美少女と呼ばれる者たちで固められていた。
 そんな奴隷を手にした年頃の彼が毎夜何をしているかなど、もはや語る必要も無いだろう。

「最低……」

「ははっ、言ってろ言ってろ。今となっちゃお前らなんかの体にこだわってたのが馬鹿みたいだよ」

 そう言って佐上は奴隷の少女を抱き寄せる。

「佐上さま、この方どうしますか?」

 一方で奴隷の少女は変わらず殺気を放ち続けていた。

「うーん、目にもの見せてやりたいのはやまやまだが……流石にこんな人通りの多い大通りでおっぱじめる訳にもいかないだろう?」

「確かにその通りですね! 流石は佐上さまです。お強いだけではなく思慮深いだなんて!」

「ははっそう褒めるなって。まあそう言う事だから……覚悟してろ」

 佐上は憎悪と怒りを込めた声で咲にそう言うやいなや奴隷の少女を連れてどこかへと去って行くのだった。
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